正直、奏と翼の二人は間に合わないと思った。それと同時に後悔した。仕方ないとはいえ何故ノイズばかりに集中してしまったのか。まだ逃げ遅れた人がいたはずなのに何故それを優先しなかったのか、そして友人すらも守れないのかと。
だがそれは杞憂に終わった。友人である悟代がノイズを倒したのである。二人は驚愕した、ノイズに兵器など攻撃が通用しない。だが例外もある。今自分たちが纏っているシンフォギアがそうだ。
シンフォギアは、神話の時代の伝説や伝承に記された武器の欠片が歌、聖詠によって起動するものだ。だが悟代は聖詠を歌っていない。二人はすぐにわかったような気がした。
「まさか、完全聖遺物だっていうのか?」
「そんな、あり得ない」
あり得ないと思うもそれしか考えがつかない。だが今は悟代と共に戦い救出することを優先した。
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「これは……」
悟代は自分の姿を見た。山吹色の胴着を身にまとい背中には自身が持っている如意棒を収める筒を背負っている。そして手には形見である棒『如意棒』が握られている。
「悟代……その姿、何があったんだ??」
「わかんねぇ、けどこれならノイズと闘うことが出来るしお前ぇを避難させることが出来る」
俺の事より、まずはおめぇだと言い避難しようとするが奏と翼の二人が声をかけてきた。
「悟代!無事か!?」
「あぁ!こっちは大丈夫だ!」
「悟代、貴方その姿は……」
「その話は後だ!俺もよく分かんねぇからな!」
一先ず凜を連れて避難をすると言いこの場から離れようとする。だがノイズはそう簡単にはさせてはくれない。
振り払うように如意棒を振るいノイズを煤にする。奏たちもノイズを殲滅する為に動き、逃げ遅れた人がいないか確認をする。
「クソッ、キリがねぇな!」
「すまない悟代、俺が怪我したばっかりに…」
「気にすんなって!何とかしてやっから!」
悟代に抱えられ落ち込んでいる凜を励ましながらも会場から脱出するように動く。だが次の瞬間
「悟代君!」
と、ここでは本来は聞こえない声と気が感じられた。それは先に避難した筈であろう響であった。
何で戻ってきたんだろう。そう私は思った。悟代君は私を守るために先に避難させたのにそれを不意にしてしまった。だが響は心の中でこう思っていた。悟代が一人で頑張っているのに対して自分は何もしないのか、悟代に何かしてあげられることがないだろうかと、そう思ってライブ会場に戻ってしまった。
「バカヤロー!何で戻ってきた!」
悟代君から私を罵倒する声が聞こえる。ごめんなさい悟代君。でも私は
「私も何か手伝えることがあるかと思って戻ってきたの!」
「この状況でおめぇに出来る事は何も無ぇ!だから戻れ!」
そう悟代君は言ったがその瞬間。
「きゃあ!」
私が立っていた観客席が崩れ落下する。
「うぅ……痛っ!」
落ちた拍子に足を怪我したみたいだった。そして顔を上げ前を確認するとノイズが迫ってきた。
「響ぃ!クソッ、おめぇたち邪魔だッ!」
悟代君の声が聞こえる。
殺される、そう私は目を閉じ怯えたがある人物がノイズを倒し私助けてくれた。その人物はあのツヴァイウィングの奏さんだった。何で奏さんがノイズと闘っているのだろう、あの恰好は何なんだろうと考えたが奏さんが
「駆け出せッ!!」
そう私に大きな声で言った。私は奏さんの言う通りに駆け出した。私は悟代君の手助けをする為に戻ったのに逆に足を引っ張ってしまっている。心の中で悔いながら駆け出す。やっぱり私は何のとりえのない役に立たない子だと考えながら
だから気付かなかった。奏さんが頑張ってノイズの攻撃を防いでいたがそれが限界を迎えていたということを
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(危なかった。あたしがもう少し遅かったらあの子はやられていた。)
また後悔するところだったと奏は思う。先ほど悟代に対して後悔したのにまた後悔するところだったと。
(あの子は悟代の連れだからな。ダチの連れはあたしの連れだ)
守ってやるさ、そう奏は決意しノイズから響を守るために自身の武器である槍、ガングニールを振るい戦う。
しかし、その決意とは裏腹に奏は自分が限界だということを分かっていた。段々と自分の持っているガングニールの輝きが失い今にも消えそうだった。
(時限式は厳しいものがあるなッ!)
そう内心呟くが奏は手を緩めない。響が安全な場所に行くまで守る、自身のギアに罅が入ろうがだがバキンと音が鳴り響きギアが砕ける。その砕けた破片は勢いよく後ろへと飛びその威力は瓦礫に突き刺さるほどであった。そのギアの欠片が響へと深く突き刺さった。
血を吹き出しながら吹き飛ぶ響を見て悟代と奏は駆け寄る。
「おい死ぬなぁッ!目を開けてくれッ!」
「響!」
奏は意識を失っている響に必死に呼びかける。奏自身の声を、想いを、今意識を失っている響の魂まで声を響かせるように奏は言う。
「生きるのをあきらめるなッ!!!!」
その言葉を聞いて響はわずかだが目を開く。これを見た悟代と奏は安堵の表情を浮かべる。悟代はこの瞬間気が今の響に使えるのではと考えた。悟代は気がどういったモノなのかをある程度理解している。気は人間の生命エネルギーのような物なのでその生命エネルギーである気を外部から送れば響の命を少しだが持たせることが出来るのではないかと考えたのだ。悟代は直ぐに行動し、響に自身の気を分け与える。
(上手くいけばまだ響は生きて帰ってこれる!)
「悟代、何をしてるんだ?」
「響に俺の気を分けて少しでも生きる可能性を上げる!」
「そんな事が出来るのか?」
「気は人間の生命エネルギーだからな、他から分ければ何とかなる!」
良かったと安堵する凜と奏の二人だったがこれは応急処置だ。また何かあったら響は今度こそ助からないと二人に言う。
そして奏はそれを見届けると立ち上がる。そのまま、悟代たちの前に歩きノイズと向き合う。悟代はまさかと感じ奏に問う。
「奏おめぇ、そんなボロボロの身体でどうすんだ?」
奏は何も言わない、そんな奏に悟代は続ける。
「……自爆でもする気か?」
「…………」
「やっぱりか、そんな事させるわけにはいかねぇ」
「ならどうするんだ、これしかあんたたちを助ける方法がないと思うぜ?」
「今ならおめぇの代わりに戦える、お前は響と凜を連れて避難しろ」
「それは出来ないな。あんたみたいな戦ったことがない奴に任せられないよ」
「だからってお前が死ぬ必要は無ぇさ」
それにと悟代は言葉を続ける。
「おめぇが響に生きるの諦めんなって言ったくせにおめぇが諦めてどうすんだ?」
そういうと奏はそれはと言い淀む。それを聞いて苦笑いしつつ悟代は奏に言う。
「おめぇは生きて翼と一緒に歌を楽しみにしてる奴らの為に歌え、おめぇ達の歌はみんなを勇気づける歌だからな」
そう言うと奏は少しだけはっとして考える。次に奏はこう言う。
「………分かった言われた通りこの子たちを安全なところまで連れて行く」
その代わりにと奏は言葉を続ける。
絶対にあたしやこの子の所に帰ってこいと
そういわれた悟代は少しキョトンとした顔をした後に笑う
「当たり前だ、絶対に戻ってやっさ」
だから任せたぞと言い、奏は響と凜を連れて出口に駆け出し、悟代はノイズの方へ駆け出した。悟代は気付かなかったが響が悟代をわずかに開けた目で見つめていた。
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如意棒を振るいながらノイズを叩き潰し翼の元へと進む。
「翼!」
「悟代!奏は!?奏はどうしたの!」
「響と凜を連れて避難させた、あいつの体がボロボロだったからな」
それを聞き翼は顔を顰める。翼は奏の身体がボロボロなことを、もう戦えないことを知っていたのだろう。
「翼、まずはこいつらを倒すぞ」
「貴方はここから退きなさい。後は私がやる」
「この数を一人で出来るわけねぇだろ、俺もやるさ」
それを聞いた翼は悟代を睨めつけながら言う
「簡単に言わないで!つい先ほど起動させたあなたに何ができるの!?」
「今そんなこと言っても仕方ねぇだろ?心配すんなって何とかなるさ多分」
「だからそう簡単に……!」
そう言いかけた翼に対して悟代は如意棒を振るい大量のノイズを倒す
「今はこいつらを倒すことが先だろ?一時だけど背中は任せたぞ」
そう言い悟代はノイズを倒しに行く、翼は悟代の後ろ姿を見ながら呟く。
「なぜ防人でない貴方がそう簡単に言えるの」
翼のその言葉に答えるものはいなかった。
「だりゃあ!」
悟代は自分の拳、脚、如意棒をノイズに叩き込みながら減らしていく。翼もノイズをいくらか減らしてはいるがまだ多くのノイズが存在している。
(こりゃ面倒だな、よしこうなりゃ)
「翼!伏せろ!」
悟代はそう大声で翼に言い、言われた翼は驚いていたが直ぐに体を深く伏せた。悟代が何故翼に伏せろと言ったのか、それは
「伸びろ!如意棒!」
今いるノイズをすべて薙ぎ払う為に途轍もないほど長く如意棒を伸ばした。その結果周辺のノイズは粗方殲滅したが翼が怒った表情で悟代に攻め寄ってきた。
「悟代!先ほどの行動は何だ!」
「何だって、一気に振り払っただけじゃねぇか」
「いくらなんでも急すぎる!」
「そんな事言ったってよぉ」
悟代は面倒臭そうに翼の小言を聞くが今はそんな場合ではない。ライブ会場にいた小型のノイズをすべて振り払っただけでまだ奥にいる大型のノイズが残っている。
「そんな事より翼、あのデカい奴どうすっか」
「どうするも何も倒すしかないでしょう!」
そう言い翼が大型ノイズに向かって駆け出す。翼は大きく高く跳び武器である刀『天羽ヶ斬』を大刀に変化させ大技『蒼ノ一閃』を放つ。4、5体のうち1体を倒すが残った大型ノイズが反撃を翼にした。
「クッ!」
翼は刀を使いノイズの攻撃を逸らそうとしたが衝撃が凄まじく空中から地面へ叩きつけられそうになる。
(受け身を取らなければッ!)
そう考えていた矢先に思いがけない事が起こった。吹き飛ばされた翼を誰かが受け止めたのだ。
(誰?奏はここにはいない、悟代が空高く跳べるわけが……)
目を開けるとそこには
「大丈夫か?翼?」
悟代が翼を受け止めていた。だが悟代はただ跳んでいたわけではない、宙に浮きながら翼を受け止めていた。
「悟代!?これは、何故空に浮いているの!?」
「それは後で話してやるよ、それより怪我ねぇか?」
翼は怪我はないと返す。悟代はそれを聞いて安心し地面に降り翼を地面に降ろす。悟代は大型ノイズを見据えながら
「あいつ相手ならあれを試しても良いかもな」
と呟く。翼はそれを聞いて何をする気だと聞こうとしたが、聞く前に悟代は構えに入る。
「翼は離れてろ、巻き込まれたら大変だからな」
悟代は大型ノイズを前に両手の手首を合わせ、手を開き
かぁ
ノイズはどんどん悟代へと近づく。悟代は動かない。翼はそれを見て何をやっていると叫ぶ。
めぇ
腰に両手を持っていきながら体内の気を凝縮させる。
はぁ
今度は手に凝縮した気を集中させながら手を腰の後ろへと持っていく。
めぇ
凝縮した気を手に溜め続ける。
そしてノイズに向かって一気に押し出すように放つ
波ぁぁぁぁぁ!
その瞬間大きな一筋の光が走る。その光はノイズをたやすく貫き瞬く間に消し去る。この絶望的な状況でこの光を見た人間はこう思うだろう。
これは希望の光だと
光が消える。消えた場所にはノイズなど存在せず、ただ一人の戦士が立っていた。
孫悟代。この戦士が進む先には何が待っているか、それは誰にも分からない。
前書きにも書いてあった通り遅くなって申し訳ありませんでした。他の作品を見ていてどういった風に書けばいいのか分からなくなってしまい一か月も更新が遅れてしまいました。これからも精進するように頑張っていきますのでよろしくお願いします。