「久しぶりだな……理子」
理子と話すのはかれこれ2ヶ月ぶりぐらいだが……声色とかは全く変わっておらず未だにイ・ウーに所属しているとは思えなかった。
「おひさだねーあれからどんな感じー?」
「そうだな……賑やかな友人が居なくなって少し物足りなくなってる感じだな」
「くふふ……やっぱりそうだよねー」
理子はいつも見ていた楽しそうな声をして電話をしている。
「ねぇケー君、今から会えない?」
俺はチラッとティナの方を見ると、ティナはその会話が聞こえていたようで、少し不機嫌な顔をするも行くことを許してくれた。
「ああ、場所は?」
「女子寮の入口に来てくれれば大丈夫だよっ」
「女子寮か……」
どう考えても会うには危険な場所だと俺の中の警鐘が忠告をしてくれる。
「……なぁ、ほかの場所に……」
「それじゃあ!20分後に!」
プープープーと言いたいことだけを言って電話を切った理子に軽く怒りを覚えたが、約束通り待ち合わせ場所である女子寮に向かうことにした。
「お兄さん、帰ってきたら埋め合わせしてくださいね?」
「そうだな、何か考えとく」
去り際にティナとそんな約束をして待ち合わせ場所へと向かった。
武偵校の女子寮は男子寮とは少し離れた場所にあり、たまに侵入する男子が居るらしいが……尽く見つかりトラウマを植え付けられるほど恐怖の場所らしい。最も……武偵校の女子に手を出す段階でお察しではあるが。
そんなこんなで到着してから10分ぐらい待つと寮の方から理子が制服を着てこちらに来た。
「久しぶりーケー君」
「おう、久しぶりだな」
いつものようにフリフリの制服を着た理子だったが、今日はやたらと距離が近く、いきなり俺の腕にしがみついてきた。
「えへへ〜やっぱりこれが落ち着くー♪」
「……いや、こういうことしたことないよな?」
「えー釣れない反応だー!えいえいっ」
俺の反応に満足しない理子は指で俺の頬をつんつんと突いてくる。これが地味に痛い。
「い、痛い痛い……」
「えへへ怒った?」
「いや怒ってないけどさ……」
いまいち理子の行動に目的が見えない。
「理子……要件はなんだ?いつもらしくないぞ?」
そう言うと理子は少し目を見開き驚いたような表情を浮かべる。
「ケー君……どうして分かったの?」
「あーまぁ……ある程度付き合いが長いしな」
あんまり言葉にするのも恥ずかしく、少しそっぽを向いて言うと今度は思いっきり抱きつかれた。
「……助けて欲しいの……」
「……何があった?」
「あの後……イ・ウーを退学になっちゃって……お母様の形見も取り上げられたの……」
どうやらあの後、酷い目にあったらしくなんとか逃げてきたようだ。
「形見はどこに?」
「目処は立ってるから……あとはみんなで協力してだよ」
「みんな……?」
理子の含みのある言葉に疑問を浮かべてオウム返しをする。
「キー君とアリアとケー君と私で泥棒作戦だよっ」
「なんだその作戦は……」
俺は理子のアホみたいな作戦に頭を抱えるのだった。
「と言いたいところなんだけど……実はまだケー君にしか声をかけてないんだー」
「えっそうなのか?てっきり……キンジとアリアに話を通したあとかと思ってたが……」
さっきの口ぶりからだとすっかりメンバーが決まったような感じが伝わってきていたのだが……
「だって……ケー君には真っ先に伝えたかったし……」
「……そ、そうか」
柄にもなく少し動揺してしまう自分が悔しい。
「……ひとまず、俺はその作戦に協力させてもらうぜ?理子は大事な親友だからな」
「っ……!ケー君不意打ちは禁物だよっ?」
さっきの意趣返しと言わんばかりに不意をつくと理子も真っ赤になってしまった。
「とにかく、作戦が決まったらまた連絡してくれ」
「ううーイェッサー!」
変な敬礼をして見送られた俺は自分の部屋に戻るのであった。
部屋に帰るとティナがむくれ顔をしてダイニングに座っていた。
「お兄さん……あの人とはどんな関係なんですかっ!」
「えっ、見てたのか……?」
「ばっちりとこの目で!」
ティナにああいった所を見られていたのはとても恥ずかしく、黙ってしまった俺にティナは無言で正面から抱きついてくる。
「……私も……お兄さんの役にたちたいです……!」
「そうか……でもティナはまだ小学生だし……」
「でもお兄さんよりは射撃が得意ですよ!」
……確かにその通りなんだよな……
ティナの射撃の腕はピカイチで、逆立ちしても勝てないぐらいの腕の良さだ。
「……分かった、交渉してみるが、危ないことはしないようにな?」
「はいっ!」
ティナは花の咲いたような笑顔を浮かべて返事をするのだった。
そして翌日、いつものように学校に向かうとそこには久しぶりに登校してクラスの人気者になった理子のすがたがあった。
「おはよう理子」
「ケー君、おはよー」
そんな何気ない挨拶をして自分の席に座るとキンジが俺のところに来た。
「京介、ちょっといいか?」
「また屋上か?」
「そんなところだ」
キンジに誘われて俺たちは屋上に向かう。そして、たどり着いた先にはアリアがフェンスに腰掛けて待っていた。
「遅い!」
「すまんすまん」
怒るアリアにキンジはいつも通りという感じでスルーしている。
「……お前らすっかり仲良くなったよな」
「「そんなことない」」
「……何でハモるんだよ……」
息がぴったりな二人に感心しながらも呼ばれた要件を聞くことにした。
「それで、今活躍中のお二人が俺に何のようだ?」
「あら、察しの早い京介でもこれは予想外だった?」
アリアは挑戦的な目を向けて言ってくるが、意に返すこともなく俺は淡々と答える。
「あながち予想はできてるが……聞きたいか?」
「ええ、ホームズ家の一員として是非ね」
軽くウインクして俺に振ってくるアリアにため息をつきながら俺は考えていた予想を口に出す。
「恐らくは理子の提案についてで、受けようかどうか悩んでる。そんな感じか?」
「……核心に近いところまで読めるアンタは何者なのよ……」
どうやらかなり当たっていたらしく、アリアが目を見開いて驚いていた。隣ではキンジが口をあんぐり開けて立っているのがすごく滑稽だ。
「ちなみに、キンジは篭絡されてて信用に値しないから俺の意見を聞きたいって所までおまけで推測しよう」
「……京介お前な……」
キンジは恨み事を言おうとしていたが図星だったのか言葉が見つからず飲み込んでしまった。
「京介も協力するから私も協力しようかしら……」
「……アリアはその……確執とかあるんじゃないか?」
「まぁたしかにそうだけど、あの娘はほんとに助けを求めてたから……それは本物かなって」
アリアは優しさに満ち溢れた目でそう言った。その姿はどこか聖母を思い起こさせるような雰囲気だった。
「……いつもその優しさならモテるんだけどな」
「あぁ……?」
だが、キンジが余計なことを言ったばかりにアリアの機嫌が急降下してまた二人で喧嘩を始めてしまう。俺はやれやれとため息をついて、教室に戻ることにした。