組み手の授業が終わり、昼休みになると理子が俺の席にきて何やらドヤ顔を浮かべ始めた。
「ふっふっふーじゃーん!」
「……弁当?」
ドヤ顔のまま懐から弁当箱を出すと俺の机の上に置く。
「ケー君のために愛妻弁当を作ってきましたっ♪」
「色々ツッコミどころが満載なんだが……」
嬉しさももちろんあったが、それよりも先に疑問ばかり浮かんできてジト目を向ける。
「おお……ケー君のジト目は珍しい……」
「はぁ……で、他にはなんか用か?」
「むーもっと嬉しがってよー」
理子は頬をリスのように膨らませて拗ねてしまった。
「実際嬉しいんだが……急にこんなことをされても困るのが普通じゃないか?」
「久しぶりにあった彼女の手料理を食べたくないのー!?」
「そもそも付き合ってないよな……!?」
ありもしない事実をでっち上げられてさすがに看過できない俺は頭を抱えた。
「……屋上にいくか……理子行くぞ」
「……えっ?」
「屋上に行くぞ」
そう言って理子の弁当と自分の弁当を持ち、屋上へと向かった。その後ろから慌てたように理子がついてくる。
屋上にたどり着くと誰もおらず適当に場所を見繕ってそこに座り込む。
「え、えっと……なんか恥ずかしいねっ」
「お前が声をかけてきたんだろうが……」
何故か緊張している理子を尻目に俺は自分の弁当を広げる。今日はハンバーグ弁当だ。
「ケー君……もしかして料理上手?」
「さぁな、でも実家にいた時から食事は作ってた」
あの時はやむなく料理を作っていたが……気がつけば俺にばかり任せていたような気がする。
「そういう訳だから理子、弁当交換しようぜ?」
「えっ、いいの?」
「作ってくれたんだろ?なら食べさせてもらうぜ」
そう言いながら弁当箱を交換して理子の作ってくれた弁当を開く。蓋を開けるとそこには可愛らしいキャラ弁が詰まっていた。
「これ……」
「モチーフは内緒っ」
誰かに似ているようなキャラ弁だったが触れるのを我慢してひとまず、卵焼きから手をつけてみる。
「……どう、かな?」
「……うまい……理子凄いな」
冷めているはずなのにふんわりしていて何個でもいけるような卵焼きのクオリティだった。
「ほんと!?良かったぁ……!」
「これなら理子はいいお嫁さんになれそうだな」
「ふぇっ!?」
理子が急に真っ赤になり挙動不審になり始めた。
「……なんか失言したすまん」
「あ、謝ることないよっ!うんっ」
何故か変な空気になってしまったのを感じて俺は弁当の方に意識を向けることにした。他にもベーコン巻きやソーセージ、チキンライスと言ったものが入っていたが全てがうまくあっという間に平らげてしまった。
「ごちそうさまでした、とても美味しかった」
「あっという間に食べちゃったねー」
理子は嬉しそうにしながらそっと弁当箱を回収した。ちなみに理子も俺の弁当を食べて美味しそうにしながら食べきっていた。
「それで……俺を呼んだ理由はそれだけじゃないだろ?」
「そうだねーそれじゃ……もうひとつの本題ね?」
改めて咳払いをすると表情を真面目にして話し始めた。
「とりあえず、キンジとアリアも協力してくれるって」
「そうか、それは何よりだな」
「うん、それでね……今日の放課後に作戦会議するから来てね?」
そう言って一枚の紙を渡された。そこにはメイド喫茶の場所が記されていた。
「……ここでやるのか?」
「うんっ!」
俺は再び頭を抱える。
「……ダメかな?」
「……はぁぁ……」
深いため息をつくも否定をすることはなくただうなづくことしかできなかった。
そして放課後、俺は言われた通りにその店に向かった。そこは人通りがそんなに多くなく、隠れ家的な店のようだ。さすがに入る時に躊躇はしたが意を決して扉をあける。
「いらっしゃいませー!ご主人様っ!」
「…………」
あまりの異世界感に無言で立ちすくんでしまった。
「いらっしゃいませー!ケー君っ!!」
そして奥からはこれまたメイド姿の理子が姿を現した。
「……なんというかすごい格好だな……」
驚きの連続で返せる言葉はそれだけだった。
その後、個室に案内された俺は終始落ち着かなかった。
「どうかな?理子のメイド姿っ」
「に、似合ってると思うぞ?」
正直なところ目のやり場に困るように理子の胸元が目に付くため必然的に視線を逸らさずにはいられなかった。
「えへへーそれなら良かった♪」
理子は嬉しそうにしながらメニューを渡してきた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「……じゃあ、ロイアルミルクティーで」
「かしこまりました♪」
オーダーを取ると理子はバックヤードに引っ込んでいった。理子が部屋を出ると一気に力が抜け、大きなため息が漏れ出てしまった。
「……明らかに場違いじゃねぇか……」
そんな独り言が口からこぼれるがいつまでもそうしてはいられない。深呼吸をして精神を落ち着けていると、カップを持った理子が部屋に戻ってきた。
「はい、注文のロイアルミルクティーだよって何してるの?」
「ん?あぁ……ちょっと瞑想をな」
声に反応してゆっくり目を開いてカップを受け取る。
「なんか、お坊さんっぽい事してるのに飲んでるのは外国の物って違和感ー」
「しょうがねぇだろ、好きなんだから」
角砂糖を1つ入れてスプーンで混ぜ、カップを口につける。丁度いい甘さとミルクのコク、そして茶葉の香りが広がった。
「……うん、結構美味しい」
「私が淹れたんだよっ」
「さすが理子、いいセンスだな」
理子の淹れた紅茶を楽しみながら取り留めのない雑談をしていると遅れてキンジとアリアが店に入ってきたようだ。
「それじゃあ、お出迎えしてくるねっ」
そう言うと部屋を出ていき、外で何やら騒ぎ始めた。
数分後、キンジとアリアが恐る恐る部屋の中に入ってきた。
「よう、お先にお邪魔してるぜ」
「京介……あんた慣れてるわね?」
「まさか、さっきまで同じぐらいに動揺してたけどな」
そんなこんなで主要メンバーが集まったところで理子が気を利かせてドリンクを持ってきた。キンジにはコーヒーをそしてアリアにはオレンジジュースだ。
「誰が子供よ!!」
瞬間的にキレたアリアが躊躇うことなくガバメントを抜き理子に向ける。
「きゃー怖いー」
理子も理子で棒読みのまま何故か俺の腕にしがみついてきた。
「どいて京介!そいつ殺せない!」
「あー落ち着けよ……キンジ、見てないで止めろよ」
「……俺には無理だ」
既にアリアを止めることを諦めたキンジはコーヒーをゆっくり飲んでいた。その隣ではアリアと理子がわーわー騒いでいる。
……そんな状況に俺はさらに深いため息をついたのだった。