「それで、作戦ってなんだ?」
俺は理子に目を向けながら話を切り出した。理子はたんこぶのできた頭を擦りながら一枚の紙を取り出し机に広げる。
「これが今回潜入する建物の見取り図だ」
理子の口調がいつものお調子者ではなく、どこか冷たい雰囲気を纏うものに変わり説明を始めた。
「どうやら地下もあるらしいけど、私の力だとここまでしか調べられなかった」
「……ここまで調べるだけでも充分だがな」
理子の手腕に俺はただ脱帽するしかなかった。アリアとキンジも見取り図をしっかりと見ていた。
「中の構造は概ね理解したけど……目的のものの場所は分からないのよね?」
「そうだ、だからこそキンジとアリアには潜入してもらう」
「「潜入?」」
2人は息をぴったりと合わせてオウム返しのように言葉を繰り返す。
「見取り図ではわからない以上実地に行って確かめるしかない。幸いなことにハウスキーパーを2人、臨時で雇うっていう募集があったからそれに便乗する」
「そこまで考えてたのか」
理子の武偵ランクは伊達じゃないようだ。この前の戦闘といい、この作戦立案といい優秀なのは間違いない。
「と、言うわけでぇーアリアとキー君には執事とメイドになってもらうよー!」
さっきまでの真面目なトーンとは一転してお調子者のようなテンションに戻った理子は2人にそういった訓練をするように伝える。勿論、アリアは猛反対する。
「……喧嘩はそれぐらいにして、俺には役割がないみたいだが……」
話を聞く限りだとアリアとキンジは中に潜入しないといけないが、俺には特に何も指示が出てきていない。
「ケー君は外部で私と情報処理担当だよ」
「……そんなに処理する情報あるか?」
「分かってないなー情報はリアルタイムで変わるんだよ?人手が欲しいに決まってるじゃん♪」
どうやら俺は裏方業務のようだ。まぁ、別に嫌いなわけじゃないしそれなりに得意なことだから助かる。
「それじゃ改めて大まかな流れを説明するね?キー君とアリアで、
「大体わかった」
「ひとまずそれで行くわよ」
作戦の流れが決まったところで作戦の決行は来週ということになった。
作戦会議を終えて部屋に帰るとティナがいつものように出迎えてくれた。
「おかえりなさい、お兄さん」
「ただいまティナ」
「……お兄さんから女の人の匂いがします……」
「……そんなに嗅覚鋭かったか?」
そんなに匂いが付いたとは思っておらず、それを当てたことに少しばかり関心しながら服を着替えることにした。
「着替えたら食事でも作るからなー」
「はーい、それとお兄さん……食事の時に
そう言ったティナの顔はどことなく、恐怖を感じるような満面の笑みを浮かべていた。俺はただ苦笑いをすることしか出来ずに部屋に戻る。
数分後、着替えを済ませた俺はキッチンに向かい冷蔵庫を開ける。中にはいくつかの生野菜と魚がおいてある。それを食べられるように調理して待つこと数十分、香ばしい匂いに包まれたティナがお腹を空かせて俺の方に近寄ってきた。
「それじゃいただきます」
「いただきます」
今日もいい感じに晩御飯が作れて何よりだった。そして、食事を終わらせて食後のお茶を飲んでいるとティナがニッコリとしながら話を切り込んできた。
「それでお兄さん、最近私とあんまり遊んでくれませんよね?」
「まぁ……忙しいしな」
「それに……この前の埋め合わせもしてくれてませんよね?」
アドシアードの後のあれの事か……
「お兄さん、私はお兄さんのことが好きなのになんで振り向いてくれないんですか?」
「……俺はロリコンじゃないからな」
やけにティナの熱が強く少しばかり困惑している。
「私は……お兄さんのお嫁さんになりたいんです!」
「えっ……?」
「あの日……お兄さんに助けていただいてからずっと想いを秘めていましたけど……お兄さんは気づいてくれないから……」
「……てっきり家族愛かと思っていたが……」
急なティナの告白に動揺を隠せない。たしかに俺もティナのことは好きだがあくまでも家族愛としてだから、どういう風に反応すればいいか困る。
「ティナ、俺もティナのことは好きだ。だが……それは家族として好きだから……嫁とかそう言うのは……」
「そう……ですよね……すみません、取り乱しました……」
ティナは悲しげな表情をして席を立った。
「お、おいどこに行くんだ……?」
「ちょっと夜風を浴びてきますね……?」
ティナはそのまま部屋を出ていった。
翌朝、目を覚ますといつもの所にティナはおらず不穏に思った俺はティナに電話をかける。だが、携帯は連絡がつかず、一気に不安が膨れてきた。
その日はお弁当を作る気力も湧かず、ひとまず小学校に電話をかけるも、ティナは登校していないようだった。
「おは……ってケー君大丈夫……?」
教室に入って真っ先に声をかけてきた理子が心配そうに声をかけてきた。
「あぁ……理子……おはようだな……」
「ケー君、ちょっと屋上に行こう?」
理子はそう言うとむりやり手を引っ張って屋上へと俺を連れていった。
「一体何があったの……?」
屋上につくと理子が肩を掴んで間近で声をかけてくる。俺はそれに半分ぐらい答えながらなんとか状況を説明することが出来た。
「要するに……ティナちゃんが居なくなって心配だってことなんだ……」
納得した理子はようやく肩から手を退けてくれた。
「……まさかこんなにも寂しくなるとは……」
「ふぅん……もしかしてケー君、ティナちゃんのことが好きなんじゃないの?」
そんな理子の言葉に反論が思いつかないことに俺自身がショックを受けた。
「……どっちにしてもそんな姿のケー君見たくないなー」
理子は何やらがっかりしたように言葉を紡ぐ。
「……そんな状況だと作戦にも支障が出そうだね」
「……すまない、明日にはなんとかする」
「いや、無理しなくていいよ?人手は足りてるし、ケー君はティナちゃんを探してきて?」
理子は善意でそれを言ったのだろうが、今の俺にはその言葉は拒絶の意味と一緒だった。
「……すまない」
俺はそれしか言えずにゆっくりと屋上を降りていった。
放課後、俺は1人で学園島をふらふらと歩いていた。ティナが行きそうな場所は一通り回ったが影も形も見当たらない。
「……ティナ……」
たしかにティナはまだ小学生だが……その淡い思いをあんなふうにバッサリ切り捨てて良かったのだろうか……
そんな考えが心の中で堂々巡りして何も考えられなくなった。その時、携帯が震えた。画面に出た文字は『ティナ』の文字だった。
「もしもし!?」
「……やぁ、天童くん」
期待を胸に電話に出たのはあろうことか、『蛭子 影胤』だった。