翌朝、俺は身体の激しい痛みに襲われてなかなか起き上がれなかった。急激な動きによる筋肉痛と傷の具合が酷くとても部屋で療養できるレベルではなかった。
「ティナ……悪い、ちょっと病院いってくるわ……」
「それだったら私も一緒に行きます」
そして、ティナは俺を肩で支えながらゆっくりと歩き出す。それに支えられている高校生の図に悲しさを覚えながらも連れていかれるのだった。
休みの日にも関わらず武偵病院は診察をしていて受付を済ませると、待合室で壁に寄りかかって目を瞑る。その間、ティナはずっと俺の手を握っていた。しばらくそうしていると無事に名前を呼ばれて診察を受ける。
「貴方……その傷でよくここまで動けたわね?内蔵がかなり傷ついてるわ」
「……全治どれくらいですか?」
「絶対安静にして1週間ってところかしら」
1週間も戦線を離脱するとなると、理子の計画にも参加が出来なくなってしまうだろう。
「それじゃあ……普通にしたらどれくらいで治りますか?」
「……1ヶ月ってところね」
普通の生活をしてるだけでは1ヶ月もかかってしまうのか……そんな事実にかなり悩んだ末に俺は、絶対安静で戦線を離脱することにするのだった。
入院をして治療を行うということで、1度部屋に帰ってから支度することにした。ティナも俺の横で診断を聞いていたが特に反対することもなく無言で手をぎゅっと握ってくる。
「……どうかしたのか?ティナ」
「お兄さん……大丈夫なんですか?ほんとはかなり苦しいんじゃ……」
そんなことを言うティナの頭を撫でた。
「大丈夫だ、これぐらいなんてことはないさ」
ひとまず入院に必要なものを準備してなんとか病院へと戻る。病院にたどり着くと既に病室が用意されており流れるままに入院した。病室は4階で幸か不幸か海沿いの一室に個室で入院をした。
「それにしても……結構怪我したのか……」
「そうですね……いくつかは私のせいでもあるんですけど……」
「それはしょうがないからな」
悲しげな表情を浮かべるティナを慰めながら色々な話をしているとコンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。
「はいどうぞー?」
その声に反応してドアを開けたのは理子だった。
「やっほーケー君」
「理子、作戦は大丈夫なのか?」
「今はアリアとキー君がやってくれてるよ?それとはい、お土産」
理子は手に持っていたケーキを差し出してきた。それを受け取るとティナがすっとケーキの箱を持っていった。
「……すまない、作戦を途中で離脱してしまって……」
「まぁ家族が絡んじゃったらしょうがないよ、それで失っちゃったら後悔するも出来ないし……」
理子は少しばかり遠い目をしながらそう話した。その横顔に俺は何も言えずに黙って話を聞く。
「……ちなみに作戦はどこまで進んだ?」
「ある程度は信頼を勝ち得て、そろそろ侵入するころだね」
そう言いながら理子は寂しげな表情を浮かべる。
「ほんとはケー君も一緒に4人で遂行したかったけど……」
「……理子」
俺は頭を回転させて、ひとつの手段をおもいついた。そして、自分のホルスターからSOCOMを抜き理子に差し出した。
「俺の代わりって訳じゃないが……こいつを持っていってくれ」
「……わかったよ」
理子はそう言ってSOCOMをホルスターにしまう。
「っとそろそろ時間だから私帰るね?」
「おう、ありがとな」
理子はそう言って部屋を出ていった。その後にティナが俺のところに近づいてきた。
「お兄さん……いいんですか?」
「……良くないけど、仕方ないだろ」
「……私も一緒に行きますから、見に行きませんか?」
「それはいいアイデアだ」
そして、俺たちは人目を盗んで病室から抜け出すのだった。だが、それをがっちり見ていた影もまたいるのだった。
病院を出た時には既に雨が降り始めていた。俺はキンジに電話をかける。
「どうした、京介」
「今どこにいる?」
「目標を確保してこれから、横浜のランドタワー屋上に向かうところだ」
横浜まではそれなりに時間がかかってしまいそうだ。
「わかった、今から向かう」
「おう、俺たちはひと足早く向かうからな」
そう言って電話を切ると、俺とティナは電車に乗って横浜へと向かう。
横浜にたどり着くとすぐに目に付くタワーへと向かう。
「お兄さん、急に急いでどうしたんですか?」
「……なんか嫌な予感がしてな」
痛む身体にムチを打ってランドタワーへと向かう。エレベーターと階段を使ってどうにか登りきると、そこには地面に転がる理子と武偵校の非常勤講師の小夜鳴先生、そしてアリアとキンジがいた。
「おやおや、どうやらもう1人居たみたいですね?」
「……こいつはどういうことだ?」
「理子のロザリオを取られたわ」
アリアは悔しそうにしながらガバメントを構える。
「君たちに許可をしよう、偉大なるドラキュラ公に会えることを!!さぁ彼が来たぞ」
その瞬間、小夜鳴先生の服が弾け、中からは毛むくじゃらの腕や体が出てきた。
「くはは、久しぶりだぜこの感じ」
もはや、全く別人の声をして喋る小夜鳴先生に対して俺は拳を構える。
「初めましてだな、人間」
そして足元に転がっている理子の頭を掴んで持ち上げる。
「お前も久しぶりだなリュパン4世」
「……今すぐ理子を解放しろ」
俺は拳を構えていつでも飛び出せるようにする。それと同時にキンジが銃を抜き、ブラドの腕を撃ち抜く。だが、撃たれた所からすぐに回復してしまった。
「遠山、お前トマト握りつぶせるだろ?それと同じで、俺にはそれが出来るんだよ」
そう言うと拳銃を取り上げると一気に握りつぶした。
「ぶ、ブラド……!おまえ……騙したな……!オルメスに勝てば……!解放してくれるって……!」
「ゲババババ!お前は犬や猫とした約束を守るのかぁ?檻にもどれよ繁殖用牝犬。放し飼いにしてみるのも面白いと思ったが、お前は自分の無能を証明しただけだった。お前は一生俺から逃げられねぇんだよ!!お前が最後に見る光景だよ!ゲババババ!!」
ブラドは理子の頭を掴みながら振り回す。見るといつのまにか理子の目には大粒の涙が溢れていた。
「理子、それでいいのか!?ハッキリといえよ!」
俺は声を大にして叫ぶ。ブラドは少し嫌そうな顔をするが、理子は涙を浮かべてなんとか声を出した。
「京介……!アリア……!キンジ……!助け……て!」
「よしわかった……!」
その言葉を待っていたかのように脚部のスラスターを使って間合いを詰める。
「天童式戦闘術一の型三番『轆轤鹿伏鬼』ッ!!」
身体がバラバラになりそうな感覚に襲われるがそれを無理やり押し込み、ブラドの肩口にカートリッジを撃発させた拳を撃つ。その勢いは吹き飛ばすのではなく、肩口から腕をもぎ取ることに成功し、拘束から逃れた理子を回収する。
「ぐぁぁぁ!!俺の腕を!!」
ブラドはその巨体で薙ぎ払うように回し蹴りを繰り出すが、その挙動を義眼を使って見切り、地面を這うようにして後方へと下がる。入れ替わりにアリアとキンジとティナがそれぞれの銃で攻撃を開始する。
「ガキが……!調子に乗りやがって……!」
驚くことに吹き飛ばされたはずの腕が再生し、元通りに戻ってしまった。
「ちっ……なんだあの野郎……」
「吐き気がするレベルだな」
隣に立つキンジが俺のボヤキに答えてくれた。
「アンタ、私のことをガキって言ったわね!?あたしはもう16よ!立派なレディなんだから!貴族をバカにしたらどうなるか教えてあげるわ!」
「はっ!この俺をどうしようって言うんだ?」
「逮捕するのよ!お母さんの99年分の罪はアンタのせいなんだからね!!」
そんな話をしながらアリアは俺に、
「ははっ!この俺を逮捕ときたか!ホームズ家の欠陥品が!!」
そんな会話を尻目に俺は理子を後方へと下げ、容態をチェックする。
「理子、大丈夫か?」
「……無理だよ、ブラドに勝てるはずないよ!勝てないのなら……逃げるしかないんだよ……!」
「『無理、疲れた、めんどくさい』この言葉は、理子のライバルの言葉だ。理子はそんなライバルに負けていいのか?」
「……京介……」
「それにな、俺は理子のためにここまで来たんだ。ここで逃げたら男が廃るってもんさ……こほっ」
そう言いながらも咳き込んでしまい、口からは血が出てしまった。どうやら、さっきの急加速で内臓にダメージが蓄積したようだ。
「ケー君!?」
「心配すんな……だからさ、此処で待ってろ」
俺は再び前へと出る。
「お兄さん、弱点が分かりました」
サブマシンガンを連射しながらティナが俺のそばへと駆け寄る。
「……どこだ?」
「少し不気味な目玉模様の所です」
「……なるほどな」
しっかりと確認したはいいが、今はあいにく飛び道具を持ってきていなかった。仕方なく背中の刀を抜き構える。これ以上スラスターを使うと動けなくなりそうだ。
「京介、アリア、それに……可愛らしいレディ、4人で同時にあの目玉模様を狙うぞ」
「だが、あいつの模様3つしか見えないぞ?」
「そこは戦いながら見つけるしか……」
「それなら4つ目はベロの中央です」
「ティナよく見てるな……」
ティナの観察眼で弱点の4つの位置が判明した。
「京介、お前は近距離で囮をやってくれ」
「……病人に無理をさせるぜ」
「俺と、アリアとレディで4点攻撃をするぞ」
「わかったわ」
「分かりました」
そんな話をしているとブラドが5メートルほどもある、アンテナを無理やり引き抜き両手にもつ。その姿はまさに、鬼に金棒だ。
「人間を串刺しにするのは久々だぜ……!それにお前らは寄りにもよって欠陥品ばかりだな!ホームズ家に伝わる推理力が全く遺伝してない4世、遠山の金さんの能力を使いこなせないガキ、そして、天童家を出奔したダメ息子!」
「……だからどうした、それぞれが出来ることをその分やってきているぞ」
「確かにそうだな?最もそれが俺には届かないだろうがな。だが……ホームズ家のやつにパートナーがついている時は気をつけろと伝わっているのでな、まずは遠山キンジ、お前から退場してもらおうか!ワラキアの魔笛に酔え!!!」
ブラドが大きく息を吸うと大音量の咆哮を繰り出した。それは大気を振動させランドタワー全体を揺らすほどだった。咄嗟に全員が耳を塞ぎ、鼓膜が破れると言ったことは無かったものの、キンジの雰囲気がおかしい。
「なっ!?そ、そんな……」
どうやらあのモードを解除させられたみたいだ。
「バカキンジ!もう
アリアが反応してキンジを後ろに下げ、ブラドの振り回した鉄塔を小太刀で受けるがあまりの勢いに後方へと吹き飛ばされた。返す太刀で再びブラドが鉄塔を振るう。
「うぉぉぉ!!!」
キンジの正面に飛び込み、襟足を掴みながら脚部スラスターで鉄塔を受け止める。インパクトの瞬間に撃発するが、流石に全ては受け止めきれず衝撃が俺とキンジに伝わり、手を離してしまった。
「しまっ……!!」
屋上の縁から飛び出てしまったキンジを見送りながら回転受け身で体勢を立て直す。
「お兄さん!!」
「ティナ!」
ティナはサブマシンガンで目玉模様を撃ち抜こうとするが、ブラドは鉄塔を盾にしてゆっくりとティナへ近づいていく。
「こっちも忘れてもらっては困るぜ!」
俺は離さずに持っていた刀を下段に構えながらブラドに近づく。
「ネズミの分際で!」
大きな動作でまとめて薙ぎ払うがそれを義眼で見切り、鉄塔ギリギリを通るとそのまま通りぬきざまに左腕を切る。電子を通している高周波ブレードによってブラドの左腕は綺麗に切断されたが、徐々に再生は始まっていた。
「お前は絶対に許さねぇ……!2度も俺の腕を奪ってくれたな!!」
「ティナ!アリアの救助に!!」
ティナに指示しながらブラドの攻撃をなんとか捌く。だが、身体へのダメージが大きく遂に膝から崩れ落ちてしまった。
「手こずらせやがって……だが、これで終わりだ!」
膝をついた俺を叩き潰すように鉄塔を振り上げたブラドを見て、俺は口角を上げた。
「撃て!!」
いつの間にか屋上から降りてきたはずのキンジが理子にしがみついて舞い戻ってきていた。そして、キンジのベレッタと理子のSOCOM、ティナのサブマシンガンとアリアのガバメントから同時に銃弾が発射されるが、その寸前に雷が落ち、アリアの弾丸がズレてしまった。
だが、キンジはそれを予知していたのかベレッタの弾をアリアの弾に当てて軌道を修正しながら自分の弾も的に当てるという離れ業をやってのけたのだ。
弱点である目玉模様を撃ち抜かれたブラドは呆然としたまま立ち尽くし、理子がその頭を踏みつけてその後ろに降り立った。
「くふふ、ばーか!」
ブラドに向かってアッカンベーをするとブラドの持っていた鉄塔が、そのままブラドを押しつぶしてしまった。傷が再生しないあたり、本当に弱点だったようだ。
「……これにていっけんらくちゃ……」
ほっとした瞬間に身体に激痛が走り意識を保てずにそのまま目の前が真っ暗になった。