目を覚ますと俺は見知らぬ椅子に座らされていた。周囲を見渡すと何やら美術品や、骨董品などが並べてありそこの部屋の主はよほど美術品への興味が深いのだろう。
「やあ、目が覚めたかな?」
声のする方向に目を向けるとそこには30代後半ぐらいの男が煙管を咥えて座っていた。
「……ここはどこだ?」
「そうだね、ここは『イ・ウー』と呼ばれる組織の中の中枢とも言うべき場所だね」
「なるほどな、それで俺を招いてどういうつもりだ、組織に入れとでも?」
「そんなことはしないよ。その前にお互いに自己紹介とでもいこうじゃないか、天童京介くん?」
「はっ……そっちは既に俺の事を調べてるのにか」
「ははっ、これは失敬した。私たちにとって君は興味深かったのでね」
その男はにこやかに笑いかけてくる。そしてその笑顔はどことなく誰かに似てるように感じた。
「……では、自己紹介をしよう。私の名前は『シャーロック・ホームズ』。世紀の名探偵などと呼ばれた男さ」
「ホームズ……だと……!?馬鹿な、かれこれ数世紀前の話だろう……!?」
「いいね、その表情!そういうリアクションが欲しかったよ」
ホームズと名乗った男にすっかりとペースを握られてしまいすごくやりづらい。
「……で、その名探偵が俺に何の用だ」
「ふむ、切り替えが早いのはいい所でもあるがもう少し思慮深くてもいいのではないかね?」
「余計なお世話だ」
なんなんだ……全く話が見えてこない。
「ああ、話が見えてこなくてイラついているね?じゃあ本題に入るとするとしよう」
「初めからそうしてくれると助かるよ」
心の声を当てられたことにドキッとするも務めて冷静に話を続けようとする。
「私の推理では、君という存在はまったく予測は出来ていなかった。だが、ある時を境に君の存在は色濃くなってきた訳だが……」
「待ってくれ、アンタは一体何を言っているんだ?」
急に存在が濃くなるとは……どういうことなんだ……?
「正確には君とアリア君が出会った時からだね」
「……なん……だと?」
「本来の推理だと、君ではなく遠山キンジ君の存在だけが色濃くなる予定だったのだけど……何の因果か君の存在も濃くなったわけだ」
「……つまり、アリアのおかげで俺もアンタの物語ってやつの表舞台に立ったというわけか?」
「そういう認識でいいよ。まぁ、君が表舞台に立ったということで色々な人の運命も変わってしまったけどね」
ホームズの話し方にはどこか経験したことのあるような重みを感じる。
「……ところで天童くん、君は『並行世界』というの言葉を知っているかね?」
「ああ、あらゆる可能性の分岐の先に位置する世界のことだろ?そういうのはファンタジーなんかで有名だからな」
「そうか、君はそちらの方に造詣があるみたいだね」
「は?こんなのは今の高校生なら半分ぐらいは知ってるぜ?」
このホームズと言う男の印象がまったく掴めずますます謎に包まれる。
「私はある程度並行世界を見ることが出来るのだが……君の存在はどの世界にも存在しなかった。だからこそ、興味が湧いてね」
「俺の存在が……ない?」
「いや、正確には私の見るところできる範囲に君が居ないというのが正しいね」
つまりは本来ならばアリアと関わることはなく、平凡に人生を全うすることが出来たということなのか。
「それで今回わざわざ、カナ君に頼んで君とこうして話をした訳だよ」
「なるほど……言いたいことは理解した。ところで全く話は変わるんだが……ホームズってことはアリアの先祖みたいなものなのか?」
「そうだね、アリアくんは私の曾孫だね」
「……そんなアリアを撃った敵がいるんだが」
「ああ、それは僕が指示した」
突然の爆弾発言に思考が停止する。
「は……?それ本気で言ってるのか……?」
「これも必要なことだからね」
その言葉に俺は本気でキレそうになった。
「必要なことだからといって……曾孫を傷つけていいのか……!?」
「天童くん、君が思っている以上にこれは世界にとって大事なことなのだよ」
「世界がなんだよ……!そんな世界の重さを1人の女の子に背負わせるのか……!」
「そうだよ、だがひとりじゃない……そのためのパートナーだよ」
「……だが本人達がそう思うか……そんなのは分からないだろ……!」
「これは僕の推理……いやもはや予言と言ってもいい、絶対に2人は乗り越えてくれるさ」
確信を持ったホームズの発言に得体の知れない不安と苛立ちが募る。その時、ホームズの持っている杖が赤い光を放ちだした。
「見たまえ天童くん、ついにアリアが覚醒したよ」
「覚醒だと……?」
「緋弾を受け継ぐものとして、あとは彼女にこれをさずけるだけだ」
「あんたの言ってることはほとんど理解できないが……一つだけハッキリとわかったことがある」
「何かね?」
「あんたは身勝手でワガママの極みにたっていることだ!俺はあんたとは分かり合えない」
「それならそれでいいんだ。僕はもうすぐ消える、君がアリアくんやキンジくんと共に戦ってくれるだけでいい」
どこか達観した表情のホームズに向ける怒りが宙ぶらりんになるのを感じて歯噛みする。そして俺は椅子から立ち上がりホームズを見下ろす。
「俺と戦え、あんたのその鼻っ柱へし折ってやる」
「ふふっ、その流れは読めなかったよ。けど、いいだろうせっかくの余興だ。それぐらいはしないとね」
そう言いながらウインクするホームズに俺は苦虫を噛み潰したような表情をうかべる。
「君が得意なのはインファイト、おまけに右手と左足がカートリッジ内蔵の義手義足になっている。そこから放たれる強力な一撃に注意という所かな?」
「……はっ、下調べもバッチリなことで」
そう言いながらあえて天童式戦闘術の構え方の一つである『鏡面逆波の構え』を取る。この構えは俗に言うカウンター型の構えだ。水面に衝撃が加われば波が立つように、攻撃をされたらその分を返す構えになっている。
「ほう、それが天童式戦闘術の構えかい」
「この構え……耐えて見せろよ」
「じゃあ先手は頂こうじゃないか」
そしてホームズが1歩踏み込むと同時に俺は義眼を解放する。下調べの段階で義眼の話題が出てこないところから推測するにきっとやつはこのことを知らない。
(だからこそ、この一撃に勝負をかけるしかない)
そして周囲の時間が遅くなる中でホームズの動きは淀みなく俺の心臓目がけて杖の一突きが来るのを認識する。
(取った……!)
杖が腕に触れて左手で弾きながら右手のカートリッジで攻撃しようとした瞬間、その杖の挙動がブレて右腕を叩き落とす。それと同時にカートリッジが撃発し地面に亀裂を走らせた。
「なっ!?」
「僕が知らないとでも思ったかい?」
そんな余裕の発言とともに動けない俺の肩を回し蹴りで蹴り抜くホームズ。衝撃を逃すことも出来ずに反対側の壁まで吹き飛ばされてしまった。
「ごほっ……さすが探偵さんだな……!」
「いやいや、正直なところ一瞬焦ったよ」
そんなことを思ってるとは思えないほどに楽しげなホームズにさらに苛立ちが募るが冷静になるために一度深呼吸しつつ体の状態を確かめる。幸いなことに肩は外れておらず戦闘続行はできる。
「その自慢の体術は独学か?」
会話をしながら呼吸を整えるために時間を稼ごうとするがホームズはゆっくりとこちらに歩きながらの会話で距離を詰める。
「そうとも言えるしそうでないとも言える」
「けっ、曖昧な答えだな……!」
そして相手からは届かない距離に入った瞬間、脚部のカートリッジを撃発しホームズの懐に飛び込む。だが、いつの間にか杖で横腹を薙ぎ払われ再び壁までカッ飛んで行った。
「くそ……!どうなってやがる……!」
「言ったはずだよ僕は予言ができると、だから君の行動も全て推理して未来が見えるのだよ」
どうあがいても絶望だ。未来が見える相手じゃ相手が悪すぎる。
「そろそろ幕引きといこうじゃないか」
「……そうだな……俺の勝ちで引こうか!!」
そして俺は切り札を切る。
「なに……?」
「はぁぁぁ!!」
その後ろから脚部のカートリッジを撃発し肉薄する。咄嗟の出来事に対応が遅れるホームズに対して横から蹴りを食らわせることに成功した。
「ふむ……なかなかに鋭い一撃だね」
「なに……!?カートリッジの蹴りを受けてその場に立っている……!?」
確かに蹴りは命中したが、その衝撃をどこに受け流したのかその場に踏みとどまっていた。
「戦いの途中にフリーズするのは下策も下策だよ」
カウンターを決められる要領で裏拳をもらい地面に倒れ込む。
「君はなかなかにいい人材だね。この私が一撃を貰うとは思っていなかったよ」
「そりゃどうも……!」
俺は地面に倒れ込んだまま顔だけ見上げてホームズを睨む。
「それでは僕はこの辺で失礼するよ?」
そしてホームズは杖を振り上げて俺の頭を思いっきり殴った。一瞬にして意識が暗転し最後に見えたのはなぜかティナの不安そうな顔だった。