翌日、いつものように登校すると理子はやはり来ていないようだった。
「京介、ちょっといいか」
朝登校するとやけに神妙そうな顔をしたキンジに声をかけられた。
「いいぜ、屋上にでも行くか?」
屋上に着くと開口1番にアリアの話題が飛び出してきた。
「……昨日アリアのお母さんと会ってきた……京介、なんでアリアがあんなに必死なのか知ってたな?」
「ああ、お前が病室で喧嘩した後にな」
それに加えて理子の1件も知ってはいるがそれを口には出さない。
「そうか……京介、『武偵殺し』って本当にいると思うか?」
「その質問は……俺の中では既に答えは出ているし犯人も知ってる」
「なっ!?お前……それを知っていながらどうして解決しないんだ!」
激昴したキンジに胸ぐらを掴まれるが俺は振り払うこともなくただキンジを睨みつける。
「武偵殺しは、お前の過去と向き合う事件だ。武偵を辞めるお前には関係のない話だろ」
「……あぁそうだけどな……だけどよ、女の子が悲しんでいるのに手を差し伸べようとしないのか!」
その言葉を聞いて流石に頭に来た。俺はキンジの肘をつかみ外側から内側にひねり腕を振り払うとそのまま肘を決めた。
「その女の子と喧嘩した挙句、今になってそんな都合のいいことを言われたくねぇよ。お前と俺は違うんだよ」
決めた腕を解放してキンジを見下ろす。キンジは俺を憎しみのこもった目で見上げていた。
「……そう言えばアリアの出発は今日だったな」
「そうだな……」
「見送りぐらいは行ってやれよ」
それだけ言うと教室に戻った。
そして放課後、俺はアリアを見送るために一人で向かっていた。キンジは何やら用事があるらしくあとから来るとは言っていたが……
「京介、わざわざありがとね?」
「ああ、良いって事さ。それよりも……力になれなくてすまんな」
「ううん……京介はしっかりとやってくれる人なのはわかったわ?だから……個人的に何かあったら依頼するわね」
「その時はきっちり、報酬は取るからな」
「まったく……がめついんだから」
冗談交じりに答えると微笑むように笑みを浮かべたがどこかやはり寂しげだった。
「……まぁなんだ、向こうはアリアのホームグラウンドだしなんとかなるんじゃないか?」
「そうだけど……体のいい強制送還だからね……」
道理で暗いわけだ……確かにいい気はしないな。
「それに向こうには性格の悪い妹もいるし」
「アリアって妹がいたのか」
「ええ、私の御先祖様の能力をほとんど遺伝した妹がね」
「そう言えば……アリアの家は確か……」
そう言いかけた時に出発搭乗のアナウンスが流れた。
「そろそろ時間みたい……またね京介」
「おう、またどこかでな」
そしてアリアはゲートを潜って行ったのだった。
……それにしてもキンジは結局来なかったな
そんなことを思いながら歩いていると遅れたのか、ばたばたと慌ててゲートをくぐるキャビンアテンダントがやけに目に付いた。
と、その時電話が鳴った。発信者はキンジだ。
「もしもし?」
電話に出るとやけに雑音が多く、よく聞き取れない。
「……し……だ!……ぶ……い……!」
「音が遠くてよく分からんが、アリアはもう飛行機に乗ったぞ」
すると何故か電話が切れた。……何が言いたかったんだろうか……そう思いながら滑走路の方を見ると全力でダッシュする武偵校の制服を来た生徒が走っているのが見えた。
「……どこかで見覚えが……ってキンジじゃねぇか!?」
俺は全力でキンジを追いかけるために飛行機へ向かった。
どうやらキンジは飛行機に乗れたらしく、姿は見当たらないが、既に乗客の搭乗は終わっているらしく無残にも扉は閉められていた。
最終手段を使うしかないか……
よく映画とかで見るように、飛行機の車輪にしがみついてそこからよじ登って飛行機の内部へと侵入した。
たどり着いたのは貨物室のようでひとまず離陸するまで隠れることにした。その間に自分の装備とコンディションを確認する。……特に異常はない。
そして飛行機がゆっくりと離陸を始め、車輪が格納されたのを感じてゆっくりと貨物室から出ていく。どうやら、この飛行機はセレブ専用らしく全ての席が個室になっているようだった。
キャビンアテンダントさんに見つからないように通路を進んでいき、アリアの部屋を見つけたところで不意に気配を感じて手近にあったカーテンの中へと隠れた。
「……な、なんで……?」
そこに居たのは
急いで背を向けて乱れた呼吸を整える。
「……キンジが飛行機に乗ったのを見てな、追いかけてきたんだが……」
務めて冷静にそう説明するが、さっき見た光景がまだ頭にちらつく。
「……着替え終わったからこっちみていいよ……?」
ゆっくりと振り向くといつもの格好の理子がそこにいた。
「……ケー君、この戦い……手助けは無用だからね?」
「ああ、それはわかってる。だけどな……理子の近くで結末は見届けさせてもらう」
すると理子は何故か顔を赤くしてそっぽを向いた。
「……バカケー君……」
「なんか言ったか?」
「ううん、なんでもないよーじゃあ……そろそろ始めるね?下のバースペースで待ってて」
「ああ、理子に幸運がありますように」
そして理子はカーテンから出ていった。俺も示された場所へと向かう。しばらくして、上の方で何やらドンパチが起きたらしく、ざわざわとし始めた。そして妙に高揚した理子が待ち合わせのバースペースに現れた。
「くふふふ……ケー君!私勝てそうだよ!アリアってば雑魚だったの!」
「そうか、でもまだ決着はついてないんだろ?」
「でもでもーもう瀕死も同然だからね!」
テンションの高い理子と話をしているとキンジとアリアがやってきた。
「あ、キー君くん……
キンジの特殊能力を知っている理子がめざとく気づいたようだ。……この状況は少し厄介だな。
「まさか京介も関わっているとはね……!」
勘違いしたアリアが俺にガバメントを向けて威嚇してくる。
「勘違いしないでくれ、俺はお前らの敵じゃないし味方でもない。理子との密約があるだけだ」
そう言いながら俺は壁際へと後退して観戦するようにする。
「理子、君は素敵な女の子だ。それなのになぜアリアと敵対なんかするんだい?」
「決まってるでしょ?私の有用性を証明するためだよ!そのためには私がアリアに勝つ必要があるの!ただの4世と言われずに済むために!!」
「……理子……私もお母さんのために負けられないのよ!!」
そして理子とアリアキンジペアの戦いの火蓋が切って落とされた。