エメラルドの大魔法使いと失われた主人公と最後の物語 後編   作:とましの

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22話

 皆が出ていった中、ひとり残った凜は不安げな顔で三成を見つめる。

「もしかして本当は……」

「あなたの目に俺はどう見えていますか」

 好きなのではないかと、問いかけようとした凜に三成の言葉が向けられる。そのため凜は目を丸めながら三成を凝視した。

「役のことなら、何もないです。だから最初は三成さんのことを平民とか、街の人と同じだと思ってたから」

「やはり後付けされた役は見えないようですね。俺がこの世界に来て最初に選んだ役は、いばら姫の王子です」

「それ……じゃあ、やっぱりスキだって」

 三成の告白に凜は自然と表情を曇らせていった。自分には見えないが、それが事実なら三成は自分の思いを押し込めている事になる。

 そう考えた凜だが、三成は違うのだと笑った。

「あの人は俺にとって唯一の家族なんですよ。異世界の自動車事故の話なんて聞いても理解できないでしょうに。それでも泣いてくれて俺を弟にしてくれたんです。そんな人がいばら姫として呪われるなら、それを救いたいと思うでしょう」

「それで王子さまを選んだんですか?」

「当時の俺は六歳でしたからね。いばら姫の王子で誰よりも強くなんでもできる魔法使いでと、欲張ったことをしました」

「その手があったか!」

 自分でなんでもできる魔法使いを選んでいたらもっと何でもできたのに。そう悔やむ凜に三成は笑いながら必要ないだろうと言う。

「あなたは魔法の力よりも大切なものをもう得ているでしょう」

「確かにこの目はすっごい貴重だって真琴王子が言ってたでしょうけど……」

「そろそろ保護者のような西の魔女が来ますよ」

 三成は話を切り上げるためかそんな事を言い出す。そのため凜は確かに保護者っぽいけどとつぶやきながら机を離れた。

 すると扉が開かれ、三成の言った通り蒼馬が現れる。

「この周辺は魔法が及ばないようですね。おかげで姫を探すのに苦労しました」

「大切な本が未熟な魔法で傷ついては困りますからね」

 蒼馬が現れたとたんに愛想をかき消した三成は書類に手を伸ばした。そんな三成の態度と発言を前にして蒼馬は冷笑を浮かべる。

「未熟とは誰の事なのか聞いてもいいですか?」

「南の魔女がいなければ己を制御することもできない未熟な子ですよ」

「ああ……そういうことですか。あなたほどの者から見れば私ですら未熟に見えるのかと勘ぐってしまいました」

「あなたは魔女の中では強いと思いますよ」

 笑顔を崩さない蒼馬に目を向けず、三成は仕事を再開しながら返す。そんな三成の無礼な態度に蒼馬はため息を吐き出した。

「姫、ここにおられるということはあの失礼な大魔法使いに願いを告げるのでしょうか」

「慶次とお茶を飲んでただけですけど、そうですよね。三成さんの頼みはちゃんとやりとげたし、お願いを聞いてもらっていいですか?」

 蒼馬に問われて思い出したらしい凜は改めてソファから立ち上がった。再び机の前に立つと三成に笑顔を向ける。

 そんな凜に目を向けた三成は、その背後で蒼馬が寂しげに顔を背けるのを目撃した。しかし何を言うこともせず凜に視線を移す。

「俺にできることならかなえてあげますよ」

「よかった。じゃあ、浅葱をランプからだしてあげてほしいです」

 にこやかな顔で告げた凜の背後で蒼馬が驚いたように目を向ける。しかし蒼馬に背を向けている凜は彼の驚きに気づくことはなかった。

「それだけですか?」

「はい。あ、もしかして三成さんでもむつかしいですか?」

「いいえ、そんなことはありません」

 凜の問いかけに返した三成はおもむろに立ち上がると机を離れる。そのまま部屋を出ていく三成に、凜はおとなしく後をついて行くことにした。

 執務室として使っている部屋を離れた三成は城の中を移動して近衛連隊の区画に向かう。城の上層に位置するその区画には近衛副隊長とともに怜がいた。

 広い机に国境付近の地図を広げて話していたふたりは現れた三成に目を向ける。

「こんにちは、三成さん。あいにく隊長はここにいないんですけど、伝言なら承ります」

「それは大丈夫ですよ」

 嬉しそうに告げる長政に軽く返しながら三成は後ろにいる蒼馬へ振り向いた。

「ランプは持ってますか?」

「ええ、ここに」

 三成の問いかけに蒼馬はその手に小さなランプを現す。ブリキでできたランプを受け取った三成は怜へそのまま差し出した。

「どうぞ」

「……えっと、どうすればいいですか?」

 差し出されたランプを受け取った怜は戸惑いのまま問いかける。しかし手にしたランプの取っ手部分がポキリと折れてしまい怜は顔を青くさせた。

「すみません!」

「いっで!」

 怜の謝罪と重なるように離れたところで痛そうな声が飛ぶ。そのため涙目の怜とともに長政と凜もそちらに目を向けた。するとなぜかランプの悪魔が床に転がっている。

「浅葱、床で寝るなんて行儀が悪いですよ」

「はぁ!? いきなり外に放り出したくせになんなんすか!」

 蒼馬の冷静な注意に悪魔は怒りながらも立ち上がった。けれどその拍子にエメラルドの耳飾りが落ちて床に転がる。

「え、マジで? 封印解けてるじゃん。蒼馬さん何したんすか」

「……そういうことですか」

 驚く悪魔の質問を聞き流して、蒼馬はその目を三成に移した。

「東の魔女なら封印の魔法を破壊できるんですね」

「そういうことになりますが、凜さんはどうしますか? あなたの願いをかなえたのは俺ではありません。もうひとつ何か願いますか?」

 蒼馬の問いかけに同意した三成は新たに凜へ質問を向ける。問われた凜はそんな三成を見つめていたが、ややあって眉をひそめた。

「じゃあ……たとえばですけど、魔女がみんなに好かれたりって、できますか?」

「それに関して言えば、魔法使い信仰というものがあるので今更な話ですよ」

「シンコウ?」

「正しい心と勇気を持っていれば魔法使いが助けてくれる、と人々が信じているんです。なので少なくともこの国では魔女は慕われる存在ですよ。北の魔女がこの国でのびのびと器物破損を繰り返しても誰もとがめません」

 たまに難しい単語のまざる三成の話だが、だいたいの意味は凜でもわかる。むしろ三成は初対面の時と比べて優しくなったのか、噛み砕いた説明を付け足すようになっていた。そのたすんなり理解できた凜はうなずきながら長政を一瞥しつつ三成に目を戻した。

「長政くんがふつうにくらせてるのは、そういうことなんですね」

「そうなりますね。ですからもし西の魔女の平穏な生活をと望むのなら、相談相手は俺ではなく管轄の役人になります」

 屋敷を構えるにもそれなりの手順が必要なのでと、三成は真面目な顔で告げる。それにもこくこくとうなずいた凜は、ややあって首をかしげた。

「こまった。たのむことがないです」

「我が姫、何をおっしゃるんですか」

 すべての問題が解決してしまったと困り果てる凜の背後で蒼馬が片膝をついた。

「あなたの願いはご自分の世界へ帰られることでしょう。そのためにあの広大な荒れ地を越える長い旅をしてきたのではありませんか」

「そうですけど、でもおれはここがスキです。蒼馬さんがいるこの世界にいたいんです。慶次とお茶したいし、真琴王子みたいな心の広い男になりたいんです。それで隊長さんみたいに強くなって、こんどはおれが蒼馬さんをまもってあげたいです」

「姫……」

 片膝をついたまま涙ぐむ蒼馬に凜はにこやかな笑顔を見せた。

「おれは三成さんみたいになんでもできるわけじゃないけど、それでもがんばります。がんばってスキな人を守れる男になりますから、これからも一緒にいてください」

「えー、そこにオレは入ってないわけ? 姫様冷たーい」

 凜の告白という感動の一面に水を差すように浅葱が茶々を入れる。とたんに感涙していた蒼馬の厳しい眼差しが浅葱へ突き刺さった。

「姫の暖かな告白に水を差すとは良い度胸ですね」

 服の袖で目尻をぬぐった蒼馬は笑顔ではあるがその周囲に火花を走らせる。それを見た三成は眼鏡を押し上げながらため息を漏らした。

 とたんに蒼馬の周囲で走っていた火花がかき消え、浅葱も驚いた顔で怜を見る。

「ちょっと怜ちゃんなにしたの。オレの守りの魔法が消えたんですけど」

「え?」

「東の魔女の成長がここまで早いとは計算外でしたね」

 浅葱と蒼馬のふたりから言葉を向けられた怜は困惑した様子で視線をさ迷わせる。その隣で真相を知る長政はひとり苦笑いを浮かべた。

 

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