悪魔ならず炎の写身 作:ルベド
世界が焼ける音がする。
生まれたその時から
熱い、熱い、熱いのだ。
どうにもならぬ、この熱に己はただ呻くのみ。
それは体温ではないのだ。他者が己の肌に触れたところで感じるのは人並みの温もり。だが、それは
深奥より湧き出すこの熱は
何故、何故、
わからない。わからない。わからない。
故に
───────────
────ォォオオァァアアアッッッ!!!
雄叫びを上げながらそれらはやってくる。鉄や青銅で造られた鎧を身に纏い、その手には剣や斧または槍や盾が握られており、粗野な整えられていない髪を振りながらやってくる。それはただの時代遅れな戦士にあらず。
彼らは皆一様に巨大なのだ。家屋よりもデカく、街の外壁に手をかけ入ってくることすら出来るほどの巨躯の持ち主。そう、彼らは巨人なのだ。
この地、北欧の神話世界において巨人を見つけたら死を抱かなければならない。
その巨躯故に遠くからでも彼らを見つけることが出来るが同時に彼らはその巨躯故に遠方を見渡し逆にこちらを見つけることが出来るのだ。どれだけ離れていても彼らは巨躯故にその距離を軽々と詰めることが出来るのだから。
捕まれば最後、手慰みに老若男女問わず殺される。故にこの北欧において巨人とさ恐怖の象徴。
そんな巨人が集団で完全武装して今この街へと攻めてきた。
もはや誰しもが死を抱くだろう。逃げ場などあるものか、そこへ向かう前に追いつき殺され、建物は軒並み破壊される。阿鼻叫喚の地獄がここに訪れるのだ。
だがしかし、街から誰も逃げようとも、悲鳴をあげることもしない。むしろ平然と生活をしている…………何故?
そんなものは簡単だ、と一人の男は嗤った。
街の外壁、ちょうど攻めてくる巨人らの正面にあたる外壁の上に立つ二人の人影。その内の一人がせまる巨人らを見て語る。
「どれだけ数を集めたとしても脳の無いアレらでは意味は無い。いくら個で強かろうとも脳無しの群れでは意味は無い」
それは炎だった。凄烈な炎を思わせる赤い髪、顔の左側を覆う酷い火傷、しかしそれを差し引いてもなお強い魔性の相貌を持ち、黒と赤を基調とした制服のような装束を身に纏った十代後半と思われる男。
見る者全てに炎という印象を抱かける男は一切の恐怖なく、その瞳に宿る感情は狩りに近いもの。男にとって巨人は恐怖の対象ではなく獲物でしかないのだ。
故に男は外壁の淵に足をかけて、どこから取り出したのか木の枝の様なものを振りかぶり、
「焼けろ」
巨人らへと放った。
枝はプロ野球選手の投球など赤子のそれと言わんばかりの速度で巨人らへと飛んでゆき、その集団の一番槍の巨人が纏った鎧で守られていない首元に突き刺さった。
その程度では巨人は反応すらしない、だがそれは致命的だ。
────ギィアアァァァアアアッッッ!!??
瞬間、その巨人は火達磨と化した。
巨人突き刺さった枝から突如として吹き上がった膨大な炎は鎧を融解させ巨人の巨躯を一瞬で呑み込んでしまう。周囲の巨人らさその唐突なじょうきよき驚きそのまま燃え盛る炎に触れてしまい、次々と火達磨と化していく。
たった言っぽんの枝により街へと迫ってきた巨人らはあっという間にただのもの言わぬ炭へとその姿を変えたのだ。
最後の一体を炭へと変えたところで炎は掻き消え、後にはいくつもの巨大な炭と焼けた地面が残った。そんな光景を作り出した原因である男は興味を失せたかのように炭など見ず、共に外壁の上にいたもう一人の人物へと視線を向ける。
「お見事です、ルベド様」
そこ人物は女性だった。腰ほどまで伸ばした翡翠の髪にどこか希薄そうな表情の鎧を身にまとった少女。
男と同じほどの年齢であろう容姿の少女は男に淡白な労いの言葉をかけて一礼する。そんな少女に男は同じく淡白な声音で告げる。
「これで仕事は終わりだ、帰還する」
「了解しました」
帰還の催促に少女は返事と共に魔術式のようなものを起動させ次の瞬間には男と少女はその場から姿を消していた。
場所は移り変わりら男と少女は荘厳と言うべき巨大な城の内部にいた。
美しく整った内装の廊下を威風堂々と進む男とその後ろを従者のように付き従う少女。そんな二人に時折すれ違う者は男女問わず羨望と嫉妬の視線を向ける。
それは何故か?理由としては男がエインフェリアで美しいヴァルキリーである少女を付き従えているということだろう。エインフェリアとその従者であるヴァルキリーが恋仲になる事はそう珍しい話ではないため。
エインフェリアに憧れなろうとする者や夢半ばでヴァルキリーを諦めた者からすれば二人はまさしく羨望と嫉妬の視線を向ける存在であるのは間違いなかった。
だが二人はそんなものなど意に介さず廊下をより奥へと進んでいく。そして男は一つの扉の前でようやく足を止めた。
それは美しい彫刻の施された扉。貴人がいるのであろう部屋の扉を男は何の遠慮もなくノックすらせずに開け、中にいるであろう部屋の住人に声をかける。
「ロキ、いるな」
「おー、おかえりぃ」
返ってくるのは何やらおかしげな声音の女の声。住人がいるのが分かり部屋へと入っていき男はその表情を固めた。
そこに広がっているのは床に何本も転がっている空の酒瓶と酔ってベロンベロンになり机にぐでっとした一人の女。
その光景に後から入ってきた少女は顔を背け、男は固まった表情のまま女に冷淡な視線を向ける。
「何故酒を飲んでいる。せめて
「えぇ?そんなこと言うたっけなぁ?まあ、寂しかったからでええや~ん」
駄目だ、この駄神早くどうにかしなきゃ。
男は返ってきた女の言葉に頭を抑え、転がる酒瓶を無言で片付けていく。その際、自分が散らかしたものを片付けてくれる男を尻目に女は少女へと絡み始める。
「やめて、ください……」
「ええやんええやん、ほれほれ、ここか?ここやろぉ?」
セクハラ行為をする女にもはや塵芥でも見るかのような冷たい目を向け、女を引き剥がそうとする少女。しかし、少女がヴァルキリーである以上、自分らの上司とも言える神々に突き放すという事はなかなか出来ず困り果てる。
そんな少女の姿に男はため息をつき
「何をしてる駄神」
「アビャァッ!?」
女の頭頂部に振り下ろされる拳。
堪らず女は頭を抑えて蹲り、その内に少女は男の後ろへと逃げ込む。
「どうせ酔いなどとうに覚めているだろう」
「…………ありゃバレてた?」
「当たり前だ」
ならしゃあないな。と男の言葉に女は立ち上がり椅子へと腰掛ける。
雰囲気が変わった。
まるで休日のオッサンのようにベロンベロンに酔っていたセクハラオッサン系の女から男装の麗人と言うべき佇まいの男と同じ赤髪をポニーテールのようにまとめた細めの狡猾な女神ロキへとほんの一瞬で変わってみせた。
そんな姿を見て、男と少女はいつもこうならいいのに、と思うものの口に出さずにする。
「そんじゃ、改めてお帰りやな。ルベドにリンデ」
「ああ」「はい」
十日間の仕事お疲れさん。ずっと一人で寂しかったんやぁ!と宣うロキに二人は冷たい視線を向け続ける。それは流石にそろそろ堪えたのかロキはマトモな口調にして話を続ける。
「そんで帰ってきて早々なんやけども、二人とも」
────学生生活に興味とかあらへん?
男、ルベドはこの時この言葉に言い知れぬ不安を感じた、と後々に知己の者に語ったらしい。
ルベド・ツヴァイ
見た目 神々の悪戯ロキにザミエルのような火傷持ち
スルト・セカンドのif作品です