「おー、スクアーロ隊長は随分とご機嫌斜めのようだ。たった数人しかいない敵に対して匣兵器を使うなんて」
丸いレンズの向こう側を覗く、闇のような漆黒の瞳。
細長い筒のような機械を手で持ち、古城より少し遠くにいるスクアーロの姿を見ているのは、城からの攻撃命令を出された、|蔵実考魔《くらみ こうま)。
ゴーグルかけたツバ付きの帽子をかぶり、両腿のホルスターに収められた、それぞれ黒と白の色合いに同じような銀色のラインの入った2丁拳銃。そして肩に背負った、1.5メートルはあろうか長めのバッグ。
「あら、どうしたの考ちゃん。スクアーロがどうしたって?」
となりにいたルッスーリアは、考魔の口からでたスクアーロの名前に興味津々である。
「さっきここから飛んで言った部下が今日のボスの料理当番だから、どうせまたボスがわがまま言って隊長ブチギレたんじゃないかと」
冷静に分析してボスのわがまま加減とスクアーロの怒りを語るが、まさにどんぴしゃりの答えだったことはこの場の人間にはわからないのであった。
「考魔!貴様、ボスを愚弄するか」
「だったらレヴィが料理当番したら。どうせぶっ飛ばされるのがオチだけど」
ボス絶対!のレヴィは、ボスの問題点を上げる考魔に対して睨みつける。
が、この程度の睨みはヴァリアーの全員(部下意外)には慣れっこなので、特に萎縮することなく、むしろその後のなりそうな予想をする。
「貴様!」
ボスのことになると割と沸点の低いレヴィが怒りの声を上げるか、それもスルーする。
ヴァリアーにとってはこの程度普通である。
「面倒だから眠らせていいか?」
「考ちゃん、さすがにそれはまずいわよ」
だんだんと面倒になってホルスターの銃に手を伸ばす考魔をルッスーリアがなだめる。
「まあいいか。じゃあ俺は上から迎撃するから、あとはよろしく」
「は~い、任されたわ~」
***
ヴァリアーの占拠した古城の、塔の一つの屋上部分。高さが割とあり、そこから眺めると当たり一面林海となってよく見渡せる。
もっとも、明るい時ならいざ知らず、今はどっぷりと太陽も静まる夜。通常よりもさらに視界の悪い状態だが、あまりそこは関係ないようだ。
一人座る考魔は、先程から背負っていた1メートルを有に超える程に長く大きめのバッグを降ろし、その中を開くと、さらに四角い黒塗りのケースが、中から出てきた。
ケースを石造りの床に置き、その蓋に手をかけて開くと、中に丁寧にしまわれていた物が顕になる。
銃身、
ガシャリ、ガシャン!
機械音を出しながら、次々と部品を組み立てていくと、その全容が明らかになる。
全身が夜の闇に溶け込むかのような黒塗りの色合いに、所々でアクセントに銀色のラインが走っている。このカラーリングは考魔の持つ銃の片方と同じ。
全長がおよそ1.5メートルはあろうかという、通常より長めの狙撃銃だった。
ところどころ、通常の狙撃銃では見られない部品が多々ついているが、その銃身と見た目は、長距離の標的を狙撃することを目的として作られた銃。
ストックを脇に挟むようにし、片膝立てて構える。
スコープを覗いた先には暗い森が広がっているが、所々には点々とした赤い目印が、丸いレンズの向こうに映っていた。
「ミルフィオーレの連中は、自分たちが圧倒的に有利と考えてるから、Fシューズで炎を出しながら近寄ってくれる。見つけやすい」
死ぬ気の炎を探知する、炎熱感知式の照準器。
ミルフィオーレファミリーの兵隊は、Fシューズに死ぬ気の炎を灯しながら噴射して、その機動力を活かした飛行移動を行う。
機動力も高く、空を自在に飛ぶ為戦闘にはもってこいだが、それだけで勝てるほど甘くない。とりわけ相手の位置がまだ把握しきれていない森の中にいるとき、敵が死ぬ気の炎を探知する術を持っているのなら、そしてその敵が、遠距離からの攻撃を可能にする人物であれば、ミルフィオーレの兵隊は圧倒的に不利。
自分たちがすでに、狙いを定めるスコープのど真ん中に位置するとも知らずに、森の中を突き進む。
「じゃ、手始めに」
カシャリ。
ケースの中に入っている、いくつもある弾倉の一つをはめ込み、狙撃銃を再び構え直す。スコープ越しに接近してくる敵の姿を確認し、その指を引き金にかけた。
コオォ!
そして中指にはめられた、盾のようなデザインをした、ヴァリアーリング。
ボンゴレⅡ代目の残した至宝『虹の欠片』を加工して作られた、文句なしの精製度A級のリング。ヴァリアーのボスと幹部にそれぞれ与えられたリングであり、各属性分のリングが存在する。
引き金にかけた指にはまるヴァリアーリングから、紫色の光が立ち込める。
それと同時に、狙撃銃の各所にあしらわれたラインが、
「
タァン――――
ほぼ無音の狙撃音と同時に、スコープ越しの視界が、炎の爆発によって明るく染まった。
***
「ベルセンパーイ。なんか割と近くで爆発が起こってるんですけどー」
森の木々の枝から枝へと飛び移り、南の崖の切れ目地点に近づいてきているベルとフランの二人組だが、突如聞こえた爆発音に反応して移動したままフランが、自分の後ろから走って殺気をぶつけてくるベルに声を投げかける。
「多分考魔の野郎の狙撃だけど、俺も巻き込まないだろうな」
「センパーイ、ミーもいますよー。〝俺ら〟ですよー」
「るせ、クソカエル。とっとと死ねよ」
ヒュヒュ!
ざくりざくりとフランの背中にベルのナイフが突き刺さるが、まるで出血などなく、ただ突き刺さったままで問題ないように走り続ける。やられた人間のリアクションではないため、投げた張本人のベルは若干不満そうである。
しばし枝の上を走るが、しばらくしたら崖の切れ目が見えたため、二人は一旦枝の上でストップした。一先ずここで敵を待ち伏せるようである。
「ベルセンパーイ。背中に刺さったこの趣味の悪いナイフ抜いていいですかー?い
かにもオリジナルだぜって主張してる形状が恥ずかしいんで」
枝の上にしゃがんだまま後ろにいるベルに、自分の背中に突き刺さった10本以上のナイフを見せるフラン。相変わらず怪我などなく、本当にただ刺さっているだけという感じ。
「・・・・・・・・・・綺麗に磨いて揃えて返せよ」
「それは嫌ですー。こんなものこんなもの」
ポキンポキンという軽い音を鳴らしながら、背中のナイフを引き抜いて両手で二つに折り曲げて木の上から地面に落とす。その光景を見たベルに怒りマークが見えたのは、当然といえば当然である。
「てんめっ」
故に、ベルは右手のヴァリアーリングから真っ赤に燃える、嵐の炎を放出した。
その炎を見たフランの反応はといえば、今度は怒りが収まるように折らずにそのまま木の下に捨てる。
その光景にさらに怒りのボルテージを上げたベルは、取り出した匣に嵐の炎を注入した。
少し大きめの尻尾に長い体躯と小さな手足と耳。
イタチ科の生物である動物のミンク。まるで持ち主のように牙を出してしししと笑い、目元を隠すように頭の毛が少し伸びている。面構えも本当にベルそっくりである。
耳と尻尾に嵐の炎が纏われており、匣から飛び出したミンクは後ろからベルの肩にかかるように長い体をベルの首に巻きつけた。
「それ以上捨ててみ。おまえ燃やす」
「じょーだんじょーだんですよ・・・あっ」
本格的に匣兵器を出して怒りを表現するベルに、今度はしっかりと、降参と言わんばかりに掌を広げて持ち上げて横に振る。
が、その手にはさっきまでベルのナイフを握っていたため、手を広げて振ったので必然的にナイフは折れはしなかったが、そのまま木の下へと落下したのであった。
「カチーン。死ねよ」
その声と同時に、嵐の炎を纏ったミンクがフランめがけて飛び出す。
狙われたフランはしっしと手を振って追い返そうとしたが、問答無用で突っ込んできた為、当たる前にその場で大きなカエルの頭を抱えてしゃがむことで、その上をミンクが通過していった。
「がぁ!」
「ぐぁ!」
が、ミンクが飛んで行った先で聞こえた呻き声。
その方向を見てみると、木の影に隠れて様子を伺っていた、全身白装束のミルフィオーレの兵隊2人が、ミンクの体当たりを受けて、嵐の炎が燃え移っていた所だった。
「おお、ベルセンパイ。敵がいるのに気がついてたんですねー。ごくごくまれにですが、本当に天才かもって思ったり思わなかったり」
相変わらず不躾な後輩のフランの物言いだが、〝かも〟がついていながら自分を天才と呼ぶのにベルは笑って機嫌ををよくする。
「ししし、天才に決まってんじゃん。だって俺―――――――王子だもん」
その言葉と同時に、一斉にミルフィオーレの兵隊、およそ30名程が飛び出して襲い掛かってきた。
そのままFシューズで飛行しながらこちらに向かってきたが、ベルの肩からミンクが飛び出した。
特攻を仕掛けたミンクは、その小さな牙の揃った口を開いて威嚇しなら進み、森の木に自分の体を一瞬摺り寄せるようにしながら通り過ぎ、そのたびにそこから嵐属性の炎を発火させる。
そのため、敵の攻撃をかいくぐり、敵を囲うように森の炎を発火させ、嵐の炎が木の全身を燃やし、それが燃え移る。
ミルフィオーレの兵隊は嵐の炎の危険性を理解しているため、滞空したまま触れないように周りに指示をだしたが、時すでに遅し。炎の中から飛び出したミンクが、周りが炎のため止まっている敵の体に体毛をこすりつけ、さらに発火させることで燃やし、ついには森の一角と敵を、真っ赤な嵐の炎でもって燃やし尽くした。
結構な勢いで森の一部を燃やす炎。
もはや山火事にならないか心配になるほどに燃える炎を見て、環境破壊とか大丈夫かなと考えるフランであった。
東西南北なら西に行こう!