まだ1日も経ってないです。
『忘却の彼方の怪物』
穏やかな雲が浮き、青い空が広がる本当に平和な空。
何が起こるというわけでもなく、静かなその場所は、並盛中学。
そして並中の校門の前に、3つの人影が立っていた。
一人は少年。柔らかそうな白い髪と、楽しげに笑う表情。
白いパーカーとブラックのジーンズ。首からチェーンに通した真っ白な石と装飾の施されたリングが、鎖に巻き付かれ、太陽の光を浴びてきらりと光っていた。
もう一人も少年。端正な顔立ちと少し長めの黒髪に、無表情だが少し眠そうにしている。水色のシャツにダークブルーの上着というラフな格好。右手の中指には巻きつけるような青い竜を模した指輪と、左手の中指には同じような形で少し形状の違う緑色の竜の指輪が、両方とも鎖に巻きつけられて嵌められていた。
3人目は少女。艶やかな黒髪を少し短めのポニーテールにしており、ふわりと吹く涼しげな風にサラサラと揺れている。薄い桜色の長袖上着と、赤いキュロットに、膝下まである茶色のブーツ。これから来ることが楽しみなのか、少し鼻歌を歌いながら微笑んでいた。
もちろんこの場にいるのは、光努、リル、コルの三人。
全員戦闘服、というわけでなく普通に私服。まあ結構私服で戦闘している人員の方が多いのでどちらともとれるのだが。空を眺めながら校門の上に座る光努と、珍しく特に武器らしい武器を持っていず、校門に背中を預けるリルとコルの二人。
いや、校門に明らかに刀か剣と思われる細長い包みが立てかけられていたから無装備というわけではないらしい。
光努はフィオーレリングを首から下げているが、リルは今日は指に嵐と雷のDリングを嵌めていなかった。
特に物騒なこともなく、穏やかな日差しのしたでじっとしていた三人だが、驚異的な聴覚力を持ち、かすかな音の響きを捉えた三人の耳は、全員で同じ方向を向いた。
「あ、見えた!」
リルの言葉に少しすると、ドッドッドッドと腹のそこに響くような低い音が鳴り響き、向こうから走ってきたのは、一台のバイクに乗った人間。
ヘルメットで顔が見えないが、金色の長い髪を風になびかせ、光努達の前まで来たバイクは止まり、その背の人物は地面に降りてヘルメットを脱いだ。
中にしまわれていた金色の髪がこぼれ落ち、少し鋭い瞳を三人に向けると、ふっと笑った。
「全員無事そうだな、光努、リル、コル」
「久しぶり~、ルイ」
「といってもメローネ基地潜入前に通信はしたけどね」
懐かしむリルとコルの言葉。
イリスの戦闘部隊『シャガ』として活動してあちこちを転々としているので、当然ずっと同じ場所にいるというわけではないリルとコル。が、昔の『アヤメ』と違って携帯端末は持ち合わせているので、いざという時は通信が可能になったのである。過去の例から学ぶことができるのは人間の美徳である。
懐かしむリルとコルの後ろの光努だが、校門の上から地面に降り立ち、相変わらず楽しそうな笑みを浮かべながら、その表情と裏腹に―――――――――――――両手の拳をバキバキと鳴らしていた。
「よう、ルイ。さっそくだがお前に聞きたいことがあるんだが」
「うん、私も聞きたいことあるの♡」
「僕も、右に同じ」
ガチャリ、ガチャリと、細長い包をそれぞれ一本ずつ手に持ち中から取り出したのは、黒塗りの鞘に収められた日本刀と、金色の装飾の施された両刃の西洋剣。
リルは洋剣、コルは刀を手に持ち、それぞれ抜き放つ。ただ抜くにしても一切の淀みなく、円を描くかのような華麗な抜きは、彼らの剣士としての実力の高さがにじみ出ている。
通常のマフィアなら泣いて土下座をするほどに実力の高い三人だが、相対するルイはといえば、こめかみあたりをポリポリと書いて若干面倒くさそうな視線したあと、バイクに乗ってエンジンを掛け、
「じゃ、先に言ってるから」
フルスロットルで光努達の前から走り去って行ったのだった。
三人ともバイクに追いつくくらいはわけないが、異様に運転技術が神業すぎるルイを途中で捕まえることは叶わず、再開したのは目的地についてからだった。
「「「ルイィィ!!」」」
***
白蘭との邂逅を終え、メローネ基地が転送されてボンゴレ匣を手に収めた後、ツナ達は地上へと戻った。わずか1日にも満たない時間だが、メローネ基地との戦いは激しく皆疲弊させているため、詳しい戦いの話は後日としてツナ達は基地へと戻ったのである。
光努達はそのまま研究室に残り、早急にルイに説明を求めるため、直接呼び出したのが先ほど。ラフな私服に着替えた光努達の前に現れた、バイクでやってきたルイであった。そしてその目的地となっている場所では、二人の人間が忙しそうに作業に勤しんでいた。
カチャカチャカチャ。
キボードの音が鳴り響く音がする。
メローネ基地跡地、広大な空間の中にぽつんと地に埋まるように存在する入江正一の研究室がそこにはあった。その広々とした場所で機械をいじっているのは、この部屋の主である入江正一とメカニックのスパナ。
この二人は、メローネ基地が超炎リング転送システムによってどこかへと飛ばされてしまい、むき出しの白くて丸い装置を隠すためにいろいろと探っている途中だった。
その他にも機械を正常に作動させるためにもすることがたくさん、白蘭との決戦に備えて、しなくてはならないことも多々ある。
ツナ達はそれぞれ修行して戦闘能力向上と、匣兵器を完璧に使いこなせるようにならなくてはならない。入江とスパナのふたりは、メローネ基地と切り離された装置が壊れないようにもしなくてはならない。
この装置の中には分子状に分解された10年後のツナ達が入っているため、もしも誤作動で全員がこの時代、もしくは10年前の時代に行ってしまえば大変なことになる。10年前に行って何か余計なことをすれば、未来であるこの時代が狂ってしまうかもしれないし、10年後のこの世界に現れ、10年前のツナ達ともしも出逢えば、会うはずのない人物との邂逅は、時空を壊し世界を消してしまう可能性がある。
そんなことにさせない為にも、入江とスパナの二人は一先ず装置をどうにかする必要があるのであった。
取り残された壁に付けられた通路から、靴音がしたため手を動かしながらも目線と意識をそちらへと向けたが、やってきた人物を見て入江は喜ぶように声を上げて手を止めた。
「ルイ!結構早かったね」
「予想外の事態に急ぐ必要があってな」
後ろで一括りにした長い金色の髪を揺らしながら、白衣のポケットに手を入れ、少
し面倒そうな表情をしていたが、入江を見ると少し笑ったのだった。
「ルイって、イリスの?・・・・初めて見た」
入江と一緒に作業中だったスパナは、ルイの姿を見て驚いていた。
技術的な分野に置いて、ルイはかなりの有名人であるため、純粋に技術者のスパナはルイの登場に驚いていた。10年前といえば、入江だってまだ中学生。技術者の一旦さえもなかった程であり、その頃からルイはマフィア間で有名だったため、今の時代でもさらに名が知れている。もっとも、それは純粋な技術者の間だけで、ほぼ壊滅のイリスファミリーということもあってマフィアの間の評判は良いものだけでなかった。
「そういえばルイ。光努君達は?リルやコルも一緒に来るって聞いたけど」
「・・・・・・・そんなことより例の話進めようか」
「ルイ、今ごまかしたよね」
入江の純粋な疑問に、目線をそらすルイ。
が、ルイの後ろから手がのび、その肩をぽんと叩いた。
「まあごまかしたくなるのもわかるが、正一の話は聞かないとなぁ、ルイ」
「そうそう。せっかくここまで来たのにね」
「潔く諦めるんだな」
ルイの肩に手を載せる光努と、後ろにいるリルとコルの二人。
さすがイリスのボスと『シャガ』の二人。ルイの予想よりも速く追いついてきた。
「三人とも随分と早かったな。正一、一先ず休憩してから話をしようか」
そう言うルイと正一の会話の横で、せっせとお茶の準備をしている光努達。畳を数畳用意して真ん中にちゃぶ台を置いておせんべい等のお菓子を置いている。
(このセットどこから出したんだろ。というかなぜ和風?)
スパナはその光景に若干呆れていたが、和風のテイストが好きで親日家なスパナとしては、結構このセットに喜んでいたので特に口出しはしなかったのであった。
一先ず全員手を止め、ちゃぶ台を囲むようにして座る光努達。湯呑のお茶を飲んで一息つき、早速というふうに光努が切り出した。
「さて、まずはじめに・・・・・・ルイ!貴様だ!」
「ねぇ光努。会議中はそのキャラで通すの?」
「いや、ただやってみたかっただけ。それでは正一とルイが計画した内容を包み隠さずに話してもらおうか」
「といってもな。10年前のお前とツナ達を呼んでメローネ基地を壊滅させてその勢いで白蘭倒そうぜ、ってことだしな」
「すっごい簡単に説明しちゃったけど、そんなのでいいの?」
「リル、多分ルイは説明するのが面倒なだけだよ」
「ざっくりでも説明するだけでもこの10年で成長したんだな。俺は少し感動した」
「光努君、それは少しルイに失礼だよね・・・・」
「うちもそう思う」
だが光努の知っている10年前のルイと、リルとコルの知るこれまでのルイの記憶を総合して、「やっぱりマシになったよね~」と思うのはイリスの者にとっては当然と言えば当然、日欧茶飯事である。
「けどさ、白蘭倒すためにツナ達を成長させたのはわかるが、俺は必要だったのか?」
光努も戦いはしたが、決して成長したと言えない。最初から身体能力も怪物級の為、成長したとわかるほどにすぐに成長するわけでもない。成長したといえば、リングの炎と匣を使えるようになった、というくらいだろう。が、使えるようになっただけで、それを自らの戦いに組み込むということは特にしていない。
「いや、光努君。白蘭サンを倒すには、君の力も必要なんだよ」
そう言う入江の瞳は、真剣そのものだった。
その瞳の光に、光努は楽しげに笑みを浮かべた。
「じゃ、白蘭の指定した〝チョイス〟について教えてもらおうか、正一」
まだまだ年端もいかない中学生にしか見えないが、あぐらをかき座り、楽しげに笑うその姿。一種の威圧めいた感覚を感じるその姿は、一ファミリーの長と呼ぶにふさわしかった。
「うん、わかった」
『俺も聞くぞ』
ちゃぶ台の上に声と共に現れたのは、黒いスーツと帽子のマフィアスタイルのリボーン。本人でなく、ツナが入江との通信ように置いていったヘッドホンから照射されるホログラムである。
結構なリアル再現に、ボンゴレの技術力の高さもなかなかのものである。
「よぅリボーン。ツナ達はどうしてる?」
『もうヘトヘトみてーでし、今日は眠ってるかもな』
「そりゃほんのの数時間前に戦ってたんだし、若い子だからしょうがないよねぇ~」
「まだ中学生だしな」
微笑ましい者を見るような表情のリルとコルの二人だが、二人もいうほど年をとっていないので光努や入江は微妙な表情をしていた。
『そう言うお前たちや光努は随分と元気そうだな』
「「「だって苦戦する程戦ってないし」」」
「あはは、メローネ基地の元指揮官としてはひやひやだったんだけどね・・・・・」
そう言って苦笑いする入江。確かに指揮官が基地を蹂躙される様を見るのは悪夢以外の何者でもないだろう。メローネ基地という匣兵器があったとは言え、いろいろと問題があったのも事実である。
「そういえば三人はいつからメローネ基地に来たんだい?綱吉君たちとは完全に別行動だったろ?」
ツナ達が攻めてきたが、光努達は完全にツナ達とは別行動で別の入口から侵入してきた。どうやらツナ達と示し合わせた、というわけでなく、ツナ達は光努達が来るということは知らなかったらしい。
実を言うと、光努がルイの元へと行きいろいろとしている間に、気づいたらツナ達襲撃されてツナ達襲撃しに行った、やっべぇ出遅れた、という感じである。
ルイがいたのに、というのだが、ルイは自分の興味対象があると周りが軽く見えなくなる為、割りと出遅れる形で光努達は出発したのである。
そんなルイを入江にしては珍しくジト目で見るが、当のルイ本人は済ました顔でお茶をすすっていた。
「ま、よくあることだ」
「ルイ!それで何か問題があったらどうするのさ!」
「大丈夫だ。光努は強いし、それに籠もい・・・・・ん?」
「ん?」
「「あ」」
「ああぁ!!」
ルイの言葉に、光努の声、リルとコルの気づいたような声と、それに続くように入江の叫び声。
スパナとリボーンは疑問符を浮かべていいるが、事情を知るルイ達イリス組と基地内を見ていた入江は、本来ここにいるべき人物がいないことに今の今まですっかり忘れていた。
そして入江は、渾身の叫び声を上げた。
「しまったぁ!獄燈籠をメローネ基地に置いてきたぁ!!」
***
最高級スイートホテルのような一室。
華美ではないが、落ち着いた調度品の品々は高価な物。備え付けられたソファや机も細かい細工が施されており、ひと目でこの部屋に合う程に良い物である。
壁の一部は全面ガラス張りに、外の街並みがよく見える。広々とした町並みの屋根が見えることから、この場所がかなりの高所に設置されていることがわかる。
そんな部屋の中央程に設置されたソファに座り、机に足を乗せて少々行儀が悪いが、楽に座っているのは一人の青年。
跳ねるような白髪と、左目の下の三つ爪のマーク飄々として楽しげに笑い、左手に持った袋の中から白いマシュマロを取り出し、口の中に放り込んで甘さを楽しむ。
ミルフィオーレホワイトスペルの上着と、右手の中指に嵌められた、雫の形の石に、広げる天使の羽のような意匠の施されたリング、大空のマーレリング。
ミルフィオーレを統べるボス、白蘭は楽しげに笑い、目の前の空間に投影されたモニターを見ていた。
モニターに映し出されていたのは、どこかの海に浮かぶ直径5キロ程の人工島。
規則的な丸い形をしており、平で何もない、ミルフィオーレがその科学力を使い作り出したただの海に浮かぶコンクリートの塊だが、今のモニターに映し出されいる島には平とは程遠い、様々な物が山と積まれていた。
瓦礫の山、というには少々規模が大きすぎる。直径で2キロに渡る巨大なコンクリートや様々な鉱物が、高さ数百メートルと積まれ、まるで夢の島のよう。よくよくと見ると、巨大な立方体のコンクリートブロックが所狭しと落ちている。どこかで見たような大きさと形。
「こうして見ると、メローネ基地って結構大きかったんだ」
白蘭の言葉通り、モニターに映るのは、崩れたメローネ基地。
超炎リング転送装置によって飛ばされたメローネ基地は、落としても特に問題ないところに落とされ、今は巨大な瓦礫の山となっている。
飛ばされた瞬間、入江やツナ達意外にも多くの部下が中にいたが、今はどうなっているのかわからない。白蘭にとっては、部下が減ろうとしても、そこまで大した問題に考えなかった。相変わらず楽しげに笑ってお菓子を食べる姿は、まるで冷徹な素顔を笑いの仮面で隠す悪魔のように見える。いや、本当に楽しそうに笑っているのかもしれない。だが今の白蘭は、面白いテレビでも見る子供のように笑っていた。
視線の先にあるモニターに写っているメローネ基地の残骸から、突如火柱が上がった。
真っ赤に燃える火柱。ただの炎でなく、その特性により全てを分解し、破壊する嵐の炎。
火柱が立ち上って消えると、その場所から大穴があいており、そこから人影らしく姿が二つ出てきた。白蘭はリモコンを操作して、その人影が映るように拡大すると、そこに映る人物が目に見えてきた。
頭を覆うバンダナと、その下の白髪。シワの刻まれた老齢の姿とは反対に、その動きに一切の好きもなく、身体能力は化け物じみていた。軍服のよう服装に、竜を模した赤いDリングを嵌めた右手にはナイフが握られ、刃には嵐の死ぬ気の炎を纏っている。
そしてその後ろでは、赤黒い色の羽を広げる空の王者、嵐の炎を纏う大鷲が、眼前の敵をその鋭い眼光で睨んでいた。
大穴を間に、彼らの眼前に立つ人物。
赤みがかった明るい髪色に、和服のような服を着た男。腰に巻かれた帯には、短めの黒塗りの鞘とその鞘に収められていたであろう短めの刀、所詮小太刀と言われる刀を握っていた。腰の鞘と反対側の帯には、楽しげに笑う狐の面。その表情口角を上げ、その細い目と相まって楽しげに笑っているようだった。
その足元には、威嚇するように四肢を大地について息を放ち空の鷲を睨む目と、とがったような耳に、美しい金色の毛並み。その姿はまごうことな気一匹の狐だったが、異様なことに本来1本しかない尾の数は、あろうことか9本あり、相対する鷲と同じ嵐の炎を纏っていた。
「ふぅん。あれが、イリスの誇る第一戦闘部隊『アヤメ』の
楽しげに笑っているが、白蘭のその視線は鋭く、眼前の二人と戦いを分析するように見ていたのだった。
光努達もすっかり忘れてたよね☆