少し古ぼけた手帳を手に持って中を眺め、眼前のこちらも古ぼけている小さな寺を見据える。よくもまぁ、これだけぼろぼろなのに潰れたりしないのが不思議なほど。
光努、リル、コルの三人は寺の中へと続く扉の前へと立った。
「この扉の向こうにあるの?」
「らしいな。情報不足でこの先の情報はないが、まあなんとかなるだろ」
そう言って光努は扉に手をかけて開こうとしたが、手をかけたまま止まった。
その様子に疑問符を浮かべたコルは質問する。
「?どうした、光努」
「いや・・・・開かない」
観音開きの扉をとってを両手で持ち、開こうとしたがその扉はビクともせず、開かなかった。光努が少し力を込めてみるが、それでもビクともしない。
(鍵がかかっている・・・・・ってわけじゃなそうだな。全く動かない)
扉に鍵が掛かっている状態であれば、多少なりとも隙間があるため、ガタガタと揺れたりさせることくらいはできる。だが、光努が取っ手を動かしても、物音一つせず、まるで完全に寺と接着されているかのようであり、すべてが一体化しているかのようでもあった。
「・・・光努、ちょっとどいて」
そう言うコルは、バッグの中から取り出した、一本の日本刀。
黒塗りの鞘に収められた、程よい長さの刃。抜き放った峰は黒々とし、刃は鋭い銀色の光を放っていた。光努とリルは扉から少し離れるように移動し、コルはゆっくりと扉の前に立ち、日本刀を握ったまま、短く息を吐いた。
「―――――ふっ!」
ギャアイイイィン!!
目にも止まらぬ速さで腕を振い、刀の切っ先を、扉と扉の間の隙間に突き刺すようにして刺突を放つ。
だが、少し触れたと思ったら、甲高い音を出しながら火花を放出し、はじかれるようにして刀を扉から離し、少し離れるようにして刀を鞘に収めた。
「堅い。というより、はじかれた感じ」
「コルの一撃で壊れないなんて、この扉って」
コルの剣撃なら鉄板だろうと貫く。にもかかわらず、まったくびくともしない扉。
リルの言葉に、光努は当初この世界にきたときのことを思い出した。
脳裏に浮かぶのは、どこかの深い巨木の生い茂る森の中。
全体が石作りの不思議な洞窟。100年以上も前から存在するにもかかわらず、とても綺麗に仕上がった、明らかに不自然な場所。
光努の蹴りでも石は砕けることを知らず、その場にとどまる。通常有り会えない現象は、光努が手を触れた時だけ、独りでに開いたのだった。
この場所も同じような場所ではないのかと思ったのだが、先程光努は手を扉に触れ
たが、開く様子はなかった。
(ハクリの仕業か?なんにしても、あそこで必要だったのは・・・・・・・・炎!)
首から下げたフィオーレリングを外し、チェーンを抜き取る。そして右手にリングを嵌めて、少し息をつく。
次第に、フィオーレリングの中央部にはめ込まれた純白の石が輝きだし、石と同じ純白の炎がリングから吹き出した。
純白の炎がリングに灯り、白い光があたりを照らす。その炎を瞳に映し、リルとコルは魅入っていた。
「これが、ルイの言っていた光努の炎」
「・・・・・綺麗」
白い炎を放出したまま、扉に手を添えると、白い炎が扉全体を包み込んだ。
焼けているわけではない。水が染み込むがごとく、白い光が包み、その扉は少し古びた音ともに、独りでに開いた。
そして伸びているのは、奥へ奥へと続く廊下が見えるのだった。
「よし、開いた」
「便利だねぇ」
「しかしこの仕掛け、昔ハクリに連れられた場所にもあったな。どんな攻撃にも耐え、決して開かない場所」
岩盤を砕く脚力を持つ光努の蹴りにも耐える仕掛けと呼ぶのかわからない石の部屋。
ハクリがアルコバレーノと同じであれば、この時代に存在する
(ま、ハクリは何をしでかしても不思議じゃないけどな)
少し自由すぎる友人にため息をついた光努だが、まだ犯人と決まったわけでないと思い、割りとすぐに気を取り直して、眼前に出現した廊下を見据える。光努達の目的は、おそらくこの先まっすぐに存在する。
「よし、行くか」
光努が扉をくぐり中に足を踏み出し、リルとコルも寺の中へと入っていたのであった。
***
ギィイ。
コンコンと、光努が歩きながらノックをするかのように壁を叩く。至って普通の木の音が聞こえる。
ガンガンと、木で出来た床に突き立てるように、コルは日本刀の切っ先をぶつける。が、わずかにも突き刺さることなく、ただ鉄が木に当たるような音がするだけ。
キンキンと、リルは小さなサバイバル用のダガーナイフで壁をつつく。しかしやはり木でできた壁に傷がつく素振りは見えなかった。
「これどうなってるの?」
穴があかないどころか、傷すらつかないのは不思議。一体どういうわけなのか。どこから見てもただの古びた木の床と壁の廊下しかないのに。本当に不思議である。
(ハクリなら、何か知ってるかもしれないんだがな)
今や小さな赤ん坊の姿の友人、ハクリの姿を思い浮かべながら、光努は少し嘆息していた。
ただまあ行き止まりというわけでないので、壊れない通路を歩くしかない。引き返すという選択肢は、もちろん光努達には存在しなかった。というか進む気しかないし。
「はぁ、どこもかしこもこんな感じなのか。面倒だ」
「あ、ほら見てよ。ドアが見えてきたよ」
リルの言うとおり、両開のドアが薄暗い廊下の先に見えてきた。
扉には、『彩の間』のプレートがつけられ、とりあえず躊躇する理由もないので、普通に扉を開き中へと入る。結構余簡単に中へと入るが、もちろん罠には全員注意している。
「?ここは・・・」
少し開けた場所。例よって廊下と同じように木でできた場所だと思ったが、よくよくと見れば木の模様がついているだけで壁や床は鉄で出来ているらしい。そして入ってきた木製の両開きのドアとは別に、前方には4つの扉があった。扉にはそれぞれ生物のレリーフが彫られており、竜に虎、鳥と亀といった、どこかで見たことあるような生物。
「青竜、白虎、朱雀、玄武。え、何?ここってダンジョンだったの?」
扉に掘られていたのは、四神とも四聖獣とも呼ばれる4匹の獣。
それぞれの方位を司る獣であり、中には中央を守る黄竜や麒麟なども存在するが、ここにはいないようである。
「光努知らなかったの?罠あり、戦いあり、謎ありのハイテクアトラクションだよ」
「そして奥には素晴らしい宝が眠っている、らしい」
「俺が聞いた話と結構違うような・・・・」
やけに楽しそうなリルとコル。こういった場所には過去にリルとコルも行ったことはあるかどうか別として、少し聞き覚えがあるそうだ。曰く、罠だらけのところもあれば、謎が仕掛けられているところ、番人がいるところもあるそうだ。
ということは、ここは一体・・・・・。
「あ、見て見て光努。ここに何か書いてあるよ」
と言って光努を呼ぶリルの声。見ると後ろ、入ってきた木製の扉を閉じたら、そこには何か文字が掘られていた。
〔血の器 水を浸して 葉が浮かぶ その衣を纏い 汝の元へ 示す導き 天へと誘う〕
どこか不気味さのある文章。
意味があるのかないのか、不思議な文章。
古めかしく、掘られた溝に埃の溜まっている文章は光努が思うに、おそらくこの先へ進む扉を示しているものと思われる。いや、光努でなくとも普通はそんな気がするだろう。
「変な文章か。この謎を解いて、先へ勧めと。中々面白い趣向じゃないか」
思ったよりも楽しそうであり、光努はいつものように楽しげに笑みを浮かべる。
好奇心を瞳に宿し、口元は笑って文章を見据える。
この文章の中に、次への扉の手がかりが。青竜の扉、白虎の扉、朱雀の扉、玄武の扉。この扉の内正しい扉はおそらく一つ。
「もしも間違った扉開いたらどうなるんだ?」
「そりゃもちろん、その先には罠と罠と罠と罠だらけの通路が伸びてるに決まってるじゃない」
「そして最終的には長い距離を進んでいながら行き止まり、とか」
「うへ、そりゃ面倒だ」
最後に全部の通路がつながっているならまだしも、行き止まりであれば最悪行き先不明の長い距離を行ったり来たりしなくてはならない。いくら体力が怪物級の光努達でも、面倒なものは面倒。そして限度というものが存在する。出てくる罠のレベルも知らないし、獄燈籠級の罠が出てきたらさすがに面倒。
「やっぱりこの文章を解かなくてはならないのか」
「まあ根拠はないけどね」
「いや、このパターンは必ずこの文章の中に手がかりがあるはず。それがお約束!」
「お約束って何?」
「ところでお前らって頭良いのか?」
光努の質問。普通に考えればリルとコルの二人は時期と年齢的に高校3年くらいだと思われるが、実のところどうなのか。そもそも10年前にも小学校に通っていないので通知表のようなわかりやすい学力表などもちろん見たことない。というわけで頭がいいのか悪いのか。謎を解こうと思えば学力以外にも推理力や閃きといったことも必要だが、見分ける判断材料が学力しか思い浮かばない。一応10年前はルイや灯夜とかに勉強を教わっていたらしいので、同年代よりかは成績はいいらしいが。
「こう見えて私、シャーロックホームズは全巻読んだよ」
「僕はアルセーヌルパンを読破した」
「だから!?だから二人共立派な頭脳派だとでもいいたいのか!いや俺もそのシリーズ好きだけどさ」
「でも実際学力と違って閃とかって人それぞれじゃない。直感とか第六感とかと同じでさ」
「まあそうだけど」
「気づく人は気づくし、気づかない奴は気づかない。まあ一先ず考えてみない?」
「それもそうだな」
果たして一体正しい扉はどれなのか?
後半へ続く!