時間は午後9時頃だろうか、空は黒い闇色に染まり、雲が晴れたところにはポッカリと金色の月が顔を出していた。
今夜は満月、だがべつに狼男が吠えたりもしなければ、自転車に宇宙人を乗っけたシルエットも見えない。そんな暗い月明かりの道を歩いていたのは、こんな時間に歩いているのはおかしいような人物。
月明かりに反射する真っ白な髪は夜風に揺れ、その下の表情はまるでハイキングにでも来ているかのように楽しそうに笑っている。
が、その内心はありえないほどにドン引きしていた。
「俺はイリスを舐めていていた。いや、イリスというより灯夜と『アヤメ』達だ」
こんなことを言っていた少年は、そのイリスファミリーのボス、つまりトップ、No1の白神光努。並盛中学2年生。彼は今、自分の所属しているファミリーにドン引きしていた。それはなぜか?
今彼の目の前にあるのは、山が縦に真っ二つになっている光景だった。
「なあリル、コル。俺は今夢を見ているんだろうか。夜だし」
「そんなにおかしいかな?ねぇコル」
「特におかしくないと思うけど」
(だめだこいつらぁ!イリスの性か!?)
小さい頃からイリスファミリーだった二人だからなのか、大抵のことでは驚かない強靭な精神力が身に付いたのだろう。いや、これは普通のマフィアでも驚くぞ。XANXUSだって口をあんぐりと開くはずだ。というかただ常識が欠けてるだけだ。
・・・・さすがにそこまではないだろうが、驚くのは間違いないはず。
ここは獲洞山。
獄燈籠所有の山をくりぬいて、中に軽く地下都市のようなこの時代のイリスの拠点を築いた山である。中にイリスの本拠地にある母屋がそのままあるのを見たときは、光努ですらなかなかに驚いた程。
他にもいくつか建物があったらしく、獄燈籠作の傑作である。
そしてその山、縦に真ん中から真っ二つに割れているのが今の現状だった。
「はぁ・・・・で?あれに乗ればいいのか」
珍しく少し疲れたような光努のその視線の先に見えるのは、その真っ二つに割れた山の中央にそびえる先の尖った巨大な円筒形の物体。
それは太平洋を横断するほどの超長距離を飛翔する大陸間弾道弾。
通称、ICBMと呼ばれる大陸弾道ミサイル。
大陸から大陸へと撃ちだすことが可能なこのミサイルは、射程距離が果てしなく長く、日本から飛び出せば、アメリカ、オセアニア、ヨーロッパ、どこへでも飛ばすことが可能となった驚異的なミサイル。
10年前の時点で人類の技術の進歩はなかなかに周りが思うよりも遥かに高いが、この時代ではそれがなかなかに顕著になっている。といっても、定期的に大規模に戦いをするマフィア間だけかもしれないが。
一先ず光努には目の前にあるものが何かわかった。
通常ミサイルに搭載する核弾頭等、幾らか本来の破壊目的の部品がほぼ取り除かれ、代わりに搭乗機能が設置された改造ミサイル。
ようはこれに乗れば簡単に海外に行けると。
(つーかこんなの飛ばして大丈夫なのか?)
レーダーとかに引っかかるんじゃないのか、という心配だが、まあ今更だからどうでもいいかとも思った。きっとレーダーごまかすことくらいはお茶の子さいさいだろうし、まあご都合主義ということで。
「ここからイリス本拠地までは、多分20分くらいじゃない」
「つーか、これどっから持ってきたんだ?明らかに一ファミリーの軍事力じゃないだろ。いや、今はただの乗り物だけど」
「灯夜が昔廃棄されるの買って改造したんだって」
「うわ、予想通りの答え」
そういえばイリス所有の超音速戦闘機のブラックバードも灯夜が軍から買って改造していたとか言ってたなぁ、と結構前のことを思い出していた光努だった。
「しかし、まさか獲洞山がイリスの日本拠点兼ミサイル発射台になっていたとはな」
というかその為にまさか山を改造したのか?
だんだんと呆れを通り越して関心すらしてくるから不思議である。
10年前の時点では、まだ獄燈籠が作ったトレーニングマシン(マシン?)があるだけで普通の山だったはずなのに、この10年でやっとしたら一体どうやったのだろうか?案外山を一回消し飛ばして全部作り直したのかもな。
・・・・・・・なんだか本当にそう思えてきた。
「さて、じゃあ早速乗り込むとするか」
といって近づくと、ミサイルの一部が開いてスペースが現れる。特に中で操作盤とかハンドルが無いから中で操作する必要も無いみたいだし、中で座って固定してそのまま待つだけ。さて、出発!
「で、リルとコルは乗らないのかー」
光努はミサイルに乗り込み、固定されたというのに、なぜかリルとコルは外から眺めるように光努に笑って手を振っていた。
「だってそれ一人用だし」
「私達はあとから灯夜に迎えに来てもらうから気にしないでね」
リルがめちゃくちゃいい感じに笑って手を振っているのを見ていると、このミサイル大丈夫かとか思えてくる。
(本当にこれ大丈夫か?飛ぶだけ飛んで爆発とかしないだろうな・・・)
そんな光努の考えが伝わったのか、リルとコルが大丈夫、とでも言うようと励ましてきた。
「実はそのICBMにはちゃんと燃料入ってるけど、あと搭乗者の死ぬ気の炎も使ってついでに落下時はかなり衝撃入るけど」
「光努なら大丈夫だよね」
やっぱり全然励ましてなかった。
「お前らそれ知ってたなー!」
「じゃ、いってらっしゃーい!」
ガコン。
リルが手元のレバーを下げると、ゴゴゴゴゴという地鳴り声が響き、光努が何か言う前にミサイルの搭乗口が閉まり、ガッチリと固定され、微細な振動と同時にミサイルのしたの方から何やら音が大きくなってくる。
リルとコルは二人共離れたところから、サングラスを取り出し装着。
次第にミサイルの下部から強大な炎が噴出した。
薄いオレンジ色の炎を噴出し、次第にミサイルは徐々に高度を上げ、ついには、夜空に向かって飛んでいったのだった。
「じゃ、灯夜が来るまで待とうか」
「うん、そうだね」
二人は操作盤を操作して山を閉じ、地下の、すでに誰もいなくなった母屋へと入っていくのだった。
***
壊滅的ダメージを受けたイリスファミリー本拠地。
光努が当初この時代に来た時には既に、母屋はほぼ全壊、他の技術舎などの建物はほとんどが潰れて木が倒れたり地面が陥没したりの被害満載。
一時は光努と獄燈籠がいた場所だったが、二人して日本へ行ってからまたがらんどうになっていたイリスファミリー。
そんなことがあったイリスファミリーの本拠地にて、一人母屋の屋根の上に佇む人影があった。
『レーダーが捉えた。そろそろ来るから備えろ』
「はいよ、了解」
屋根の上の人物は、耳に付けたインカムからの通信に答え、寝転がっていた体を起こして軽く伸びをする。
鍔付きの迷彩柄の帽子をかぶり、そこから出ている金髪の髪。
同じ迷彩柄のズボンと前を開けた上着にブーツという、太陽の出ている時間帯ならかなり目立つような格好をした男。
屋根の上に立ち、その海を思わせるような蒼い瞳は太陽の登った水色の空に向かって視線を伸ばし、視界に妙な物が入った時に少し目を見開いた。
白い煙を出しながら高速で落ちてくる物体。
ここからは細長いが実際近くで見ると結構太い、円筒形の物体間違いなくこちらに接近してきた。
「なぁルイ。あれこっち向かってくるけど大丈夫か?せっかくのイリス拠点がボロボロになるんじゃねぇか?」
『大丈夫だ。ちゃんと問題ないところに落とすようにプログラムしてあるからな。見てみろ、そろそろ来るぞ』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
空から壮大に煙と音を出して降ってきたミサイルは、イリスファミリー本拠地の広大な敷地の中にある、割りと広めの池の中へと突っ込んだ。
ドバシャアァーン!!
盛大な水しぶきをあげて、池に衝突するミサイル。
爆発物は全く積まれていず、池に着水した為に特に大・爆・発、というふうにはならずにすんで内心少しほっとしているのは余談。
かなりの高所まで水しぶきが飛び、イリスファミリー本拠だけ少し雨のようになっていた。
屋根の上から全身で雨を受けた男は、楽しそうに笑い池を見ていた。
「いやー、涼しいなぁ。つーか、あの池って結構深かったのか。ミサイル全体沈んだんだけど、あいつ大丈夫か?」
屋根から飛び降り、地面に着地する。
そのままスタスタと池に向かったとき、池の内側から何かが爆ぜた。
水面を突き破って水の中から飛び出して来たの物体は、まっすぐに男の元へと飛来してきたが、男は普通に横に交わして飛来物は地面にめり込んだ。
「これは、さっきのミサイルの部品か?」
男は知らなかったが、飛んできたのはミサイル搭乗口の扉のハッチ部分。
そしてそれが水の中から出てきたということは。
ドバァン!!
続いて、水の中から何かが飛び出した。
今度はものではない、動きからして間違いなく生物、それも人だ。
くるくると太陽を背に回転し、すたりと地に降り立った。
「あー、ひどい目にあった。ていうか前にもこんなことあったような。つーか本当に20分くらいでついたよ」
ぽたり、と髪から雫を垂らし、服の水を絞る。
プルプルと頭を振って少し太陽をまぶしそうに見つめ、自分が今いる場所を再確認した。
「何日ぶりだっけな。イリスファミリー」
見渡す限り広がる敷地。
大きめの池、近未来的な建物の技術舎。いろいろと収納されている倉庫や、普段はあまり使わないような蔵。宿泊施設の用な建物ももあれば、実験場のような建物、体育館に、大きめの深い森や小高い丘。
そして中央にそびえるのが、母屋と呼ばれる拠点。
口の形のような作りに、中庭には大きめの木が植えられている、光努がここに来てからしばらく住んでいた場所。
懐かしいその場所には、帰ってきた、という光努にとっては本当に懐かしい実感が湧いていた。
「――――って、全部治ってる!?」
見渡す限り見えるもの。それは、元のイリスファミリー。
***
「確か、前に見たときはボッロボロのほぼ全壊だったのに、こりゃどういうことだ?」
辺りを見渡してみれば、確かに見覚えのあるイリス本拠地。
最初にこの時代に来た時に見た時は、母屋がほぼ全壊に近かったにもかかわらず、光努の眼前に見える建物は確かに時間でも巻き戻ったような治り具合。
けどよくよくと見れば、確かに復元跡が多々ある。
新しくしたばかりのような石畳。周りの多くの建物も、作り終わって完成したばかりのように綺麗に仕上がっている。しかし一度獄燈籠と光努によるミルフィオーレ第13バルサミーナ隊隊長バッティスタの戦いにより、爆発したり燃えたりしたはずの森まで復元されてると、一体どのようにして直したかが気になる。まあ晴れの炎の活性を利用したり、普通に木を植え変えたりすれば大丈夫かと思うのだが。
それにしては、この場所を最後に見てからの期間があまりにも短すぎる。せいぜい2週間がいいところじゃないかと思い、それだけでここまで修繕できるものなのかと疑問に思った。
「いくらイリスでも、限度ってものがあるだろ」
人のことを言えた義理ではないが、なかなかにブッ飛んだ事をしているであろうイリスの人物を思い浮かべ、若干苦笑するが、それでも内心はかなり面白がっている。
そうこう思っていると、光努は後ろから気配を感じた。
「俺も同感だぜ。最初来た時は驚いたしな」
光努の後ろから投げられた声に、光努は反応する。
それは昔、まあいうほど昔というわけではないが、何ヶ月か前に光努が参戦した黒曜ランドへの襲撃と骸討伐任務。
そしてそこで光努が戦った人物。
金髪と蒼瞳、軍人のような服装をした2本の機構ナイフ使い。
この世界に来てから、光努の肌をわずかとはいえ傷つけた2人目の人物。
「たしか、ラッシュ・ギナ。だったよな?」
振り向いた光努の目の前にいる人物、ラッシュは笑った。
「よく覚えていたな、光努」
***
イリスの母屋内。
外の景色同様に、中は修復したばかりのように綺麗な空間。そんな屋敷の中の一室に、二人の人物はいた。
広めの部屋の中央に位置された丸いテーブルに向かって椅子に座っている人物と、そのそばで立っている人物。二人は同じように壁と外を繋ぐ大きめの窓を眺めていた。
暗い部屋の中に、窓からの光が伸びて机の上を照らす。
「光努が来たみたいだな」
机のそばで立っていた長い金髪を後ろで一つにくくっている人物が口を開いて、椅子に座る人物に声を欠けた。。白衣のポケットに手を突っ込み窓を見ているが、外から入る太陽の光のまぶしさにわずかに目を細める。
椅子に座る人物に特に反応がないのを無言で確認すると、特に気にした風もなく、別の言葉を投げかける。
「一応迎えが行ってるが、行ってこないのか?」
その言葉に、椅子に座る人物は少し反応した。
その人物は、小さかった。
年齢で見ればおよそ小学校に通ってもおかしくないような年齢の見た目。
ワイシャツと黒いスラックスに革靴、ベストにネクタイ、帽子をかぶった、どこかのパーティーに出席しても問題ないような、身なりのよい服装。
窓から降り注ぐ太陽の光が、帽子の中から溢れ出る長めの銀白色の髪に反射してキラキラと輝いている。見た目の年齢の低さ故か、少年のようにも少女のようにも見える顔立ちの子供は、外を眺めて小さな口を開いた。
「せっかくだし、待ってる」
そう言った子供の表情は、楽しそうに笑っていた。
黒曜編で登場した、金髪碧眼軍人ナイフ使いのラッシュ再登場!