一触即発の雰囲気に包まれるビルとビルの間の空間。
幻覚の中に立ちこちらをうかがう幻騎士。
天國刀を手に持ち正眼に構えるリル。
時雨金時を刀に変化させ構える山本。
三つ巴の対戦が、始まろうとしていた。
「………なあリル、何か忘れているような、ていうか絶対わざと忘れてるよな!?これツッコんだほうがいいのか!?」
「これぞ必殺、ほっといたら作者が忘れていつの間にか敵が減ったの術!」
「必殺技でもなんでもねぇ!ていうか今の発言危ないぞ!」
「貴様らいつまでふざけてるつもりだ」
冷静な発言の幻騎士の言葉に二人は言葉を止めて再び対峙する。
そして、先ほどの攻撃と崩壊によって土ぼこりが晴れた先で、シーツを被った人物がこちらを見ていた。おもむろに、シーツに手を伸ばして取り払う。
バサリ。
ひょろりとした印象を与える細身の男。
丸い眼鏡の奥の瞳は細く、一見したら気の弱そうな印象を与える。茶色いハンチング帽の下のアッシュグレイの髪を揺らし、どこかで見たような身なりの良さそうな服装をした死神は、皮の手袋に包まれた手には、雲の炎が纏われたナイフが握られていた。
「もっと顔がシャレコウベとか黒いローブとか大鎌とか想像してたけど思ったより普通だね」
「ちょ、リル。せっかく話をまたいで姿見せたのにそれはなくね!?」
「いいのですよ、山本武」
「え、死神?いいのか?」
「あなたより先にそちらの剣士を消すことにしますから」
「やっぱ怒ってたぁ!!」
目が細いから一見したら笑っているように見えるが、全身から噴き出すオーラには怒りの色が染まっている。どこからともなく大量のナイフを指の間に挟んで取り出し、リングの炎を伝導させて刃に雲の炎を纏った。
ヴァリアーのベルも同じような武器だが、こちらのナイフはベルのナイフ程小さいわけでなく、どちらかといえばサバイバルナイフに近い形状。一体その服装のどこに隠していたのかと知りたくなるような量を取り出し、両手で持って刃を向ける。
「改めて、私の名前はアラン・バロー。以後お見知りおきを」
死神、アランと名乗った男は、人の好さそうな笑みを浮かべて丁寧に自己紹介をする。
その名前に聞き覚えがあったのは、やはり観戦室にいたメンバー。
「あいつ、アランだったのか」
「ディーノ殿のお知り合いで?」
「あいつはフランスのジュールファミリー所属のアラン・バロー。『死神アラン』と呼ばれる暗殺者だが、基本的に穏やかな性格だ」
「しかし死神の正体が死神とは、白蘭もひねりがないな」
「灯夜、それを言ったらかわいそうだよ。事実だけど」
顔がわかれば簡単にわかる敵の正体。しかしそれはそれだけ、敵の正体がディーノ達でも知っているほどに有名な実力者ということ。どうも先ほどのやり取りでそんな感じが見えないのが残念だが。
そしてディーノ達が知っているということは、無論、入江正一も知っていた。
『山本君。その人は元ジュールファミリーの『死神』と呼ばれる
「お、入江か。ああ、確かに今どこにそんなにあるんだよって感じでナイフ出してるから少し驚いたところだぜ」
「匣兵器じゃなくて普通に(?)取り出したからもはや手品だね」
「ところでリルさぁ、ちっと相談あるんだけどさ」
唐突に山本が、隣のリルに笑いながら話しかける。その表情は楽しそうに、なんだかわくわくする少年のよう、いや少年なのだが。時雨金時を握る手が少し強くなっている。まるで、戦いたくてしょうがないかのように。
「まあ気持ちはわかるけどね。いいよ、死神は私が相手しとくよ。でも大丈夫?」
眼前の幻騎士。
鎧と大剣を携えて、メローネ基地で山本と戦った時よりはるかにパワーアップした状態。が、それは何も幻騎士だけではない。このチョイスの為に、皆修行を施した。
この時代の剣帝と謳われた、スクアーロと共に、剣を手にとり修行をした。
「ああ、大丈夫だ」
手にもった時雨金時が、山本の一振りで竹刀状態から銀色の刀身へと変貌させる。
そのまま幻騎士の方へと視線を向けた。
「お前が来るのか、山本武。だが、目の前にいる獲物を2匹逃すほど俺は甘くない。貴様らはここで終わりだ!」
最初の一手は幻騎士の剣だった。
幻騎士の持つ
数度にわかれる炎を纏う藍色の斬撃。上空からのその斬撃は、その場にいる者達全員へと降りかかった。
ドゴオォ!!
地面のコンクリートを容赦なく粉砕し、あたりに爆発音と煙が充満する。
「やれやれ、幻騎士は加減しないので困りますね。私まで巻き添え食らうところでしたよ」
上空から破壊痕を眺める死神、いやアラン。
肩をすくめながら、ミルフィオーレの例にもれず、足元から死ぬ気の炎を噴射するFシューズによって空中を移動する。ひとまず巻き込まれないようにというのと、敵と味方の、幻騎士は自分を味方と認識しているかは不明だが、とりあえず位置の確認に辺りを探る。
基本暗殺を専門とする殺し屋のアランは、気配を断つという技術が優れている。
それも、同業者の中でもトップクラスに周りと溶け込むようなその技術力は、山本や幻騎士にも気づかれない自信がある。事実、最初の山本との邂逅では、彼に近くにいることを悟られずに奇襲に成功していた。
だが炎を移動手段に用いて戦闘を行う今回のような大規模な戦いには少し不便。炎を探知するレーダーさえあれば、居場所が分かってしまう。そのため、アランは通常なら油断なく構えるところだが、そこまで臨戦態勢に入らない。
根拠は、自分が今いる場所。つまり上空。
爆発した際の煙を見下ろせる高度にいるアランのところに行こうと思えば、空を飛ばなくてはならない。そして敵の情報の中で、空中移動を可能にしている人物は、ボンゴレ10代目のツナのみ。
他の者達は、今回のチョイスで使用したバイクがあるが、あれでは空は飛べない。イリス側もどちらも陸路を移動し、リルの持つ自立飛行剣の匣兵器も幻騎士によって壊された。
つまり、今この瞬間だけはアランはあまりしない油断を軽くしていた。
そして、その油断に隙ありとばかり、背後のリルが剣を振るった。
「!?」
シャッ!
とっさに屈み刀を避けた、しかし不可解なのは音。あまりにも静かな刀を振る音。
アランは避けると同時に、何本かナイフを投げた。不意の攻撃にこの反応は流石といったところ。無論、相手の刀の軌道上に投げたので、そのままぶつかるかと思ったが、聞こえた音はぶつかるような金属音が響かなかった。
距離を離れてみてみると、自身の投げたナイフが炎事、綺麗に中ほどから切り裂かれている。驚くべきは、リルの赤い刀身の天國刀の切れ味は、限りなく異常なほどに高まっていた。嵐の炎を渾身まで凝縮させたリルの『彩式』。
うかつに近づけば防御もままならない。
「やれやれ、厄介な相手ですねぇ。それに、面白いものを持っていますね。その靴、どういう仕組みですか?」
アランの視線の先にいるのはリル。自分と同様、ビルとビルの間の高所にいる、つまり滞空手段を持ち得ている。その場に立つリルの足元には、六角形の赤いプレートのような物が宙に固定され、その上に立っていた。
「ルイが作ったイリス兵器。名前はFシューズに習って、
足のつま先でコツコツとたたく。そこそこの強度がありそうなプレート。
(なるほど、おそらくは死ぬ気の炎を燃料に靴から滞空機能のプレートを出す装置、ってところでしょうか。そのまま滞空させ、足場にして空中移動を可能にする)
アランの推論はほぼ正解していた。
ルイの作り出した滞空移動手段であるTシューズ。
今回のチョイスにおいて、リルと光努は同じ装備を二つ装着している。
その一つはこのシューズ。
使用者の死ぬ気の炎を使い、足場を出現させる靴であり、なかなかどうして便利な代物。近接戦闘する物が地上で戦うなら、こちらのほうが役立つ。
光努も同じ靴を装着していた。捧日の虚を突く空中移動を可能にしたのは、このシューズの力。足元にプレートを作り出し、そこを足場にしてその場からさらに加速する。知らぬものであるなら、予測していない攻撃の軌道になすすべなくやられるだろう。どちらかといえば近接戦闘の方が使いやすいかもしれない。
ではFシューズと比べたらどちらがいいか?
実を言えば、Fシューズのほうが使いやすい。出力調整だけでスピードを出し、Tシューズと比べれば炎を噴出したりする間があるため、細かい小回りはTシューズの方がきくのだが、使いやすさならこちらが使いやすく、使用者の実力にもよるがツナのグローブ並みの機動力を発揮する。
現に、この広大なチョイスフィールドを、ミルフィオーレの兵隊ユニット達はこの靴一つで縦横無尽に動き回っていた。これに対抗していたのはボンゴレ側のバイクとツナのグローブ、それに例外としてイリスの車くらいである。
ならTシューズは弱いかと言われたら、そうでもない。それはあくまで使い手次第。そして足場を作るタイプにしたのは、その必要があったから。
古来より中国拳法その他武術には、大地の力を練りこむ方法が存在する。足を踏みしめ、その気を体を通過させて拳に送り込む。踏み出しが大事と言うのは様々なことに共有する。
そして、光努とリルには空中を無尽にかけるFシューズやグローブよりも、自分の足の力をダイレクトに伝えて動くこちらの方があっていた。
「やれやれ。面倒なことに、なりましたね」
ボゥ!
そういうと、アランは自身の手に嵌められたAランク相当の雲のリングから、紫色の炎を灯す。そして取り出す匣に、躊躇なく炎を注入し、リルへと向けた。
「こういう時は、物量ですかね」
その瞬間、アランの手の中の匣から、まるで大量の水を吐き出すかのように、刃という刃、暗器の数々がいきなり飛び出した。
「うぉっと」
ガガガガガガガガガ!
一つ一つが雲の炎を纏い、瞬間増殖を繰り返す暗器の匣は、瞬く間にビルの壁面に銀色の刃の壁を構築した。しかも突き刺さったそばから刃が炎と共に匣の中へと戻り、また吐き出すを繰り返す。
中身は普通のナイフやら手裏剣やら鋲やら普通に暗器らしいが、繰り返し続ける匣兵器というのは珍しいタイプ。絶え間なく飛ばされてくる暗器を避け続けるリルは、アランと下の戦況を見つつ思考していた。
(この匣兵器、どこかで見たことあるような、それとも聞いただけのような。どこだったかな?)
と思ったら微妙にずれたことを思考をしていた。
***
観戦室にて、ルイは少々面倒そうな瞳で戦闘する人物たちを見ていた。
(あのアランの匣兵器、そういえば昔俺が作ったやつだな。久しぶりに見た)
やはり面倒くさそうな瞳をするルイ。
『
その力は、雲属性の増殖を生かしつつ、それを利用したサイクル兵器。
一度に炎を纏い飛ばした刃を、炎を用いて再び回収し、また飛び出させる。固定砲台にしては一つ一つの火力が低いが、それを物量で補い波で押し寄せるようにして刃を生み出す匣兵器。
既存の法則的な匣と違い一風変わった、特異な匣兵器を作ることを得意、というより好んだルイの匣兵器は、その性能も他の匣兵器とは違い妙な物が多かった。他の匣と比べて違うのは、複雑な構造をしているという点。
大空の匣兵器はコピー不可と言われる程の複雑な構造をした匣兵器だが、こちらとは色が違う複雑さ。構造的にはシンプルだが、その機能が妙な特異性を用いて所有者に絡みつく。
つまり普通の使い手には使いづらい匣ということ。
普通なら使おうと思わず、シンプルな量産型の匣など使えば簡単に戦力を作れる為、好き好んで難しい匣兵器を使う物などいない。戦力に使えるかも曖昧な匣兵器。そもそもルイが作った匣は、周りに流通しない。
ミルフィオーレと違ってイリスファミリーの権威はこの時代においては限りなく低い。なので匣を作っている技術者がいると分かれば、どこぞのファミリーに連れていかれるのは必須であるのだから。
(そういえば、昔自分に合いそうなのないかと言われて作った記憶があるな)
実を言うと、イリスファミリーとジュールファミリーはそこそこ友好がある。そしてルイはアラン本人とも友好があった。ほかのイリスメンバーも、アランに限らずほかのファミリーの名の知れた人物も個人的な友人がいるものは少なくない。
(実はあいつ知り合いであの匣俺が作ったんだよねー、とか言ったらボンゴレ側にいろいろ言われそうだな。面倒だし黙っとこう)
面倒そうな瞳を伏せて、再びソファにごろりと寝転がる。
灯夜の特訓で多少の体力がついたとはいえ、研究実験などならともかく、ただ見ているだけというのはどうにも退屈というのが本音。世界の命運がかかっているというのはわかるが、戦いの場にいない者達は祈るしかない、信じるしかない、見守るしかない。
「そういえば、アランの持ってるあの匣ってルイが作ったんじゃなかったか?」
そう思ってたら灯夜が爆弾を投下してきやがった。
灯夜の言葉に突き刺すような鋭い視線が寝転がるルイに向かって突き刺さる。
普段からごろりとしているルイだが、こうもあからさまにほかのファミリーの人間から見られと流石に居心地悪い。中には一般人の少女も交じっているというのだからなおの事。
「確かに作ったが、あの匣はそんなに強い物じゃないぞ?」
「そうなのか?」
「ああ。匣の中に納まった100の暗器が絶え間なく射出され、ぶつかったら匣に戻って再び射出するだけの匣だからな。そんなに複雑な物じゃない」
「ルイ、聞いた限りでも結構厄介な気がするんだが……」
ディーノの言葉に隣のバジルもうなずく。絶え間なく行われる怒涛の攻め。
ボンゴレ嵐の守護者を体現したかのような匣だが、これは雲の増殖があって初めて成功する試作品のような物。
そしてそのため、中にはいくらかの欠点が存在する。
「まず第一に、武器の強度はそこまで強いわけじゃない。あそこのビルに突き立つけどそれだけ、普通の刃物よりちょっと強いくらいだ。間違ってもリルの刀に傷はつけられない。まあ人には危ないが」
「だがそれを補って物量で攻められるだろ?あれだけの量ならそれなりに脅威だぞ」
ディーノの肩に乗るリボーンの言葉に再度確認する。
死ぬ気の炎を纏う武器を持つものならば、普通の武器は然程驚異的ではない。炎単体の熱量もさることながら、特性を活かせば武器の単体だけなら威力を何倍にも引き上げることができる。現に、武器がなくともその熱量だけで、ボンゴレ10代目候補沢田綱吉は、六道骸の持つ槍を捻じ曲げた。
対抗するには、同じく死ぬ気の炎を纏うか特殊な武具を使用するしかない。対抗する両者の持つ獲物にもよるが。いくらなんでも、サバイバルナイフでチェーンソーを受け止めろと言われたら無茶というしかない。
しかし相手がチェーンソーを持とうが、遠距離から大量のナイフを投げつければ効果も期待できる。
「が、そこであの匣の欠点その2だが」
「欠点その2?」
「ああ、実は………お、武と幻騎士が交戦中だ。それにしても武の匣、面白いな」
少し視線を細めてディスプレイを見るルイ。面倒そうな表情だったのだが、なんだかおもしろいものを見つけた子供のような顔をしている気がする。と言っても、普段から無表情のルイなので、付き合いの長い者でないとそこまで微妙な変化はわかりにくいが。
急遽話が転換され、一度は画面に視線を集めた。
***
幻騎士は戦慄していた。
一度自分が圧倒し、下した対戦相手。二度目となる此度の戦いに慢心が無かったといえば、嘘になる。最終的に罠のようにひっかけて幻覚に貶めた幻騎士により、山本武は敗北した。そこに至る過程の剣技には、確かに中学生とは思えない錬度と気迫が籠っていたことに少々驚いたが、あくまで中学生にしては、と斬り捨てた。
まだまだ匣兵器もうまく使えず、
然程大きな成長は臨めないだろうと高を括っていただけに、今の幻騎士の心境は耐え難い物が渦巻いていた。
「へへ、待ってたぜ!」
自身の眼前に立つ男の姿を。
大胆不敵に笑い、勇敢に足を踏み出し刀を振るう。
最初の一撃だけでは倒せないと踏んでいたが、まさかこうも無傷で剣撃を防がれると思わなかった。
幻覚の中にいて山本より高い位置にいる幻騎士を見上げるようにして立ち、笑みを浮かべている。その手に持つは、時雨蒼燕流継承者に与えられる刀、時雨金時。そして反対の手に持つは、異様な刀。
異様という程異様な形というわけではない。鍔と柄のみの、刀身の無い刀。
指の間に挟むようにして二つ持つ。そして異様な部分は、空虚な刀身の代わりに、澄んだような雨の蒼炎でもって作られた刀身。
異様というよりは、どこか神々しい印象を与える。
そしてその山本の傍らに立つのは、一匹の犬。
口元に咥えた山本の持っている同じ刀身の無い刀から雨の刃を作り出し、その背には刀を納める為に用意された空白の三本の鞘。おそらくその鞘の中身は、咥えられた刀と山本の持つ二本の刀。そしてその額には、弾丸を模したボンゴレの紋章が刻まれていた。
あきらかに、自分が戦った時と違う。
何がこの男を変えたのか。たった10日という期間に、何が起こったのか。
尋常ではない剣士としての気迫が、相対するだけで突き刺さる。
幻騎士の頬を、わずかに冷や汗が流れた。
「リベンジできる、こん時を!!待ってたぜ!!」
澄んだ瞳で己の敵を見る。
ボンゴレ10代目雨の守護者、山本武。
最強無敵完全無欠の流派をその身に背負い、愛刀握り炎を纏う。
一度受けた敗北の、剣士の雪辱果たす時!