特異点の白夜   作:DOS

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光努「わずか10行で分かる前回までのあらすじ!」
山本「死神アランとの闘いをリルと交替して幻騎士とタイマン、ようやく俺のボンゴレ匣を開いたぜ!ここからが俺と次郎と小次郎の活躍だ!」
リル「山本が幻騎士と戦ったから私の相手は死神アランだよ。ちなみにアランの所属していたジュールファミリーってイリスと親交があったんだよ。もちろんアランも知り合い」
光努「あ、そうなんだ」
リル「でもそんなの関係ないぜ♪アランの最大技が来たから、こっちも奥義で返したよ!結果は今回の話をどうぞ」
山本「俺と幻騎士の戦いもクライマックスだぜ」
光努「俺は………そういえば戦ってなかったな」



『剣士と神と悪魔と』

 

 

 

初代雨の守護者、朝利雨月と同じ、一本の長刀と三本の小刀。

 

にじみ出る気迫は先ほどの比ではない。ボンゴレ匣の性能を限界まで引き出した山本は、幻騎士を前に威風堂々たるその姿を見せていた。だからこそ、幻騎士も己の全力をぶつけるに値すると判断した。

 

「よかろう、貴様を全力で葬るに値する剣士と認めてやる………だが後悔するなよ。これで俺に、情けはなくなる!!」

 

瞬間、幻騎士に嵌められた骨残像(オッサ・インプレッショーネ)のヘルリングから、禍々しくも強大な霧の炎が噴き出した。幻騎士に纏わりつくような霧の炎は次第に幻騎士を包み込み、一瞬の間と同時にはじけて中身を浮き出しにした。

 

幻騎士の姿は、まさに髑髏の騎士と呼ぶにふさわしい姿。

体も手足も、鎧でさえも、幻騎士の姿を一つの生命体として、凶悪な生物を誕生させた。ヘルリングに己の精神を喰わせるこでなしえる、凶悪なまでの戦力倍加。

 

宣言通り、幻騎士にもはや一切の情も情けもなくなるだろう。

 

先ほどからの冷静な幻騎士とは一転、荒々しい雄たけびを上げる幻騎士。だがその雄たけびにはどこか悲痛な叫び声がまぎれていた。

 

ヘルリングの戦力倍加の代償は、己の精神を悪魔のリングに喰わせる事。

精神とは理性、自分を自分たらしめる枷を崩壊させ、全てを力に注ぎ込む悪魔との契約。

 

雄たけびを上げる幻騎士は、自身の中でくすぶる感情を叫びだす。

 

「ぬぅ、力が溢れてくる……だが、なぜだぁ、なぜ認めてくれぬ!!なぜトリカブトが霧の真6弔花なのだ!!俺の方が優れているのに!!神を!!白蘭様を守る霧の守護者は!!誰より俺が適任だというのにいぃ!!」

 

先ほどまでの、普段の幻騎士から考えられないような魂の叫び声。驚く面々だが、それはヘルリングに精神を喰われた証拠。周りが見えていないかのような叫び。

 

「俺は今虫の居所が悪い!!ギッタギタにぶっ殺してやる!!」

 

本当に同一人物かという程の言葉遣い。見た目の凶悪さとその言葉は、本当の死神のようでもあった。だが対峙する山本はには恐怖という感情は全く見えなかった。

 

「……いいことを教えてやる。沢田綱吉に負けたのは俺の実力ではない。あの時は奴の瞳に惑わされ、半分の力も出していないのだからな!!」

 

つまり、今の幻騎士の実力ツナと戦った時の倍以上は高いと言っている。

その言葉に最初に同意した、観戦室のリボーン。

 

「まんざら嘘じゃねーぞ。あん時の幻騎士は明らかに動きがおかしかったからな」

 

思い出されるメローネ基地でのツナと幻騎士との戦い。相手を情に訴え罠にかけるような卑劣な手段を用いたが、鈍る動きを補うためだったのかもしれない。いや、本心からだったのかもしれない。

 

どちらにせよ、純粋に戦闘できる状態でなかったのは確かだ。

 

「そうだな。幻騎士なら綱吉との戦いに罠で嵌めるより、普通に戦った方が強いだろうしな」

 

ソファで寝転がるルイも同意する。あの時の戦いを見ていたのは、リボーン、入江正一、そしてこっそりと覗いていたルイと実況を聞いていた光努とリルとコルのみである。だからこそ、リボーンの言葉に同意もする、コルも同様の意見だった。

 

「ツナとの戦いは、戦い方がいつもの幻騎士と違うっていうのもあったけど、それ以前に思っていた以上の動きに見えなかった。キレがないし、無駄が多い。冷静じゃなかったことを差し引いても、どう考えても全力じゃなかったのは目に見えていた」

 

同じ剣士だからこそ、剣のわずかなブレや動きで、その者の実力なのか、それとも手を抜いているのか、あるいは全力が出せていないのか。おそらく違和感のような物が渦巻いていたのだろう。

 

「山本殿は大丈夫でござろうか?」

「大丈夫じゃない?凶悪に凶暴に力が倍加してもう勝てない、なんてこと、武は全く思ってないみたいしね」

 

モニターに映る山本の表情は、不適に笑い、小刀を三本片手の指で挟み込み、もう片方の手で長刀を握り構える。

 

なにも恐れることはない。最初に戦った時の自分ではない。

 

「そうこなくっちゃ、面白くねーって」

「うぬぅ、減らず口の青二才が!!剣撃と幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)の二重攻撃を喰らえ!!」

 

太刀筋を分散させる幻剣による剣撃と、実態のある爆発性の幻海牛の攻撃。全身の鎧と剣から霧の炎を噴き出す幻騎士を見て、山本は雨犬の次郎をボンゴレ匣の中へと戻した。成長性は高い次郎だが、形態変化できるのは雨燕の小次郎のみ。戦闘は基本的に山本が行い、そのサポートに徹するのが雨のボンゴレ匣。次郎を匣に収納した山本は、長刀を構える。

 

幻剣を振りぬく幻騎士の剣撃は、霧の刃となって幾重にも山本へと向かう。

同時に、幻海牛によるミサイルを間に挟むように生成し、宣言通りミサイルと剣撃の二重攻撃が行われた。広範囲にわたる攻撃とその威力は雷の炎で硬化されたビルに着弾し、罅を作り、瓦解させる程。おそらく一つでもまともに当たれば致命傷になるだろう。

 

その中で山本は、静かに呟いた。

 

「時雨蒼燕流、守式四の型、五風十雨(ごふうじゅうう)

 

瞬間、山本の姿が掻き消え、先ほどまでいた場所に剣撃とミサイルの被弾による激しい爆発音が鳴り響く。本当に消えた、そう思うようだが、消えたように見える程、超高速での移動。

 

五風十雨は相手の呼吸に合わせて剣を躱す回避奥義。

中学生とはいえ熟練された山本の技は、ボンゴレ匣の推進力を足されることで幻騎士の剣撃をすべて寸分たがわず回避して見せた。

 

だが幻騎士は、己の姿を10に分身させる事で、さらに剣撃を増やした。10倍の斬撃と幻覚のミサイル。

 

究極幻剣舞(エクストラダンツァスペットロスパダ)!!」

 

全てを切り刻み、飲み込むかのような幻覚と斬撃の嵐。容易にビルの壁面コンクリートに傷をつけ、山本へと迫る。いくら山本へといえど、全て避けるのは難しいかもしれない。

 

だが山本は、怯むことなく小刀から雨の炎を噴き出し推進力にし、真正面から剣撃の中へと飛び込む。

 

「時雨蒼燕流、総集奥義!」

 

握る刀に力を籠め、決意の瞳と共に剣撃の嵐を突き抜ける。

 

山本がスクアーロとの修行によって生み出す新たな力、新たな技。

 

湖のような澄んだ純度の高い、蒼炎の雨の炎。

 

剣を選んだ山本の覚悟は、その剣と炎を次の段階へと押し上げた。

時雨蒼燕流をわずかな期間で取得し、瞬く間に新たな型を生み出す山本の才気は並みの物ではない。野球と両立することもできたが、この時代限定とはいえ、その才と努力を剣のみに注いだ成長力は、爆発的だった。

 

蒼い刃を振り払い、時雨金時から大海のような炎が吹き渡った。

 

 

時雨之化(じうのか)!!

 

 

その瞬間、あたりは静寂に包まれた。

全ての時が止まったかのような、そこには何も存在しなかったような一転した静謐さ。

 

だが確かにそこにある。飛び交う霧の斬撃も、幻騎士の匣から現れた実態ある確かなミサイル群も。一瞬の間で起きた違いは、そのどれもが、止まっているという点。

 

 

正確には、限りなく停止に近いほどにゆっくりとした動きになっている。

 

 

純度の高い死ぬ気の炎を纏う匣兵器は、その炎の特性を強く反映させる。

 

雨属性の特性である〝鎮静〟は、その動きを、移動を、全てを鎮める。

 

時雨之化は、山本の持つ形態変化した長刀と、小刀3本を用いた奥義。全ての雨の炎の刃を振るい、相手の攻撃にぶつけ、その動きを停止へと近づけた。

 

それだけの力を持つ匣兵器も驚異的な力を持つが、それを操る山本の剣技があってこその奥義。ただの使い手ではこうはいかないだろう。剣撃を止められた幻騎士は、驚愕の思いだった。

 

「おのれ、小癪な!!あのガキどこへ消えやがった!!」

 

山本を探そうと前へ出ようとするも、目の前にあるのは自身が放った霧の斬撃。硬度の低い霧の炎とはいえ、幻騎士がヘルリングによる戦力倍加を行い、渾身を籠めて放った連撃。当たれば一撃必殺たり得る威力を発揮するが、止まってしまえば無駄に硬い邪魔な壁でしかなかった。

 

「く、己の剣撃が邪魔になるとは!!分裂していてはパワーが足りぬ!!どこだ!!」

 

分散すればそれだけ攻撃の幅が大きくなるが、その分自身の炎を分け与える分攻撃力が低くなる。むろんそれでも十分に高いが、自分で打った剣撃を破壊するには分身のままでは心もとない。自分以外の9の分身を全て集めて剣撃を破壊しにかかる。

 

 

「確かに俺はあんたに一回負けた」

 

 

声が聞こえる。強い意志を秘めた声音。

 

幻騎士が声の方へと向けると、剣撃の中を突き進む一人の影。雨の炎を推進力に、長刀を構える山本の姿が、そこにはあった。

 

「だがそれは俺の未熟のせいで、親父のくれた時雨蒼燕流はいつだって―――」

 

 

完全無欠、最強無敵だ!!

 

 

真正面から向かってくる山本に愚かだと思いながら迎え撃とうとする幻騎士。だが思うように体が動かない。それどころか、山本の速度は先ほどより格段に速くなっていた。いや違う、

 

「奴が早いのではなく、俺が遅いのだ!!」

 

足元を見れば、剣撃を伝って雨の炎が、足元から幻騎士に浸透していた。

停止に近づいた剣撃同様に、幻騎士の動きは剣撃程極端に止まってはいないものの、その動きは明らかに遅くなっていた。もはや、山本の真正面からの攻撃も、避ける事すらできなかった。

 

「ゲゲェ!!」

 

空を突き抜ける一筋の彗星の如く、雨の炎が一閃する。

 

己の流派の名を守る為。己の力の無さの敗北の雪辱を果たす為。

 

そして仲間と共に、勝利を手にする為に。

 

 

 

時雨蒼燕流攻式八の型、篠突く雨!!

 

 

 

剣を振りぬく山本と、背後で消える霧の炎。

切り裂かれた幻騎士は、その凶悪な姿を元に戻し、霧の炎が解除されて倒れ伏す。

己の剣を振り切った山本は、静かに笑みを浮かべた。

 

(やったぜ、親父)

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

(ふん、まずまずだなぁ)

 

山本の勝利に、スクアーロは口には出さないが、口角を上げる。

多少の時間とはいえ、自分が修行をつけた弟子のような物。口に出せばディーノ辺りがからかいそうなので何も言わないが、内心では楽し気に笑っているのであった。

 

「ほんと、中学生とは思えないよね」

 

ぽつりと呟くような声を、スクアーロは聞いた。

モニターを見ているコルはいつも通り無表情にクールな印象だが、その瞳はどこか好気的に、どこか楽しそうに。内心では抑えられないような闘争心がわずかににじみ出ていた。コルにしては、珍しい光景に少しスクアーロも驚く。

 

(はっ、あいつも面倒なのに目をつけられたなぁ。ま、過去に帰れば関係ねぇことだけどなぁ)

 

瞳を閉じて笑うスクアーロ。コルはこの時代の人間。そして山本は10年前の時代の人間。この時代の山本もスクアーロと互角以上に戦える剣豪だが、この時代で成長した10年前の山本と比べればどちらが強いだろうか。

 

同じ時空で同じ人間が出会うことがないので、叶わぬ戦いであろう。

願わくば、今の時代が白蘭の支配の時代でなければ、大手を振って剣の戦いを申し込めたのかもしれないが。この時代だからこその成長も、また事実。

 

「幻騎士、トリカブト、捧日。敵3人を撃破した今、残るミルフィオーレ側の兵士ユニットは桔梗、アランの二人か。状況としてはこちらが優勢だな」

「こっち側はまだ誰もやられてねーしな。確かに順調と言えば順調だな。だが……」

 

順調すぎる、というのがリボーンの気がかり。

それだけならいいのだが、何か見えない手に引かれているような気がしてならない。気のせいだとよいのだが。

 

おそらくミルフィオーレ側の大将は前線に出てこないだろう。入江の放った(デコイ)はミルフィオーレ2チームによりほぼ破壊されたが、残りだけでも戦っているアランは別として、桔梗を惑わすくらいは機能するはずだ。その間に、空いたこちらの陣営で敵の大将を仕留める。

 

「そういえば、アランはどうなった?確かリルといなくなったが」

 

ボンゴレ側の観戦室であるため、基本的にいくつかの戦闘が行われていたらボンゴレ主体で映されるので、イリス側は少し映らない場合があるので疑問に思ったディーノだが、隣のコルが呟く。

 

「大丈夫だよ、ディーノ」

「コル?」

 

モニターに向ける視線。画面上に、ひらりと何かが通り過ぎる。

 

「あれは、紅い……花びら?」

 

一面に、紅い花びらのようなものが画面を横切った。瞬く間に、視界を埋め尽くすような赤い花吹雪。滞空する山本も、上空から降り注ぐ紅い花びらに、思わず目を引き付けられた。

 

「奥義の壱が、紅い桜の嵐が吹いた。もう、終わってる」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

目の前には、青い青い雲が適度に浮かぶ晴れの空が見える。

同時に、空を彩るような真紅の花びらが見える。

しかし目の前を通りすぎるそれにかすかに触れてみると、瞬く間に霧散してしまった。花びらに酷似していたが、それは小さな嵐の炎。なぜそんなものが視界に見えるのか疑問に思ったが、すぐに先ほどの光景を微かに思い出し、納得する。

 

「そうか。私は、負けたようですね」

 

自身の腕には粉々に破壊された手甲グローブ。倒れて動かない自分の体はビルの屋上に投げ出され、傍らに転がる灯玉は、中ほどからきれいに切り裂かれ、破壊されていた。

 

死神、アランは瞳を閉じて深く息を吸い、深く吐く。

 

体を起こすが、手のひらには壊れた匣があるのみ。風にさらされ、破片が空へと舞った。

 

やれやれ、という風に思ったが、背後でコンクリートを踏みしめる軽い音が聞こえたのでそちらを振り向くと、少女はこちらを向いてた歩いてきた。ビルとビルの間を渡ってきたのだろう。

 

刀を納刀した状態で歩き、屋上に座るアランの隣にしゃがみこむ。

 

「大丈夫アラン?多分大怪我はしてないと思うけど」

「はは、確かに軽いけがはありますが重傷はないです。やられておいてなんですけど助かりましたよ、リル。加減してくれたのでしょう?」

 

艶やかな黒髪を揺らす少女、リルはざっとアランを見たが、特に重症があるわけでなく、匣含めた武具が壊され軽い裂傷があちこちにあるのみ。自分で攻撃しておいてだがほっとするのだった。

 

夜ノ型壱(コードワン)紅桜(べにざくら)

 

壱ノ型は奥義の型。

嘗て、この変則二刀流の剣刀術の元となった2つの流派の片割れ、刀を主に使う一刀の剣士が使ったとされる奥義の一つ。その正体は、神速の抜刀術。

 

抜刀術とは、鞘に刀を納めた状態から一気に抜き放つ剣技。達人ともなれば、相手に抜かせたことすら気づかせず、対象を斬り捨てることも可能。リルの使った抜刀術は、さらに炎も応用した上位版。

 

嵐の炎を刀を納めた鞘の中で圧縮させ、まさに密閉された空間に炎を詰めたかの如く爆発させ、神速の抜刀を放つ奥義。その威力は通常の抜刀術よりはるかに強大。さらには、凝縮した嵐の炎の威力により、自身の周りの空間すらも切り裂き、嵐の刃は遠くの標的を圧倒的な破壊力で切り裂き、納刀する。

 

その際、爆発的に広がる火の粉が桜の花弁のように見えたことから、紅桜の名前が付いたと言われている。

 

 

嘗て、初代イリスと共に過ごした4人のファミリーの一人だった剣士は、この技によって

真紅の刃を打ち出し、目の前に迫る脅威を刀の一薙ぎで切り払ったと言われる。

 

 

近接での威力が最も高いが、そのままやれば相手を斬り捨てる恐れがある為、距離をとったことと、それによりアランの最大攻撃力の技を引き出してぶつけ、威力を軽減させた。だがそれでも高い威力。匣は大破し、アランもしばらく動くことはできないだろう。

 

「さてと、じゃあ私は下に戻るけど、アランは安静にね」

「はは、この状態では動けないですよ」

 

割とマジで相手を倒す気だったこの二人だが、終わってしまえば友好的。

元の知り合いだろうが基本倒すことに躊躇いの無いのは流石マフィア同士といったところだろうか。しかしそれで加減をしようと考えるとは、甘いのか甘くないのか微妙なところである。

 

「あ、そうだアラン」

 

そういって唐突に思い出したようなリルは、懐から取り出した物体を手ではじき、緩やかに弧を描いて仰向けに倒れるアランの腹の上に乗せる。

 

ちらりと首を動かしてみてみると、黒びかりする腕輪のような物だった。

 

「それ、一応持っておいてね。念の為」

 

意味深な言葉を残しつつも、無言で同意を示すアラン。

動けないアランをその場に残して、リルはビルから宙へと踏み出し、山本の元へと降り立った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

山本の剣を受けた幻騎士は、コンクリートの上で倒れ伏していた。

纏った鎧はところどころ砕かれ、満身創痍な体は指一本と動かせる状態じゃなかった。

 

山本に受けた一撃が強力であったというのもあるが、同時に雨の炎による鎮静作用と、ヘルリングに精神を喰わせた為に起こるダメージも深刻だったのだろう。

 

だが山本も、命は奪わないように打った。

マフィアだけど、人殺しではないのだから。

放っておいても、傷が原因で死ぬ心配はないだろう。

 

幻騎士はその選択に甘いという、この時代の剣帝スクアーロと同じ感想を持つが、今は

大人しく負けを認めるのだった。だがその瞳の意志は不動の岩の如く揺るがない。

必ず与えられた任務は遂行するという固い意志を秘めていた。

 

『強運ですね幻騎士。我々は、ミルフィオーレ一の剣士を失うところでした』

 

唐突に幻騎士の通信機から聞こえる冷静な声音。

ミルフィオーレパフィオペデュラム隊、雲の真6弔花、桔梗。

 

『あなたの話は聞いています。ミルフィオーレ結成の立役者であり、白蘭様の影の右

腕。あらゆる隠密作戦を成功させ、今回のような重要な戦いには必ず最前線に収集される、白蘭様が最も頼りにする男』

 

通信機越しに、幻騎士を賞賛するように言葉を並べる桔梗。

 

皮肉などは含まれない、当然の事実として述べる言葉。

 

最終的には作戦は成功ではなく少々変更になったが、幻騎士がいたからこそ、マーレリングが手に入り、ジェッソファミリーとジッリョネロファミリーが統合されたと言ってもいいかもしれない。そう考えると、ミルフィオーレ結成の立役者というのも誇張でなく、さらには白蘭の懐刀として、メローネ基地でも入江のサポートを任され最終防衛ラインを務める信頼と実力も備えている。

 

これなら確かに、幻騎士が影の右腕というのも納得。

幻騎士は倒れ伏しながらも当然だとばかりに、白蘭は全てを見通し、自分こそ奇跡を与えるにふさわしい人間だと信頼していると、語っている。

 

だが、それを聞く桔梗の口元にはその言葉にではない、幻騎士に対し嘲るように、薄く笑みが張り付けられていた。

 

 

パキ!

 

 

突如幻騎士の耳に響く乾いた音。

何かが割れるようなその音は次第に数を増していき、音源を探る幻騎士は瞳を見開いた。

 

自身の纏う霧の鎧に罅が入り、無数の植物が顔を出している事に。

横目で見てわかる紫色の雲属性の炎が纏われた植物。そしてそれを見た瞬間、幻騎士はこの植物を仕掛けた人物を理解した。

 

今まさに、通信回線で幻騎士と会話をしていた男。

 

『ハハン。悪く思わないでくださいね。役に立たぬ時はいつでも消せるよう、雲の炎で増殖する雲桔梗(カンパヌラ・ディ・ヌーヴォラ)を鎧に仕込んでおいたのです。白蘭様の命でね』

「!!白蘭様が!?嘘をつくな、桔梗!!」

『嘘ではありません。白蘭様のお考えです。あなたを猿として扱う時から指示されていたのです』

 

驚愕する幻騎士に、涼しい顔と声音で語り掛ける桔梗。

それに対して、白蘭と通信し確認したいという幻騎士は、ルール上選手と観覧者の接触を断つチェルベッロによて、無情に聞き届けられなかった。

 

その時、上空にてその光景を見守っていた幻騎士を倒した調本人、山本武は、固唾をのんで見ている中で、隣にリルが降り立った。

 

「今の状況、幻騎士倒したみたいだけど、あの雲の炎は誰の?」

「リル!いや、俺も分からねぇ。幻騎士の幻覚じゃねぇし、雲の炎なら………さっきのアランって奴のか?」

「いや、あの草はアランの物じゃないよ。アランの炎は既に切れてるし、考えられるとしたら………同じチームメイトの雲の守護者、桔梗」

 

じっと視線を鋭くして考察するリル。

このチョイスバトル内で参加する雲の炎を持つ者をたどり潰していけば、必然的に答えを見つけるのはそう難しくない。

 

アラン・バローと桔梗の二人。

 

ちなみに光努と獄寺の二人も雲の炎を灯せるが、当然の如く選択肢には入らない。

そして幻覚を見せる術士が両方倒れている以上、現実に炎を出せるのは現段階で無傷な桔梗くらいだ。

 

しかし不可解なのは、なぜチームメイトに対して自身の、おそらく匣兵器を使っているということ。

 

(了平の晴ゴテみたいな治癒目的の匣ならわかるけど、雲の匣兵器でそんな匣はあまり聞いた事がない。それになんとなくだけどミルフィオーレ的にはチームメイトを回復とかし無さそう。ていうか見た目明らかに苦しんでるし、それで倒れた仲間に使うとしたら目的は………幻騎士の始末)

 

その結論に至った瞬間、リルはその場を跳び出して幻騎士のそばへと降り立った。

 

「幻騎士!」

「がっ、ぐああぁあ!!」

 

そばに来たリルは苦しむ幻騎士を見て刀に触れようとした手を止めた。

 

(桔梗の葉の浸食が思ったより広がっている!これだと私の刀じゃ幻騎士ごと燃やしちゃう!)

 

リルの刀は良く斬れ、高純度の嵐の炎は対象を圧倒的な分解力で燃やし尽くす。

桔梗の葉を全て斬ろうと思うと、おそらく幻騎士事斬りつける。さらに全てを取り除こうとして燃やそうとするならば、これも幻騎士すら燃やしてしまう。

 

「リル!幻騎士は大丈夫か!?」

 

リルが飛び出したのを見て、山本も隣に降り立つ。

だが横たわる幻騎士を見て、表情を複雑に歪ませた。

 

そして覚る。

 

おそらく、自分にできることは無いのだと。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

―――ねぇ、幻騎士君。神様って、無情だと思わないかい?

 

 

体内をかき回されているような激痛の中で、幻騎士は過去の記憶を思い出していた。

わずかなフラッシュバックのような音と映像。もしかしたら、これが走馬灯という物なのかもしれない。そう幻騎士は感じていた。

 

数年前、一流の剣士である幻騎士は剣の修行の遠征中、立ち寄った街で流行していた病に侵された。

 

それだけでも不運な事なのだが、さらに絶望的な不運という要素が二つ。

 

一つは、発症してから進行が速い急性疾患だということ。

既に2日たっただけで指先一つ動かすことができず、ただ寝転がって瞳を動かす事しかできなかった。

 

そしてもう一つが、この病が現段階で治療法が確立していない不治の病だという事だった。

 

残りの時間を、体一つ動かせずに、ただただ死を待つだけだった幻騎士。

そんな時に、白蘭は現れた。

 

 

―――神様って無情だと思わないかい?決して、いい行いをした者を長生きさせるわけじゃない。

 

 

その場所が不治の病原菌に侵された隔離スペースだというのに、まるで道端で世間話でもするような格好と表情と声音の白蘭の言葉。

 

幻騎士がその言葉に耳を傾けたのは、動くことが一切できずわずかな五感が残っているのみだったからのと、幻騎士自身も、自分にこの境遇を与えた神を呪う程の悲しみと憎しみを抱いていたからかもしれない。

 

 

―――だけど、僕が神ならそんなことはしない。僕は尽くしてくれた子には、それだけの見返りをしてあげるよ。

 

 

そっと幻騎士に近寄る白蘭は、誘惑するような声色の言葉を紡ぎ、静かに語る。

 

 

―――君の病気を治してあげよう。後は自分で考えなよ♪

 

 

その後、幻騎士の身に奇跡が起こった。

体がボロボロと崩れ落ちそうな激痛と出血、病原体の作用で体一つ動かせなかったというのに、まるで夢だったかのように全てが消えた。

 

あろうことが、自分の意志で起き上がり、ぐるぐると撒かれた包帯を外せば、そこには先ほどまで死へ向かうだけだった己の肉体が、生気を帯びた健康な状態で目に入った。

 

 

白蘭は、その時代に存在するはずの無かった不治の病の治し方、ワクチンを幻騎士に授けて救った。

 

 

幻騎士は悟った。

 

一時は自分を病に陥れた神を呪ったが、自分の主は他にいたのだと。

その日より、幻騎士は力のすべてを新たなる神、白蘭に捧げ、絶対の主として忠誠を誓った。

 

そして神の為、あらゆる任務を遂行したのだった。

 

幻騎士は白蘭を信じ続ける。

 

 

 

たとえ後に白蘭が、幻騎士を裏切る事になろうとも。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ぐあぁ!白蘭様が俺を殺すはずが無い!!図ったな、桔梗!!」

 

この状況でなお、桔梗の言葉を信じず白蘭を信じて疑わない幻騎士。

 

彼は恐ろしく純粋だった。故に、命を救われた白蘭を慕い忠誠を誓ったが、その純粋さは白蘭によって黒く染まり、見えるはずの真実に曇りをかけてしまう。

 

白蘭の創造するゲーム盤の上には、すでに幻騎士という駒は存在していなかった。

 

小さな器は白蘭の命じるまま想うように動くが、簡単に掌で割れる。

 

観覧席から幻騎士を見る白蘭の表情には、悪魔のように笑みが浮かばれていた。

しかしそれでも、幻騎士は白蘭を信じて疑わない。死の病から生還した時のように、自分に奇跡を与えてくださると。

 

既に動く事すらままならぬ、激痛が全身を駆け巡る。まるで嘗ての病のような光景だったが、不思議と幻騎士は穏やかな心境だった。

 

 

死の恐怖など、もう怖くない。

 

 

一人剣の修行に明け暮れていた昔とは違って、幻騎士は悲しむことも、憎むこともしなかった。なぜなら、自身の心に根付く柱の存在があったからこそ。

 

自分には、神がついているのだから。

 

 

「ならそんな神、天上から引きずり降ろして俺がぶん殴ってやる」

 

 

その瞬間、山本とリルと幻騎士の視界は、澄み渡るような純白の光に染まった。

 

 

 

 

 

 




【チョイス戦況報告】

ツナVSトリカブト→勝者ツナ

光努VS捧日→勝者光努

山本VS幻騎士→勝者山本

リルVSアラン→勝者リル


残存勢力

【ミルフィオーレ】
デイジー(目標)、桔梗
緑鬼(目標)

【ボンゴレ・イリス】
入江(目標)、スパナ、ツナ、獄寺、山本
光努(目標)、リル


残存勢力は皆ほぼ無傷!
戦況はここからが佳境だぁ!
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