「あー、このままじゃラチが明かないな。XANXUSよー、どうする?」
飛び交うGHOSTの、炎を極限まで暗い尽くす光を避けて防ぎながら、光努はいつの間にかXANXUSの隣んい来ていた。相も変わらず、威風堂々と仁王立ちし、人を射殺せそうな眼光で、目下の邪魔者であるGHOSTを睨みつけている。
しかし、光努の問に対してちらりと視線を寄越すが、特に何かしら反応するわけもなく再びGHOSTの光を避ける作業に入る。そんな態度に光努はわずかに肩をすくめながらも、XANXUSの気持ちもわからないでもないと思う。
立ちふさがる敵は全て己の力によって排除してきた。なのに、眼前の敵とも言いが痛いような揺らめく幽霊に対して、自身では持てる手段が無い事を痛感する。
(まあそれ以前に9代目とかツナにも氷漬けにされたけど、それ言ったらまた面倒だし黙って居よう)
基本誰に対しても、良くてフレンドリー、悪くて無遠慮な対応の光努だが、明らかに逆鱗と分かり、その結果がすごく面倒くさくなると言う事なのでこの場はとりあえず空気を読んでXANXUSには何も言わないのであった。その為、作戦立案の矛先を、自分以外に3人いるリーダー格の一人だる桔梗に声をかける。ちなみに3人目は骸だ。
「桔梗!ほら、GHOSTの対処方法とか聞いてないのかよ!いざって時の自爆装置とかさぁー」
「ふざけるな!そんな物があるならとっくに使っている!」
「なんか好きな食べ物とか無いのかよ」
「白蘭様に紹介された後にマシュマロを与えてみたが無反応だったから餌付けは無理だな」
「そうか、マシュマロでも無理か」
当然の反論。むしろ桔梗の怒りは、光努のあっけらかんとした態度に対して向いている。
そんな会話を横で聞きながら、XANXUSが小さくため息を吐いた。おそらくXANXUSがしたという事もあり意味合いは激変するだろうが、弱音にも聞こえるような溜息を吐いた
XANXUSにしては珍しい動作に、乱戦の中でもXANXUSに視線と注意を向けていたレヴィが最初に気づく。そして次に、先ほどの話しかけた光努も気づいた。
「ちっ、しょうがねぇ。おいカス共、あれをやる」
その言葉に、地面で光を躱していたレヴィ、木の上で様子を伺うベル、そして骸の前で棒読みで「お助けー」とか宣っていたフランの三人がピクリと反応、そして差はあれど驚きの表情に染めた。
「ボ、ボス!本当か!」
「マジで!?本気かよ!」
「よく知らないですけどー、ボスー、マジですかー」
一人ノリで驚いただけのようだったので骸は背後から弟子の頭蓋に拳を振り下ろしておく。
そんなコントは放っておいて、光努も一体何のことだが分からないが、XANXUSは両手に握りこんだ二丁拳銃をホルスターに閉まった。
武装解除、などではなく、これは準備段階だ。XANXUSがこれから行う、ある種奥義の。
レヴィが、混乱を無視して、全員に聞こえるように声を荒げる。
「全員、ボスに向かって炎を放て!」
その言葉の意味を理解できたものが、どれだけいただろうか。
よもや攻撃しろという血迷った言葉に、敵であるはずの真6弔花でさえ訝し気な面持ち。隠そうともしない驚愕の雰囲気。
だが、その中でおそらく本来なら敵対側の骸も、神妙な面持ちをしていた。
「まさかXANXUS、あれをやるというのですか?」
「骸知ってるのか?」
光努の言葉に、骸は冷や汗をわずかに垂らしながら会話に応じる。この辺り、XANXUSと比べたら骸の方が社交的だ。人心掌握を圧倒的な力で行うか己のカリスマ性で行うかの違い。一応言っておくと、どちらも頂点に立つという資質は備わっているが、その中でも個人で抜きん出たのが前述の二つという事である。
「一度だけ見たことありますが、凄まじいです。嘗て僕の渾身のパイナップル爆弾が粉砕されました」
「な!骸のパイナップル爆弾がだと!?」
「しかしあれはもう二度と使わないと思っていたのですが、まさか」
「るせぇ!黙ってろ」
ぎろり、と擬音が付きそうなXANXUSの絶対的な言葉に、普段なら微笑で躱す骸も思わず黙る。それだけに、XANXUSの奥の手が凄まじいという事だろう。
嵐の炎、雨の炎、雲の炎、霧の炎、晴の炎、雷の炎。
GHOSTの光をよけながらだが、皆思い思いに己の炎を振り絞り、GHOSTに奪われるくらいならとXANXUSに集めた。そしてXANXUSは、手に出現させた光球状の光に、その炎をぶつける。
まるで星の爆発を見たようなその光景に、光努も思わず目を見開く。
「あれって確か憤怒の炎だったよな。骸、XANXUSは何してんだ?」
「……本来ならXANXUSは自分で編み出したあの技を決して使いたがりません。技自体の威力は絶大ですが、それに反してあれを使う行為自体が、XANXUSにとって屈辱的に当たるからです」
「どういう事だ?」
「理由は2つ。1つは、あれが他者の炎を同時に使い発動するという事」
なるほど。
個人至上主義、絶対的な王座に君臨するXANXUSが、弱者と罵る他人の力を使うのはさぞ屈辱的だろう。普段の彼ならば、絶対にやろうとしない選択肢の一つ。およそ連携をせず、相手に合わせろと宣う暴君らしいが、今はその権威を曲げているのは確かに不思議だ。
しかし、骸にとっては、その事よりも、次の要素の方がXANXUSにとってより屈辱的だと感じていた。
「もう一つは、あれが沢田綱吉の零地点突破改から着想を得て考案した技だという事です」
「あー……」
珍しく光努も言葉に詰まるが、確かにそれは、XANXUSなら絶対に使いたくなさそうな技だと思った。
XANXUSの中にある抹殺フォルダの最上位に君臨するツナの技をヒントにしたなど、彼にとっては度し難い事だが、今はその事に目を瞑ってでも使用するべき、切羽詰まった状況だという事だろう。
普通に攻撃が当たらず、XANXUSの苛立ちが最高潮だというのも理由の大半だと思うが。
「あああぁぁあぁ!」
XANXUSの手に現れた光球が、己に迫る炎を吸い込み、その力を増大させていく。手のひらに収まるソフトボール大だったにも拘わらず、バスケットボールを超え、大玉と呼べるレベル、直径2メートルはあろうという球体を手に、XANXUSは頭上に掲げた。だが、その大きさは肥大するばかり。
「あれは、炎の球!?」
「ええ。今周りから奪い集めて、己の暴力で強制的に支配下に置き、高密度に圧縮されたあの炎は、燃やすなんて生温い、全てを破壊する煉獄の業火に等しいです」
見れば、XANXUSの頭上の光球は、すでに20メートルを超えていた。
まるでそこに、もう一つ太陽が出現したような熱量、炎。あのGHOSTの触手が、炎を奪い切れていない。
XANXUSは、両手を掲げて支える巨大な太陽を、全身全霊の勢いで振りぬいた。
「うおぉおらぁ!死ぬ気玉ァァ!!」
「ちょっとXANXUSそのネーミングやめない!?ていうかそれがしたかっただけか!」
珍しい光努の突っ込みむなしく、落とされた炎はGHOSTを押しつぶした。
声にならない悲鳴を上げ、溶けて混ざりあい、GHOSTはその存在を消滅させるのだった。
「ふん……ドカスがぁ」
後に残ったのは、森に隕石でも落ちたのかと見間違うような黒く焼けた匂いの残る、クレーターのみだった。
というのは冗談で、次からGHOST覚醒後の本編再開します。
すいません、ついエイプリルフールなので、ほんの出来心でジョークを噛ましたくなりました。
「おや、クローム。無事で何よりです」
「む、骸様!?」
木々に囲まれた森の中で、今まさに戦闘が行われている前線へと出てきたクロームは突然声を掛けられると同時に、おもわず声が裏返る。
唐突な呼びかけというのもあるが、その人物が自身の最も敬愛する六道骸、しかも最後に会った骸よりも10年成長した大人になった姿。白い頬を朱に染め、瞳をキラキラとさせてクロームは骸を見ていた。今クロームの瞳には無駄に美化200%くらいのフィルターが掛かって見えている事だろう。見つめ合っている二人の背後に色とりどりの花でも見えそうな気がする。
「クフフ。再開を喜びたいところですが、今はGOHSTが覚醒し状況が状況です。霧のボンゴレリングとボンゴレ匣をお借りしても?」
「あ、はい!」
穏やかに、まるで紳士の手本のように柔らかく話す骸に、クロームは鳴り響いていた動悸を落ち着かせ、自身の指に嵌った霧のボンゴレリングを骸へと手渡す。
旗から見れば中々に優雅な光景だが、現在進行形で骸の背後では覚醒したGHOSTの触手と光努の白鴉がせめぎ合い、真6弔花もヴァリアーも皆獅子奮迅の回避劇を繰り広げていく
まさに乱戦状態。実際は戦っているわけでは無いのに乱戦とはこれいかに。しかしながらクロームの瞳の中には目の前に骸が映っているだけであり、まったくもって気にしない。
背後で骸の弟子であるフランがGHOSTの吸炎性の触手を受け止め、炎を吸われて棒読みで「お助けー」と静かに叫んでいるが、骸もクロームも普通にスルーしているのは内緒である。
ちなみにフランは棒読みで声色は平気そうだが、幻覚で構築されている被り物が炎を吸われると同時にしおしおと萎れていくので、確実に放っておけば危ないのは確かであった。
するりと骸はリングを填めると同時に、クロームのそばに佇んでいた
「ムクロウ、
その言葉と共に、高純度の霧の炎を纏うムクロウは、その身の形態を変える。
丸く縁どられ、羽があしらわれた黒いレンズ。3枚の大小事なるレンズが、躯の瞳に合わさるようにして、空間に浮いていた。
初代霧の守護者の持つ武具を参考にして作られたボンゴレの技術の結晶。
そのレンズ越しに睨まれた物は、その身に呪いを受け、次の日には海に浮かんでいたという曰くの持つ。
実態の掴めぬ幻影と謳われた、D・スペードの魔レンズ!
その本質は、解析と分析。
直接的な戦闘用の匣ではなく、レンズ越しに見た対象の全てを暴く魔のレンズ。
骸は木々の隙間から、発光するGHOSTを魔レンズ越しに除く。澄んだ水を形にしたような透明なレンズに、GHOSTを映すと同時に次々と分析の結果がレンズ越しに浮かび上がる。
だが、その結果に骸は驚きを顕わにする。
「クローム、お前はGHOSTの攻撃に当たらぬように離れていなさい」
「骸様?」
「あれは戦うべき敵ではない。あれは生物というより、現象に近い」
言うなれば、自然災害がそこで歩いているようなもの。
魔レンズの分析結果を見て、骸はGHOSTの本質を見抜いた。だが、その結果導き出されたのは〝現象〟という言葉。
嵐に人はどう抗うか。
どうやって人の手で雨を止ませられるか。
人はどうすれば太陽が隠せるか。
骸が出した結論は、GHOSTは生物では無い。人の手の触れられない存在であるという事。
(これでは、手が出せない……まさに
背後で隠れるクロームを確認しつつ、骸の頬をたらりと冷や汗を一筋流す。
意志を発する事なく、感情をあらわにする事もなく、生気を宿す事なく、ただただその場で歩き続けるGHOST。
物理攻撃は全て透過し、炎による攻撃も全て吸収する。そうなっては、打つ手は存在しない。
「お、クローム。久しぶり。そんな所で何してるんだ?」
「!?こ、光努!ひ…久しぶり」
クローム、肩をびくりと震わせて、本日二度目の驚き。
まあ背後から気配を消して近づかれ声を掛けられたのだから、当然といえば当然だろう。GHOSTを見ていた骸もクロームの声に振り向き、光努の登場に少し、というかかなり驚いたようだった。てっきりまだGHOSTの近くで防御していたものとばかり思っていたらしい。現に、GHOSTの周りではいまだ触手を受け止める白い鴉の姿が複数見える。
「骸ー、GHOSTどうだった?それって確か見たら色々わかるんだろ。なんだっけ、虫眼鏡?スカウター?」
「人聞きの悪い事を言わないでください。魔レンズです。それより、これからどうするつもりですか?あのGHOSTとやら、人の手に負える者じゃありませんよ」
「師匠ーお助けー。暢気に話してないでミーの前で盾になってくださーい」
「光努ー!てめぇも早くこっち来て何とかしやがれ!」
「バーロォ!避けろ避けろぉ!!」
「ちょ!桔梗!あんたの恐竜邪魔よ!」
「やっべー!あの触手追ってくるんだけど!王子的にもこれやばくね?」
「炎吸われて疲れた。物理弾も通過するし、どうしようか。レヴィ盾」
「ふざけるなぁ!!」
「とっとと消えろ、ドカスが」
「ブルーベル!もっと離れないと危ないですよ!」
「ぬおおぉ!極限に危ないぞぉ!」
「あ、了平。曲がってくるからそこも危ないよ」
「コル殿!前から来てますよぉ!」
「「……」」
確かに暢気に会話をしすぎていた気がする。
光努、骸、クロームの背後からは、いまだ阿鼻叫喚となる戦場の声が多数聞こえる。もはやボンゴレもイリスもミルフィオーレも関係無く、皆が皆GHOSTの攻撃(?)に空を飛び交い大地を走り、木々を渡って躱し続けていた。
「それで、結局GHOSTって何なんだ?対抗策は?」
「無しです。通常の攻撃は効かず、この時代の根幹たるリングと匣の炎その物を吸収する力。これでは、我々に打てる手はありません」
奥歯をわずかに噛みしめた様に絞り出す骸の言葉は、この場で聞いていない者達も同意を示すだろう。
物理攻撃も炎も効かない以上打つ手なし。これで誰か超能力でも魔法でも使えるのなら希望はあったかもしれないが、当然ながらそんな事ができるやからは存在しない。
攻撃を当てる手段が無い以上、現状維持を続けるしかない。しかしそれも、回避するだけ。さらにはGHOSTはじりじりとだが、ユニのいる方角へと歩を進めている。
これではユニが捕まるのが早いか遅いかの違いでしかなかった。
絶望的な状況下において、光努は顎に手を当ててふむと、思案する。
「炎に白蘭似の巨人、GHOSTか。その魔レンズでもわからないと、どうするか。クロームどう思う?」
「え!?えっと……魔レンズの結果で無理なら、私では何とも……」
「案外、君ならどうにかできるのではないですか?白神光努」
「どうにかと言われてもなぁ。しかし炎を吸うとか、ツナとXANXUSの戦いを思い出すな」
「ああ、そういえばそんなこともありましたね。沢田綱吉の零地点突破・改ですか」
「そうそうその零地点突……破?」
「ええ、零地点……」
一瞬、二人の間で無言の空気が流れた。
思い出されるのは、10年前の大空のリング戦いにおいて、XANXUSの放つ炎の銃弾を、ツナが吸収し自らの糧とする技。
「「それだ(です)!」」
「え、どうしたの二人とも……」
突然の二人の叫びにおろおろとするクロームを無視し、光努と骸は一瞬辺りを見渡すように瞳を動かしたと思ったら、木陰で隠れる獄寺の姿を見つけた。
「隼人!今すぐツナを呼べ!」
「獄寺隼人!沢田綱吉をここへ呼びなさい!」
その言葉に、獄寺は驚いたようにしたが、すぐに通信を行う。
後半からここに来た光努、骸は通信機を持っていないので連絡は取れず、クロームも普通に通信機を持っていないという。
まあ今時点でこの場にボンゴレイリス側の人間は多数いるので、そこで通信に困らないのが幸いだ。そして、ツナが来れば一つの活路になるかもしれない。
炎を吸収するGHOSTに対抗できるとした、同じく炎を吸収する技を持つツナ。あくまで可能性であり絶対では無いが、やる価値は十分にある。あとはそれまで、持たせられるか。
「じゃ、ちょっと俺足止めしてくるから、よろしく」
「え?ちょっと待ってください光努。攻撃の効かないGHOSTにどうや……て、早いですね。ふむ……どれどれ」
いつの間にか隣にいた光努は、光続けるGHOSTに向かっている。そんな後姿を見て、骸は状況的にはおかしいが、興味本位で魔レンズを操作して、光努を映し出した。
走り続ける光努と身に纏われる白炎。映し出されたレンズには複雑な図形や文字が浮かび上がり、その解析結果を映し出す。それを見たとき、骸の瞳が驚愕に見開かれた。
(これは!絶え間なく炎の性質が変化し続けている。それだけではない、あの炎の衣だけでなく、光努自身の肉体にも白夜の炎が張り巡らされている!それにこれは、一体どういうことですか……)
周りの環境に揺さぶられ、瞬時にその性質を変質させ、最善を導き出す適応の炎、白夜の炎。その炎を全身に流し、全身に纏う少年、白神光努。
この状態を見てみれば、これまでの光努の馬鹿げた能力も少々だが納得しても良い気がしてくる。だが、骸が不可解と感じたのはその事だけではない。
(これはまるで、GHOSTの状態に一部似ている。己の肉体を現象へと昇華している?馬鹿な!?)
人が幽鬼の世界へを足を踏み入れる事ができるだろうか。この世界に顕現する物質足る肉体を、霧にして空気に溶かす事ができようか。不可能だ。
質量もエネルギーも完全に無視したような適応性。果たしてそれは適応と呼ぶのだろうか。もしくはある種、それを種の進化と呼ぶのかもしれない。
光努の腕が、眩い白光に包まれる。まるでGHOSTと同じような光、いや、纏われているという単純な話では無いのかもしれない。その腕そのものが、GHOSTと同じ状態へと向かっていく。
その結果がどうなるだろうか。
次元の違うGHOSTに攻撃が当てられない。なら、同じ次元に行けばどうなるか?
ドゴオオォ!
殴れない相手を、殴り飛ばせる。
「おらぁ!」
全てを受け止め、全てを透過するGHOSTが、胸の中央に拳を当てられて、初めてゆったりとしたその歩みを止めた。それどころか、わずか数メートルだが、背後に吹き飛ばされた。ふわりと体重を全く感じさせずに、地面へと音もなく着地するGHOSTは不気味としか言いようがない。だがこの場において、GHOSTよりもはるかに恐ろしい存在は、拳を当てたという光努の方だった。
「GHOSTを……殴った!?」
誰から漏れた言葉かは分からない。
だがこの瞬間、光努本人以外の全員は全く同じように驚愕に、まるで夢か幻覚にでもかけられたかのように錯覚させられた。
だがそれでも、GHOSTは再び歩みを再開する。敵対という意志など幽鬼には最初から存在しない。この場に存在するという時点で、世界への害は始まっている。
災いを振りまき害を与える。現象、災害とは、その場いるだけで害を与えるから災害なのだ。
光努、殴り飛ばした右手を握ったり開いたりしていたが、何か考えたのか再び拳を固める。
(なるほど、炎を吸収する炎の塊、それがGHOSTの正体か。これは確かに、現象と言ってもいいな。それに……こいつぁ半端だな)
自信の触れた感触を確かめるように拳を握りこむが、光努は一度触れて近づいた事でGHOSTの正体をおよそ把握したと同時に、骸の現象という言葉にも納得する。いわばここにいるのは、意思を持った炎そのもの。しかも、光努はその根本に根付く不可解な小さな火種に気づいた。
光努はくるりと首だけ振り返り、手近にいた骸に声を投げかけた。
「骸ぉ!朗報だ!ツナ呼ばなくてもいいかもだ」
その言葉に、骸のみならず、その場の全員に唖然とした驚きに包まれる。
その言葉が正しいなら、光努にはGHOSTの攻略方法が分かったという。それならば全員でやればいいのでは?と思う者もいたが、それは不可能だ。
そのやり方は、光努にしかできないやり方だから。
「つーわけで、天の狭間に消えな、GHOST。お前は人なのか幽霊なのか炎なのか、決めてやる」
人でなく、幽霊でもない、動く炎、GHOST。だが、光努はGHOSTと同じように、肉体を持たずに炎単体で意思を持って動く生物を知っている。己に纏う純白の鳥を。
べきりと己の右手の指を鳴らし、光努は地面を凹ませ、GHOSTの光を無視して特攻を仕掛けた。
「光努!」
「あ、あれは!白夜の炎が、
GHOSTの光から発生する触手は、触れるだけで炎を限界まで搾り取りとる。それは生物の根幹、生命エネルギーたる炎を奪う行為であり、その結果として炎を失った生物は死亡する。故に、ボンゴレ、イリス、ミルフィオーレの全員は、炎を無条件で漏れさせるリングを外し、炎で生きるアニマル達を下がらせ、直接自身の体に触れないように避けるか、間に間接的に何かを挟んで吸炎量を減らす。触手は一度触れればくっつくので、体に触れる前に自身の武器であったり、匣兵器だったりを間に挟めば、命の危機を回避できる程には吸炎量はかなり緩やかになる。
だが、あろう事か光努の纏う白夜の炎の適応性は、炎を奪う触手に対して明確に〝遮断〟という行為を実現させた。これはある種、GHOSTに適応した一つの対抗策であろう。もしも時間をかけたならば、逆に炎を奪い取る事も可能だったかもしれないが、その推測が来る前に決着が着く。
フィオーレリングから放たれた光が光努の腕を包み込み、まばゆい極光を生み出す。
誰もが目もくらむ中、一足で移動し、GHOSTの前へと瞬時に表れた光努は、己の腕を
GHOSTのあるかわからない心臓部へと突き立てた。
ズン!!
その光景に、だれもが目を見開く。
白神光努が、雷の巨人GHOSTへと腕を突き立てている姿に。
(GHOSTから感じた小さな炎の波動。あれは紛れもない、
GHOSTの正体は、白蘭の手によって別の平行世界から無理やり連れてこられてた元人間。
だが、一つの世界を滅ぼしてまで連れてきても、技術的に不完全な点はやはり多すぎた。故にGHOSTは人の形こそすれど、それは到底人と呼べるものではなく、全身が炎で作られた霞のような巨人に成り下がってしまった。
だがその形を保たてていたのは、世界と世界を移動するという無茶を成し遂げた際に生まれた、小さな適応の炎。白蘭も気づかなかったそのわずかな適応性があったからこそ、この場に立つ権利をGHOSTは得た。その権利を、光努はさらに増幅してやろうという。
適応の方向は、炎に。
「白夜の炎よ、GHOSTを戻してやれ!」
「――!!」
「!?……そうか、お前は」
ボオゥウン!!
一瞬の出来事だった。
いくら炎を吸収しても変化の無かったがGHOSTが、明確に膨れ上がり、次の瞬間、激しい雷光を迸ると同時に、その身を霧散させた。名も言わぬ、ただの炎として。
光努の流し込んだ白夜の炎が、人と炎の間で揺れ動くGHOSTを、炎としてこの世界へと適応させた。ゆえに、GHOSTは意思と形を手放して、炎としてその場で霧散した。
ちりちりとわずかに体を刺し続けるGHOSTの残骸に、光努の聴覚は消滅の瞬間、確かに消えるGHOSTの人としての叫びを受け止めた。
「そうか、GHOST。お前、平行世界の白蘭だったのか……」
唖然とした雰囲気に包まれている中で、上空に影が差したのに誰も気づかなかった。
それは天使か、はたまた悪魔なのか。