特異点の白夜   作:DOS

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『白夜の鴉と揺るぎない覚悟』

 

 

 

 

 

 

雲一つない快晴の空を、飛行機雲のような白い筋が通った。

雲ではない。純白の羽をふわりと羽ばたき、緩やかに滑空するのは、一羽の鳥だった。

すいっと、空気に乗って羽を広げ、目的となる場所へと降りて行った。

 

眼下に見える、オレンジ色の球体。

近づくものを強制的に遮断する、絶対的な炎の結界。

破壊も敵わない結界に対して、鳥は高度を落とし、スピードを緩める事なく突っ込む。

 

ぶつかる、そう思われたが、目の前の結果は全く予想に反して、鳥は結界を突き抜け中へと入っていく。抵抗するそぶりすら見せず、まるでそこには何もなかったかのように鳥は結界の中を悠々と飛び、一人の男の腕に止まった。

 

柔らかそうな白い髪を揺らし、楽し気な笑みを浮かべた少年、白神光努の腕へと。

 

「レウ、ご苦労だ」

 

クァ―――と、光努の労いに小さく鳴く白鴉の姿は中々に可愛らしい。一見すれば珍しい色合い以外は普通の鴉に見えるが、ところどころ羽や羽毛の先がゆらゆらと小さく陽炎を作っているのを見ると、ただの鴉で無い事を嫌でも理解する。だがそれでも、仕草その物は、人によく懐く鳥類と同じ物である事は疑いようもなかった。

 

「その鳥、結界を突き抜けてきたけど、そういえばそれも光努君の白夜の炎を受けた匣兵器だったね」

「ああ。白虹(デア・イリス)は全てこの1羽に集約して飛ばしてたんだ。んで、戻ってきたって事は準備が終わったって事だ」

「どういうことだ?光努」

 

今の言葉で分かったのは、光努の使用する白夜の匣兵器、『白虹(デア・イリス)』が通常、という言い方は少々語弊があるが、通常形態である無形の炎の形から、1羽の白い鴉の姿をとっているという事。元が動きに制限のついた個の形で無い為、やろうとおもったらGHOST戦の時同様に複数羽に分裂できるにも拘わらず1羽のみを顕現させた事には、無論意味があった。

 

そもそも白夜の炎は攻撃力という点はほぼ皆無であり、生物の形態をとったとしてもその攻撃力はたかがしれている。その為、今の形態もあくまで、光努の援護用にとなった形であること。

 

そしてその用途は、おおよそ今見える小さな体躯からは、想像もつかないとんでもない事だった。

 

「レウ、少し休んでくれ、後は任せろ」

 

慈しむ様な柔らかい言葉と共に、白鴉レウは一声鳴き声を上げ、その体を揺らす。1枚、また1枚と落ちる純白の羽は、空中でその霧散し、一筋の炎となって、光努の指に嵌るフィオーレリングへと吸い込まれていく。同時に、レウの体が白く発光、その身崩しゆらりと揺らめき、淡い炎となって光努に纏われていく。

 

ボオオゥ!!

 

瞬間、莫大の光が結界の中を包み込んだ。

 

「くっ!光努!?」

「心配するな、ツナ。ただの炎の供給だ、害は無い」

 

光の中でそう言う光努の姿は見えないが、声色に焦りや焦燥は見られない。おそらく本当に大丈夫なのだろう。最も、光努がそこまで声色に出す程焦るような事は見たことが無い気がする、というのがツナの本音だが。

 

しかし白蘭は、その光努の言葉に反応した。

 

「炎の供給?光努君、一体何をしようとしているんだい?」

「まあ極端な事を言えば、お前がGHOSTを使ってやった事と変わらないよ。他人の炎をもらった、ただそれだけ。ま、強制じゃないから俺の方が良心的だろ?」

 

パリイィ!!

光努を包み込んだ眩い純白に、鋭く切れるような緑色の閃光が迸る。

 

それは大空の7属性において、最高の硬度と名刀の如き切れ味を誇る炎、雷の炎。不可解な、白夜の中に混ざり合うように迸る雷に、この場の全員に衝撃が走る。

 

「白夜の炎と、雷の炎。適応………なるほど、光努君。雷の炎を白夜の炎に変換して、自分に取り込んでいるんだね」

「という事は、さっきの鴉は雷の炎の塊!?」

「ま、そういう事。ツナ、少し待ってろ。すぐに、適応する」

 

その言葉を皮切りに、ぱちぱちと弾けていた雷が収縮し、同時に眩いばかりの莫大な光が一気に霧散した。

 

霧散した光の粒子がキラキラと空気中で輝き、その中央に立つ光努は、何もない、無傷の状態。全ての炎を、己の指にはまるフィオーレリングに集約したのだろう。その表情は何も変わらず、実に楽しそうだ。

 

「まさか、こんな方法があるなんてね。光努君、もしかしてロルフ君から雷の炎をもらったんじゃない?ていうか、それしか考えられない。GHOSTに炎を吸われていない者達の中で、ここまで莫大な雷の炎を出せるなんて、あの子くらいだしね」

「よくわかったな。ちなみに今は寝かせてあるぞ」

 

光努と白蘭の会話に、リボーンは納得したように相槌を打つ。

光努が連れて帰ってきた少年、ロルフ・ミーガン。チョイスの雷のプレイヤーとして参加し、個人的な戦闘能力は低いが、単騎で超炎リング転送システムを作動できると言われる程の莫大な炎を体内に宿した少年。その莫大な炎による、強大な要塞型匣兵器を操っていた。

 

彼は先ほど光努がリボーンやユニの元へと戻ってきた時に、疲れたのか光努に担がれてきた。あれはパンドラに入って疲れただけでなく、光努に雷の炎を与えて来た疲労なのだろう。その雷の炎が、先ほどの白鴉の中に収められていたという事。

 

白蘭としては、ロルフが協力したのに少し驚いたが、光努が炎を吸収したという事に驚いていた。まるでもう一人の白蘭、GHOSTのようでもあり、炎を自らの力に変化するボンゴレ、沢田綱吉のように。

 

しかし、光努のとった方法は、どちらかといえばGHOSTのやり方に近い。

 

ツナの使用する零地点突破改は、自らの死ぬ気をマイナスに振り切り、マイナスになった分炎を取り込み、自らの力として増幅する、ある意味捨て身とも言える技。最も、今のツナにとっては捨て身なんてものでなく、強力な奥義の一つなのだが。

 

対して白蘭がやったのは、GHOSTに吸収させた炎を距離も空間も全てを除外し、直接白蘭の内に送り込む。

 

本来なら自分の炎以外の炎が内に入るのは異物が入り込むように害でしかないのだが、二人の属性である大空の〝調和〟によって、それらの炎をうまく統合し、自分の炎として扱えた。

 

それは〝調和〟とはまた違った〝適応〟の特性を持つ白夜の炎を持つ光努も一緒。ロルフの莫大な雷の炎を一度白虹(デア・イリス)の中で白夜の炎に適応させ、光努へと取り込む。

 

しかし本来光努なら、莫大な容量と元々適応の白夜の炎を持っているので、特に間に経由する必要なく自分に取り込める。

 

ならなぜ、わざわざ一度白鴉のレウに取り込み貯蓄したのかと言えば。

 

「折角だから白蘭の前でやってやろうかと思ってさ」

「君も案外食えない性格だよね。しかし一つ気になってるんだけど、ロルフ君はどうやって雷の炎を出したんだい?あの子の持っていたリングはただの匣起動用ってことで、良くてB-程度のリングだ。それくらいじゃ、さっきみたいな炎は出すことは出来ないはず。一体どうして………」

「一つ忘れているだろ、白蘭。この世で最も強力な雷のリングを、お前は知っているか?」

「最も強力?………まさか!」

 

光努の言葉と同時に、瞬間、白蘭の脳裏に浮かんだ予想が目の前に現れた。

光努の手に握られていたのは、神聖さを醸し出す、楕円の石に羽の意匠が施されたリングだった。

 

「光努!それって、マーレリング!一体どこで手に入れたんだ!?」

「これ?GHOSTがつけてたやつだよ。ちょおぉっと、消す時に拝借しておいたんだ」

 

全く持って穏やかでない物騒な表現だが、事実なのでしょうがない。しかしまさかあの瞬間、GHOSTから抜け落ちた雷のマーレリングを拝借していたとは、この場の全員夢にも思わなかった。

 

ボンゴレリングもマーレリングも、大空のボスリングに関してはそれぞれが適応者である人を選ぶ。ボンゴレならボンゴレの血を受け継ぐ者を選ぶように。しかし共にある守護者のリングに関しては、言ってしまえば使おうと思えば誰でも扱う要素は持っている。マーレリングなら猶更。この辺りはボスの直系とか関係ないので、炎を出すだけならロルフにも扱えたのだった。

 

今、見た目には何の変化も持たないが、光努の内には莫大な炎が取り込まれた。白蘭がGHOST経由で取り込んだ炎と比べたらおそらく光努の方が低いだろうが、それでも、ロルフの炎は1人の人間から出たとは思えない程に強大な炎を放出した。

 

「というわけで、始めようか白蘭」

「来なよ。君がいなくなれば、僕の障害は無くなる」

その言葉を皮切りに、白蘭と光努の二人は互いに飛び出した。

 

「白龍!」

 

白蘭の右腕と同化するように現れた白龍は、一直線に容赦なく、一撃必殺の威力を込めて光努の顔面に放たれる。いつ開いたかもわからない高速開匣。だが、自分の顔面に向かって放たれた白い龍を、光努は瞳を閉じる事なく、静謐な面持ちで見つめていた。

 

「―――っ」

 

小さく、蚊が鳴くような息を吐きだし、光努は左手に掌底を作り出す。空手で言う所の手刀受けに近い形だが、それ程精錬された物でもなく、もっと無骨な受け流し方。自身の顔面を狙った白龍を、白蘭の右腕を光努の掌で外側へと押し出し、直線の力を受け流した。

が、それだけで終わらなかった。

 

左手で白蘭の右腕を、自身の右に逸らすと同時に、己を中心に回転。そのまま、右の肘を白蘭の右脇へと叩き込んだ。

 

ムエタイでいう所の回転肘打ち(ソーク・クラブ)と呼ばれる技、人体の急所である脇の下への攻撃。下手をすれば死んでもおかしくないような箇所。わずかにメキメキという音が聞こえたような気がしたが、それでも、白蘭はまだ奥歯を噛みしめ、不適に笑う。

 

(流石にそう簡単に当たってくれないか………けど、甘いよ!)

 

攻撃を当てられたにも拘わらず、白蘭の表情はまだ笑みを崩さない。

右腕に絡みつかれた白龍を、前方へと射出。そしてこれは銃でも無ければ大砲でも無い。一直線に進む兵器ではない白龍は、飛び出してその場でくるりと反転し、背後から光努に向かって牙を向く。

 

人は攻撃の瞬間、攻撃が決まった直後にこそ隙ができるというが、まさにそれだ。白蘭自身が囮とでも言うように、急所へと攻撃を当てたのなら、少なからず手ごたえを感じ、隙ができるはず。この白龍は、完全なる背後からの奇襲。

 

だが、この状況下で光努は、楽し気に笑っていた。

音を殺して背後から頭蓋を砕かんとする白龍は、正確に光努を狙う。

 

が、目標を見失った。

白龍は、突然目の前にいた光努の頭が消えた事に一瞬困惑し、硬直するが、次の瞬間下から来た衝撃に意識を手放す。

 

そこにあったのは、光努の足の裏。

 

白蘭を肘打ちしたと同時に、両手を地面に着き、絶妙なバランス感覚で足裏を、頭を狙ってきた白龍にぶつけ、さらにそのまま前方に回転して、白龍事足裏を白蘭へと叩き込んだ。

 

「ぐぅ―――ぐはぁ!!」

 

カポエイラのようなアクロバティックな動き方を、わずか一瞬の攻防の間に行った事に、傍から見たら訳が分からないだろう。気が付いていたら光努が逆さになり、気がついていたら白蘭が吹き飛ばされた。

 

(攻撃を受け流されて、さらに背後の奇襲も読まれている!チョイスを見て身体能力任せかと思ってたけど、それだけじゃない!光努君は、技術力もずば抜けている)

 

「すごい………!」

 

結界の周りから観戦する者達は、感嘆の声を漏らす。

先ほどまでツナを圧倒し続けていた白蘭が、当初は光努と互角だったにも拘わらず、今はその光努が圧倒している。

 

理屈だけ言えば簡単かもしれない。

炎を吸われた状態で互角だったのに、光努が炎を回復したのならその分白蘭を上回るのは簡単な理屈だ。だが、それだけでここまで圧倒できるのか。いや、むしろ最初に闘っていた時は手加減していたんじゃ、そう思うような天地を無視した縦横無尽な戦い方。

 

「―――らぁ!」

 

白蘭の背で燃える翼が瞬くと同時に、炎の龍が2頭光努に向かっていく。

獰猛な獣よりも恐ろしい、強靭な炎の龍だが、光努を射貫くには心もとなかった。

まるで龍を受け入れるように両腕を広げたと思ったら、迫る龍の顔面を、1頭ずつ片手で巻きこみ、容赦なくぐしゃりと潰し、ただの炎として霧散させてしまった。

 

光努はツナと白蘭の戦闘を見ていなかったが、その姿は白蘭が行った白拍手に酷似し、まるで意趣返しのような展開だった。

 

最も、白蘭も光努も、ある意味力業という点では同じ様な物ではあるが。

 

「そう―――らぁっと!」

 

今度は光努から仕掛けた。が、単調な攻撃程避けやすい物は無いだろう。

真正面から右の拳を突き出す光努だが、それを見据えて白蘭は余裕をもって、上空へと飛び出す。

 

制空権を取ったが、光努にも空を踏みしめ翔け抜ける手段がある事はとうに分かっているので、それで油断するような事はしない。

 

(けど、今のただの一撃。まるで………僕を上へと誘いこんだ?)

 

そう思ってしまう程に単調な攻撃だったが、それはそれでおかしい。同じく空を移動できるツナと連携しての攻撃ならわからないでも無いが、ツナは今変わらず眼下の地面で膝を着いている。囮にかかって敵に攻撃を仕掛ける人物が囮になるなど、馬鹿げた話だ。やはり意味などないただの単調な一撃だったのだろう。

 

そうでなくては、()()()()()()()()()()()()()()()()()、先程の攻撃をした事になる。

 

「いや、間違ってないぜ、白蘭。俺は一度お前に上に上がってもらいたかった」

「その理由、聞いてもいいか―――なっ!!」

 

白蘭の手に入れた莫大な炎を載せた拳を、上空に駆け上がった光努に振るう。余波だけで空気を叩く一撃だが、光努は自分の顔面に迫る拳を、首を傾けるだけで躱し、滑り込ませた己の掌で受け止めてがっちりと固定した。

 

白撃(しろうち)!」

 

瞬間、マーレリングから光輝く炎が迸り、光努に向かって爆発的な衝撃波が放たれた。

ツナの攻撃を受け止め吹き飛ばした、〝白指〟の拳を使用した強化版。

 

指一本でツナを大地に叩きつける程の威力を発揮したの技の、およそ数倍。大空の結界を破壊する程ではないが、膨大な炎の一撃は結界をわずかに揺らした。

 

その光景に、皆一様に心配を瞳に映すが、攻撃を仕掛けた白蘭本人の瞳に映ったのは、驚愕。

 

煙の晴れた上空で、自分の拳を今もぎりぎりと掴む光努の姿が、視界に映った。

所々衣服には焦げ跡と、裾がボロボロになった姿が見える。髪もところどころ跳ね、顔面で爆発でも喰らったかのようだ。いや、実際喰らったが。皮膚のあちこち黒く煤けてはいるが、それでも、傷は一つも存在しない。だがそれでも完全無効、というわけでもなく、光努は咳き込むように口からわずかに煙を吐く。

 

「けほっ………少し驚いたけど、耐えられない事はなかったな」

「………おかしいね。光努君って本当に人間かい?」

「さあな。ただ炎の熱量を白夜の炎で耐性つけて相殺すれば、後は衝撃を耐えるだけ。問題ないだろ?」

「いやいやいや、それは問題ありすぎじゃ―――」

「あ、それと白蘭。お前は上空に上げた理由だけど」

「へ?」

 

間の抜けた白蘭の声だが、そんな趣とは反対に、頬にはたらりと冷や汗が流れる。

先ほどから、堅い岩に沈めたように拳が全くと言っていい程、動かない。

そんな白蘭の様子に、光努は楽しげに笑った。

 

「天上から突き落とすって、宣言したからなぁ!!」

 

ドゴオッ!!

光努の拳が、惚けた白蘭の顔面に突き刺さり、炎の渦を引いて大地へと叩きつけられた。びりびりと結界を揺らす程の衝撃が響き、辺り一面を炎の余波と煙が一瞬覆う。

 

それと同時に、光努も地面へと降り立つ。

観ていた外野からも、これは白蘭死んだんじゃ、と思われるような無慈悲な一撃。だがそこに込められた拳は、光努がチョイスで宣言した通りだった。生死の境をさまよう幻騎士に対して、絶対の真実を語る様な強い言葉を。

 

「は、ははは!すごい!すごいよ!光努君!君だけだよ!ここまで僕を追いつめて、あまつさえ血を吐かせた者は!」

 

明るいその言葉に、ぞくりとした気配を漂わせる。

まるで狂気に飲まれたようにも見える、楽しげに笑う白蘭の口元には、たしかにたらりと血が流れ、全身にも少なくない傷が見える。

 

その状態でさえ、白蘭はまるで待ち望んでいたかのようでもあった。

 

「強くなりすぎた自分を止めてくれる奴を待ち望んでいた、とでも言いたいか、白蘭?いや、お前はそういう奴じゃ無いだろ。ただ楽しんでいるだけだ。世界を支配するゲームを楽しみ、その課程に生まれた強い敵キャラとの闘い(あそび)を楽しむ、ただそれだけだ」

 

「それがどうしたと言うんだい?すでに他のパラレルワールドは僕の手によってほとんどが掌握されている。クリア間近だ!光努君の言う事は、実に正しいよ!僕は自分を倒してくれる存在じゃなく、僕を楽しませる存在も待っていた!やはり、こうでなくちゃゲームは面白くない!」

 

その言葉に、どれだけ人としての感情が込められていたのだろうか。

熱く語る白蘭の瞳は、感情のままをさらけ出し、ある種純粋でもあり、ある種異常でもある。それは次元を越える程の強大な力を手に入れてしまった代償なのか、はたまた白蘭という人間の本質が肥大化してしまった物なのか。

 

しかしその光景を見ても、光努は笑う。

ある意味、光努もどこか白蘭と、似ているから。

 

「それじゃあ、覚えておく事だな、白蘭。ゲームには、ゲームオーバーって言葉があるって事をな」

「そっちこそ忘れてるんじゃ無い?光努君」

「ん?」

「ゲームプレイヤーは、どっかでレベルアップがあるって事を、さ」

「ーーーーーっ!?」

 

瞬間、光努の背筋にぞわりとした感覚が、黒くどす黒い手が背筋を撫でるような不思議な感覚を味わった。

 

「………光努?」

 

ツナの呟くような言葉に、光努は反応しない。光努にしては珍しく、というより、初めてツナは、光努のこんな表情を見たかもしれない。その頬はたらりとした冷や汗を流れているがそれより気になるのは、光努自身でさえどうしてこれ程までに自分が不思議な感覚に包まれているのか分かっていないという事だった。

 

(この世界に来て、初めてかもしれない。その原因は………白蘭の手にあるあの()()()!)

 

マーレリングを填めた白蘭の指に摘まれていたのは、黒く、深い闇という闇を塗り固めたかのような、 無骨な黒い石だった。その石を見た瞬間、光努以外誰もが疑問符を抱く。真6弔花も、ヴァリアーも、ボンゴレも、イリスも………ただ一人、ユニを除いて。

 

「ダメ………ダメです!白蘭!それを使っては!」

「ユニ!?」

 

ただ事ではないユニの様子。そこから察するには、白蘭が持っている黒い石は、ただの石ではない。

 

「はは、ユニちゃんを手に入れられ無いから、しょうがないよね。ま、界羅に感謝しとかないと、ね♪」

 

バキン!

砕かれた黒い石は、灰の様にさらさらと細かく風に乗り、マーレリングへと吸い込まれていく。じわりと黒い絵の具を垂らしたように、大空のマーレリングにはめこまれた石が、黒く染まった。

 

瞬間、白蘭の周囲、黒々とした混沌とした大空の炎が渦巻き吹き出す。そして炎の中に立つ白蘭には、黒い翼、腕、その表情は、愉快に歪んでいた。

 

「やー、まさかこうなるとは僕も思わなかったよ。本当に。正直光努君がここまでとはねぇ。残念だけど、捨て身でやらせてもらおうか」

 

鋭い眼光が、黒く染まる。白蘭がその場を飛び出した瞬間、応戦しようとした光努は動かなかった。否、動けなかった。

 

「!?」

 

光努の右足を、地面から抜け出した黒い手が掴み、その場に縫い留めていた。

地面をよく見てみると、黒い影のような物が白蘭の足下、正確には黒い炎の翼から延びて、足下へと伝っている影から、炎の腕が光努の足を掴んでいた。

 

「らあぁ!!」

 

瞬間、地面を滑るように背中の翼で光努に近づいた白蘭が、再び腕を振るう。黒く染まった腕だが、光努はその手をじっと見つめ、再び受け流すべく自身も腕を振るう。が、それを待っていたと言わんばかりに、白蘭は口元を歪めた。

 

振るう白蘭の腕と連動するように背中の黒い翼をはためかせ、そこから現れた無数の炎でできた黒い腕が、光努の視界を一瞬で埋め尽くした。

 

「光努!」

 

ツナも焦る。あれでは、攻撃を受け流すどころではない。流石の光努も腕は2本しか存在しない。それに比べて、白蘭の繰り出す攻撃は優に数十を超える手数。

 

「手が足りないなら、量より質かなぁっ」

 

一蹴。

莫大な腕力と炎による力任せの一撃は、手数で圧倒しようとする相手の作為を根底から破壊する。事実、光努の振り抜いた立ったひと振りの渾身の拳は、白蘭の黒い腕と白蘭自身を吹き飛ばし、強制的に結界の壁へと叩きつける。

 

いや、叩きつけたと思った。

 

「!?」

 

がくりと危うく地面へと膝を着きそうになるが、思いとどまる。

 

その原因は、自身の足に絡みついた黒い腕。

 

その大元を辿っていけば、予想通りに、白蘭の翼へと伸びている。殴られたと同時に、光努の足に絡みつかせて結界の壁際まで吹き飛ばされるのを防いだのだろう。あの攻防の中で光努に気づかれずに罠を仕掛ける白蘭も白蘭だが、それに対して倒れる事無くその場に踏みとどまる光努も光努で、両者ともに常軌を逸している。

 

その光景に、ツナは心臓を圧迫されるような感覚を味わった。

 

(何も、できないでいる………)

 

戦った。持てる炎と拳を匣を使い、戦った。だが、結果として白蘭にはほとんど届かなかった。ぎりぎり、足止めと時間稼ぎで精一杯だった。

 

今目の前で繰り広げられる攻防に、自分は果たしてついていく事ができるのか?

否、無理だ。どちらも頂きに立ち、常軌を逸した力を振るう怪物共だ。さりげなく光努もその中に入れているが、今更感があり誰も否定しないだろう。それに努りらかと言えば、白蘭より光努の方がおかしい。

 

しかし、ツナは自分が何もできないでいる事に、歯がゆい思いしかなかった。

結果として、自分がやったことは、炎を無理やり強めて大空の共鳴により、ユニを呼び寄せるという、結果論だが、白蘭の手助けのみ。そしてやはり、足止めが精一杯。

 

自分の言葉に、光努は対等な協力を、同盟をもし出てくれた。

だが、それに値する物を、自分は逆に光努を手助けできるのか?

 

「いや、何もできないから、何もしないじゃない。俺は………皆を助けたい!」

 

澄み切った純度の高い大空の炎は、ツナの覚悟の現れた炎。

この時代に来て、ツナは多くの者に助けられた。これが最後の戦い。なら、その借りをここで返さなくて、いつ返す?全ての現況にして、人の思惟を無邪気に踏みにじる白蘭に、この拳を、みんなの思いが詰まった、この炎をぶつけたい。

 

―――いい答えだ、Ⅹ世(デーチモ)。お前の考えに、俺も賛成だ。

 

不意に、どこからか聞こえた。いや、聞こえたという表現も怪しげな、まるでふわりと宙を漂うかのように脳裏に響き渡る声は、この場にいる全員に届いた。

その柔らかな言葉に、思わず白蘭と光努も戦いの手を止めた。

 

「今の声………」

「………ツナ?」

 

ツナのそばから聞こえた超常の声が何かを理解した者はこの場にいない。

ただ一人、ユニにはその声が誰かを直感的に察していた。

 

「これは!」

 

ツナ自身も驚き、ボンゴレリングが眩い光を放つと同時に、空中に浮かび上がる光の模様。(ボンゴレ)と、中央に銃弾を添えたボンゴレファミリーの紋章。そして紋章を挟み、ツナと対面になるようにして浮かび上がる一人の影。

 

緩やかな金色の髪と、鮮やかな炎を閉じ込めたような琥珀色の瞳。

 

どこかツナに似た面影を宿し、額に煌々と燃える大空の炎。

 

全てを見透かすようであり、全てを包み込むような雰囲気を持ち、悠然と佇むその姿には、人を引き付ける風格が滲みだしていた。

 

(ボンゴレの創始者、初代ボンゴレファミリー………)

 

唯一ユニだけ、その人物が分かった。会ったことは無論無い、見たことも無い、会話した事も無い。だが、大空のアルコバレーノのユニには、ほとんど直感のような予兆が過る。目の前の人物は、遠いツナの祖先、ボンゴレファミリー初代ボス、ボンゴレⅠ世(プリーモ)

 

 

 

―――揺るぎない覚悟と、仲間を思うその心。俺の真の後継者に力を貸してやりたいが、それは出来ない。その変わり、枷を外してやろう。

 

 

 




白蘭は不思議な石を使った。
全体能力値が一時的に向上した。

『特異点の白夜』の設定上原作に無い設定やアイテムが割と盛り込まれているが、おかしな点や疑問点があれば普通に指摘してやってください。
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