特異点の白夜   作:DOS

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正月から一週間以上たってるけどあけましておめでとう!
今年もよろしく。

というわけで番外編を書いてみました。
本編には次話から戻ります。



番外編 『初めてのお使い』

 

 

 

 

 

ここは並盛町。

とあるマフィアやとある企業的なマフィアや、とある非日常を生きている中学生達が多く住んでいる町。

そんな町の道路の上を、一人分の小柄な影が動いていた。

 

「♪~♪~~♪~」

 

楽しそうに鼻歌を歌い、スキップでもするように楽しそうに歩いていいるのはまだ幼い少女。手に持った買い物用のハンドバッグを振りながら歩いている。

 

「きょーおは、たーのしーい、おっかいーもの~♪」

 

肩口程まで伸びた柔らかな黒髪は、少しだけ吹く風に揺れる。

薄い桜色の長袖のシャツ。袖の部分がベルスリーブ風に少し広がり、袖にわずかに隠れている手には花柄の買い物用のハンドバッグが握られていた。ショートパンツから伸びた細い足はブーツに包まれ、リズムよくコンクリートの道路を踏み、歩いていく。

 

いつもよりかは少し肌寒いが、そんなことなど関係の無いように軽やかに通る。

 

少女の名はリル。

 

年齢は、まだ幼い8歳。

イリスファミリーに所属している天真爛漫な少女。

いつもなら、双子の弟であるコル、同じイリスファミリーのルイ、灯夜等、誰かと一緒にいる彼女が、今日は一人だけ。

 

そう、今回は、彼女の物語であった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「さてと、今のところは問題ないな」

 

 

黒道家。

イリスのボス代理、灯夜の家であり、イリスファミリー日本での仮本拠地として使用している。

 

そして今現在、黒道家の一室にて、壁にかかった大画面のモニターと、その周りにいくつか置かれ壁にかかっている小型のモニターが複数。

 

一番大画面に写っているのはリル。楽しそうに歩いている様が綺麗に撮れている。

これは今現在、リアルタイムでリルの歩く様子がモニターに映し出されている。周りのモニターには別の角度と付近の様子が映されている。

 

そしてそれを眺めているのが、こたつに入ってみかんを食べながら寛いでいる、柔らかそうな白い髪に、楽しそうな笑みを浮かべるおよそ中学生程の白神光努と、同じくみかんを食べている、長めの金髪を後ろで一つに結っている青年のルイ。

 

そしてこたつの上でみかんを剥いているのは、リルの双子の弟のコル。リルと全く同じ顔と同じく肩口まで伸びた柔らかな黒髪。見た目は同じだがコルの方が若干クールそう。そして他にもこたつに入っているのは黒道朝菜

 

黒く長い艶やかな髪の穏やかな女性。黒道家の主である灯夜の妻である。

みかんの皮とスジを綺麗に取り、ちぎって一口食べている。

その隣で同じようにこたつに入ってみかんを食べているのは夕輝。

灯夜と朝菜の息子で現在5歳と小学校にもまだ通っていない男の子。少しツンツンとした黒髪をして人懐っこく、みかんを美味しそうにほおばって幸せそうに笑っている。

 

今この場にいないのはリルと灯夜。

 

リルはご存知の通りモニターに映っているため、外にいるというのがすぐにわかる。灯夜は現在買い物の為出かけている。珍しく今日は休みとなっているため仕事に出ていないのである。

 

「けど、大丈夫かしら?リル一人で」

 

片手を頬に当てて、少し心配そうに話す朝菜。

 

リルは、今までイリスファミリーで暮らしてきた。

だが一応大企業と言われるイリスもマフィアでもある。

そこでずっと暮らしきたリルは世間一般の常識というものから割と外れているのも事実である。もちろんそれは弟のコルにも言えることである。

 

そんなわけで今回計画したのが、題して、『リル、初めてのおつかい!』という企画。

 

今回リルには、並盛町各地にある肉屋、八百屋に行って挽肉と玉ねぎ、卵というハンバーグの材料を人数分を買ってくるように頼んである。渡したのは買い物用の花柄のハンドバックと中にあるリルの財布、そしてお店までの地図である。

並盛町自体はそう広いという町ではないが、それでも迷わないかどうか朝菜としては心配なのであった。

 

「大丈夫じゃ?同年代と比べてリルは強いし」

 

「強いとお使いは別じゃないの?」

 

「コルも行けば良かったのに。ていうかリルって初めてなの?お使い」

 

まさか8歳になるまでにお使いに行ったことないとか?

まあないといえばないと思うけど、それとも単にお使いに行く必要がなかったというだけなのか?

 

「一人で行ったのは今日が初めてだよ」

 

コルの言葉になるほどと思う。

 

「まあリルなら大丈夫じゃない?」

 

同年代と比べたらトラブルに対処する能力とかありそうだし、腕も割と立つし。

 

「それはどうかな」

 

珍しく作業をしているルイがしゃべる。

壁のモニターと接続している機器から伸びているキーボードを操作して、モニターを見ながらカチャカチャと軽やかな音を鳴らす。

 

「どういうこと?」

 

「まあ、見てればわかる」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「えっと、突き当りを右に曲がって、三つ目の角を左に曲がると」

 

リルは地図の書かれたメモ用紙を見ながら呟く。

とことこと歩いていき、突き当りで止まってそのまま右に曲がる。

そして左側を見ながら角を数えていく。

 

「一つ・・・・二つ・・・・・三つ!ここを左だ!」

 

といって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「リル!そこじゃない!ていうかなぜそこを通る!?」

 

「実はな、リルはかなりの方向音痴何だ」

 

ルイのセリフも意外といえば意外だ。だがそんな気もしなかったわけでないが、今まではコルや他に一緒に行くものがいたために迷うということはなかった。自分で道を選んでいるわけでなかったので大丈夫だったが、今回は一人のため失敗したと。いやいや、普通しないだろ。

 

だってリルが通ったの、リルがまだ小さい子供だから通れる塀と塀の隙間だぜ?

普通道としてカウントしないだろ。

 

「実はリルは、普通は通れないし通らない道でも通る道として通ってしまうんだよ」

 

「通れないって行っても限度があるだろ」

 

「たとえ山道だろうと地下だろうと行き止まりだろうと、問題なく進めるだけの運動能力あるんだよね、リルって」

 

「・・・優秀なのも厄介だな」

 

だからあの地図と言えない場所でも普通に通るのか・・・・。

しかしあのままだと地図に記載されている二つ目の角と三つ目の角の間を通ったわけだから、この後地図通りに行っても別の場所に出るんじゃ・・・・。

 

「ふむ・・・。早急になんとかしないとな・・・」

 

そう思っている間にも、細い道を通るリルの姿がモニターに映し出されている。

絶妙なカメラアングルで、苦もなく楽しそうに歩いているのがよくわかる。

 

「今更だがこのカメラどうやって撮ってるんだ?これリアルタイムで誰かが撮ってるだろ」

 

「カメラ?槍時と灯夜が撮ってるぞ」

 

なんて人員の無駄遣い。

イリスファミリーの誇る最強戦闘部隊『アヤメ』所属の海棠槍時と、イリスナンバー2の黒道灯夜。この二人をカメラ担当にするとは、ルイ恐るべし。

灯夜が買い物とか聞いたけどこれやってたのか。

 

ていうかどうでもいいが二人ともカメラ撮るのうまいな。

 

「緊急事態の時は二人がなんとかすることになってる」

 

なるほど、これならなんとかなるかな。ていうか過剰戦力すぎ。

まあ大丈夫・・・・・・かな?

 

 

 

 

***

 

 

 

「~♪~♪。お肉屋さんは~どっこかな~」

 

最初の目的地は肉屋。通常は、さっきリルが遠った細い通路のもう一つ奥の角を左に曲がってまっすぐ進み、突き当りを右に曲がったら見えてくる予定だったのが、

 

「突き当たり、突き当たり。次の突き当たりを右に~」

 

突き当りは見えないが細い道を進む。途中で周りの塀が少し高くなったのか、先ほどよりも薄暗かった。

 

「突き当りどこだろ?。ま―――」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「リルが映ってないぞ」

 

「ホントだ。どうしたんだろ」

 

モニターの中からリルが消えた。

正直モニターをしっかりと見ていたにも関わらず、いつの間にかいなくなっていたような気がしたが・・・・・・。

 

「どうした。槍時、灯夜」

 

『ルイか。じつはな』

 

別の小さいモニターに映ったのは灯夜と槍時。

テレビ電話みたいなので話してる見たいだ。

 

『リルが消えてしまったのですよ』

 

「消えた?」

 

『ええ。我々途中からリルが入った路地の出口を先回りしたのですが、いつまでたってもリルは出てこないので上から見たところ、どこにも見当たらない』

 

あの二人が見失った?

たった20メートル程しかない細い路地の中で、入口出口を見張っていたのに消えた?どうやっても消えようがないと思うんだが、これが噂に聞く神隠しというやつなのだろうか・・・・?いやいや、必ずどこかにいるはず。

きっと塀の横にある隠し扉にでも入ったのでは?

 

『ちなみに路地内に隠し扉、落とし穴の類は見当たりませんでした。というか一切ありませんね』

 

「(仕事早いな)・・・・・・・・」

 

これは本格的にまずいな。

リル、一体どこに行ったんだ・・・・。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あれ?ここどこ?」

 

緑色の草を踏みしめて、キョロキョロとリルは辺りを見回す。

草木が生い茂り、見たこともないような草花が咲いている。

渦のようにくるりと回った茎、カラフルな花びらをつけた大きな花、青く艶のある果実。

 

「どこだろ。外国?」

 

リルは心底不思議がって歩きながら周りを探る。

そんなリルを草むらから見る目が4つ。

草むらの中にいたのは、子供が二人だった。

 

「ねえねえ。あのお姉ちゃん誰?」

 

「見たことない子だね」

 

男の子と女の子の二人。

一人は燃えるような赤毛をした男の子。もう一人は対照的に綺麗な海を思わせる蒼い髪をした女の子。二人とも共通して、幾何学模様の入ったバンダナと、どこかの民族を思わせるような模様の入った服に、首から下げた羽をつけたネックレス。違いはシャツと短パンの少年と、ワンピースの少女。そして色違いということ。

 

男の子は女の子より少し小さく、おそらく女の子の方が姉だと思われる。

ヒソヒソとリルをこっそりと見ながら話を進める。

 

「父さまに知らせたほうがよくない?」

 

「じゃあ気づかれる前に行こうか」

 

「どこに行くの?」

 

「「うひゃっ!!」」

 

こっそりとどこかへ行こうと思ったら、後ろから声をかけられて思わず二人とも変な声を出して驚いてしまった。

恐る恐る後ろを見ると、ニコニコと笑顔のリルが立っていた。

 

「ねえねえ、どこ行くの?ていうかここどこか知ってる?」

 

「え、えっと(チラッ)・・」

 

「あの・・(チラッ)」

 

言葉がつまりつつ、お互いにお互いを見る。

内心二人ともどうしようと思っているみたい。

 

ヒュッ!

 

「!」

 

リルがその場から後ろに下がると、先程までいた場所に一本の矢が突き刺さった。

木を削って作られた矢。鮮やかな色の矢羽が取り付けられている。

 

「大丈夫か!アモン!イルナ!」

 

上から降ってくるように現れたのは、一人の男性。

 

「「父さま」」

 

褐色の肌をした大人の男。

二人の子供と同じように幾何学模様の入ったバンダナと衣装を着ているから、二人の関係者だということが容易に想像できる。

その背には、矢の入った矢筒。左手には、弓が握られていた。

先ほどの矢を射ったのは、この男。

 

リルと二人の間に立つようにして、リルを睨んだ。

 

「何者だ!貴様、なぜこの場所にいる!」

 

「なんでって言われても、迷っただけなんだけどね」

 

えへへ、と笑いながら頬をポリポリとかくリル。

その様子を見て、男は特に驚異を無いと判断したのか、構えていた弓を下ろした。

 

「少女よ。お前の名を聞こう」

 

「やだ!」

 

「何ぃ!?」

 

「名前を聞くときは自分から名乗れってパパ言ってたもん」

 

「・・・・・俺の名はウンガ。こっちは息子のアモンと娘のイルナだ」

 

「私はリル。それで聞きたいんだけどここってどこ?」

 

バサバサ!!

 

「「「「!!」」」」

 

「ガアアアァァ!!」

 

上からまたもや降ってくるように現れたのは、一言で表すなら・・・・怪物。

 

黒く、強靭そうな四肢。そして太く鋭い鉤爪。

さらに背中から生える四枚の黒い羽。全身は黒く、目だけが赤く光っていた。

形容のし難い怪物が、上空から降りてきた。

 

「くそっ!こんなところに!二人とも、逃げろ!」

 

「父さま!」

 

「父さまも一緒に!」

 

「バカを言うな!逃げろ!お前も逃げろ!」

 

リルの方を見て、激しく言い立てる。

それほどに、目の前の敵はやばい存在ということだろう。

 

「ガアア!」

 

「くらえ!」

 

ヒュヒュヒュヒュ!!

 

次々と矢を上空へと飛ばす。しかし、敵は強靭な手足を鞭のように振るい、鉤爪で叩き落としていく。そのうちに、ウンガの矢筒から矢がなくなってしまった。

それを好奇と捉えたのか、勢いよく降下してウンガに迫っていった。

 

ザシュ!

 

「ぐぅ!!」

 

すれ違い様に、肩口を切り裂かれ、鮮血が舞った。

ウンガは肩を抑え、思わず膝をついてしまった。

一度上空へと戻った怪物は、再び飛んでウンガの元へと向かった。

 

「「父さま!!」」

 

ベシ。

 

「グギャウ!」

 

ウンガに飛びかかろうとした矢先、横から飛んできた石が正確に怪物の目に辺って

呻いた。獲物を狙おうとしてできた一瞬の隙を突かれたのだろう。

 

「プレイボール!」

 

第二球!石を持って振りかぶり、リルは投げた!

 

「ガアゥ!!」

 

目に当たって怯み、その隙に第二撃を再び目にぶつけた。

怪物はウンガから離れ、空高く飛び立って行った。

 

「大丈夫?」

 

「うっ・・すまんな。とりあえず、村に案内しよう」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

黒道家にて、現在、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

「リルの行方が見つからない」

 

「どうするか」

 

「もはや並盛町にはいないかもしれないですね」

 

「だがそんなこと可能か?」

 

「ふむ、本当に神隠しにでもあったかのようですね」

 

「このままではマズイな」

 

「ええ。もしもこのことがクルドさんに知れたらこの町滅びますよ」

 

「あの親馬鹿には気づかれないようにしないとな」

 

「まあ都合よく来るわけでも電話がかかってくるわけでもないから問題なくね?」

 

♪~♪~♪~ブツ。

 

「そうですね。僕はもう一度探してきますよ」

 

「今の電話は大丈夫か?絶対わざと切ったよな?」

 

「平気です」

 

「かわいそうな黒道家の黒電話・・・・」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「おいしー!」

 

あの後、ウンガによって近くにあった村に案内されたリル。危ないところを助けてくれたので、ウンガはすでにリルを味方と認識した。

 

自分だけでなく、自分の子供すらも危機から救ったとのことなので、リルは本来余所者を入れない村の中に入る許可を手に入れたのであった。

 

そして現在、ウンガの家にておやつをご馳走になっていた。

ちなみにおやつはリルの見たこともないような青い果実を使ったタルト。

リルの表情を見るに、その味は中々に美味のようである。

 

そして食べ終わり、一息ついたた。

 

「それでさっきの何?ユーマ?」

 

「さっきの奴は、俺たちがオルギルと呼ぶ生物だ」

 

オルギル。

見た目は四枚の羽を生やした黒い馬のようだが、四肢の先についているのは蹄でなく頑強な鉤爪。

さらに目は赤く光、牙は鋭く、馬よりはるかに大きく強靭な顎を持つ。

空を自在に飛び、大地を踏みしめ獲物を捕らえる野生の生物のようである。

 

「オルギル?弓以外に武器ないの?そんなに強いの?」

 

「弓の他には、まあボウガン、て手裏剣、あとは吹き矢とかが」

 

(なんで飛び道具しかないんだろ・・・)

 

リルが村を回って知ったのだが、この村には近接格闘という物が存在しないらしい。

 

そんなことあるのか?と思ったが、この村の人たちは身体能力的には高い方だが、今まで村に現れる同じ人間の敵などいなく、それらの能力は全て畑を耕したり荷物を持ったりと生活に役立つ能力。

 

攻撃の手段として接近して戦う術を学ばず、遠くの獲物を獲る為の、つまり遠距離の敵を仕留める技術だけが発展していったということらしい。

そのため、弓は小さい力で遠くへと飛ばすように作られ、吹き矢は連射すら可能。ロシアンルーレットすらできるという高性能ぶりを持つという、妙にすごい武器が出来上がったらしい。

 

「しかしリル、迷ったとはな。コイツは困ったな・・・」

 

「どうして?」

 

「一応俺もこの村の外に詳しくはないんだが、帰り道には心当たりがある」

 

「そうなの?」

 

コトリ。

 

物音が下ので二人とも横を見てみると、扉が少し開いてアモンとイルナがこちらを見ていた。

 

「二人とも、おいで」

 

ウンガがそう言うと、二人がトコトコと歩いてきてリルの隣まで来た。

 

「お姉ちゃん、さっきはありがとう」

 

「ありがとう」

 

「うん、どういたしまして。怪我なくてよかったね」

 

リルがそう言うと、二人とも笑顔になった。

 

アモンが「お礼」と言って握った手を差し出したので、リルが受け取る。

広げてみると、紐に通された鮮やかな羽飾り。木で作ったビーズのようなものと、紐と羽で作られた民芸品のようである。艶やかで鮮やかな色合い、綺麗なネックレスであった。

 

「わぁ、綺麗。ありがとね、アモン」

 

「えへへ」

 

「それでどうする。もう帰るか?」

 

「そうだね、お使いの途中だし」

 

「もう帰っちゃうの?」

 

「もうちょっとゆっくりして言ったら?」

 

帰ろうかなという事言うと、アモンとイルナの二人は少し悲しそうな顔をする。

そしてリルの服の裾を掴んで引き止めにかかった。さすがにリルも悲しそうな自分より小さい子の頼みを無下にしたくないが、自分もお使いがあるのでリルの中で天秤が揺れていた。

 

「えっと・・・」

 

「リル、ちなみにお使いの内容は?」

 

「えっと、挽肉と玉ねぎと卵」

 

「それならこの村にもあるぞ」

 

「ホント!?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「皆戻って来ないわね~」

 

「母さん、お腹すいた」

 

「あら、じゃあおやつでも食べましょうか」

 

「うん!」

 

「確か、お隣にもらったお餅があったし・・・お汁粉でも作ろうかしら」

 

「やったー!」

 

「夕輝は甘いのがいい?」

 

「甘いの!」

 

「ちょと待っててね」

 

黒道家には、朝菜と夕輝しかいなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「おお!ホントにある。ていうかすごい」

 

リルの目の前にあるのは、元が小型サーベルタイガーのような生物から作られた挽肉。そして卵はまるでダチョウの卵のような大きさの、綺麗な模様の描かれた卵。玉ねぎは、玉ねぎというよりキャベツのようだった。

 

「こんなに大きいの初めて見たよ!ホントにもらっていいの?」

 

「ああ、俺やこの子達も助かったしな。お礼にもらってくれ」

 

「ありがとう」

 

「ねえ遊ぼう!」

 

「遊ぼ!」

 

「お使いも終わったし、いいよ!遊ぼっか」

 

「「やった!」」

 

家の窓から三人が遊んでいる様子を、ウンガは微笑ましそうに眺めている。

村内にいた他の子供も次第によってきて、皆で楽しく遊び始めた。

すでにリルは、この村に溶け込んでいた。

 

そしてしばらく時間が立って、

 

「それで帰り道どこ?」

 

「帰り道は、ここから少し森の奥に行ったところなんだが・・・・」

 

「どうしたの?」

 

徐々に歯切れの悪くなるウンガに不思議に思い聞き返すリル。

 

「あそこってオルギルの巣なんだよな」

 

「・・・・・・」

 

「昔はあそこには別の生物が住んでたんだがな」

 

「そうなの?」

 

「カリオーンという生物でな。美しい羽と体躯を持つ生物で、あの怪物が来てから

姿が見えなくなったんだ」

 

ウンガは悲しそうに顔を伏せる。

最悪のことを想像しているみたいだが、あまり信じたくないようだ。

 

「もしかしたら避難してるんじゃない」

 

「避難?」

 

「あの怪物追い払ってくるよ。そしてらそのカリオーンもきっと戻ってくると思うよ」

 

「リル・・・だがあそこは危険だぞ」

 

「平気平気。じゃ、ちょっと行ってくるね」

 

「リル!待て!つっ!」

 

肩の傷が痛むのか、逆の手で肩を抑える。

静止の声を効かず、ウンガを家に残してリルは村を出て行った。

そしてすぐに戻ってきた。

 

「それでその巣ってどこにあるの?」

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

並盛町を風のように動き、移動する影がいくつかある。

大地を蹴り、壁を蹴り、屋根を蹴って移動しながら、目は忙しくあたりを見回す。電柱の上にしゃがみ、光努は周りを見た。

 

「いないな。どこに行ったのやら。おい、お前知ってるんじゃないのか?」

 

「何をだ」

 

光努の肩に現れたハクリに尋ねる。

 

「リルの居場所だ。お前なら自由にどこへでも飛ばせるんじゃなのか?」

 

「まあできないことはないけど。今は場所はわからないな」

 

「どうしてだ」

 

「おしゃぶりついてるし。やることには制限がかかってるんだよ」

 

「・・・・・使えない奴」

 

「おい、聞き捨てならねぇ。なんてこと言いやがる」

 

「だって事実だし」

 

「・・・・・・」

 

ハクりの体から、ただならぬ威圧感が漏れ出てきた。

 

「ハクリ?」

 

「いいだろう。そこまで言うのなら、少しだけ力を開放してやろう」

 

「え?いや別にそこまでしろとは」

 

「10秒くらい、世界中で天変地異が起こるかもしれないが、我慢しろよ」

 

「やめろ!全力で今しようとしてることをやめろぉ!!」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

小さな滝。

透き通るような水が流れ落ちて滝壺を作る。

そこから少し広がって小さいが、綺麗な湖を作り出していた。

だが、周りの木々はそれとは対照的だった。

草花はどす黒く、周りの木々も枯れている。

 

まるで地獄の一丁目のよう。だがそれと対象な湖はオアシスのようにも見える。近くの黒い草の上に、黒く丸まっている生物がいた。

全身が黒い毛並み、背中から生えた4枚の闇のような黒い羽にくるまっているその姿は、巨大な黒く丸い塊にしか見えない。

わずかに上下運動をしていることから、それが生きている物体ということはわかる。

 

サク。

 

そんな場所に、足音がかすかに響く。

 

異常なる聴覚を持つ黒い生物は、耳をヒクヒクと動かし、閉じていた目を開いた。その目は血のように、真っ赤に光っていた。

オルギルは、目の間に現れた人物を睨んだ。

 

「ウンガ、隠れるのは無駄みたいだよ」

 

「そのようだな。二人は下がっている」

 

「「うん」」

 

アモンとイルナは近くの草むらに隠れ、その前にウンガとリルが立った。

 

「じゃ、後方支援よろしく☆」

 

「正直子供を戦わせるのは気が進まないが、俺にはこれしかできないからな」

 

そう言って弓矢を構えるウンガ。そしてリルは、両刃の西洋剣を取り出して構えた。

 

オルギルは立ち上がり、息を吐き出しながら全身から激しく殺気を漂わせた。

野生動物によく見られる臨戦態勢に入ったのだろう。

全身の毛を逆立たせ、鉤爪を立て、羽を広げて威嚇した。

 

「ガアアアァァ!!」

 

「はっ!」

 

ウンガが素早く弦を引き絞り、矢を飛ばす。

一度に数本の矢を発射できる弓は、何本もオルギルに向かって跳んでいった。

弦自体が強力なのもあってか、並大抵ではない速度で飛んでいく。

オルギルは反射的に全てを横に移動することで躱し、こちらへと突っ込んできた。

 

「やっ!」

 

キイィン!!

 

リルの振りかぶった西洋剣にオルギルの鉤爪が当たる。

鋭い音を立てて二人の持つ武器がぶつかりあった。

さすがに腕力はオルギルの方がはるかに分があるため、リルは押し倒されるところだったが、自分からオルギルの体の下に滑り込むように入り、下から剣の塚で殴り込む。

 

「グアゥ!」

 

すかさずウンガがボールのような物をオルギルの顔に当てた。

 

パァン!

 

「グウァアアァ!!」

 

ボールがぶつかり、はじけた。

そこから粉のような物がオルギルの顔に降りかかり、苦しみ始めた。ボールは刺激臭のする木の実から作られた塊。目に直接かかったため、オルギルは悶え苦しんだ。

 

「てや!」

 

オルギルが一瞬硬直した隙に、リルはオルギルの下から出て、すかさず剣の柄でオルギルのこめかみに強打する。

脳を揺さぶられ、オルギルはふらつき、思わずしゃがみこんでしまった。

 

「ん?」

 

「どうした!リル!」

 

「なんか後ろの羽変だよ」

 

ウンガがリルの言葉に、オルギルの背についている4枚の羽の内、後ろの2枚を見てみると、前の羽とあまり変わらないが、まるで陽炎のように揺らめいていた。まるで黒い煙が羽の形をとってくっついているみたいに。

 

「確かに何か変だな」

 

「ちょっとあれ狙ってもいい?」

 

「何かわかるのか?」

 

「ん~。勘だけど、あれ外した方がいいと思う」

 

「いいぜ、お前の勘に従うよ」

 

そう言って弓を構え、弦を引き絞り、矢を構えて狙いを定めた。正面から見て左側の後ろの羽。

 

そしてリルは西洋剣を両手で持ち、地面に平行になるように額の横につけて構え、正面から見て右側の後ろの羽を狙う。

 

「はっ!」

 

ウンガが矢から手を離し、通常の弓よりもはるかに強力な一撃が、オルギルの後ろ羽を根元から射抜いた。

 

「グアアゥ!!」

 

「――――!」

 

ザッ!

 

気づいたら、リルはオルギルを通過しており、残り3枚の内、後ろ羽が根元から切り裂かれた。

 

「ガアアアァァ!!」

 

二箇所の羽があったところから、黒い霧のような物が吹き出した。

オルギルは先ほどよりもはるかに苦しそうに悲鳴を上げて暴れだす。

次第に黒い霧がオルギルを包み込んで霧が晴れたとき、リルとウンガ、そしてアモンとイルナは思わず息を飲んだ。

 

その場にとどまっていたのは、オルギルではなかった。

 

全身は銀色に近い、真っ白な体毛。長く、強靭な四肢と蹄を持ち、大きな体躯でその場に佇む光景はまるで幻想のよう。その顔には、凛々しさと精悍さが醸し出されている。そして一際目を引いたのは、その背から伸びた2枚の真っ白い羽。

神々しさを出すその姿は、まさに天馬と呼ぶにふさわしい。

 

「カリオーン!オルギルはお前だったのか!」

 

「クゥ」

 

「綺麗・・・。カリオーンってペガサスのことだったんだ・・・・」

 

滝の流れる湖の淵に佇むカリオーンとウンガ。二人の仲の良さそうな光景に、リルも思わず笑顔になった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

ガッ!ドゴゴゴゴ!

 

「離せ!光努!今すぐリルの居場所を」

 

「いややめろ!洒落にならんだろうが!世界を壊すつもりか!」

 

「大丈夫。表面を削るだけに止めとくから」

 

「十分危険だからな!?いい加減にせんか」

 

ドゴォ!!!

 

「それで止められると思ったか?」

 

「いいだろう。俺もお前を全力で止めてみせる!」

 

「できるなら、やって見せろ!光努!」

 

互いに激しく好戦的になりながら、両者が激しくぶつかりあった。

いやいや、お前ら何やってんだよ!

 

 

 

 

***

 

 

 

「やっほーい!」

 

「わぁ!」

 

「すごーい!」

 

「クゥー!」

 

カリオーンの背にまたがり、大空を翔けるリルとアモンとイルナ。

子供が一度は夢見る光景が今ここに実現していた。

そして人通り飛び回り、元の滝壺へと戻ってきた。

 

「この滝壺の裏にある洞窟。ここからなら、おそらく帰ることができる」

 

「うん、ありがとう」

 

背中に食材の入った風呂敷を背負って滝壺の裏にある洞窟の前に立つリル。

見送りに、ウンガにアモンとイルナ、そしてカリオーンがリルの前に立っていた。

アモンとイルナは少し寂しそうにしていたけど、リルが二人の頭を撫でると、二人とも嬉しそうに笑った。そんな笑顔をみているリルも笑い、ウンガにもお礼を言う。

 

「じゃあね皆。また機会があったら会おうね」

 

「ああ。歓迎するよ」

 

「じゃあね、お姉ちゃん」

 

「じゃあね」

 

「クゥン」

 

リルは皆に見送られて、洞窟の中へと入って言った。

暗く、何も見えない洞窟の、奥へ奥へと・・・・・・・。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あ、出口だ!」

 

洞窟から出たとき、外の光の眩しさに、リルは思わず腕で目を隠す。

再び開いたとき、そこはなんの変哲も無い公園。

並盛中の近くにある公園に、リルは立っていた。

 

「ここって、公園?戻って来れた!」

 

見覚えのある景色に、駆け足になる。よく見てみると、夕日も沈み掛けて周りはオレンジ色に染まっている。ふと後ろを見てみたが、当然のごとく、公園の中が見えるだけで洞窟なんてものは存在しない。リルは半ば予想していうたのか、少し寂しそうな顔をしたけど、そろそろ帰らないとと思い走ってると音が聞こえた。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

「甘い!」

 

「何してるの?」

 

ピタリ。

 

リルの言葉に、今まさに激突しようとしていた光努とハクリが止まった。

 

「「・・・・・・」」

 

「何してるの?ケンカなんかしちゃダメだよ?」

 

「「リル!?」」

 

いきなり声を出して来た光努とハクリに思わずリルは吃驚したけど、二人が自分を探していたと知ると、自然と笑顔になった。

 

「じゃ、帰ろっか」

 

「ああ」

 

「皆心配してるからな」

 

三人で手を繋いで、後ろに伸びた影を作りながら帰路についたのであった。

余談だが、リルのもって帰ってきた挽肉玉ねぎ卵を見た皆はたいそう驚いて不思議がっていたそうであった。

 

(そういえば、あの黒い羽ってなんだったんだろ?)

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

暗く夜に染まった並盛町の上空に、()()は飛んでいた。

 

体はない、あるのは黒い漆黒の羽が1対あるのみ。

 

ふよふよと上空で滞空していた羽は、掻き消えるように、あっという間に姿を消したのだった。

 

まるで闇に溶け込むように、その場から消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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