From:《時の庭園》
「再び時の庭園に到着〜っと」
《
「さてさて……ミッドチルダへいざ行かん!」
テンションが高いままに、鼻歌なんぞを口遊みながら俺は時の庭園のコントロール室で行き先を操作する。
「ミッドチルダ、ミッドチルダっと。あった。ここだな」
ポチッとな____などと言いながら行き先を変更する。
あとは自動操縦だ。
楽なものである
高度な文明ってやっぱ良いよな……
文明をもっと発達させる決意をした瞬間である。
「さて、と。到着までまだまだ時間かかるみたいだし、《時の庭園》の修理でもしますかね」
無論、行き先であるミッドチルダについての勉強もしながら。
〜〜〜〜〜
しばらくして。
ミッドチルダ付近に着いたというアナウンスが《時の庭園》に流れた。
正規の手順だと、この後は次元航空艦用の港に泊めて入国(入界?)するらしいのだが、残念ながら《時の庭園》は非正規の艦だ。
パスポートとか、身分を証明するモノも無い。
仕方がないので、不正入国(入界?)する事にした。
その場から飛び立ち、時の庭園を保護している力場の外に出る。
「なんか久しぶりだけど……喰らい尽くせ!ってな」
言葉と同時に《時の庭園》そのものを全部胃袋に収納した。
あとは、ミッドチルダに転移するだけだ。
「座標データはあるから大丈夫だとして……入国管理のセキュリティとかあるだろうけど、突破可能か?」
<問題ありません。実行可能です>
「OK。よし、行こうか」
シエルさんが言うのであれば間違いはないだろう。
俺は演算をシエルさんに丸投げして、その場から転移した。
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ西部、エルセア
とうとうやって来ました!ミッドチルダ!
ここはミッドチルダの西部、エルセアという場所らしい。
パッと見は近未来の郊外って感じ。
車には普通に車輪があって飛んでたりはしないし、モノレールらしきものがそこら中を走っている。
都市設計をある程度徹底してるのか美しい街並みだ。
歩道を歩く人々は多様な人種が見かけられ、白人や黒人、黄色人種といった地球にいるような人種以外にも、耳が長かったり獣耳が生えている人とかもいる。
さすがに明らかに魔物らしい人影は見かけないので、異種族間交流は基本的に亜人までなのだろう。
ふーん、ほーう、とか言いながら街を歩いていると、奇異な視線を感じた。
周囲を見渡すと、珍しいものを見るような目で人々が俺を見ている。
中には、クスッと笑ってる人もいるようだ。
(あっ、これじゃ俺、完全に田舎者まるだしじゃないかっ)
急に恥ずかしくなってきたので、顔を伏せつつ人目をかいくぐるように移動する。
ちょうど人の少ない細い路地を見つけたので素早くそこに入った。
(あー、恥ずかしかった……)
一息ついた俺はこのまま細い路地を進むことにする。
なんか事件の起きそうな怪しい路地だと最初は思ったんだけど、意外と綺麗だった。
治安はそれなりに良いんだろう。
表通りでも、現代日本の東京と遜色ないくらいには人々は無防備だったしな。
良いことだなと、うんうん頷きながら歩いてたら悲鳴が聞こえた。
割と怯えたような声だったので、ただ事ではなさそうだ。
(治安が良いって思った矢先にこれか!)
悲鳴の発生源は、俺が歩いている路地を少し先に行った場所っぽい。
とりあえず、現場を見に行く事にした。
そこでは____
「お兄ちゃんっ!」
「大丈夫だティアナ。……俺は管理局のティーダ・ランスター二等空尉だ!お前らを窃盗及び器物破損、暴行未遂の現行犯で逮捕する!」
「管理局かっ!?とはいえ一人じゃ何もできないだろうが!お前ら、あいつを袋叩きにするぞ!」
「へっ、公務執行妨害罪も追加だな!」
顔をバンダナとかで隠した、10人ほどのガラの悪い連中に囲まれている少年と、その妹らしき幼女がいた。
その近くでは建物の窓が割れており、宝飾品がいくつか地面に落ちている。
どうやらテンプレ的な宝石強盗らしい。
周辺にいた人たちは悲鳴をあげて逃げている。
強盗達は笑いながら少年達にじりじりと近づく。
このままでは酷い暴力沙汰になってしまうだろう。
だが____
「おせぇ!」
「がっ!?」
「ぐあっ!?」
意外な事に、少年はその体捌きのみで瞬く間に強盗の2人を無力化した。
あの年齢で見事と言う他ない。
少年はそのまま何かを呟き、一瞬で服装を変更した。
拳銃のような物も2挺握っている。
おそらく、あれが戦闘時の格好なのだろう。
解析してみると、拳銃のような物はデバイスという魔法を補助する機械らしい。
《時の庭園》のデータベースとも照合したから間違ってはいない筈だ。
その拳銃のようなデバイスから魔力でできた弾を打ち出し、次々と強盗を無力化していく少年。
強盗側もデバイスを持って魔法で応戦するが、軍配は少年の方に上がっている。
無力化された強盗が無傷なのを見ると、《非殺傷設定》で戦ってるみたいだな。
ちなみに《非殺傷設定》とは、純粋な魔力によるダメージで物理ダメージのない攻撃の事を指す。
《時の庭園》でコレを見た時は、俺の世界でも使えないかと思ったものだが……
この世界や、俺の前世の世界などはいわゆる物質界……
それに対し俺の世界は半物質世界なので、
つまり何が言いたいのかと言うと、魔力ダメージは
そう美味い話は無いのである。
さて。
話は戻って少年の方だが、強盗の完全無力化まで残り僅かといったところだ。
このまま眺めていても大丈夫かなとか思ったんだが……残念ながらそうはいかないらしい。
杖を持った強盗の一人が、少年の妹に狙いをつけたからだ。
少年はそれに気づいていない。
強盗の方は《殺傷設定》にしているみたいだし、下手したら少年の妹は死んでしまうだろう。
「おらぁ!」
幼女に狙いを定めた強盗がニヤリと笑いながら魔力弾を撃つ。
流石にそれを放置するのは後味が悪いので、俺も手を出す事にした。
強盗と幼女の間に割り込む。
魔力弾をパクリと《胃袋》に取り込んだ。
「何!?」
「っ!?ティアナ!」
魔力弾を撃ってきた強盗が驚いたが、少年も幼女に攻撃された事に気付いたのだろう。
動きが硬直し、視線がこちらに向かってしまっている。
強盗達はその隙を逃さなかった。
幼女に向けて攻撃しなかった他の強盗が少年に向けて攻撃しようとしているのが見える。
「お兄ちゃんっ!」
「っ!」
幼女が叫び、少年が再び強盗に向き直ろうとするも間に合わない。
そんな少年の横を複数の光が疾る。
ドドドンッ!という音と共に、光は残りの強盗を打ちのめしたのであった。
光の正体はもちろん、俺の攻撃である。
この世界の《非殺傷設定》を解析したので、同じく純粋な魔力ダメージによる攻撃を試してみたのだ。
結果は成功。
強盗達を無傷の状態で倒すことができた。
「無事に終了っと。少年。その勇敢さと強さは認めるが、近くに守る相手がいる場合はもうちょい慎重になった方が良いぞ」
そう言って俺は横に立つ幼女の頭をぽんぽんと撫でる。
幼女と少年はハッとしたような顔になって、お互いに駆け寄り抱きついた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!うっ、うぅ……」
「ティアナ!無事か?どこにも怪我はないか?」
「ぐす……うん、だいじょうぶ。あのお姉ちゃんが守ってくれたから」
そう言って幼女は俺を指差す。
幼女よ、俺は男であってお姉ちゃんではないぞ。
とも思ったけど、兄妹の感動の抱擁に水を差す気はないので心の内で言うだけに留めた。
少年は自らに抱きついて離れない幼女を抱き上げて、こちらにやってくる。
「妹を助けて頂いて、本当にありがとうございます。俺はティーダ・ランスターと言います。こっちは妹のティアナ。何かお礼ができればと思うのですが……」
そう言って少年はチラリと倒れた強盗達を見る。
「気にしなくていいよ。それよりも、アイツラを拘束する方が先だろ?妹さんは見守っといてあげるから、行っておいで」
「何から何まですみません、恩に着ます!ほら、ティアナ。俺はやることがあるから、このお姉ちゃんと一緒にいてくれ」
「うぅ〜、やだっ!」
必死にティーダにしがみつくティアナ。
さっきの事がよっぽど怖かったんだろう。
このままだと強盗が起きてしまうかもしれないので、俺もティーダに加勢する。
「ティアナちゃん。このままだとお兄ちゃんがちゃんとお仕事できないよ?そうなると、あそこの怖い人たちが起きて、また怖い事になっちゃうかもしれないからさ。俺と一緒に待ってようぜ?」
「うぅ〜……」
俺の言った事を理解してくれたのか、ティーダを掴む手が少し緩んだ。
聡い子なのかもしれない。
俺は畳み掛ける。
「お兄ちゃんの言う事をちゃんと聞いたら、ご褒美にコレあげるからさ。ちょっとだけ辛抱しよう?」
「う……?」
俺は大人の親指サイズの綺麗な丸い物体をティアナちゃんに見せる。
その正体は、いつもより強めに保護した《回復薬の魔素包み》。
我が国ではスライム形態の俺に似ているとの事で、結構人気がある。
ティアナに渡すこれは、特別仕様という事でスライムの俺と近しい形になるようにした。
触りごちはツルツルぷにぷにで、通常の《回復薬の魔素包み》と違って簡単には破けない。
護身用かつ子供のオモチャにもなって一石二鳥なのだ。
名付けて《スライムもどき(回復薬入り)》。
試しにティアナに触らせてみると、その見た目と触り心地を気に入ってくれた様子。
素直にティーダから離れて、俺のところに来てくれた。
「よし、いい子だな。待ってる間はそれで遊んでるといい」
「すみません、ありがとうございます。えーと……」
「リムル・テンペストだ。ほら、行ってきな」
「ありがとうございます、リムルさん!ティアナも、すぐに戻ってくるからちゃんといい子にしてるんだぞ?」
「うんっ!わかった!」
ティーダは慌ただしくも強盗達のところに戻っていき、その一人一人を拘束し始めた。
どこかと連絡もしているようで、おそらくは管理局の仲間を呼んでいるのだろう。
あの年なのにもう随分と手馴れている。
ティアナはそんなティーダを尊敬の眼差しで見つつ、俺の渡したスライムもどきで遊んでいた。
〜〜〜〜〜
暫くして。
管理局の局員らしき人たちに強盗が連行されるのを見届けた俺は、ティーダ達と向かい合っていた。
「今日は助かりました。強盗の捕縛協力に加えてティアナのお守りまで……本当に、ありがとうございます。リムルさん」
そう言ってティーダが頭を下げる。
「気にしなくていいさ。困ってたらお互い様ってね。ティアナもスライムもどきを気に入ってくれたみたいで良かったよ」
「うんっ!ありがとーリムルお姉ちゃん!」
「お姉ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんなんだけどな?」
とか言ってみたが、ティアナに俺の言葉は届かなかった。
軽くスルーされてスライムもどきを触るのに夢中になってしまう。
「あはは……すみません。それで、なんですが」
苦笑していたティーダが真面目な顔になった。
「改めまして、リムルさん。今回は本当にありがとうございました。管理局として、あなたのその功績を讃え、感謝状と金一封をお渡しできると思うのですが……」
どうしますか?と言外のその目が語っていた。
この世界で無一文の俺にとって正直、金一封はありがたいが……
「やめておくよ。勧誘とかされても困るだけだし、その功績はティーダ君が貰っといてくれ」
そうなのだ。
《時の庭園》のデータベースにアクセスした時に知った事だが、管理局は常に人手が足りていないらしい。
その状況で強盗を捕縛した一般人なんて出て来たら、勧誘の嵐がやってくるのは想像に難くない。
なので、ここは断ることにした。
まぁ、受けると不正入国したことがバレる可能性が高いので、そういった意味でも受け取れなかったりはするのだが。
ティーダは若干残念そうにしたが、仕方がない。
「そうですか……いえ、これはあまり深入りする話でもありませんね。それでしたら、この後ティアナと一緒に昼食を食べる予定だったんですが、リムルさんも如何ですか?」
良い店知ってますよ、と続けたティーダに対して俺は「是非」と応えた。
ミッドチルダの食べ物にも興味あったし、奢ってもらえるんだったら是非はない。
そうして俺たちは、ちょっと遅めの昼食を取るのだった。
〜〜〜〜〜
その後、公園でティアナと一緒に遊んだりした俺は、別れ際にティーダにも《スライムもどき》をあげることにした。
「これは……?」
「ティアナにあげたのと一緒の奴だけど、まあ御守りだ。持っておくと、何か助けてくれるかもしれないぜ?」
「はぁ……」
半信半疑になりつつも、ポケットに《スライムもどき》をしまうティーダ。
そんなティーダとは対照的に、ティアナの方はご機嫌だ。
「えへへ、お兄ちゃんもティアナとおそろいだね!」
「そっか……ああ、そうだな。ティアナとお揃いだ」
ティアナの喜ぶ姿を見て、ティーダもその顔を綻ばせた。
その姿に満足した俺は、身を翻した。
「それじゃ、ティーダ、ティアナ。またなー」
「はい、リムルさん。また機会があれば!」
「リムルお姉ちゃん、またねっ」
バイバーイ、と声をあげるティアナに手を振りながら、俺はその場を後にした。
エルセアはベッドタウンってイメージ。
非殺傷設定でもリムル様の世界では殺傷設定と変わらないって話はオリジナル設定です。