From:ミッドチルダ西部、エルセア
ランスター兄妹と別れた俺は、夕暮れの街を歩いていた。
辺りでは帰りを急ぐ子供達や、犬の散歩をしている人、スーツを着て忙しそうに歩いている人など、多くの人たちを見かけた。
本当に、地球と変わらない。
穏やかな風景がそこにはあった。
俺は郷愁を感じつつも、それを楽しむようにゆっくりと歩いていく。
すると……小さな子供の、泣き声が聞こえた。
「ひっぐ、ぐすっ……ギン姉、おかあさん、どこ……?」
どうやら迷子のようだ。
道の片隅で、しゃがみこんで泣いている。
その子を見ていると、俺も小さな子供だった頃を思い出す。
(俺も、昔迷子になって泣いた事があったっけ)
なんとなく懐かしくなって、その子供に近づく。
「どうしたんだ?お母さんとはぐれちゃったのか?」
俺もしゃがんで子供に目線を合わせ、殊更優しく声をかける。
子供は声をかけられたことに驚いたのか、目を丸くしてこちらを見た。
「ぐすっ……うん……おねえちゃん、だれ?」
「お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだけどな?俺は、リムル。リムル・テンペストって言うんだ。君はなんて名前なんだ?」
「スバルは……スバル・ナカジマ」
「スバルちゃんか。よしよし、よく言えたな。それじゃ、おかあさんが見つかるまで、お兄ちゃんと一緒にいようか?」
「うん……」
苦笑しつつ、頭を撫でながら提案するとスバルは頷いてくれた。
だが、ただ待ってるだけというのもスバルを不安にさせてしまうかもしれないので、ちょっとしたものを見せる事にした。
「ほら」
「わぁ……すごいすごい!」
何をやっているのか一言でいうと、あやとりだ。
ブランコ、ちょうちょ、東京タワー……などなど。
色々な物を、色をつけた鋼糸で再現して見せた。
それに対してスバルは目を輝かせている。
スバルの反応に気を良くした俺は、シエルさんの力も借りてよりダイナミックに、全身を使って色々表現する。
そうやって夢中になっていると……
パチパチパチ!
気がつくと、周囲にはギャラリーができていた。
中には、足であやとりするため脱いだブーツにおひねりを投げている人もいるくらいだ。
なんとなく気恥ずかしくなった俺は、ササッと糸を仕舞い、その場で優雅に片足で一礼した。
最後に割れんばかりの拍手と歓声が上がり、その場はお開きとなったのだが……
「もう、やらないの……?」
「あっ、えーと、だな」
しまった。
またスバルが泣きそうになってしまう。
ギャラリーを集めてしまうのを覚悟で再度やるしかないか?と思ったところ____救世主が現れた。
「スバル!」
「あっ!おかあさん!ギン姉!」
人垣を分けて、親子が現れた。
スバルの反応を見る限り、あれがスバルの母親と姉なのだろう。
母親はスバルを抱きしめて、無事だった事に安堵している。
姉の方も、そんな二人と同様に安心した表情だ。
「もう、心配したんだから……大丈夫?寂しくなかった?」
「だいじょうぶだよ、おかあさん。あのおねえちゃんがいろいろすっごいの見せてくれたの!」
そう言って俺を指差すスバル。
母親は、俺に気がついて礼を述べる。
「すみません、この子が世話になったみたいで……でも、本当にありがとうございます」
「気にしないでください。俺も旅の者なんで予定は無かったし……困った時はお互い様ですから」
このやりとり、さっきもやったな。
今日はつくづく子供に縁のある日みたいだ。
「それでも、助かりました。私はクイント・ナカジマ。こっちが長女のギンガ。そしてこの子が次女のスバルです」
「俺はリムル・テンペストと言います。スバルはいい子でしたよ」
クスッと微笑んで自己紹介を済ませる。
すると、クイントさんは何を思ったのか、是非お礼をと言ってきた。
「もしよかったらなんですけど…今夜特に予定がないのでしたら、お礼に夕食なんて如何ですか?」
その提案は魅力的だ。
今日の宿すらも決めていないので、俺はありがたくその提案を受ける事にしたのであった。
「ありがとうございます。そう言う事でしたら、是非ご相伴にあずかりたいと思います」
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ、ナカジマ家
ナカジマ家に行く道すがら、スバルに見せてたあやとりをギンガとクイントにも見せつつ、俺はナカジマ家にお邪魔させて貰った。
夕飯ができるまで少し時間がかかるとの事だったので、それまではギンガ、スバルと遊んで過ごした。
あやとりしたり、パフォーマンス目的で魔法をいくつか見せたり。
そうこうしていると、夕飯ができたようだ。
「ごはんできたよー」
「「はーい!」」
姉妹が真っ先に駆けて行く。
そんな姉妹の様子に苦笑しつつ、俺もゆっくりと後を追って行くのであった。
〜〜〜〜〜
ナカジマ家の食卓は、なんというか凄かった。
内容自体は普通の日本の夕食って感じなんだが……
量がとてつもなく多い。
一人一人に配膳されたご飯と味噌汁だけでも、大人5人前くらいはあるんじゃないだろうか。
おかずの唐揚げや煮物、サラダなんかも山のように盛り付けられている。
これをスバルとギンガみたいな小さな子が食べきれるのか心配になったものだが……
その心配は杞憂であった。
元気よく「いただきます!」と言った後は、2人ともかなりのペースで箸を進め、あっという間に平らげてしまった。
「「ごちそうさまでした!」」
大人顔負けの健啖家である。
思わず拍手をしてしまった。
「おー。小さいのに2人ともよく食べるなぁ。あ、クイントさん。ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「はい、お粗末様です。でも、リムルさんも流石ですね。私達もそれなりに食べる量が多いという自覚があったんですが、それについて来れるとは思いませんでした」
「あはは……まぁ、普段から体を動かしてますからね」
本当のところは俺がスライムだからなんだけど、それをそのまま言うのは憚れたので言葉を濁す。
それにしても、クイントさんも相当だ。
スバル達よりも多い量を食べてるのにケロッとしている。
まあ、俺もクイントさんと同量を食べてたりするのだが。
「そういえば、リムルさんって普段は何をされているんですか?」
食後のまったりした時間。
食べたばかりにも関わらず、スバルとギンガはまたきゃいきゃいと遊んでいる。
俺がさっき見せたあやとりを真似しようとしているようだ。
そんなのほほんとした時間に、ちょっとした世間話といった様子でクイントさんが質問してきた。
さすがに「魔王やってます」とは素直に言えないので、言葉を濁す事にする。
「普段は自分の世界でデスクワークとかをしてますね。一応、公務員なもんで」
あっ、そう言えば、こっちでも「公務員」って通じるのかな?
「あら、そうなんですか?私達と一緒ですね」
微笑みながら答えるクイントさん。
どうやら「公務員」でも通じるようだ。
それにしても、少し気になる点があったな。
「私”達”?」
「ああ、すみません。私と夫は二人とも管理局の局員をやっているんですよ」
ちなみに管理局とは____
正式名称《時空管理局》と言い、大雑把に言うと「次元世界をまとめて管理する、警察と裁判所が一緒になったところ」らしい。
他にも各世界の文化管理とか、災害救助とかもしたり、その業務内容は多岐に渡るようだ。
昼頃に会ったティーダも管理局の局員だそうで、今日は何かと管理局との出会いが多い気がする。
「ま、現場での仕事が多いんですけどね」
言ってウィンクするクイントさん。
とても二人の子供を抱えてるとは思えないくらい若々しい。
<
まじか。
よくよくシエルさんの話を聞くと、過去に管理局が摘発した事件の中には、違法な《戦闘機人》を取り締まったものもあるらしい。
《戦闘機人》の作成自体、非人道的との観点から違法として取り締まっているのだそうだ。
確かに、スバルとギンガを解析してみると普通の人間とは違う身体構造をしている。
<推測ですが、過去に管理局が摘発した《戦闘機人》関連の事件で保護したのがスバルとギンガなのだと思われます。遺伝子情報がクイントと同じというのも関係しているかと>
なるほど……
チラリとスバル達を見る。
今は元気でやっているが、過去はとても大変だったんだな。
それを頑張って育てているナカジマ夫妻。
色々とドラマを感じて、ちょっとじーんとしちゃったぞ。
「大変そうですね……」
「あはは……でも、やりがいはありますよ?男女関係なしに活躍できますし」
言外に、「入局してみませんか?」と言われているようで若干気まずい。
話を逸らすために、俺はある案を思いついたので実行する。
「そうなんですか……ところで、折角ご馳走になった事ですし、ささやかながらお礼をさせてください」
「そんな……気にしないで大丈夫ですよ?」
「まあまあ、そんなに大したものじゃないんで」
俺はそう言いながら、懐から出したように見せて《胃袋》からとある物を取り出す。
取り出したのは、イヤリングだ。
なんの変哲も無い金属を加工し、綺麗に輝くようにカットしたガラスを嵌めただけのモノ。
そのガラスの中には、回復薬が仕込んである。
俺はそのイヤリングをクイントさんに手渡した。
「まあ!こんな高価そうなもの、良いんですか?」
「ええ。ウチの国の特産品なんですが、割と安価で手に入りますし。それに、はめ込んでるのはタダのガラスなんですよ。見た目がいいのでウチの国では老若男女問わずに買ってもらえる人気商品です。御守りにもなるんですよ?」
事実である。
回復薬仕込みのこの商品は、比較的安価で手に入る緊急護身用の一品だ。
装備している者が危機に陥った時に自動で割れ、回復してくれるというスグレモノである。
イヤリングという形なので、入れられる回復薬の量は微々たるものだが……
まぁ、あくまで緊急用なので問題は無い。
かさ張らず、見た目も良いので、多くの冒険者に愛用される一品なのだ。
「そうなんですか……フフッ。では、ありがたく頂きますね」
「そうしていただけると、こちらとしても嬉しいです」
「あー!おかあさん!何それー!」
「いいな、いいなー。スバルもほしい!」
ありゃ。
クイントさんに受け取ってはもらえたは良いが、子供達に見つかってしまった。
でもなぁ……子供にイヤリングって、ちょっと早い気がするしなぁ。
「うーん、そうだな。ギンガとスバルにイヤリングはちょっと早いから、こっちのペンダントで我慢してくれないか?」
「わぁ……」
「きれー……」
取り出したのは、ちょっと子供向けにデザインされたペンダント。
これも、イヤリングと同様にガラスで出来た品だ。
丁寧にガラスをカットしているので、これも綺麗に輝いている。
子供達も取り出したペンダントに視線が釘付けだ。
クイントさんが「良いんですか?」と視線で問うが、問題ないと頷く。
「ま、お近づきの印ってね。御守り替わりに持っておくといいかもよ?」
「うん!ありがとー!」
「ありがとー!リム姉!」
「スバル。俺はお姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃん。な?」
「わかった!リム姉!」
「……」
スバルは完全に俺をお姉ちゃんだと認識しているようだ……
仲良くなって、呼び方が「おねえちゃん」から「リム姉」になったのは進歩したと言って良いのか悪いのか。
俺はがっくし肩を落としつつも苦笑する。
子供達は喜んでくれたみたいだし、とりあえずはこれで良しとするかな。
さて、と。
「それじゃ、そろそろお暇しますね」
「えー、もう行っちゃうの?」
「もっとあそぼうよー」
「うーん、ほら。あんまり遅くなってもクイントさんと旦那さんに迷惑だからさ」
実際、今日の宿すら決まってないのだ。
眠る必要はないが、深夜に徘徊してお巡りさんの厄介になるのも頂けない。
さっき貰ったおひねりで、なんとか泊まれる所を探さないと……
「そういう事でしたら大丈夫ですよ。リムルさんさえ良ければ、是非泊まって行ってください」
「……良いんですか?まだ会ったばかりの相手ですよ?」
「フフッ、リムルさんの人となりは何となくわかりましたからね。それに、私と夫は管理局の局員ですよ?何かあったら、しっかりとっちめるので安心してください」
「おー怖……そうならないように気をつけます」
お互いにクスッと笑いながらの応酬。
こういうのも悪くはない。
それに、宿を探す必要がなくなるのは助かるしな。
「それじゃ、今晩はお世話になります」
「はい、お世話します」
「「やったーー!」」
〜〜〜〜〜
それからは、姉妹と遊んだり、一緒にお風呂に入ったり。
「リム姉って、やっぱりおねえちゃんだよね。おとーさんと違うもん」
「あ、いや、違……もう良いか、それで……」
その時に少し見られて(ドコとは言わないが)、晴れて「おねえちゃん」認定されてしまったり……
風呂を上がった後は子供達に歯磨きさせて、子守唄を歌って寝かしつけた。
「ねーんねーんこーろりーよ____♪」
もちろん、シエルさんによる自動モードである。
小さい頃に聴いた子守唄なんて流石に覚えてないしな。
2人を寝かしつけた後、そーっと部屋を出る。
「あの子達の世話をしてくれて助かったわ。ありがとう。それにしても綺麗な歌ね……でも、なんだろう?懐かしい感じがするわ……」
「そりゃあ、ウチの先祖の故郷の歌だからな。大方、俺のお袋からでも聴いたんだろうさ」
子供部屋を出た所で、クイントさんと旦那さんが待っていた。
どうやら、旦那さんはちょっと前に帰ってたらしい。
「どうも、はじめまして。リムル ・テンペストと言います。今晩は厄介になりますね」
「ああ、はじめまして。俺はゲンヤ・ナカジマと言う。アンタがウチの娘を大道芸やってまであやしてくれたってのは話に聞いてる。改めて、俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう」
深々と頭を下げるゲンヤさんに、俺は慌てて手を振る。
「そんな、気にしないで下さい。俺もこうして泊まらせてもらってる身ですしね」
「ああ。アンタみたいな別嬪さんならむしろ願ってもがっ!?」
おお……
クイントさんの見事なエルボーがゲンヤさんに突き刺さってるよ……
ゲンヤさん悶絶して何も言えなくなってるし。
そして当のクイントさんと言うと、何事も無かったかのように微笑んでこちらに向き直る。
どことなく迫力があって、ちょっと怖いと思ったのは秘密だ。
「ここで立ち話もなんですし、リビングの方に行きましょうか」
「あっはい」
〜〜〜〜〜
「おーイテテ……しっかし、アンタ地球出身だったんだなぁ。さっきの子守唄、すごかったぜ」
俺まで寝る所だったわ、とか言いつつ豪快に笑うゲンヤさんは、一本気のある日本男児って感じで好感の持てる相手だった。
ウチの国だったら、クロベエに近い感じかもな。
「ええ。俺も、故郷に近しい人に会えるとは思っていませんでした」
「不思議な偶然もあったものねぇ……あ、リムルさん。もう一杯、如何ですか?」
「あ、それでしたら有難く。いや、泊めてもらうばかりじゃなく、お酒まで頂けるなんて、ほんと恐縮です」
「そんな気にしなくて良いのよ?むしろ付き合わせちゃって申し訳ないくらいなんだから」
典型的な日本人っぽいやりとりをしつつ、俺の持つグラスに酒を注いでくれるクイントさん。
なんか、こういうやりとりも久しぶりで、ひどく懐かしい。
これも、郷愁の念ってヤツなのかもしれないな。
「しっかし、地球からとなると結構遠かったろう?アンタ、どうやってミッドチルダまで来たんだ?」
ぎくっ
内心で冷やっとしたが、ここは冷静にお茶を濁すとしよう。
「実は、個人的な伝手がありまして……俺自身も魔力があるって事で、
大嘘である。
しかし、ナカジマ夫妻は俺の嘘を信じてくれたみたいだ。
「そういえば、さっきもギンガ達に綺麗な魔法見せてくれたものね。デバイスもないのに大したものだわ」
「それほどでも……まぁ、ああいう小手先の技なんかは得意ですしね」
「いや、それでも大したもんだ。俺は魔導師になれなかったからな。羨ましい限りだぜ」
ふむ。
そういや、管理局も魔導師のみで構成されてる訳じゃないんだっけ。
現場で指揮をするのは魔導師でなくても良いし、デスクワークの類で必要なのは戦闘力よりも優秀な頭脳だしな。
そういった事を鑑みると、魔導師=地位が高いって事にはならないのだろう。
「てーことは、あれかい。リムルさんはミッドチルダで魔導師になりに来たのかい?」
「うーん、知己には勧められてるんですけどね。でも、国の公務を放り出す訳にはいかないんで、今回はあくまで見学って所です」
「そうかい。そりゃ、残念だな。だが……もし
「あはは……機会があればよろしくお願いしますね」
ちなみに補足すると、今の俺は魔力を持ってる関係で魔導師の知り合いがいて、その魔導師に勧誘がてらミッドチルダを見て欲しいと言われてやってきた、という設定だ。
「そういう事でしたら、明日ウチの訓練を見せましょうか?ふふふ…地上のエースと謳われるゼスト隊、その真髄をお見せしましょう!」
その提案自体は、この世界での戦力や魔法を解析できるので魅力的だ。
だが……怪しげに笑ってるクイントさんを見ると、どうにも不吉な予感しかしない。
「あー……その、すみませんが、街を見学に来ただけなのでそこまでは……」
「遠慮しなくていいのよ?それで、何か良い所を感じてくれたら嬉しいし!」
その後に「有望株GETのチャンス!」と小声で呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
このままだとまずい気がするが、今のクイントさんを宥める有効な手段はありそうにない。
半ば諦めた心地で、俺は訓練の見学を承諾するのであった。
かなり強引ですがナカジマ家とも繋がりを持たせました。
クイントさんは初対面なので丁寧な口調で喋ってます。
次回、リムル様勧誘されるの巻。