From:ミッドチルダ、ナカジマ家
訓練が終わった後。
俺は再びナカジマ家に厄介になっていた。
なんでも、嘱託魔導師認定試験まで少し日が空いてるから、それまでは泊めてくれるとの事。
子供達は諸手を上げて喜んでくれた。
しかし、ただ泊めてもらうだけというのも悪いので、その間は子供達の世話や、家事なんかを俺がやる事にしたんだが……
「リムルちゃん。もし、万が一でも嘱託魔導師認定試験に落ちるようだったら……ウチの家政婦にならない?」
俺の(というかシエルさんの)完璧な家事を見て、クイントさんがそんな事を言ってくる始末だ。
冗談めかしていたが、その目はマジだった。
さすがに無理なので断ったけどね。
ん?試験勉強はしなくて良いのかって?
ハッハッハッ。俺にはシエルさんという最強の味方がいるんだぜ?
もちろん、全て任せるつもりですとも!
それで身につくか?と言われれば、あんまり大丈夫とは言えないが……
まぁ、問題は無いだろう。
嘱託魔導師として活動できる時間はそんなにないだろうし。
それに、わからない事があればシエルさんに聞けば良いのだ。
さて、と。
「おーい。ギンガー、スバルー。お昼ごはんできたぞー」
「「はーい!」」
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ、管理局地上本部
嘱託魔道士認定試験当日。
試験会場入り口で、後見人のクイントさんと、なぜかついて来たゼストに見送られてから、俺の試験は開始した。
試験について特筆するような事は特にない。
筆記試験はシエルさんパワーで満点だし、魔法の実技試験も俺にとっては特に難しいものでは無かった。
試験官が、「デバイスもないのにこの規模と精密さとは……」とか呟いてた気もするが、気にしない。
気にしたら負けな気もするから無視でいいのだ。
懸念していた身分証明についても、後見人であるクイントさんがいてくれる関係でクリアした。
管理外世界出身という事も、身分証明を求められない理由の一つになったようだ。
そして、最後の試験である模擬戦だが……
なぜか相手はゼストだった。
「マジかよ……」
「マジだ。お前の魔道士ランクは推定でもオーバーSだからな。試験相手を出来る者が少ないのだ」
「だから仕方ない」とかなんとか言ってるけど、明らかにこの前より戦意マシマシなんですけど!?
この野郎……この前負けたからってリベンジするつもりかよ!
こうなったら腹をくくるしかない、か。
あんまり大勢に実力を見せたくなかったんだけどな……
半ば諦めの境地に達していると、ゼストが珍しく不思議そうな顔で口を開いた。
「そういえば前の模擬戦から疑問だったんだが……リムル。お前はデバイスを使わないのか?」
「使わない。持ってないし、使ったこともないからな」
それに、あった所でシエルさんの演算以上の結果を出せるとは思えないし。
「そうか……ククッ」
「お、おい……いきなりどうした?」
「いや、なに。デバイスも持たない一般人が、この俺に勝つとは、とな。世の中は想像よりも広いと思っただけだ」
「……そうかよ」
そんなんで笑うもんなんかね?
ほんと、前の模擬戦の時といい、よくわからない奴だ。
まぁいいか。
ちゃっちゃと終わらせるとしましょうかね!
〜〜〜〜〜
そうして、お互いにちょっとやる気を出しちゃった結果。
勝負は中断され、勝敗は引き分けとなった。
中断の理由は、模擬戦試験会場が深刻なレベルで破壊されてしまった為だ。
試験官の人に「お願いだからこれ以上壊さないでください!」って泣きながら懇願されてしまったのだから仕方ない。
俺もちょっと申し訳ないとは思ったし。
心なしか、ゼストもどこか気まずそうにしていた。
まぁともかくにも、そんなこんなで____
「リムル・テンペスト。アナタをAAAランクの嘱託魔道士として認定します」
涙目の試験官から、晴れて合格を言い渡されたのであった。
ちなみに、今回の試験で認定できる魔道士ランクは最高でAAAまでだったらしい。
戦闘力だけで言えば間違いなくオーバーSと太鼓判を押されたが、これ以上のランクに認定されるには都度試験を受ける必要があるとの事。
魔道士としての実績とかも必要らしいし、これ以上は求めなくてもいいかもな。
ランクを一気に上げ過ぎて、悪目立ちするのも本意ではないし。
とりあえず、まずはいくつか適当に任務を受けてみるとしましょうかね。
〜〜〜〜〜
後に、この試験の事は色々な形で噂として広まることになる。
曰く、都市を破壊する怪獣がいる。
曰く、地上のエースの影に隠れたもう一人のエースがいる。
曰く、デバイスを使わないで100個以上の砲撃魔法を精密操作する化物がいる。
などなど……
試験内容は公開されないが、関係者の口から情報が漏れた為にこのような噂になってしまったようだ。
噂は一人歩きし、多くの物好きが噂の出所を確認しようと躍起になるが……それはまた、別のお話。
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ、ナカジマ家
「リムルちゃん、認定試験合格おめでとう!」
「おめでとー!」
「リム姉おめでとー!」
「嘱託とはいえ、管理局の一員みてぇなもんだ。歓迎するぜ!」
試験が終わりナカジマ家に戻ると、ナカジマ一家が盛大にお祝いしてくれた。
部屋の飾り付けはギンガとスバルが頑張ってくれたらしい。
ゲンヤさんとクイントさんに至っては、今日の為に休暇を取得してくれていたようだ。
なにこれ。
ちょっと……いや、かなり嬉しい。
「ああ……みんな、ありがとな!」
その後は、今日の為に用意されたパーティー料理を食べ、大人組と酒を飲んだり、テンションの上がった子供達と遊んだり、仕事終わりに遊びに来たゼスト隊の人達と歓談したりした。
その中にはゼスト本人もいて、今日の模擬戦についてお互いに反省したり……
「今日は、やり過ぎてしまったな……」
「あー、試験官の子、泣いてたもんなぁ……」
「聞いたよー?なんでも、試験会場をめちゃくちゃにしたんですって?」
クイントさんが意地の悪い笑顔で茶々を入れる。
「いや、めちゃくちゃにするつもりは無かったんだけど、ゼストが俺の攻撃を弾いちゃうからさ」
「ぬ……それならば、最初からあのような特大の魔力弾など撃たねばよかったろう」
「いやいや、一応あれは試験じゃん?こういう事も出来ますよってアピールくらいはしとかないと」
「それにしても、あの数はやり過ぎだろう……」
ゼストが呆れているが、知った事では無い。
こういうのは言ったもん勝ちだからな。
それよりも、だ。
「まぁ、その話は置いといて。最初の任務はどうしようかねぇ」
「おっ。だったら、ウチの捜査を手伝ってくれやしねぇか?今ちょうど人手が足りなくてよ」
俺のボヤきにゲンヤさんが反応した。
「あれ?ゲンヤさんの所って陸上警備隊ですよね。捜査なんてするんですか?」
「ああ。ちょいちょいな。本局に突っぱねられるような、優先度の低い案件なんかはウチで捜査する事があるんだよ。まぁ、大抵はイタズラの犯人探しとかなんだがな」
「へー、今はどんな捜査を?」
「人のデバイスに落書きされるって案件だ。被害者は全員、気づかない間に落書きされてるらしくてな。まぁイタズラだとは思うんだが、最近被害が増えてるらしくてなぁ」
「ま、手頃そうな案件だし、肩慣らしにどうだ?」と聞いてくるゲンヤさん。
断る理由も無いので、承諾する事にした。
「そういう事でしたら、やってみます」
〜〜〜〜〜
それから少しして。
簡単だと思ってたこの捜査は、なぜか最終的に巨大な闇組織を潰すまで続いた。
え?一体なにがあったんだって?
正直それは俺も知りたい。
いや知ってるけど、理解できない。
気がついたら別の次元世界でロストロギアを巡って戦争することになったなんて、俺も信じたく無い話なのだから。
<フフフ、全ては
シエルさんがなんか言った気がするが、現実逃避する俺には届かない。
斯くして。
俺の名前は、管理局の伝説として長い間語り継がれていくことになったのであった。
〜〜〜〜〜
「いやー、すごかったねぇ、リムルちゃんの大捜査。ベテラン捜査官も真っ青な仕事ぶりだったんじゃない?」
「あの案件、途中でウチから離れちまったからなぁ。あの後一体なにがあったんだ?」
ナカジマ家に戻るとナカジマ夫妻に色々聞かれたが、正直困る。
俺だってよくわかってないし。
ただ、ひとつ言えることがあるとすれば____
「しばらくは、任務やらなくても良いかな……」
〜〜〜〜〜
その後。
のんびりしていたかった俺だが、世の中そう甘くはないらしい。
どこから噂を聞いたのか、いろんな所からの勧誘が凄まじくなってしまった。
聞けば、最近では俺に接触する為にナカジマ夫妻へのアプローチも激しくなっているんだとか。
このままだと子供たちにも悪影響が出ると判断した俺は、決心した。
即ち____自分の世界に帰る決心を。
「そーいう訳で、ほとぼりが冷めるまではこっちに顔出さないようにしようかと思う」
「「えぇーーーー!」」
「そんな……気にしなくてもいいのに」
「ああ、そうだ。お前さんはもうウチの家族みてぇなもんだからな。いなくなると逆に調子狂うぜ」
ナカジマ一家は惜しんでくれたが、それに甘えるわけにはいかない。
なぜなら____
「そう思ってくれるのは嬉しいんだけど……ぶっちゃけると俺、王様だからさ。あんまり長いこと国を空けると怒られるんだよ……」
「「「えー、うっそだー」」」
「……」
まさかの全否定である。
何も言わなかったが、ゲンヤさんまで呆れた目をしてるし。
ちくせう。
「ほんとなんだけどな……まあいいか……とにかく、帰らないと怒られるのはマジなんだよ。だから、近いうちに大勢の前で帰ろうかなって」
人前で帰るのは、ナカジマ家にはいませんよって言うアピールだ。
ただ忽然と姿を消しただけじゃ、まだナカジマ家にいるんじゃないかと疑われるだろうし。
それでもしばらくは、俺を探してナカジマ家に聞きに来る人は出るだろうが……
何もしないよりかはマシって程度だな。
「帰っちゃうの……?」
「リム姉行っちゃやだー!」
今度は俺の言葉をちゃんと受け止めてくれたのか、子供達が泣きそうだ。
正直後ろ髪を引かれる思いだが……
俺は子供達をそっと抱き締める。
「ギンガ、スバル。元気でな。またいつか、絶対会いに来るから」
ギューっと抱き締め返される。
俺は苦笑して、子供達の頭を撫でた。
そうしてると今度は後ろから抱きつかれる。
クイントさんだ。
「リムルちゃんも、元気でね。絶対、また顔を見せに来るのよ?」
「ええ、必ず」
返事をすると、頭に手を置かれた。
今度はゲンヤさんだ。
彼は何も言わず優しい目で、ただ頷いた。
俺も頷き返す。
それだけで、通じ合えたような気がした。
〜〜〜〜〜
その日は、俺の送別会が開かれた。
ナカジマ家や、ゼストを始めとしたゼスト隊の面々、お世話になったゲンヤさんのいる陸上警備隊の人達などに別れの挨拶をした。
みんな気の良い人達で、俺との別れを惜しんでくれていたのが素直に嬉しかった。
〜〜〜〜〜
From:ミッドチルダ中央、首都クラナガン
翌日。
俺は、首都クラナガンに来ていた。
今は魔法使用OKの公園で、記者や俺を勧誘しようとしている人達大勢に囲まれている。
別に呼んだ訳じゃないよ?
クラナガンに来たら囲まれただけである。
「是非ウチに来て頂きたい!」とか「闇組織を単独で壊滅させたのは本当ですか!?」とか色々聞かれていて、身動きの取れない状況になってしまったが……
関係無い。
俺は、俺の思うままに行動する事にした。
「諸君!色々と騒がせてしまって申し訳ないが、俺は自分の世界に帰る!機会があったらまた会おう!」
言いたい事だけ言って、久し振りに《
今回は特別に、いつもより派手に展開する事にした。
積層型の壮大な魔法陣が、辺りを包み込む。
ミッド式ともベルカ式とも違う複雑怪奇な魔法陣に驚く周囲を余所に、俺はミッドチルダから姿を消したのであった。
〜〜〜〜〜
ちなみに余談だが。
この時の魔法陣を見た人達は、俺の事に関して様々な憶測をしていた。
ただのパフォーマンス目的で展開したデタラメな魔法陣だって言う人から、
未知の方式だとして、伝説のアルハザード出身者なんじゃないかと疑う者、
また、カメラやマイクなどの記憶媒体がデバイス含めて全て機能しなくなってた事から、俺の存在を集団的無意識の生み出した夢だったんじゃ無いかと言う人まで。
真相は全て闇の中である。
嘱託魔道士で受けられる最大ランクとか、陸上警備隊がイタズラの犯人探しやるとかはオリジナル設定です。
今回省略したリムルさん大捜査線は、そのうち幕間とかで書きたいなーって思ってます。(いつできるのかは不明ですが)