明日は投稿されるかって? 察しのいい皆さんはもう勘付いているでしょう。ストックが尽きたのじゃ……
よって次回からは更新速度はゆっくりとなります。ご注意ください。
因みにガーランドは基本帝都の知識のない田舎娘なのでその事を頭の片隅に入れてお読み下さい。
帝都に来て二日目、日が昇ると同時に目を覚ましたガーランドは、昨日の夜から感じる気配を訝しんでいた。
──まだ何も人様に迷惑など掛けたつもりはないんだけどな。そんな事を考えながら、さも相手に気付いていないかのように振る舞い、着替えを始める。
ここは母の親戚の営む宿である。宿代を出すと言ったが金を取るわけにはいかないと言われ、この宿で一番大きな部屋に強引に泊まらされた。これ以上迷惑はかけられないと思った矢先でこれだ。そんな経緯がある為に、こちらをずっと監視している者を引きずり出し、取り押さえるといった部屋を傷つけるかもしれない行動に出る事は出来ないでいたのであった。
「今日はどうしようかな……」
服を着替え、いつでも外に出られる準備をしたが、返事が返ってくるまですることが特にない。まだ帝都の地理にも詳しくない為、外で監視者を捕まえようにも逃げられてしまう可能性が高い。
幸いにもこちらに手を出してくるつもりは無いようなので、しばらくは無視して散策と可能であれば短期で働ける場所を探す事に決めた。そうと決まれば早速行動だといった様子で部屋を出て、朝食を取りに食堂へと向かっていった。
「あれって、こっちに気付いてるのかな?」
ガーランドの去った後の誰もいない筈の部屋に、そんな声が響いていた。
────────
朝食を取りフロントに鍵を預けたガーランドは、昨日も見た筈の活気に溢れた街に再び圧倒されていた。
「まだこの人の多さに慣れないなぁ……」
道行く人々の波に押し流されそうになりながらも、昨日も訪れた警備隊屯所の方向へと向かっていた。やはり道を知るのには人に聞くのが一番だ。これといった目的地はないため、対応に相手が困るかもしれない。昨日の今日で迷惑だろうが、仕事の一貫でもある筈だと思うので、割り切って頼らせてもらう事に決めた。
それに、外に出ても監視者はこちらから一定の距離を保って様子を伺っているようだ。地理を覚えながら相手が何処に姿を隠すかの癖も知れるため、都合がいい。そして屯所の中に足を踏み入れると、昨日は見かけなかったオレンジの髪をポニーテールに纏めた女性隊員が元気よく挨拶をかけてきた。
「おはようございます! 今日はどんなご用件でしょうか?」
そして人当たりの良さそうな笑顔を浮かべながらこちらへと近寄ってくる。犬のような可愛らしい生き物を連れて。
「昨日この帝都に来たばかりの者なのですが、もし良ければこの辺の地理を教えていただけませんでしょうか」
「ああ、そうでしたか! では少々お待ち下さい」
そう伝えると犬のような生き物に何かを伝え、移動させた。そしてしばらくすると紙のようなものを持って来て女性隊員が受け取りこちらへと渡してきた。
「これが帝都の地図です。それではまた困った時は再びお訪ね下さい。では」
そう言葉を残して女性隊員と犬のような生物は外へと出て行った。そしてその様子をただ眺めていたガーランドはぽかんとした表情を浮かべていた。
「…………あれ?」
ガーランドの住んでいた近くの町の警備の人達は、道を尋ねられると街の中であれば最後まで付きっ切りで案内をしてくれるものであった。それを当たり前のものだと思っていたため、一人取り残されるとは思っていなかった。
他の隊員に訊ねてみるも皆忙しいらしく、同行してくれる者はいなかった。昨日の親切そうな隊長もいないらしかったので、諦めて外に出て地図を開いた。そこには確かに詳しい道と大きな施設の名は記されているが、中小の店の名など書いてあるはずがなかった。ガーランドは溜息をつきながら、情報が行き交う酒場がありそうな人通りの少ない狭い路地裏へと向かって行った。
人相が悪そうな男がチラホラと見える薄暗い路地裏を歩いていると、チラホラと酒場のような店が見える。そして適当な店に入ろうとした時、後ろから呼び止められた。
「おい姉ちゃん、俺らと一緒に飲まねえか? 一杯奢るぜ」
後ろを振り返るとそこには下卑た笑みを浮かべた三人の男がいた。その三人を感情を込めてない目を向けながらその誘いを蹴る。
「遠慮しておきます。母様からも知らない人の親切には注意しろと言われてますからね。特に男性からの誘いはと」
それを聞いた男達はゲラゲラと笑う。ガーランドの返事などどうでもいいと言ったように。
「なんだ? その歳で親離れ出来てねえのかよ。こりゃいい機会だ。ママから離れられる手伝いをしてやるよ」
「へへへ、久々の上玉だ。高く売る前に俺たちで楽しんでもいいよな?」
「そりゃいーぜ! 楽しんだ後は薬漬けにしてお得意先に渡すか」
そんな会話をする男達に冷たい目線を送りながら呟く。
「そんな事したら半殺しにされちゃうよ」
それを聞いた人攫い達はゲラゲラと笑う。強がっているようにしか見えないからだ。
「お前のママが俺らを半殺しにでもするのかよ? 逆に俺らが返り討ちにして親子仲良く売り物にしてやるよ」
そう言って三人の人攫いは飛び掛った。そしてそんな三人を見ながら、呆れのため息をつく。
「ボクが半殺しにされるんだよ。キミ達みたいな素人に捕まって、犯されるようであるならね」
その瞬間、ガーランドの姿が
「母様から今までしこたま打ち伏せられて来たんだ。キミ達が何人束になってかかってきても負ける気はしないよ」
そう言って立ち去ろうとすると、怨の篭った声で呼び止められる。
「テメェ! ふざけんなッ! 一体何をしやがった!」
振り返るとやはりというか先程の男達が恨めしそうな顔でこちらを見ていた。先に手を出したのはそっちであるのにとは思ったが口には出さなかった。
「両手両足の腱を斬ったんだよ。コイツでね」
そう言って腰に吊ったレイピアを軽く叩く。鞘も柄も美しい隼の装飾が施されており、とても上品な逸品であった。
「しばらくはまともに動けないだろうから大人しく寝てた方がいいと思うよ。これを機に心を入れ替えて転職したらどうだい?」
「……俺たちを殺さねぇのか?」
「ボクは今はそんな事するつもりないよ。まだお縄に付きたくはないからね。……まあ、必要が迫った時は躊躇はしないけどね。それじゃ、ご機嫌よう」
そしてその場から立ち去ると、すぐに路地裏から出て行った。余裕そうな態度を取っていたが、少し怖かったからである。これからはああいった場所には近寄らないようにしようと心に刻み、路地裏から出てすぐの酒場へと入っていった。
────────
酒場で色々な人と話している金髪の女性をずっと見ている者がいた。その者は客が決して入らないような場所に身を隠してただじっとその様子を見ていた。
昨日の夜からずっと見張っているが、印象としては田舎から出てきた世間知らずな娘といったものであった。ただ、先程あった騒乱で只者ではない事を悟った。疾過ぎるのだ、細剣の動きが。自分が相手をしても楽に勝つのは難しいだろう。そんな事を考えながら、誰にも気付かれぬよう監視を続ける。
そしてあらかた聞き終わったのか、監視対象は店を出ようとしていた。ここまでの会話の内容も『近くで働き手を探している人はいないか』とか『本など時間を潰せるものを置いてる店は知らないか』など、特に注意する必要もないものであった。
もう監視する必要も無いんじゃないかなとも思いつつ、その場から脱出して再び追いかける準備をする。自分以外の三人が代わりにやっていたら途中で飽きてただろうなと思いつつ、自分にこの仕事を押し付けた三人を思い出して少しムカッときた。そして天井裏から建物の屋上へと出た瞬間──
「さて、ボクをずっと付けて来てた理由を聞かせてもらってもいいかな」
首筋に冷たいレイピアの刃を当てられる。怪しい動きをしたらすぐに首を薙ぐつもりなのであろう。
「全く誰がボクをずっと見てるのかと思えば、女の子だったとは思わなかったな」
ガーランドに細剣を突き付けられた金髪褐色の少女、メズは相手の隙を伺いながらも時間を稼ぐ。
「……いつから気付いてた?」
「昨日の夜からかな。視線が気になって中々寝付けなかったよ。悟られぬよう振る舞うのも大変だったし、こんな事はこれっきりにして欲しいな」
「最初から気付かれてたのか……あの時の感は正しかったって訳だ。はあ、見逃してくれって言っても許してはくれないよね?」
既に大量の汗を分泌している。この汗は特殊なものであり、レイピアの刺突や斬撃なら滑らせて防げる筈だ。オネストからは手を出すなとは言われていたが、自分の命が危ないため許してはくれるだろう。そして反撃に移ろうとした時、思いもよらない事が起きた。
「別に手を出すつもりはないからそんな事聞かなくていいよ。ただ、こっそり見られてるのは気分が悪いから堂々と隣にいてくれた方がありがたいかな」
そんな言葉を吐きながら、メズへと向けていたレイピアを下ろし、腰へと戻していた。相手は暗殺者かもしれないのに警戒心が無さすぎる。一体何を考えているのであろうか。
そんなメズの考えを読み取ったのか、苦笑いしながら答えた。
「あはは、暗殺者じゃない事は昨日の夜から分かってたよ。もしボクを殺そうと思ってたら、無防備を晒していた昨日の内に襲われてただろうからね。それに、昨日来たばかりの田舎娘を殺したいと思う人なんてそうそういないんじゃないかな」
「姿を見られた以上、口封じのために消してくるとは考えないの? それに武装を解くにしても相手から情報を聞き出した方が良かったんじゃないかな」
そんな事を言いながら、対象の間合いから飛び退いて離れる。何か罠を張っているかもしれない。周囲に警戒しつつ、相手から目を離さずに見つめる。
「聞いても答えてくれないだろうし、大体の予想はついてるから言わなくてもいいよ」
それを聞いたメズは訝しんだ。大臣の事をほのめかす様な事は何もしていないはずだ。デタラメを言っているのかもしれないが、そんな事してもあまり意味は無いはずである。何を企んでいるのか分からないがとりあえず聞いてみるかと思い、言葉をかけた。
「へぇ、それじゃあ当たってるかどうか教えてあげるからその予想とやらをアタシに聞かせてよ」
それを聞いたガーランドはかなり自信ありげな顔をしながら答える。
「ん、分かった。キミはブドー将軍の家系の取り巻きである官僚の密偵でしょ? 手紙が将軍に届いた事を知ったキミの雇い主達は、母様の手紙を持って来たボクがどんな奴なのかを探りに来たってとこじゃないのかな。それにしても手紙が届くのが早いね。オーガさんが急いで届けるように言っててくれたのかな?」
それを聞いたメズは呆れた顔をしそうになったがなんとか持ち堪える。そういえば昨日、大臣が親子共に今の帝都の情勢疎いと言っていたのを思い出した。おそらく母親から聞いていた昔話を元に予想を出したのであろう。しかし悲しいかな、その取り巻き達とやらはもう既に殆どがオネストによって処刑されている。
しかしこれはかえって好都合かもしれない。話に合わせておけば黒幕がオネストだとは思われないだろう。
「どう? 当たってた?」
どんな奴かを探ってたという点しか当たっていないが、全部肯定しておく。純情そうであるから恐らく疑わずに信じるだろう。すると案の定、疑う素振りも見せずにすこし嬉しそうにしていた。
「だから伝えておいてよ。ボクも母様も少しも
最後の方は少し悲しそうな声になっていた。自分がこの帝都に居るだけで迷惑だと思っているようであり。
どうやら本当に何もせずに帰してくれるようだ。手を出すなという条件は守れそうだが明日以降の監視は無理だろう。さてどうしたものかと考えているとガーランドが何を考えてか分からない提案をして来た。
「キミも急に仕事が無くなるのは困るでしょ。だからさ、ボクと取引しようよ。明日からも変わらずにボクの監視を続けてていいからさ」
「……その条件は?」
どんな事を要求してくるのであろうか。次の言葉次第で大臣に至急報告しなければならないかもしれないとも感じていた。しかし、そんなメズの警戒を大きく裏切る要求が口から発せられる。
「最初の方に言ったように隣で堂々と見ててもらえないかな? そっちの方がボクも落ち着くし。それとできればだけれども、道案内や話相手になってくれるとありがたいな。夜はボクの部屋で寝泊まりしてもいいからさ。この条件じゃダメ?」
なんと言うかメズは拍子抜けしてしまった。あまり考えるのは得意ではないのに、先程まで相手の考えを読もうとしていたのも馬鹿馬鹿しく感じていた。
完全に毒気を抜かれた彼女は、今日の帰りにでもオネストに報告しておこうと思いながら何のデメリットもないガーランドの要求を飲んだ。
「やった、一人きりは少し寂しかったんだ。今日からよろしくね。ボクの名前はガーランド。良ければキミの名前を聞かせてくれないかな?」
完全に深く考えるのをやめたメズは、普段であればしないであろう名を名乗るミスを冒す。すぐにその事に気がついたが何故か嫌な気持ちは全く起こらなかった。
「アタシの名はメズだよ。それじゃ、明日からは堂々と一緒にいるから。そのつもりでよろしく」
お互い手を握り合う。そしてその日から、二人は親友になった。
次回、『古本屋で出会いの予感!?(仮)』ですお楽しみに!
このSSはほのぼの路線で進めていきますよ……ええ、ほのぼの路線で進めていくつもりです………………途中まではね(ゲス顔)