遊戯王~異世界からの決闘者~   作:鬼柳高原

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*この作品は常に主人公の一人称視点です。


前編

「くっそ~…どこいったんだよ~…」

 

この世界に来て二日目、夢の様な決闘人生の幕開けって時に、俺は何やってんだよ。

この”九十九 燐平(つくも りんぺい)”、一生の不覚だ。

 

「うわ! もう日が暮れてきた! くっそ~あんなとこにでかいカードショップなんてあるから……」

 

流石は遊戯王で飯が食える世界、専用店の規模がデパート並みなんて驚いたぜ。

おかげで俺の財布はスッカラカン、代わりにデッキがウッハウハ―――ホントはそんな事してる場合じゃなかったんだけどな。

だけどしょうがないじゃないか、こんなにも俺を引き付ける遊戯王が悪いんだ―――っと、俺はもう”この世界の住人”だ、そろそろ”遊戯王”って呼び方やめなきゃな。

 

「……ここだよな、俺達がいたの……」

 

俺は今、自宅から少し離れた場所にある公園に来ている。

子供達が決闘盤で決闘している以外は何の変哲も無い普通の公園。

だが俺達にとっては重要な場所―――ここから始まったんだ、俺達の”GX世界での人生”が。

 

最初は本当に驚いた。

まさかアニメの世界に入っちまうなんて。

夢じゃないかと思ったが、そんな事は無く一晩を明けちまった。

それが解った時、もう俺は大歓喜だった。

 

全遊戯王プレイヤーの夢、”遊戯王世界の住民になりたい”。

何たって決闘して暮らしていけるんだ、喜ばない奴なんているのかね。

まあ家族とか、他の友達とか、元の世界に未練が無い訳じゃないが―――もう来ちまったんだ、帰り方も分からないんだし、仕方がねぇ。

それに一緒に来た親友の3人もいるし、この世界は”決闘”で溢れてる―――退屈な事も、寂しい事も、何もねぇ。

だから父ちゃん母ちゃん、ごめんよ。

俺はこの世界で生きて行く―――――と、意気込んだのはよかったんだが、まさか来て早々、あんな”大切な物”を落としちまうなんてな。

一歩目でつまづいた感じだ。

 

「…俺の”ナンバーズ・クラブの会員カード”……どこいっちまったんだ?」

 

元の世界にある行きつけのカードショップで開かれたデュエル大会。

そこで初めて優勝した時に貰った賞品、それが”ナンバーズ・クラブの会員カード”だ。

”ナンバーズ・クラブ”とはアニメ”遊戯王ZEXAL”に出てくる架空のクラブで、”ナンバーズ・クラブの会員カード”はそのクラブに入っている登場人物が持っている会員証を再現した物。

一般ではスターターデッキに付いてくるおまけなのだが、俺が貰ったのは違う。

ゴールド加工されてる上にNo.00の特別仕様、優勝者だけが手に出来るレア物だ。

俺は優勝の喜びと、更に強くなりたいという思いを忘れないように、裏面に親友3人の名前とコメントを書いて貰ったそのカードを”お守り”にして何時も持ち歩いていた。

俺にとっては、デッキの次に大事な物だ。

 

一緒にこの世界に来た俺と親友3人、見て呉れや名前、さらに歳まで変わっちまった奴もいるが、誰一人変わらない共通点がある。

それは自身のデッキなどの持ち物、そして服装だ。

持ち物に服装、つまり”身に付けていた物”は何一つ変わってないという事。

ポケットに何故か受験票が入っているとか追加はあったけど、マイナスは無い。

後で捨てようと思っていたガムの包みが残ってたくらいだからな。

 

「…だから一緒に来てるだろ~…」

 

そう独り言を呟きながら、俺は地面を見渡す。

あのカードは俺の決闘人生における”一つの到着点”であり、”新しい出発点”でもある。

それに―――あのカードは俺にとって、親友3人との”元の世界での思い出”だ。

絶対に無くしたくはない。

 

「なあ出てきてくれよ~……寄り道したのは悪かったからさ~……これも決闘者の性―――」

 

その瞬間、物凄い突風が公園を吹きぬける。

かなり強い風だったが2~3秒吹いただけ、俺は驚いて咄嗟に両腕を顔を覆った。

そして、腕に隠されて殆ど見えないような僅かな視界に、金色の物体が映り、俺の前を横切っていった。

慌てて眼で追うと、それは紛れもなく俺の”探し物”。

 

「あーーー!!! 見っけた!」

 

風に乗せられて飛んでいく”ナンバーズ・クラブの会員カード”。

それを俺は必死に追いかける。

やっと見つけたんだ、逃がしはしねぇぞ。

だが、運が悪い事に追い風が連発して吹いてきやがった。

カードは更に飛ばされていく。

 

「くそ! これは大自然からの挑戦か!? …受けて立つぜ!」

 

俺は死ぬ気で走り、風が弱まってカードが地面に近づいた瞬間、ヘッドスライディング。

着ている制服が汚れようともお構いなし、どうせ元の学校にはもう―――あ、アカデミアの試験には着て行くんだった。

まあとにかく、俺は地面に落ちそうなカードを見事に掴んだ。

次に来るのは、腹から地面に落ちた痛みだろうと覚悟を決めた瞬間――――

 

「え……?」

 

視界が真っ白に―――いや、手に持ってるカードは見える、自分の姿も。

視界が白くなったのではなく、周りが白くなったようだ。

そしてこの浮遊感、もうとっくに地面に落ちてるはずなのに、俺の体は浮いたまま。

いや、浮いてるだけじゃない、ヘッドスライディングの勢いでどんどん前へ進んでる。

 

「な、何だこれ!? どうなってんだ!?」

 

スピードもどんどん加速していく。

まるで長い滑り台を腹で滑っているような感覚―――腹に感触はないが。

 

「うわぁぁぁ!!?」

 

次の瞬間、俺の視界は本当にホワイトアウトしてしまう。

でもこの感覚、前に何処かで―――――

 

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

 

「……う……ん……こ、ここは……? うお…!? 眩しい…!」

 

どうやら俺は気を失っていたらしい。

朦朧とする意識の中、顔を上げるとそこには快晴の青空が広がり、太陽の白い光が俺の顔を照らす。

 

「ん……あ! 空が青い!? 日が高い!? さっきまで夕方だったはずなのに!?」

 

驚きのあまり、大声を出してしまう俺。

さっきまで気を失っていたって事は、公園で夕方からこんな真昼間まで眠りこけてたって事か―――いや、ありえん。

 

慌てて起き上がった俺は辺りを見渡す。

気を失う前に俺がいたのが公園、そして今いるのも公園。

だが、明らかに違う事があった。

 

「あれ…? こんなに立派な公園だったっけ…?」

 

例えるなら、気を失う前は”公園”。

地方の町の、何所にでもあるような柵や木で囲まれた小さな土地。

そして、今いる場所は”パーク”。

都会にあるような、長い道やでかい池がある、一望出来ないほど広い公園。

しかも遠くを見渡すと、ビルやら何やら、やたらとでかい建物が見える。

 

「……う、うわぁぁぁ!? ど、どうなってんだ!?」

 

ここでようやく自分が置かれている状況を理解する。

俺はスモール・タウンの公園で何時の間にか眠りこけ、起きたら知らないビッグ・シティの公園だった―――いや、訳解んねぇよ。

正直、GXの世界に来た時よりも驚いた―――

 

「ん? GX……あ!? もしかして!?」

 

見知らぬ世界、そして気を失う前のあの感じ―――間違いねぇ。

 

「俺…! また”別世界”にッ!?」

 

その瞬間、後ろからくすくすと笑い声が聞こえてくる。

振り向くと、長い黒髪と肩くらいまでの赤髪で眼鏡を掛けている女子二人が俺の後ろを通り過ぎていた。

赤髪の方が笑いを堪えながら俺に指差しているのに対し、黒髪の方は一瞥した後、足を速めて赤髪を引っ張っていく。

”関わりたくない”という気持ちが、その背中からありありと見えた。

どうやら、さっきの独り言を聞かれてしまったらしい。

ああ―――どう見ても”中二病”だ。

メチャクチャ恥かしい、しかもさっきの女子達が結構可愛かったから余計に。

でも、本当の事なんだから仕方ないだろ。

 

それにしても、ここは一体何所なんだ?

俺が住んでた場所とは違うけど、もしかして”元の世界”だったりするのか。

とにかく、ここが何所なのか誰かに聞いてみないと。

さっきの子達には聞き辛いし、他に誰かいないものか。

俺は手に握っていた会員カードを懐にしまい、とりあえず人を探し始める。

 

俺が人を探して辺りを見渡していると、遠くから光の柱が上がるのが見えた。

GXの世界で見た、ソリッドビジョン―――この時、俺はこの世界が”元の世界”では無い事を悟った。

 

「(マジかよ……ありゃ”シンクロ召喚”だ…!)」

 

光の柱から姿を現したのはエンシェント・フェアリー・ドラゴン。

GXの後継アニメ、”遊戯王5D's”に登場する重要なドラゴン。

そして、それを呼び出す為のシンクロ召喚―――つまり、この世界は”5D's”の世界って事か?

まだGXの世界で2日しか過ごしてないって言うのにもう”5D's”かよ。

とにかく、決闘してるとこまで行ってみっか。

 

「《死者蘇生》発動! 《The big SATURN》を特殊召喚!」

 

「うおっ!?」

 

近くまで走り寄っていた俺は、突然現れたbig SATURNに驚く。

漫画を見てないから実際の大きさがどんなもんかは知らなかったが、名前通りでかいな。

決闘してるのは―――小学生くらいか。

エンシェント・フェアリーを出した女子と、今big SATURNを出した男子との決闘だな。

 

The big SATURN        ATK:2800

エンシェント・フェアリー・ドラゴン DEF:3000

 

「《The big SATURN》に《アームズ・エイド》を装備!」

 

ここで男子の場にあったガントレットの様なモンスター、”アームズ・エイド”がbig SATURNの右腕に合わせて大きくなって装着される。

これで攻撃力は3800、エンシェント・フェアリーの守備を上回った上、戦闘破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える強力なバーン効果まで付く。

あの男子、やるじゃねぇか。

 

「さらに装備魔法《メテオ・ストライク》を《The big SATURN》に装備! これで貫通効果が付くぞ!」

 

おお、ダメ押し。

くそ、もっと詳しい状況が知りたいな。

もうちょっと近づいて―――

 

「…うおっ!? (フィールド魔法か!?)」

 

俺がさらに近づいた瞬間、周りの風景が一変する。

決闘盤がフィールド魔法の風景を投影している範囲に入ったからだ。

GXの世界ではまだフィールド魔法を見た事がなかったな。

投影されている風景は神秘的な雰囲気の森。

見たところ、女子の方から投影されてるみたいだ。

 

「(何て言うフィールドだったかな…?)」

 

「これで僕の勝ちだよ! The big SATURNでエンシェント・フェアリー・ドラゴンを攻撃!」

 

big SATURNがアームズ・エイドを装着した腕を振り上げる。

おお、迫力あるな。

 

「ト、罠カード……《和睦の使者》を発動! このターン、私のモンスターは戦闘で破壊されず、戦闘ダメージも0に……あ!」

 

突然、女子の方が何かに気付いたように声を上げるとその場にうずくまる。

その瞬間にbig SATURNの拳がエンシェント・フェアリーにヒット、だが和睦で破壊はされない、ダメージも無しだ。

男子は悔しそうにしてバトルフェイズを終わらせるが―――あっちの女子は何でうずくまってんだ?

 

「修ちゃん危ないよ~…フィールド魔法《古の森》の効果により、攻撃を行った《The big SATURN》を破壊ッ…!」

 

うずくまりながらも顔を少し上げていた女子は、《古の森》の効果を説明した後、その顔を伏せた。何だってんだ―――あ。

 

「え~!? そりゃないよ……あ!? しまった!?」

 

男子、そして俺はようやく気付く―――だが、もう遅い。

男子の真上にいたbig SATURNが破壊され、大爆発を起こすと、男子と女子、そして近くにいた俺まで爆風に巻き込まれる。

 

「「わぁぁぁーーー!!!」」

 

男子 LP:2500→0

女子 LP:2900→100

 

忘れてたぜ―――big SATURNのモンスター効果。

相手がコントロールするカード効果により破壊され墓地に送られた時、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。

しかしソリッドビジョン、迫力ありすぎるだろ。

爆発により俺と同様、地面にひっくり返っていた男子が立ち上がり、女子に近づく。

 

「うう……負けた~……鈴ちゃん、こんなに強いんだからもっと積極的に決闘すればいいのに」

 

「私はやるよりも見てる方が好きだから……エンシェント・フェアリー・ドラゴンと一緒にね」

 

「そうなんだ……でも楽しかったよ! いいねここ! 何時もの噴水広場じゃこんなにソリッドビジョンを大きくして決闘なんて出来ないもんね!」

 

「うん! そうだね! 私も楽しかったよ!」

 

小学生とはいえ、中々いい雰囲気だ。

水を差すのは気が引けるが、俺が困ってるんだ、仕方が無い。

 

「そこの君達、いい決闘だったな。 で、ちょっと聞きたい事があるんだけど―――」

 

「!?…お兄ちゃん、誰……」

 

「……」

 

予想以上に警戒されてるな。

まあ物騒な世の中だし、仕方がないよな。

 

「いやいや! 怪しい者じゃない! 俺……あー……余所から来たんだけどさ、ちょっと迷っちゃって……ここが何所だか分からないんだ。 ここは何て言う街なんだ?」

 

流石に”異世界から来ました”なんて言えないからな―――しかし、咄嗟に言い出してしまったが、これじゃ物凄い間抜けだな、俺。

 

「アッハッハッハ! お兄ちゃん、その歳で迷子? ここが何所だかも解らずに来たの?」

 

「修ちゃん、失礼だよ……交番に連れてってあげよう……」

 

「ぐっ…!」

 

解ってた事だが、この二人の中で俺は”駄目な兄ちゃん”という認識になっただろう。

だがこれで二人は俺への警戒を解いたはずだ。

これでよかったんだ、これで。

 

「ごめんごめん! 誰だってうっかりする事はあるよね! ここは”ネオ童実野シティ”にある”セントラル・パーク”だよ! 結構有名な観光地だから、知らないなんて思わなかったよ」

 

”ネオ童実野シティ”―――やっぱり”5D's”か。

しかし、俺はあまり”5D's”には詳しくないんだよな。

放送時間での都合が悪くなってダークシグナー編までしか見れてないし。

他の3人ならもしかしたら―――

 

「そうか!」

 

「そうだよ、納得した?」

 

「修ちゃん、多分返答したんじゃないと思うよ……」

 

もしかしたら、他の3人もこっち来てるかもしれない。

あの時も起きるのバラバラだったし、今回はスタート地点もそれぞれ違うのかもしれないしな。

よし、そうと決まればまず3人を探そう。

4人揃えば、GX世界みたいに何とかなるだろ。

 

「なあ、ちょっと人探しがしたいんだけど、そういう時って何所に行けばいい?」

 

俺はまたしても小学生二人に頼る事にした。

 

それにしても、決闘を見て夢中になってたからなのか、俺はなんでこの時点で疑問に思わなかったんだろうな。

”エンシェント・フェアリー・ドラゴン”なんて重要なカードを、どうしてそこら辺の子供が当たり前の様に使っていたのかを。

 

 

* * *

 

 

「……なあ、本当にここでいいのか?」

 

「学校ではここだって言ってたよ」

 

二人に頼んで連れて来てもらった”人探しが出来る場所”。

やたら広い敷地内に立っているでかい建物、その敷地の入り口に書かれた名称は―――

 

「……”治安維持局”」

 

アニメを見てると、何となく嫌な印象があるな。

まあ、俺はサテライト住民とかじゃねぇし、悪くはされねぇだろ。

 

「じゃあ僕達はもういいよね?」

 

「ああ、もう大丈夫だ。 ありがとよ!」

 

「それじゃあ……さようなら」

 

案内してくれた二人が来た道を引き返していく。

ここからまた一人か、まあ一人くらいすぐに見つかるだろ、それまでの辛抱だ。

 

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

 

「そこを何とか!」

 

「申し訳ありません。 この都市の住民ならばすぐに捜索出来るのですが、ここの住民でない上、情報が名前だけではとても……せめて顔写真があればセキュリティに捜索願いを出せるのですが…」

 

窓口の前で両手を合わせて頭を下げる俺、それに対して申し訳無さそうに頭を下げ返す職員。

必死に頼み込んでいるが、どうやら親友達を捜すのは無理らしい。

新しい世界に来て早々、またつまづいちまうとはな。

もしかしたら”GX”の時みたいに家とか住民登録が出来てんじゃないかと思って調べてもらったが、俺達の名前でこの都市に住んでいる奴はいないらしい。

 

「よう兄ちゃん、悪いがそろそろ諦めてくれ。 後ろ詰まってるからな」

 

「あ……すんません」

 

後ろを振り返ると、見覚えのある制服に身を包んだ若い男が立っていた。

俺はそそくさと窓口から離れ、その男と交代する。

あの制服―――”5D's”で牛尾さんが着てた奴だ、覚えてる。

ということは、この人”セキュリティ”か。

まあ、そんな事はどうでもいい。

当てが無くなっちまった事の方が問題だ。

俺はロビーのベンチに腰掛けて溜息をつく。

誰か俺と同じ事考えてないかと思い、辺りを見渡すが親友は誰一人いない。

 

「もしかして……この世界に来たの俺だけ?」

 

いやいや、そんなはずないだろ。

”GX”の時だって皆一緒だったんだ。

俺だけ公園にいたから場所がずれてるだけだ。

わざわざ声に出すなよ。

 

「……俺一人でこの広い都市を捜すしかないのか……」

 

「よう兄ちゃん、さっきはどかして悪かったな!」

 

俺が項垂れていると、さっきのセキュリティがやって来る。

セキュリティって堅物か性悪なイメージがあるけど、この人はどっちでもない。

気のいい兄ちゃん、って感じだ。

ちょっとなれなれしいけど。

 

「ちょっと聞かせて貰ったんだけどよ、人捜ししてんだって? 詳しく聞かせてみろよ」

 

「え? 協力してくれるんですか?」

 

「おう、どうせ難癖付けられて断られたんだろ? 俺もちょっと前までは一般市民だったからな、気持ちは解るつもりだ。 だから協力してやるぜ!」

 

別に難癖付けられた訳じゃないけど、協力してくれるのはありがたい。

俺はセキュリティの人に事情を詳しく話した。

 

「そりゃ無理だ。 俺も協力出来ねぇ」

 

「ええ!?」

 

さっきと言ってる事違うじゃねぇか。

何だよ、期待させやがって。

 

「そりゃセキュリティだって動かねぇよ。 捜し人の情報が名前だけで身元不明。 しかもお前自身も。 そんな怪しい奴の話なんか聞かないって」

 

言えねぇだろ、”皆異世界から来た”なんて。

”GX”では全部用意してあったのに、不親切だよな、”5D's”の世界。

 

「まあ、これだけならまだ協力してやれたんだが、あまりにも情報が少なすぎる。 これじゃ一日中捜しても見つかるかどうか……悪いが、一日中付き合ってやれるほど俺は偉くねぇ。 まだまだ下っ端なもんでな」

 

まあ、そうだよな。

このセキュリティさんだって立場があるもんな。

そんな中、気に掛けてくれた事自体を感謝するべきだった。

 

「でもこのままなのはなぁ~…せっかくこの鋼貴さんが声を掛けてやったんだしな~…」

 

この人、”鋼貴”っていうのか。

もしかしてこの人、モブじゃなくて”5D's”にちゃんと出てきた人か?

面倒くさがらずに、朝の再放送ちゃんと見ておくべきだったなぁ。

 

「……しょうがねぇ、このままほっとけねぇし、”あいつ”を頼るか」

 

セキュリティの鋼貴さんがメモ帳を取り出し、なにやら書き込むとそのページを破りとって俺に手渡す。

 

「兄ちゃん、ここに書かれてる住所に行け。 腕のいい”デュエル・チーム”の事務所がある」

 

「”デュエル・チーム”?」

 

「ああ…余所から来たんだってな。 それじゃ知らねぇか。  デュエル・チームってのはまあ……決闘で物事を解決する”何でも屋”だな」

 

決闘で何でも―――すげぇ”決闘脳”、流石は”遊戯王”だな。

 

「チーム名は”マーシャル・レッド”。 そこにいる”近衛 遊伸(このえ ゆうしん)”を尋ねな。 いい奴だからきっと協力してくれるぜ。 そのメモが紹介状になってるからな、無くさずにちゃんと渡せよ」

 

「はい! どうもありがとうございます!」

 

俺はそう言って頭を下げる。

どうやら、俺にはまだツキがあるらしい。

これが”いい出会い”ってやつか。

 

「おっと、待ちな!」

 

治安維持局の建物から出て行こうとする俺を鋼貴さんが呼び止める。

 

「お前、”決闘者”か?」

 

「はい! 腕に自信もありますよ!」

 

俺は自信満々に答える。

当然だ、俺から”決闘”を取ったら何が残るってんだ。

 

「おお、いいねぇ! もし無事に解決して、時間があったら遊伸に決闘を挑んでみろよ。 きっと楽しい決闘が出来るぜ」

 

「これから頼みに行く人に? その人、強いんですか?」

 

「俺が知る限りでは……間違いなく”最強の決闘者”だ」

 

は? ”最強の決闘者”? そこは普通”不動 遊星”とか”ジャック・アトラス”とか言うとこじゃないの? 世界観的に。

 

「信じられねぇ、って顔してんな。 まあやってみれば解るよ。 何たってあいつは”決闘王”を越える”遊戯王”様だからな。 ハッハッハ!」

 

一瞬、俺の思考が停止する。

何でかって? そりゃ遊戯王のキャラが本編中では絶対に言わないワードを言ったからだ。

あくまで”タイトル”なんだぞ。

本編には存在しない言葉、”5D's”なら尚更だ。

 

「じゃ、俺は仕事に戻るぜ。 友達が見つかるといいな! あばよ!」

 

そう言って鋼貴さんは建物の奥へと行ってしまう。

本当は聞いてみたい事が幾つもあったが、頭が回らず、俺は声も出さずに見送ってしまう。

仕方がないので、俺は混乱する頭を抱えたまま治安維持局を後にした。

 

 

* * *

 

 

「う~ん……」

 

俺は紹介された何でも屋、”マーシャル・レッド”を探しながらこの世界について考えていた。

俺は思う、ここは本当に”5D's”の世界なのだろうか?

ありえないはずの”遊戯王”という言葉、一人も現れない主要人物、俺が知らないキャラ―――キングよりも強い最強の決闘者”近衛 遊伸”、そしてその知り合いのセキュリティ。

そんな凄そうなキャラが出てたんなら、アニメ見てた奴が話題にするだろう。

まあ、この話自体、鋼貴さんのホラかもしれないが。

 

「……ここか」

 

俺はメモの住所とよく見比べ、ここが目的地だと確信する。

だけど、思ったより小さい事務所だな。

”最強の決闘者”がいるなんて言うから城みたいのを想像してたぞ。

とりあえずインターフォンを鳴らしてみるか。

 

「はい、こちら”マーシャル・レッド事務所”です。 ご依頼ですか?」

 

「え……あ、はい」

 

俺がインターフォンから聞こえてくる声に頷きながら答えると、すぐに事務所の扉が開き、中から男が出てきて、笑顔で招き入れてくれる。

 

「どうぞ中へ」

 

その男は、見たところ”好青年”といった感じ。

だが、それ以上でも、それ以下でもない。

悪くない風貌だが、遊戯王の登場人物としては地味。

どこにでもいそうな”モブ”だ。

まだ鋼貴さんの方が特徴的だったな。

 

俺は事務所の中へと連れられ、好青年と向かい合うようソファーに座る。

 

「おう、今日は何もない平和な日だと思いきや……まあ、俺にとってはその方がいいんだけどな」

 

突然横から聞こえた声。

その方へ顔を向けると、なにやら偉そうな机に座ったオッサンがいた。

多分、あれは”所長席”というやつだろう。

つまり、ここで一番偉い奴か。

 

「お客さん。 どういったご用件で?」

 

「あ、えっと……これを」

 

俺は鋼貴さんから貰ったメモを目の前の好青年に渡す。

それにしても”近衛 遊伸”ってどんな奴だ?

見たところこの場にはいないみたいだが。

仕事に備えて奥に待機してんのかな?

 

「鋼貴から…!?」

 

「何だ? セキュリティ様が何か厄介事を押し付けてきたのか?」

 

どうやら、この事務所と鋼貴さんは繋がりがあるみたいだな。

所長らしきオッサンはあまり歓迎していないようだが。

 

「ロートンさん。 これは鋼貴からの紹介状です。 彼をよろしく頼むと。 依頼内容も書いてありました」

 

そう言って好青年がオッサン―――いや、ロートン所長にメモを手渡す。

所長だからもしかして、なんて考えたが、やっぱり”近衛 遊伸”ではなかった。

ここにいるのは所長とお手伝い、仕事人は奥にいるのだろう。

 

「ふう……お前も内容を読んだな? 俺だったら絶対に受けんが……鋼貴はお前を指名してきている。 お前が決めろ”遊伸”」

 

 

 

 

 

 

「はあ!?」

 

俺は思わず声を上げてしまう。

ロットン所長が眼を向けているのは、どう見ても俺の前に座っている好青年。

”遊伸”―――目の前のこいつが”最強の決闘者”?

冗談キツイぜ、どうみても”モブ”だろ。

強い奴は大抵奇抜な髪型とか、強烈な個性があるもんだ。

やっぱり鋼貴さんの”ホラ”だったか。

 

「ど、どうしたんですか…? 大丈夫ですか?」

 

近衛 遊伸が、突然声を上げた俺を心配して声を掛けてくる。

 

「…いや、何でも。 それよりどうですか、引き受けて貰えませんか?」

 

「……話は大体分かりました。 貴方も困っていますし、きっとご友人も貴方を心配しているはずです。 この依頼、引き受けましょう!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

よし、ここの世界に詳しい奴が一人いるだけで大分違うぞ。

 

「おい坊主、この依頼は一日だけだ。 今日中に見つからなきゃ諦めろ。 きりがない上、何日もうちのエースを貸し出す訳にはいかんからな。 その代わり、依頼料は見つかったらでいい」

 

”エース”か、それなりに実力はあるみたいだな。

それと依頼料―――そうだよな、金が必要だよな。

あの時のカードショップがここで響いてくるとは。

まあ、皆が集まれば何とかなるだろう。

 

「それじゃあ、行きましょう。 えーと―――」

 

「燐平、”九十九 燐平”です。 何か敬語って堅苦しいからタメ口でいいですよ」

 

「…そうかい? それじゃあ燐平、僕にもタメ口で構わないよ」

 

「…おう、よろしくな遊伸!」

 

まあ、強そう弱そうは置いといて、鋼貴さんの言う通り”いい人”だ。

この人となら皆をすぐに見つけられるかもな。

 

事務所から出た俺と遊伸。

俺は歩きながら遊伸に説明できる範囲で3人の特徴を伝えた。

 

「3人とも”決闘者”か……まずは決闘者がいそうな場所から捜していこうか」

 

 

* * *

 

 

「ここは……テニスコート?」

 

遊伸に連れられてやってきたのは、テニスコートにしか見えない長方形の枠線が幾つも並んでいる広場。

親友3人がテニスプレイヤーだなんて一言も言ってないぞ。

 

「ハハハ! ここはテニスコートじゃなくて”デュエル・スペース”だよ。 あの枠の中で決闘盤による決闘をするんだ。 誰にも迷惑が掛からないから思いっきり楽しめるよ」

 

ああ、成る程。

流石は”遊戯王”の世界、スケールが違うな。

 

「それにしても今日は人が少ない……というか、誰もいないな。 どうしたんだろう」

 

「誰もいないなら様はないだろ? 次行こう」

 

 

* * *

 

デュエル・スペースの後、カードショップとか、ゲームセンターとか、都市中の若い決闘者がいそうな場所を巡ったけど、何所にもいなかった。

デュエルをしたかもしれないと、話せる範囲で”こんなデッキを使っている見慣れない奴見なかった?”と聞き込みをしてみたが、これも駄目。

なので、遊伸は少し狙いを変えてみるらしい。

 

次の目的地は”トップス・エリア”。

これは俺でも分かるぞ。

確か双子が住んでる高級住宅地だ。

ようやく主要キャラとご対面出来るかもな。

それにしても双子か―――双子になっちまった俺の親友兄弟も、ここにいるといいんだが。

 

「あそこはお金持ちや有名人、プロ決闘者の人達が住んでる地区なんだ。 目立つ場所だし、ちょっとした観光名所にもなってるから、もしかしたら君の友達もフラっと立ち寄ったりしてるんじゃないかなと思ってね」

 

「成る程……あ、あれって!」

 

俺達がトップス・エリアの入り口にたどり着くと、なにやら物々しい雰囲気でセキュリティ達が動き回っている。

そして、俺はその中に顔見知りの人物がいる事に気付く。

 

「鋼貴さん!」

 

「ん? よお、案外早い再会だったな。 遊伸も一緒って事は、無事引き受けて貰えたんだな」

 

「鋼貴、一体何があったんだい? これはちょっとただ事じゃないね」

 

「ああ……お前等、ここまで捜しに来たんだな? 悪いがトップス・エリアは封鎖中だ。 最近、姿を隠していた凶悪犯が現れてな、それがここに逃げ込んだんだ」

 

「…成る程、ニュースでも何処かに潜伏してるって言ってた、あれだね」

 

凶悪犯か、きっと決闘で解決するんだろうな。

Dホイールで追い詰めて―――ん? そういえばまだDホイールを見てないな。

”5D's”の世界なら一番に見かけそうなもんだけど。

 

「お前の友達はここにはいないと思うが……いたとしたらちゃんと保護してやる。 だから今は他をあたってくれ」

 

 

* * *

 

 

「なあ遊伸、もう大分捜し回ってるけど、次は大丈夫なのか?」

 

「うーん……こうなったら”同業者”に頼るしかないね」

 

「同業者?」

 

「デュエル・チームの活動には情報が不可欠! だから僕等は常に情報を集めているんだ。 どんな些細な事でもね。 もしかしたら君の友達について知ってる人がいるかもしれない……ここだ」

 

遊伸が指差したのは中々立派な建物。

扉の横にある看板には”デュエル・チーム集会場”と書かれていた。

 

「ここは元々”ブラック・ファイア”っていうデュエル・チームの事務所だったんだけど、そのチームが無くなってからは今のオーナーが買い取ってデュエル・チームの”ギルド”になったんだ。 僕も時々、ここに来ては情報交換をしたりしてるよ」

 

つまり、ここで親友達の情報を集めよう、ってことか。

それにしても”ギルド”か―――何かゲームみたいだな。

俺と遊伸は扉を開けて中へと入る。

中は外見の通りに広く、奥のカウンターで資料を整理しているオッサン―――多分遊伸が言ってたオーナーだな。

そして、部屋のあちこちに並べられた4~6人掛けのテーブルに座りながら話をしている人がちらほら見える、あれが他のデュエル・チームか。

それにしてもこの雰囲気、元の世界のカードショップを思い出すな。

テーブルとか”デュエル・スペース”っぽい。

あ、実際に決闘してる奴等がいる。

 

「やあ遊伸、何かいい仕事はないかい?」

 

「一ノ瀬さん、こんにちは。 実は今、その仕事中なんですよ。 ですから斡旋はまた今度という事で……」

 

集会所に入ってすぐに遊伸が声を掛けられた。

しかも、次から次へと集会所内にいた連中が周りに集まってくる。

遊伸って同業者内では有名人なのか?

気付けば遊伸が俺について周りの奴等に話していた。

 

「…と言う訳なんです。 どなたか情報を持ってないでしょうか?」

 

「それっぽいの、知ってるよ」

 

一ノ瀬っていう人が手を挙げる。

マジかよ、早くも当たりか。

 

「燐平君……で、いいよね? 君の友達の内、二人は違う制服だけど、後の一人は君と同じ学生服を着てる……確かだね?」

 

「そうです! 雄介を見たんですか!?」

 

俺と同じ制服―――間違いねぇ、”雄介(ゆうすけ)”だ。

GXの時には名前が変わっちまってたが、さらにまた変わってないだろうな?

それだと結構めんどくさいぞ。

 

「その雄介君なのかは分からないけど、今日の午前中に、藍色の制服を着た変な人を見たって話は聞いたぞ。 君のそれも藍色だよな?」

 

へ、変な人? 雄介何をやったんだよ。

何だか心配になってきた。

 

「誰がそれを?」

 

「ちょっと前まで君のチームにいた女の子だよ。 さっき野暮用でアカデミアに行った時に言いふらしていたのを偶然聞いたんだ」

 

「”空”が? 分かりました、ありがとうございます! …情報料はどうしましょうか?」

 

「いや、それよりも仕事を回してくれ。 お前のチーム、仕事が来ても人手不足で追いつかないんだろ? 頼むよ」

 

「ははは、分かりました! 今は珍しく無いんですが、依頼がきたらそちらに回させて貰いますよ! それじゃあ、失礼します!」

 

遊伸は一ノ瀬と周りのデュエル・チームに頭を下げると、出口へと向かう。

俺もその後を追い、一緒に集会所をでた。

 

「ようやく手がかりを掴めたね」

 

「ああ、次はアカデミアだな!」

 

そういえば”5D's”にもあるんだよな、アカデミア。

それにしても、”GX”時代でこれから入学試験ってところだったのに、”5D's”に飛ばされるなんて、何の為に”GX”を経由したんだよ。

意味ねェじゃん。

 

「でも、今は春休みのはずだけど……何で空はアカデミアにいるんだ?」

 

「登校日とかそんなんじゃないのか? とにかく行こうぜ!」

 

思えば、アカデミアって”GX”との一番の共通点だよな。

そうだよ、皆そこを目指すに違いない。

よっしゃ、希望が見えてきた。

 

俺は遊伸を急かしてアカデミアへと急いだ。

 

 

* * *

 

 

「”マーシャル・レッド”の近衛 遊伸です」

 

「どうも、ご苦労様です。 入場許可証をどうぞ」

 

遊伸がなにやら証明カードの様な物を門衛に見せると、門衛は首に下げる許可証をにこやかに渡してくれる。

 

遊伸によると、何かしらのイベント時以外はこの”デュエル・アカデミア”に一般人は入場出来ないらしい。

しかも、一般人ではない者も厳重なボディチェックが行われるのだという。

理由は一つ、このアカデミアで半年ほど前にカードを狙った強盗襲撃事件が連続で起こったらしく、その為アカデミアでは過剰なほどのセキュリティ強化が行われたらしい。

今見た入場門の左右に、セキュリティという名の警官が立ってたのがその証拠だろう。

 

だがまて、今の話には矛盾があるぞ。

セキュリティ強化されたんだよな?

簡単に入っちまってるじゃねぇか、一般人の遊伸が。

 

「…何で遊伸は普通に入れるんだよ。 さっきと話が違うぞ」

 

「まあ、そうだな……僕はさっき言った”どれにも当てはまらない”って事かな」

 

検査室から出てきた俺が遊伸にそう言うと、遊伸は笑いながらそう答えた。

一体何者なんだ遊伸は?

検査付きだが、一般人の俺が入れたのも遊伸のおかげなのか?

 

「さて、空は何所にいるのかな?」

 

「遊伸!!!」

 

おっと、いいタイミングで呼びかける声が。

その声の主に俺と遊伸が振り返る。

赤い制服を着た女子、来月から高2だと遊伸から聞いてたけど、そうには見えない。

しかし、可愛い子だな。

”遊戯王”のモブ女性のレベルが高いとよく聞いてたが、本当だな。

こっちに来たばかりの時に見た―――て言うか見られた女子もそうだったし。

 

声を掛けてきた女子は急いで駆けて来ると、遊伸の目の前で立ち止まる。

 

「やあ、空。 元気だったかい?」

 

「遊伸久しぶり! 私は元気だよ! どうしたのアカデミアまで来て? もしかして私に逢いに来てくれたの?」

 

凄い喜びようだ。

さっき聞いた話じゃ、遊伸のチームで働いてた元アルバイト―――だったな。

元々はこの二人と鋼貴さん、そしてロットン所長と辞めた前所長を加えての5人のチームだったらしい。

今じゃそこから3人抜けて、遊伸と決闘者を引退してるロットン所長の二人だけらしいが―――って、決闘者が遊伸だけじゃねぇか。

人手不足ってレベルじゃねぇぞ。

それに、一人なら”エース”に決まってるじゃねぇか。

うーん、凄いんだか凄くないんだか、よく解らんな、遊伸。

 

「うん、その通りだよ。 仕事でね。 話を聞きに来たんだ」

 

「……ふーん、そお。 で、何を聞きにきたの?」

 

露骨に機嫌が悪くなったな。

そうか、そうなんだな。

遊伸、”仕事でね”はいらねぇだろ。

 

遊伸は空が話していたという”俺と同じ制服を着た変人”について聞いた。

 

「ああ、あれ? あれは私が見た訳じゃないんだけどね……ん? そこの人…」

 

空がようやく俺の存在に気付いたようだ。

何故か俺の体を隅々まで見ている。

 

「その制服の人がこの人の捜している友達かもしれないんだ。 どうだろう?」

 

「藍色の制服……その髪……ねえ、こんなポーズして、”また別の世界にッ!?”って言ってみて」

 

え? ちょっとまて、何だか物凄く嫌な予感がするんだが。

 

「……俺…! また”別世界”にッ!?」

 

「あ!? この人だよ! 間違いないよ! 雪ちゃんと愛ちゃんが言ってた”変な人”! 愛ちゃんが真似してたのとそっくりだったもん!」

 

「ええ!? そ、空! それはどういう事だい?」

 

遊伸は訳が解らないといった様子だ。

だが俺には解る、なんてこった。

 

「あのね、今日雪ちゃんと愛ちゃんがセントラル・パークでおかしな事言ってる見た事がない制服を着た男がいるって言ってたの。 で、雪ちゃんが巷で噂になっている”潜伏中の凶悪犯”と何か関係があるんじゃないかって。 で、危ないから出来るだけ多くの人に知らせようって事になったんだけど……心配なかったね! だって遊伸と一緒にいるんだもの! 悪い人の訳がないよ! 雪ちゃんの考えすぎね!」

 

やっと、やっと掴んだ手がかりがまさかの俺自身。

しかも、凶悪犯と間違えられてたとか。

ああ、一気に気持ちが沈んでいくのが解る。

登っている最中の崖から落ちる様な感覚だ。

 

「い、一体どういう事なんだい? 燐平……」

 

「……すまん、少しの間放っておいてくれ」

 

こんなに捜し回っても見つからない。

手がかりも消えた。

ここで俺の頭に、考えないようにしてた最悪の予想が浮かんでくる。

 

「(俺以外、誰も来てないんじゃないか……)」

 

都合のいいように考えすぎてた。

”GX”の時は皆近くにいたけど、それは行く時も一緒だったからで。

あの時、俺だけだったもんな。

そりゃいねぇよ、いる訳がねぇ―――だとしたら、俺はどうすりゃいい。

 

「……それにしても、春休みだっていうのにどうして空はアカデミアに?」

 

「雪ちゃん達と一緒に図書館に行ってたの。 読みたい本があったから。 で、私はこれから帰るとこ。 帰ったらお姉ちゃんと遊びに行くんだ!」

 

「へぇ! 七海さんと! 4月から二人とも忙しくなるだろうし、今の内に楽しんでおくんだよ!」

 

「うん! 今度時間出来たら遊伸も一緒に行こうね!」

 

俺が思い悩んでる間に向こうはいい雰囲気に。

済まないが空、水を差させて貰う。

気を使ってやれる程俺には余裕が無いし、それに遊伸は今仕事中なんだ。

 

「遊伸」

 

「あ…ご、ごめん燐平! なんだい?」

 

「俺、ちょっと自信がなくなってきたよ……どうすればいいかなぁ……」

 

「だ、大丈夫さ! 諦めなければきっと逢えるよ! さあ行こう! 空、話をありがとう!」

 

「待って遊伸! これ持っていって! 何か難儀してるみたいだし、これ持ってれば良い事がきっとあるよ!」

 

そう言って空は自分のデッキケースからカードを1枚取り出して遊伸に渡した。

俺は何気なく手渡されていたカードに眼をやり、驚愕する。

あるはずが無い、”5D's”に―――”エクシーズモンスター”なんて。

 

「”ダイガスタ・エメラル”……?」

 

「1日貸してあげる! エメラルが守ってくれるから、きっとお仕事上手くいくよ!」

 

俺の中にあった”疑惑”が”確信”に変わる。

間違いない、ここは”5D's”の世界なんかじゃない。

”5D'sによく似たまったく別の世界”だ。

いないはずだ、俺が知っているアニメの登場人物なんて。

知らないはずだ、”近衛 遊伸”なんて。

 

親友達もいない、まったく知らない世界。

そんな状況なら、取る行動は一つ。

 

「(……帰る!)」

 

こんな解らない事だらけの世界にいられるか。

帰るんだ、親友達がいる”世界”に。

その為には―――

 

「遊伸! ちょっと行きたいとこがある! 来てくれ!」

 

「え? 燐平どうしたんだい!? 待ってくれ!」

 

 

* * *

 

 

「くっそ~…遊伸! もう一回!」

 

「い、一体どうしたんだい燐平? こんな事して……それ以上やったら制服がボロボロに……」

 

「いいから! やってくれ!」

 

「わ、分かったよ……それ!」

 

離れた位置で、遊伸が投げたナンバーズ・クラブ会員カードが空を舞うと、俺はそれが地面に落ちそうな所でヘッドスライディング、ギリギリでキャッチしてみせる。

俺はあの浮遊感を期待するが、きたのは腹が打ち付けられる痛みだけだった。

 

俺達が現在いるのは”セントラル・パーク”。

この世界の”スタート地点”で、ここへ来た時の状況を再現すれば”GX”の世界に戻れるのではないか。

そう考えた俺は、遊伸に手伝って貰ってあの時の様に見事なヘッドスライディングキャッチをさっきから決めているのに―――何も起こらない。

 

「くそ! どうなってんだよ! 何で何も起こらないんだよ!」

 

「どうしたんだい燐平……こんな事するのは何か訳があるんだろう? その訳を僕に話してみてくれないか?」

 

どうせ話したところで信じては貰えないだろ。

”別世界”に帰りたいなんてよ。

 

「はあ……」

 

くそ、何だよこのイライラ。

このままじゃ遊伸にあたっちまいそうだ。

そんなの最悪だ、落ち着け、俺らしくねぇぞ。

こんな時どうする、この気持ちを吹き飛ばすには―――――

 

「……決闘しかねぇ!!!」

 

「わ!?」

 

突然、腹這いの状態から飛び起きた俺に驚く遊伸。

だが、今はそんな事どうでもいい。

そうだ、俺の自慢はなんだよ。

何よりも決闘が好きな事だろ?

決闘ならきっと、この気持ちを何とかしてくれる。

 

「遊伸! 何度もすまねぇ! 俺と決闘してくれ! 決闘してすっきりしてぇんだ!」

 

「!……燐平、君も”決闘者”なんだね! 分かった! そういう事なら何度でも協力するよ! 決闘だ!」

 

そう言って遊伸は近くにあった平らなベンチに腰掛け、ポケットからハンカチの様な物を取り出してベンチの上に敷いた。

よく見るとハンカチにカードの大きさ程の枠線―――ありゃデュエルシートか。

遊伸の背負っているカバンには遊伸の決闘盤が入っているが、相手である俺は決闘盤を持っていない。

もしかして、遊伸はそういう相手と何時でも決闘が出来る様にあのシートを持ち歩いているのか?

 

「ありがてぇ! 準備がいいな遊伸! それじゃ早速やろうぜ!」

 

そう言って俺は自分の腰に手を伸ばす。

だが、俺の指は空を切る。

 

「……あれ? あれ、あれ、あれ……無い!? 俺のデッキが無い!?」

 

そんな、嘘だろ?

冗談じゃない、俺のデッキが、俺の魂が。

 

「……うおぉぉぉーーー!!!」

 

何してんだよ、何でそんなに大事な物を落とせるんだよ。

自分自身の、あまりの不甲斐無さに、俺は叫んだ。

 

「た、大変だ!? きっと何処かに落としたんだ! 燐平、急いで捜そう!」

 

「……」

 

もはやそんな気力、俺には無かった。

あちこち捜し回ったり、ヘッドスライディングで体がボロボロだったりとか、身体的にでもあるんだけど、一番やべぇのは”心”だ。

こんな訳の解らない世界で、親友もいない、住む場所も無い、金も無い、そして何より、カードが無い。

好きな決闘が出来ない―――はは、これが”絶望感”か。

決闘で事故った時に感じるのとは次元が違うな。

俺の体中からあらゆる気力が抜けていく。

とうとう俺はその場に座り込んでしまった。

 

「燐平!」

 

「もういいよ……もういい、無駄だ……」

 

「何を言ってるんだ! 諦めちゃ駄目だ! ”希望”を持って! さあ立って!」

 

俺に近づき、立たせようとして腕を伸ばす遊伸。

そんな遊伸の腕を、俺は叩いて拒絶する。

 

「うるさい! もういいって言ってんだろ! しつこいんだよ! 俺の気持ちも知らないくせに!」

 

あーあ。とうとうあたっちまった。

ここまで協力してくれた相手に、なんて奴だ、俺は。

 

「……でも、大切なデッキなんだろう? 今まで一緒に決闘してきた、君だけのデッキなんだろう? 君のデッキは、きっと君を信じて待ってるよ。 君が捜さなきゃ……君が信じなきゃ……誰がそのデッキを信じてやるんだ?」

 

「……」

 

暫く沈黙が続くと、突然遊伸が後方に振り向く。

 

「……今、悲鳴が」

 

悲鳴? 俺には聞こえなかったけど―――いや、俺が聞こうとしてないだけだな。

 

「燐平! ちょっと待っててくれ! すぐに戻ってくる!」

 

そう言って遊伸は走っていく。

俺はその場に座ったまま、遊伸の背中を見送る。

やがて、その背中が見えなくなった頃、俺はこれからどうするか考え始めた。

勿論、”希望”から来る考えではなく、”諦め”から来る考えだ。

とりあえず雨風を凌げる場所を探さないと―――

 

「…ん?」

 

ふと、ベンチに目を向けると、遊伸のデュエルシートが置かれたままだった。

俺はそれを手に取る。

 

「…」

 

大切なデッキ―――そうさ、掛け替えの無い、俺の”魂”だ。

だけど、信じたってどうにもならねぇじゃねぇかよ。

親友も見つからない、帰ることも出来ない、さっきからそうだろ。

 

「……届けてやろう」

 

遊伸には恩がある。

これくらいじゃ足りないけど、何かはしなくちゃな。

 

 

* * *

 

 

「一体何所にいるんだ?」

 

暫く遊伸を捜して公園内をうろついていた俺。

まだ人とすれ違ってすらいない。

このままじゃ自分が迷子になるんじゃないかと不安に思ったその時、見覚えのある少年少女が向こうから駆けて来る。

 

「お、あの時の……どうした慌てて」

 

「あ! 迷子のお兄ちゃん! 大変なんだよ! 助けて!」

 

俺に助けを求めてきたのは、俺がこの世界に来て最初に世話になった小学生カップル。

名前は確か、男子が修で女子が鈴、だったかな。

 

「”グールズ”だよ! グールズが出たんだよ!」

 

グールズ? 今度は”DM”かよ。

確かレアカードの強盗集団、だったよな?

俺がよく解っていないような顔をすると、二人が簡単に説明してくれた。

 

この世界での”グールズ”はダイモン・エリアを拠点とするデュエル・チームの前身である”デュエル・ギャング”の一つで、たびたび都市に現れては人々からカードを奪っていくとんでもない奴等らしい。

 

「最近じゃデュエル・スペースに現れた、って聞いたから、何時も遊んでるデュエル・スペースに近い噴水広場で遊ばないでここまで来たの……」

 

「でも今度はあいつ等……このセントラル・パークに!」

 

鈴が不安そうに俊の手を握り、俊は今にも泣き出しそうな顔をしている。

成る程、デュエル・スペースに人がいなかったのはそう言う事か。

じゃあ遊伸が聞いた悲鳴ってのは逃げてきたこいつ等のか?

 

「今遊伸のお兄ちゃんが奴等と決闘してるんだ! でも……」

 

「向こうは3人いるの……遊伸さんは私達を逃がす為に3人同時に相手してるの……」

 

「何だって!?」

 

3人同時って、幾らなんでも無茶だ。

それにカードを奪いまくってる極悪人だぞ。

何をしてくるか分かったもんじゃねぇ。

 

「お願いだよお兄ちゃん! 遊伸のお兄ちゃんを助けてあげて!」

 

「解ってらぁ! お前等は警察……セキュリティを呼んで来てくれ!」

 

俺は急いで駆け出す。

困ってる子供にお願いされて、さらに恩人がピンチなんだ。

そんな状況でヘタレてられねぇぞ、燐平。

 

 

* * *

 

 

「見つけた! 遊伸……!?」

 

ようやく遊伸を見つけ出した時、俺はまず驚愕し、その後心配が杞憂だった事を悟った。

 

遊伸の前には男が3人、こいつ等が”グールズ”か。

決闘方式は―――タッグ・フォースじゃねぇな。

1対3のバトルロイヤル、ってところか。

で、相手のグールズは3人中2人が地面にひっくり返ってやがる、何でだ?

まあ、一応ここも”遊戯王”の世界だし、負けたらダメージで気絶、何て事があってもおかしくないのかもしれねぇな。

 

「ぐ…くそ……!」

 

グールズ

LP:4200

手札:0

モンスター

・無し

魔法・罠

・悪夢の拷問部屋

・セット

「ターンエンド! 流石に3人は厳しかったけど……ここまでだ!」

 

遊伸

LP:2000

手札:0

モンスター

・XX-セイバー ガトムズ

・XX-セイバー フォルトロール

・X-セイバー ガラハド

魔法・罠

・無し

 

お互いに手札は0.

だが、圧倒的に遊伸が有利だ。

遊伸は”X-セイバー”、相手は―――拷問部屋があるから”バーン”か?

この状況でLPが大分残ってるから”キュアバーン”かもしれん。

 

しかし、幾ら”X-セイバー”が展開力に長けてるとはいえ、3人相手にこれは―――もしかして鋼貴さんの話は本当なのか?

 

「……へへ、調子に乗るんじゃねぇぞ。 俺のターン! ドロー!」

 

「!?」

 

おい、今こいつ―――

 

「おい! テメェ今掌に―――」

 

「何だテメェは! 部外者はすっこんでな! それに俺がイカサマしたって証拠はあるのかよ?」

 

「っ…! 遊伸お前も見たよな! こいつが掌にカード隠してたの!」

 

「……本来、決闘中に効果以外でカードがデッキトップに置かれたり、ドローフェイズにカードが正しくドローされなかった場合は、お互いの決闘盤から警告音がなるはずなんだけど……それが鳴らない。 やられたね、これじゃ拘束装置を強制発動させる事も出来ない」

 

つまり、あいつは決闘盤にもイカサマしてるって事かよ。

性質が悪いぜ。

 

「へっ! イカサマなんて知らねぇな! 俺は魔法カード《ブラック・ホール》を発動! 場のモンスターを全て破壊だ!」

 

「!? よりによってそれかよ! くそっ!」

 

グールズの野郎が魔法カードを決闘盤の魔法・罠ゾーンに差し込むと、場の上空にいきなり黒い穴が出て来て遊伸の”X-セイバー”が全部吸い込んじまった。

なんてこった、これで場のアド差が消え、LPは奴が上に―――つまり、あいつに逆転されちまった訳だ。

 

「さらに永続罠《リミット・リバース》を発動! 墓地から攻撃力1000以下のモンスターを攻撃表示で特殊召喚だ! 来い、《機械犬(メカドック)マロン》! 直接攻撃だ!」

 

ATK:1000

 

グールズの場に機械の犬が現れた。

そいつは電子音の様な声で吼えると、遊伸に向かって体当たりを放つ。

 

「ぐっ…!」

 

遊伸 LP:2000→1000

 

「どうだ! もはや手はあるまい! ……近衛 遊伸! お前については俺達も知ってるぜ! ナンバーズを2枚持ってるんだってな! それを置いていくんなら見逃してやってもいいぜ! ハッハッハッハ! ターンエンド!」

 

くそ、やべぇじゃねぇか。

遊伸のLPは1000、そして奴の場にいるのは”機械犬マロン”。

戦闘破壊されればお互いに1000のダメージ、効果破壊されれば相手にだけ1000のダメージを与える効果をもってやがる。

普段なら大した事の無い奴だが、今の遊伸にとっては最大の壁だ。

あれを破壊すれば負け、破壊しなくても次のグールズのターン、リミット・リバースの効果で自壊されて終わりだ。

遊伸が勝つには、これからドローする1枚で、しかも一撃で奴のLPを削りきらなきゃならねぇ。

 

「……そんなの無理だ!」

 

出来るはずがない、”逆転”なんて。

畜生、汚い手さえなければ遊伸が勝てたのに。

 

「心配ないよ燐平。 こんな汚い手を使う相手に僕は絶対に負けたりはしない」

 

「!?……だ、だけど遊伸! どうしようも無ぇよこれは!」

 

「大丈夫、僕はデッキを信じてる。 デッキもそれに応えてくれるはずさ」

 

「そ、そんなの…」

 

アニメじゃあるまいし。

出来っこねぇよ―――

 

「燐平、カードがある限り、きっと道は開ける。 カードは”可能性”……そして、それを実現させるのが……”決闘者”さ」

 

「”可能性”……”決闘者”……」

 

「だから燐平、君も信じてくれ。 僕の”可能性”を……カード達の”可能性”を!」

 

「…!」

 

何だ、この気持ちは。

熱いものがこみ上げてくる。

これは―――期待だ、ワクワクが止まらなくなる”期待感”。

何時だったっけな? これを何度か感じた事がある。

そうだ、今よりも子供の時、テレビの前で見てた”遊戯王”。

これは―――それに出ていた”主人公達”に感じていたものだ。

今、目の前にいる”近衛 遊伸”は間違いなく、”遊戯王”に登場する”英雄(ヒーロー)”だった。

 

「僕のターン! ドロー!」

 

遊伸 手札:0→1

 

遊伸は力強くカードを引き抜き、引いたカードを確認すると、実に気持ちのいい笑みを浮かべてくれる。

そうだよ、この笑い方、”主人公”だ。

 

「魔法カード《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地にいる《スターダスト・ドラゴン》と《X-セイバー ガラハド》を融合! 融合召喚! 来い! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!!!」

 

遊伸の場の空間から波紋が広がると、その中心からでかい竜の騎士が現れた。

俺も”融合使い”だから、こいつに関しての知識はある。

こいつの能力は―――

 

「バトル! ドラゴエクィテスで機械犬マロンを攻撃! 【スパイラル・ジャベリン】!」

 

ドラゴエクィテスが大槍を振り上げ、機械犬マロンに向けて投擲。

機械犬マロンは大槍に貫かれたが、あの体格から想像できないような大爆発を起こす。

爆風が決闘している二人まで飲み込みやがった。

爆風の中、グールズの勝ち誇った笑い声が聞こえてくる。

 

「ぐわぁぁぁ!!! ……馬鹿め! 機械犬マロンが戦闘破壊された事により、お互いに1000ポイントのダメージだぁ! つまり、お前のLPは0だ! ハーッハッハッハ!!! ……は?」

 

グールズ LP:4200→2000

 

馬鹿笑いしてる場合しゃねぇだろ?

グールズを覆っていた爆風が何かに吸い寄せられると、奴の馬鹿笑いしていたアホ面が見える。

爆風を集めているのはドラゴエクィテス。

フィールド全体の爆風を掌に集束させているのだ。

 

「ドラゴエクィテスの効果! 場に攻撃表示で存在する限り、相手のカード効果によって発生する自分への効果ダメージは代わりに相手が受ける! 終わりだ! 〈ウェーブ・フォース〉!!!」

 

ドラゴエクィテスがグールズ目掛けて、自身の波動と共に爆風を放つ。

 

「ぐあぁぁぁーーー!!!」

 

グールズ LP:2000→1000→0

 

自分の分と遊伸の分、合わせて2000ポイントの爆風がグールズの野郎を襲った。

グールズの野郎はばったりと地面に倒れる。

他の奴等と同じ様に気絶したみてぇだな。

 

遊伸はカードと決闘盤を収めると、俺の方へと近づいて来る。

 

「遊伸! すげぇよ! あの状況で勝っちまうなんて!」

 

「カードが応えてくれたからさ。 ……燐平、カードは生き物じゃないけど、”決闘者”と通じ合う”意識”があるんだ。 僕が信じたように、カードも”決闘者”を信じてくれる。 ……君のカード達だってそうさ」

 

「俺の……カードが?」

 

「ああ……きっと、君の事を待ってる。 カード達だけじゃない、君の友達だってそうさ。 だから燐平、諦めちゃ駄目だ。 目の前に無くても、君の”大事な物”は存在しているんだ。 離れていても”絆”で繋がっている。 ”絆”を忘れなければ、必ずまた逢える……だから、また立ち上がって進もう、燐平」

 

「……」

 

この世界で一番の幸運、それはこの”決闘者”と出会えた事だ。

遊伸になら話せる、”本当の事”を。

この”決闘者”なら、きっと信じてくれる。

 

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

 

あれから暫くして、グールズの3人はセキュリティに連行されていった。

その間に俺は遊伸に全てを話した。

俺が何者で、何処から来たのか。

何故あのような奇行を行っていたのか。

隠さずに、全部だ。

 

「……信じられねぇだろ?」

 

「…いいや、僕は信じるよ」

 

マジかよ、期待はしてたけど、こうもあっさりとは思わなかった。

 

「燐平、”ありえないような不思議な事”っていうのは、確実に存在するんだ。 この世界にだって一杯あるよ。 超能力者やデュエルモンスターの精霊。 果てには”世界を征服しようとする古代の覇者”なんてのもいるからね。 ”別世界の人間”だっているはずさ」

 

な、何言ってんだ?

先の二つは遊戯王ではおなじみ、だから解る様な気が、最後のは一体―――いや、そうか。

ここは俺の知らない”遊戯王”の世界なんだ。

きっと、俺の知らない遊伸達の”物語”があったに違いない。

 

「……一刻も早く君のデッキを捜したいけど、もう日が沈む。 外で落としていたとすれば、今日はもう捜せないだろう。 だから、今日のところは今まで周った施設に連絡して、君のデッキについて話をしておこう。 その後、君を友達がいる世界へと帰す方法を確保する」

 

「確保するって……方法があるのか!?」

 

「”不思議な事”を解決するなら、同じ”不思議”に頼るしかないと思うんだ。 確証は無いけれど、試す価値はきっとあるよ。 …ちょっと遠いけど、もう少し付き合ってくれ」

 

 

* * *

 

 

ちょっと、じゃねぇじゃんか。

ここまで来るのに何時間掛かったんだ?

もう日はとっくに沈んで真っ暗だ。

俺と遊伸は今、”サテライト”に来ている。

”5D's”とは違う世界、それはもう解っているが―――

 

「……明るい上、綺麗だな」

 

これは予想外だった。

見たところ、この世界のシティは”5D's”のWRGP編のものに近いっぽいな。

ダグナー編までと言ったが、WRGP編の最初だけは見てるからサテライトがどうなったか位は知っている。

でも、今いるところはそれ以上だ。

あちこちで明かりが付いてて、”暗い街”という印象は微塵も無い。

建物とかも殆ど新築の様でピッカピカ。

都会とはまだ言えないが、シティの一部と言っても問題はなさそうだ。

 

「久しぶりに来たけど、随分と開発が進んだなぁ。 流石は宝月さん、”アルカディア・ムーブメント”の経営が上手くいってるみたいだ」

 

うん、もう突っ込むのは止めた。

似てても”5D's”とは違うんだからな。

大体、俺の役割は”突っ込み”じゃないんだよ。

雄介じゃあるまいし、いい加減疲れてきた。

 

「もうすぐだよ……ってあれ?」

 

「お待ちしておりました……遊伸君」

 

俺達の行く道に執事みたいな格好と物腰の若い兄ちゃんが立っていた。

何だありゃ、コスプレか?

 

「フレデリックさんじゃないですか! お久しぶりです! どうしてここに?」

 

「遊伸君が来ると聞いたので、お迎えに。 歩いて本社まで向かうのは大変ですからね。 車を用意してあるので、どうぞ」

 

ああ、遊伸が向かう前に電話してた”目的の会社”の人か。

何であんな格好をしているんだ?

 

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

 

「うわ……すげぇ……何も無ぇ……暗くても分かる」

 

俺は今、走っている車の窓から外を見ている。

綺麗な建物が続いていると思ったら、今度は何も無く、やたら広い更地に出た。

見渡しても、この車が走っている一本だけの道路と外灯しか見当たらない。

 

「ここは”B.A.D地区”と言って、元々は瓦礫だらけの酷い土地だったんだ。 今は何とか瓦礫を撤去をして、ようやく更地に出来たんだ」

 

「近いうちに、ここにも建物が建てられる予定ですよ。 ……見えてきましたよ」

 

フレデリックさんに言われて俺が顔を前に向けると、そこには大きなドームが見えた。

周りには何も無いのに、何でドームがデカデカとあそこに?

 

「あれが”アルカディア・ムーブメント”の本社だよ」

 

「何でドームなんだ?」

 

「実はね、半年前まであそこは”悪の組織”のアジトだったんだ」

 

「はあ!?」

 

「ハハハ! 嘘みたいだけど、本当だよ」

 

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

 

ドーム内に入った俺達は、フレデリックさんに地下深くの部屋まで案内された。

ここまで本当に長かったな。

 

「私はここでお待ちしております。 どうぞ中へ」

 

フレデリックさんが丁寧なお辞儀をしてから部屋の扉を開ける。

その中には広々としていて、その中心で一人の爺さんが椅子に座っていた。

結構、歳取ってる様に見える。

 

「やあ……遊伸、よく来てくれた。 そして……そちらが依頼人か、初めまして」

 

「あ……はい、初めまして! 九十九 燐平です!」

 

何というか、凄みがある爺さんだな。

思わずかしこまっちまった。

 

「宝月さん、お久しぶりです。 用件は、大体電話で話した通りです」

 

「ああ……”相棒”の力が必要なんだな?」

 

そう言って、宝月さんは1枚のカードを取り出す。

え? あのカードは―――

 

「きっと”レインボー・ドラゴン”ならどうにか出来るんじゃないかと思いまして……お願いします」

 

「解った……”相棒”、聞いての通りだ。 この少年を、大事な友人達の下へ帰してやれないか?」

 

その瞬間、眩しい虹色の光が俺達を包み込む。

あれ? この感じまさか―――

 

 




後編に続きます。
すぐに投稿します。
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