ハッカーズメモリー THE Revenge of girl 作:ハナバーナ
「待たせたな。」
連絡を終えて数分後、レイラの元へ龍司が歩いてくる。
「情報収集はまずまずだな。だが、肝心なのはここからだ。」
「はい、確か志賀ヨウジは…‥。」
「ああ、志賀はあの奥だ。」
龍司はそう言って、アンダークーロンの道を指さす。レイラはうなづき、その道へ向かおうとするのだが、一歩踏み出す前に龍司がレイラの服の襟をつかむ。
「いつまでも被ってないで、顔見せろ。相手に顔を見せる事は便利屋として基本中の基本だ。」
「…‥‥。」
レイラはそう言われると、ゆっくりと被っていたフードを外す。フードをとったレイラは眼鏡をはずしているほかに、ショートヘアーになっているという点が変わっていた。
「髪、切ったのか?」
「はい、思い切って三つ編みを。勢いが必要かなと思ったので…‥。」
「…‥だったらそれ被ってちゃ意味ねえだろ。」
「‥‥‥すいません。」
もっともな部分を指摘され、レイラは落ち込みながら謝る。自分にはまだ、以前までのオドオドさが消えていないらしいと自覚する。
・・・・・・・・・・
アンダークーロンの最奥に向かっている途中、龍司はあることに関してレイラに話す。
「そう言えばお前、あの三体のデジモンはどうした?」
「みんな、デジヴァイスの中にいますよ。出てきて。」
レイラがデジヴァイスを操作すると、そこから三体のデジモンが出現する。その三体はもちろん、レイラが闇マーケットで安く手に入れたデジモンである。
「えっと、トサカのあなたがベタモン。」
「そうだぜ、よろくなレイラ!」
「テントウムシのあなたがテントモン。」
「せやで、これからよろしゅう頼むわレイラはん。」
「岩を纏ったあなたがゴツモンだよね。」
「そうだよ。ゴツでよろしく~。」
三体とも出会って数日だというのに、随分とレイラに懐いている様子だった。それを見た龍司は不思議に思う。
「お前と会ったときも思ったが、スキャンもコンバートもしてないプログラムに懐かれるなんて、
妙なこともあるもんだな。」
「妙なんですか? こういったのが、ハッカーの間では。」
「少なくとも俺はお前のような例を見るのは初めてだ。」
「…‥そう、ですか…‥。」
龍司に言われても、レイラには何のことなのか分からない。プログラムのはずなのに、なぜか生き物や、気さくに話せる友人のような感覚を覚えてしまう。そんなことを考えていると、進んでいる道からデジモンが飛び出してくる。
「デジモン!?」
「別に驚くことじゃない。クーロンにいると実体ウイルスのように襲い掛かることもある。
だが、見てみると全部幼年体だな。お前の三体で何とかなるだろ。」
「えっと…‥できる?」
「おう! ぼく達に任せてよ!」
レイラに言われ、三体は勢いよく野良デジモンに立ち向かう。野良デジモンの方が数は多いのだが、その差などものともせず、体当たりしたり、電撃を放ったり、パンチを繰り出したりなどして、時間をかけずに撃退する。
「やったぜ、レイラ!」
「うん、ありがとう。」
三体が駆け寄り、レイラは頭をなでる。
「お前の三体は見たところ成長期みたいだからな。まず負けなかっただろう。」
「デジモンも、成長するんですね。」
「ああ。それに便利屋ってのは楽じゃない、お前もちゃんとデジモンを強くしておけ。」
「分かりました。」
今回の事からまた一つ学んだレイラは、志賀を追いつめるため再び歩みを進める。
・・・・・・・・・・
アンダークーロンの最奥付近にまで足を進めたレイラ達。すると、
「やめてよ~~!」
「助けて~~!」
「なんだ?」
助けを求める二つの声が、奥から聞こえる。するとその方角から、二匹の恐竜のようなデジモンが走ってくるのが見える。
「うわあ!」
「こっちにもニンゲン…?」
「おいそこの! そいつらを逃がすな!」
さらに、奥から、一人の男性が走ってくる。先に来たデジモンがその男を見ると、ビクッと震える。
「レイラ、あいつが志賀ヨウジだ。」
「‥‥‥!」
龍司から男の名を聞いた瞬間、レイラの表情は一気に険しくなる。自分のアカウントを奪ったかもしれない相手である以上、当然だろう。
「ちょうどいいぜ、こいつらをキャプチャーするの、協力してくれよ。この辺じゃ
見かけないプログラムだから、レアだぜ? 一匹やるからさぁ。」
「…‥だ、そうだ。どうするレイラ? これはお前の試練だ。」
「‥‥‥‥‥。」
言われてレイラは、改めて追われている二匹を見る。その二匹は、明らかにおびえていた。デジモンがどんなプログラムかなど、レイラには分からない。だが怯えているデジモンを見ていると、なんだか気分が悪くなる感覚を、レイラは感じる。
「‥‥逃げて。」
「えっ?」
「この人はあたしたちが引き受けるから、逃げて。さっ、早く。」
「あ、ありがとう‥‥!」
二匹はレイラに礼を言うと、急いでレイラ達を通り過ぎていく。
「おい、何逃がしてんだよ! レアなデジモンなんだぞ!」
怒鳴った志賀は、急いで逃げた二匹を追いかけようとする。その行く手を、レイラや龍司は阻む。
「じゃ、邪魔すんなよ!」
「悪いが、俺達はお前に用があるんだ。ハッカーチーム、フーディエがな。」
「便利屋だと!? まさか、ザクソンが俺を‥‥!」
「ユーゴからの伝言だ。『EDENの秩序を乱した罪、しばらく現世で悔いてこい』とさ。」
「く、くそ! やれ、ゴーレモン!」
動揺した志賀は、デジヴァイスからデジモンを一体呼び出す。ゴーレモンを言われたそのデジモンは、太い腕をしており、全長3メートルはあるであろう岩のような巨体を有していた。
「お、大きい‥‥!」
「成熟期デジモンか…だが勝てなくはないな。レイラ、お前とお前のデジモンで倒してみろ。
最終試験だ。」
「は、はい‥‥!」
龍司に言われたレイラは、三体のデジモンとともにゴーレモンの前に立つ。ゴーレモンはその巨大な剛腕を高く上げ一気に振り下ろす。
「うわっ!?」
その衝撃は大きく、体の小さいレイラやデジモン達は、簡単に吹き飛ばされてしまう。
「プチサンダー!」
羽を広げて飛ぶことで回避できたテントモンは、自らの手の中で電気の球を作り出し、ゴーレモンに向けて放つ。顔面に受けたゴーレモンは一瞬怯むが、すぐに腕を振り下ろす。
「わわっ! すんまへんレイラはん、あんま効いてへんわ!」
「くっ‥‥ゴツモン!」
「アングリーロック!」
指示を受けたゴツモンは、頭から岩を発射。再び顔面にヒットし、先ほどよりは大きく怯んだ。
「…‥え?」
しかしその時、ゴーレモンの背中の噴出口のような部分から熱が噴射したかと思うと、ゴーレモンは口から黒煙と炎を同時に噴き出すカースクリムゾンを発射。レイラと三体は熱を受け、吹き飛ばされる。
「ごほっごほっ‥‥!」
「ハハハ、ザクソンの犬も大したことねえなあ。とどめをさせ、ゴーレモン!」
志賀に指示され、ゴーレモンは一歩一歩、レイラ達に近づいていく。レイラはコートや顔を汚したまま、近づいてくるゴーレモンを見据える。
「あた、しは‥‥‥!」
レイラは恐怖した、目の前に迫ってくる巨大なデジモンに。レイラは後悔した、いつも空回りする癖に重大なことに勢いだけで入りこんでしまった自分に。心の中であきらめを抱きながら、レイラは目をつむってフードをかぶろうとする。
「レイラ!」
そんな時、レイラの目の前にベタモン達三体が立つ。レイラを守る壁のように。彼らもボロボロだというのに。
「みんな‥‥。」
「レイラは廃棄されそうになったぼく達を檻から出してくれた! 救ってくれた! だから今度は
ぼく達がレイラを守る番だ!」
「せやな!」
「うん!」
その表情は檻にいたときのは違い、勇気に満ちたキッとしたものだった。そんな三体に対して、ゴーレモンは再びカースクリムゾンを発動させようとする。それを見たレイラはフードをかぶろうとする手を止め、デジヴァイスを耳に着けてデジモンのステータスを確認する。そしてハッカーが伝達することによって発動する能力、スキルを見つけ、それをレイラは操作する。
「ベタモン! あいつの口めがけてアイスアーチェリー!!」
「おう!!」
ハッカーの恩恵を受けたベタモンは口から氷柱を発射、炎が発射される寸前にゴーレモンの口元にヒット。カースクリムゾンの発動を阻止したばかりではなく、水分と熱の衝突で発生した水蒸気が、ゴーレモンの視界を遮る。動きが鈍るのを見たレイラはこの期を逃さない。すぐさまデジヴァイスを操作し、新たなスキルを発動する。
「テントモン、ビリビリネット!」
「よっしゃ!」
テントモンはレイラの指示を受け、網にも似た電撃を発射。効き目はそれほどではないものの、ゴーレモンは動かなくなる。
「ど、どうしたゴーレモン!」
「動きを封じさせてもらいました。一時的ではありますけどね。」
混乱する志賀にそう説明したレイラは、スッと腕をゴーレモンに向ける。
「ベタモン、テントモン、ゴツモン! 最大パワーをお見舞いさせて!」
「「「おう!!」」」
三体のデジモンは、自らの力を限界まで貯める。
「ったく、強いんだか弱いんだか分かんねえなあいつ。」
そう言って頭を掻く龍司。レイラがピンチだったときは仕方なく助けてやろうかと思ったが、それも鳥越苦労だったらしい。
「けど・・・・あいつら、悪くねえ。」
龍司は微笑みながら、レイラと彼女のデジモンを見据えていた。
「電撃ビリリン!」 「プチサンダー!」 「アングリーロック!」
三体のデジモンの最大パワーの同時発射。クロスコンボとでもいうべきそれは、ゴーレモンに直撃する。ゴーレモンは背中から倒れ、目を回していた。
「‥‥勝った‥‥。」
何とか倒すことができたレイラは安堵し、デジモン達も大喜びする。まさか、デジモンに勇気をもらうなんてと、レイラは思い、三体に聞こえない声量でありがとうと礼を言った。
・・・・・・・・・・・・・・
「た、頼む! アカウント破壊だけは勘弁してくれ!」
龍司やレイラに追いつめられた志賀は、先ほどまでの威張りが嘘であるかのように命乞いをする。
「それは後だ。新人がお前に用があるんだとさ。ほら。」
「はい…‥志賀ヨウジさん。あたしから奪ったアカウントを返してください。」
「は、はあ!? お前のアカウントって何だよ!?」
「? あなたが奪ったんじゃないんですか?」
『知らねえよ! 疑ってんならデジヴァイスを確認してみろよ!」
志賀にデジヴァイスを渡され、龍司が確認する。一通り見た後、ふんっと鼻を鳴らす。
「‥‥確かに、ここにお前のアカウントはなさそうだ。」
「そ、そんな…‥。」
志賀がアカウントを持っていないと知ったレイラは、ガクッとショックを受ける。
「な、なあ? 嘘は言ってないだろ? だから見逃してくれよ、頼むから‥‥さ!」
言い切ると同時に、志賀は出口に向けて走り出す。
「おい待て!!」
逃がすまいと龍司が追い、レイラもそれに続く。その直後だった、グオンという音とともに頭上に穴が開き、そこからストライプ柄の巨大なアンモナイトのような何かが現れたのは。
「あれは、デジモン‥‥いや!」
龍司も見たことがないのか、その物体に驚愕する。物体は志賀の前に降りたかと思うと、触手を志賀に巻き付け、その身に取り込もうとする。
「うわあああああああああ!! 助けてくれええええ!!」
志賀が助けを求めてきたため、レイラは動こうとする。しかし龍司はレイラの襟をつかみ、その場から走り去る。
「龍司さん!? あの人は!」
「放っておけ! どうせエラーするか、アカウントが破壊されるだけだ!」
「‥‥‥!」
龍司からそう言われたレイラは、悩みながらも救出を断念する。最後に聞いたのは、志賀の悲痛な悲鳴だった。