ハッカーズメモリー THE Revenge of girl 作:ハナバーナ
「待たせたな。」
エリカのVIPルームに入ってしばらく経ったころ、龍司が一人の青年を連れてエリカの部屋に入ってくる。額の空いている金髪の青年は、「よっ」と軽そうにレイラに声をかける。恐らく彼が千歳だろうとレイラは思う。レイラも「どうも」とだけ言って返す。
「エリカ、志賀のアカウントの解析は済んだか?」
「もう少し。」
エリカが画面に向かったまま龍司に返事する。正直レイラからしてみれば、挨拶して以降エリカはずっと今の調子だったので、龍司が来てくれたことには素直に助かっていた。そう思っている間に、エリカはアカウントの解析を終える。
「出たよ…アカウントがエラーを起こしてるね。その化け物、何かのバグだったのかも。」
「志賀はそれに巻き込まれた‥‥か。」
「でもよ、アカウント喰っちまうバグなんて聞いたことねえよな。」
「ああ。ザクソンに報告しておく必要はあるだろう。」
「ま、これでザクソンからの依頼完了だな。で、新人ちゃんの試験どうだったよ?」
「ああ、合格だ。」
「マジで!? やったなお前、ようこそフーディエへ! 歓迎するぜ。」
「あ、ありがとうございます‥‥。」
いまいち実感がわかないものの、やはり歓迎されるのは素直に嬉しかった。レイラは頬を赤らめて、お礼を言う。
「んじゃ、改めて自己紹介だな。俺は今井千歳、よろしくな。龍司とお嬢とは長い付き合いでさ、
チームじゃ情報収集担当してんの。さっき渡したハチドリちゃんの他にも役に立つマルウェア
あるからさ、興味あったら言ってくれよ。」
「リーダーの御島龍司だ…‥俺の事はもういいだろ。」
「…‥御島エリカ。」
一人だけ画面に向いて作業をしながら自己紹介するエリカを見て、レイラは頬を掻きながら苦笑する。
「もうわかってるだろうが、俺達フーディエは、EDENで仕事を請け負うハッカーチームだ。」
「依頼内容は、ハッキングから探し物まで何でもござれってな。個人からの依頼も引き受ける
けど、お得意様はチーム【ザクソン】だ。奴らの事はわかるよな?」
「はい、EDENの自由と秩序を守るために生まれたチーム…でしたよね?」
「そそ。デジモンキャプチャーの普及と同じ時期に名を上げたリーダーのユーゴの思想に
共感したチームがいくつか傘下に入って、爆発的に勢力を拡大させたんだよな。今じゃ
その規模はクーロン1って言われてる。」
「連中は、ハッキングをあくまで『EDENを守るため』に使うべきだと考えている。だから、
志賀のようなEDENを荒らすハッカーは許さない。」
「俺達がザクソンの依頼を受けるのもそれが理由。フーディエは悪事には加担しないからな。
俺らはザクソンの元で働く正義の味方ってわけ。だからフーディエに入った以上、お前も
悪いことはNGだぜ? ザクソンに喧嘩売るのもなしだ。」
「き、肝に銘じます。」
「ま、単身クーロンに乗り込んじまうくらいだから、心配ねーとは思ってるよ。」
「俺達の事はもういいだろう‥‥千歳、エリカ、どっちかこいつに【板】の説明をしてやれ。」
龍司はそれだけ言って、エリカの部屋を後にする。千歳はエリカの方に向く。
「お嬢、説明はどっちがやる?」
「千歳。」
「よっしゃ! よかったな新人ちゃん! イケメンなお兄さんが説明してくれるぜ~?」
明らかによかったと思ってるのは千歳の方なのだが、特に悪いと思っているわけはないため、レイラは千歳に教えてもらおうと決める。千歳と部屋を出る際、作業をしているエリカに「それじゃあね」と言い、エリカは「うん」とだけ画面を見ながら返す。
ログイン端末にもなっている店内のパソコンを使い、レイラは千歳から、依頼の受け方について教わっていた。ふとレイラは、あることを千歳に質問する。
「あの、千歳さん。龍司さんは、どこに行ったんです?」
「あれ、聞いてねえの? この店、あいつら兄妹の店なんだぜ?」
「え!?」
あまりに衝撃的な事実にレイラは驚き、レイラは思わず目を見開いて千歳の方を向いてしまう。
「生活費も稼げてアジトにもできて、一石二鳥ってな。バイトの女の子も可愛いんだぜ?
あ、別にレイラが可愛くないってわけじゃねえからな?」
別にそこまで聞いているわけではないのだが、レイラはとりあえず、「へえ」っと納得してみる。
「お前、龍司に拾われて運がいいよ。ハッカー追跡するのに、こんなにいい環境はないぜ?
依頼受けているだけでも、お前が追う犯人につながる可能性がないとは言えないしな。」
「はい…‥。そう言えば、千歳さん達はどうしてこんなことを?」
「理由はそれぞれだ。さっき言った生活費もそうだし、ハッカーの腕を磨くためってのもある。
俺の理由は、世の女性たちを幸せにすること‥‥かな。何を隠そう、こうしてハッカーをして
いるのも、ある女の頼みを断れなかったからで---------」
千歳の理由になった途端、レイラは半目を作り、口笛を吹きながらパソコンの操作を行っていた。
「えっ、何その顔? ひょっとして、右から左へ受け流してる…‥的な? じ、自分から質問して
おいて、変顔で先輩の話をスルーするとは‥‥中々やるな、お主‥‥!」
と、調子よく返してくれるノリのいい千歳に、思わずレイラはクスリと笑みをこぼす。
千歳が龍司とともにザクソンへ依頼の報告へ行っている間、レイラは千歳から頼まれた簡単な依頼を行っていた。決められたものを買ってくるというフーディエからの依頼である。現在レイラは、中野ブロードウェイにあるハッカー御用達のジャンクショップで、パソコンの部品を購入していた。
「…‥はあ。」
依頼というよりこれは、ただのお使いなのではないか? そう思いながらレイラは、店を出て買った部品の入った袋に目をやる。そんな時、デジヴァイスから通信が入る。相手は‥‥優である。
『お前なあ‥‥連絡入れろって言っただろ? こっちは散々心配したんだぜ?』
「‥‥ごめん。」
すっかり優の事を忘れてしまっていたレイラは、申し訳なさを感じながら優に謝る。
『俺、今中野のカフェにいるんだ。今から会えないか? ちゃんと話聞かせてもらうからな。』
優はそれだけ言って、通信を切る。レイラにはまだ買い物が残っているのだが、ちょうど中野にいるし、最低限のことは報告しておいた方がいいだろうとレイラは思い、カフェへと足を進める。