Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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#1-1 『帰ってきたgame m@ster!』

stage:In the crowd

 

 

 

「ワタシは不滅だァァァァァ!!」

 

 道の真ん中で両手を広げて大声を上げる男。

 彼の叫び声は天に伸びたビル群を追い越し、高く高く天蓋まで伸びていこうとするほどに鬼気迫ったものだった。

 

「…ハァ……ハァ…これは……」

 

 太陽に手をかざせば彼の顔には影が差した。くるりくるりと手を返すたびに燦燦と輝く太陽が彼の目に飛び込んでくる。

 

「私の技術は完璧だったわけだ……私の才能が恐ろしい…!」

 

 ひどくつり上がった口角と喜びに輝かせた瞳がなんとも言い難い悪魔のような表情を作っていた。

 

「だが……」

 

 我に帰り辺りを見渡す彼。

 綺麗に舗装された道路、唸るようなエンジン音と息がつまるような排気ガスの臭い。立ち止まった黎斗の横を何度となく通り過ぎていく人々。

 なにもかも、彼の想像していた場所とは異なっている。

 

 ――おかしい。

 

 彼の目論見通りに事が進んだとなれば彼の見ている景色はあまりにも異様だった。

 目の前を歩いてくる1人の男性を注視しても結果は変わらない。

 ちらりと目が合えば関係ないとばかりに逸らされ気にするでもなく脇をすり抜けていく。

 たったそれだけの確認ではあるが、それが、彼の期待を裏切るような行動であることに違いはない。

 それはまさしく、この場が彼の望んだ場所―ゲームエリアの中―でないことを意味していた。

 

「それに…ドライバーもガシャットもないとは……一体どうなっている?」

 

 本来ならばバグスターとなった彼の復活にはプロトオリジンガシャットとドライバーが必要となるはずだったが、腰元に装着された跡はない。

 ――やはり、なにかがおかしい。

 その疑問に辿りつくのは当然のこと。

 

「ム…!そこの君! 少しいいかな?」

 

 そんな彼に、斜め後ろから声がかかる。

 振り返れば彼に並ぶほどの背丈の老紳士が立っていた。

 

「なんだ貴様…??私は今、他人に割く時間など持ち合わせていない。道案内なら他を当たってくれたまえ!」

「そうじゃない。君には他人にはない才能があると感じたものでね」

 

 高慢な態度に物怖じした様子もなく男は答えると、彼の眉が少しだけ持ち上がった。

 

「たしかに、私にはクリエイターとしての才能がある。それを見抜くとは貴方の審美眼は大したものだ」

「それに加えてその瞳に宿る情熱の炎は並の人間が持っているようなものではない。違うかね?」

 

 思わず声が漏れそうになるのを隠し、いつもと変わらぬ様子で口を開いた。

 

「私の想いを理解できる者などついぞ現れることはないと思っていたが……。しかし、今は時間が惜しい。単刀直入に用件だけをお願いしたい」

 

 復活したばかりの彼には何もない。あるのはバグスターとして生まれ変わったその身と溢れるゲームへの情熱。

 それに燃え上がるようなパラドへの復讐心だ。

 今彼が望んでいるのは何よりも多くの時間と情報、それだけだった。

 

「君のような聡明な人間には無駄話は必要ないだろう」

 

 男は深く頷くと、ジャケットの内から名刺入れを取り出した。

 受け取ったそれには男の名前と社名と思われる『CENプロダクション』という文字が並んでいる。

 

「私の会社で、アイドルをプロデュースしてほしい!」

 

 そこには水晶のように瞳を輝かせる男の姿があった。

 ――アイドルだと?

 

「貴方の会社で働いてほしい、つまりは私のスカウトだと」

 

 受け取った名刺から目を離し、男に聞き返す。

 

「そうだ」

 

 満足げに男は首肯する。

 悪い話ではない、内心で彼がそう感じたのも不思議ではない。

 彼にとって情報や時間が必要であったとしても、それはいずれ解決するだろう。

 しかし、彼には身を寄せることのできる場所が存在しない。バグスターは生活資金が不要とはいえ、金すら持っていない成人男性を誰が信用してくれようか。

 この話乗らない手は無い、彼は考えるまでも無くそう決断していた。

 

「悪くない話だ。私は今、このクリエイティブな才能を刺激してくれる最高の環境を求めている」

 

 尊大な様子で語る彼の言葉に多少なりとも嘘や建前が混じってはいても、彼がそういった環境を欲しているのも事実だ。

 

「ただし私は少々急いでる身なものでね、返事は待って頂きたい」

 

 それでも、二つ返事でそれを受けるにあたり彼には圧倒的に情報が足りていなかった。。

 さあスカウトを受けたぞ、と話を転がすにも冷静に事を進めなければ後に面倒なことに発展しかねない。

 彼はその前に手を打つ必要があった。

 

「私こそ惜しむべき時間を奪ってしまったことを謝罪しよう。是非、君の都合がつく時にでも話を聞かせてほしい」

 

 ばつが悪そうに謝る姿も、控えめに述べられた望みも、澄んだ瞳を持つ男の言葉として嘘はないように見えた。

 

「その謝罪、今は聞かなかったことにしましょう。貴方に奪われる時間が無駄だったとき、もう一度その謝罪を聞かせてもらいたい」

「そこまで期待させているならば、その期待に応えなければならないね」

 

 男は控えめに笑みを浮かべた。

 

「そうだ。名前を聞いていなかったね」

 

 男は傍らに置いた鞄を持ち上げると思い出したように尋ねた。

 

「私は……」

 

 逡巡すると胸元から名刺入れを取り出した。

 存在するともしれない会社名がそれに書かれていようとも彼には関係が無かった。

 

「檀黎斗、究極のゲームを作るゲームクリエイターだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:public park

 

 

 

 ――おおよその状況は把握した。

 男と別れた後、電脳世界に身を飛ばして情報を集めていた。

 それが一段落着いた今は公園のベンチに腰を落ち着かせている。

 

「つまり、人類はチェックメイト寸前といったところか」

 

 調べた結果わかったこととしては、彼の生きていた世界とは別物の可能性が非常に高いこと。それに加えて生きていた世界と同様にバグスターウイルスにごく近い何かが存在していること。また、それらに対する抑止力となるものが存在していないことだった。

 ――やはり不思議な点が多すぎる。

 彼が復活できた経緯も不明のまま。

 檀黎斗本人とそれにまつわる人間がいないにも関わらず発生したバグスターウイルス。

 ゲーム病のような症状に陥った患者の末路。

 知れば知るほど疑問は増えていくだけだった。

 

「おいオッサン。こんな昼間からなにブツブツ言ってんだよ」

 

 突然、声をかけられる。

 顔を上げると一人の少年が立っていた。

 キャップを後ろ前にかぶりライトグリーンを基調としたパーカーを着こみ、忙しそうに何かを噛んでいる。

 キャップからはみ出した赤茶けた髪は首丈程度に切り揃えられ、さらさらと風になびいている。

 見たところ中学生に上がりたて程に見られる年齢。整ってはいるものの幼さが目立つその顔は将来を約束されているようだ。

 勿論この場合における少年は性別を問うものではなく、ただの年端もいかない子供という意味合いではあるが。

 

「初対面の男性をオッサン呼ばわりとは……君はもう少し口を気をつけたほうがいい」

 

 彼は目の前に立つ少年を諌めるように言い放つが、それを気にした風には見えない。

 

「いや俺の親父とそんな変わんねえぞ」

「私は三十を過ぎたばかりなんだがね」

「ウチの親父もそんなんだったぞ」

「まさかそんなわけはあるまい」

「三十も四十もそんな変わんねえよ」

「……君は敬意というものを知るべきだな」

 

 呆れたようにため息をつく彼。

 

「別にいらねえよ。それより、オッサン暇してんだよな?」

 

 頼み事。それも、十を言わずともわかるようなことだ。

 見れば片脇にサッカーボールを抱えている。

 

「私は暇ではないが……サッカーをする相手が欲しいといったところか?」

 

 スーツ姿の男性に頼むのは間違いであるような気もするがこの少年には関係がないらしい。

 

「いっつもサッカーするやつらがいねえんだよ。暇つぶしに付き合ってくれよ」

 

 立てた親指で後ろを指すと彼が立ち上がるのを待っている。

 

「名前も知らない大人と遊ぶのは止めたほうがいい」

「サッカーくらいいいだろ」

「サッカーであれなんであれ危険な人間というものは一定層いるのが当たり前だ。面倒な目に遭いたくなければ控えるのが普通だ」

 

 彼は珍しく諭すように穏やかな口調で遠まわしに断った。

 

「じゃあオッサンはアブねえ大人ってことか。アレだろ? ロリコンってやつ」

「失敬な。私は君のような子供に思うところがあるような人間ではない」

 

 先程よりも強い口調で言葉を返すが、ぴくりと眉を動かす程度で彼の言葉を汲み取っているとは思えない。

 

「じゃあいいじゃん」

「そういう問題では……いや、もういい」

 

 ため息を漏らし力なく頭を垂れる。

 

「おっけーならやろうぜ、サッカー」

「仕方ない」

 

 ひざに手をかけてぐいと体を持ち上げ立ち上がり、着ていたスーツジャケットをベンチへと投げやった。

 

「気分転換くらいには相手をしてあげよう」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 あれからどれくらいが経過したのだろうか。

 ただ分かることがあるとすれば、結局少年の友達は来なかったことだろう。

 

「ありがとよオッサン。遊んでくれてサンキュな」

 

 ぱたぱたとボールに付いた土を払いながら少年は感謝を述べた。

 

「気にしなくていい。子供は遊ぶのが仕事だと思いたまえ」

 

 ジャケットに袖を通し、服装を整えつつ黎斗は答える。

 

「それよりも、遊ぶ相手を選ぶことを先に覚えたほうがいい」

「まだ言ってんのかよ。オレの親父でもそんなに言わねえのに」

「この私がわざわざ注意しているんだ。ありがたく受け取っておきたまえ」

 

 腕を組んでどことなく偉そうな雰囲気を出してはいるが今のところ彼は無職である。

 加えて言えば、無一文でもある。

 

「なんでそんなに偉そうなんだよ」

「フッ……気にしなくていい」

 

 ――これが親心というやつなのだろうか。

 小さい頃から父親の会社でゲーム開発に関わり続けた彼には子供というものは自分のゲームを遊んでくれる相手という程度の存在でしかない。

 そんな彼にとっては新鮮な体験だったのだろう。

 

「で、結局オッサンは誰なんだよ」

 

 土を払ったボールを両手に大事そうに抱える少年は最もな疑問をぶつけてきた。

 その質問を待っていた、とでも言うように黎斗は胸元に仕舞われた名刺入れを取り出した。

 

「いつか私が有名になるまでこれを取っておきたまえ」

 

 すっと差し出された名刺を受け取った少年は不思議そうに名刺を見ている。

 

「会社名は気にしなくてもいい。変わってしまうだろうからね」

「ふーん。別に名刺なんていらねえ」

 

 まったく興味を示さなかったようで無造作にポケットに仕舞われた。

 

「名前だけでも覚えておきたまえ」

「言いづらいから社長でいいよ」

「まあ、好きなように呼ぶといい」

 

 少年と言葉を交わす彼はどこか楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:president`s office

 

 

 

 サッカー少女と公園で別れてからほど経った頃。

 スカウトを受けた際に渡された名刺の住所に従い、彼の営むプロダクションとやらに足を運んでいた。

 通されたのは社長室、のような場所。

 強く言い切ることができないのは、この部屋に凝った調度品のようなものは存在せず、より実務に沿った重苦しさの感じない部屋であったからだ。

 もし、この場に一つ、存在感と気品を感じるほどの大きなデスクがなければ応接室だと思い違いをしていたところだろう。

 

「こうしてもう一度顔を合わせることができるとはね。実に感謝しているよ」

 

 対面に腰をかけた男はにこりと微笑みを浮かべている。

 

「いや、私にも落ち着いて考える時間があってもいいと感じていた。暫くは世話になろう」

 

 黎斗も人当たりのいい笑みを浮かべて謝辞を述べた。

 

「暫く……ということは、いつかは去ってしまうということかね」

「私の夢が、ここにいながらも達成されるというのであればその限りではない」

「そうか、夢か」

 

 彼の温和な笑みは崩れてはいなかったが、その瞳は強い意思を齧れるような気がした。

 

「そうだ。私の、夢だ」

 

 彼の夢。

 それは、ついには彼が見ることは叶わなかった夢。最高のゲーム――仮面ライダークロニクル――を完成させること。

 しかし、この世には彼の望むものは存在していない。

 ゲームを作るための資金は失われ、ゲームを広めるための地位も失った。そのうえ、ゲームの根幹となるべきウイルスの存在も曖昧だ。

 そんな彼が掲げる夢とはどのようなものであるのだろうか。

 それを知るのは彼、檀黎斗ただ一人であった。

 

「夢ならばいたし方あるまい」

 

 彼の言葉は男を諦めさせるのに十分だったが、男はむしろ嬉しそうにも見えた。

 

「私も君と同じただの夢追い人だ。君を止めるつもりはないさ」

 

 夢見る世界は十人十色だが、夢追う彼らの背中に違いはない。

 道は違えど志は同じ。例え誰が止めようとも止まることはないし、止まるつもりはない。それがわかっているのだろう。

 

「私の夢を聞いてくれるかね?」

 

 小さく首肯すると、男は懐かしむように話し始めた。

 

「私の夢は、簡単だ。ここから、この場所から。世界に喜びを広げたい、ただそれだけさ」

 

 男は黎斗から視線を外し、窓の外を見た。

 青空。寂しそうにぽつんと浮かぶ小さな雲。

 地から伸びる幾本ものビルでさえも澄み切った青いその天井まで届くことはない。

 

「どこまでなんて考えてはいないし、決めるつもりもない。ただ悲しそうで苦しそうな人がいるならば、笑顔を届けてやりたい。それが私の夢さ」

 

 そう語る男の横顔には少年のように心躍らせるような面影が残っていた。

 

「なるほど。語るに足る十分な夢だ」

 

 先の見えない夢。

 進めば進むだけ遠のいてしまいそうなその夢は、一人で抱えるには大きすぎるのかもしれない。

 それでも、男の言葉に嘘偽りがあるようには見えなかった。

 

「まあこの程度でいいだろう」

「いや、十分に伝わった」

「ただの老人の戯言みたいなものだと思ってくれて構わんよ」

 

 照れ隠しであろう、ごまかすようにそう付け加えた。

 

「そうもいかない。私の夢を叶える寄り道だ、大きくなくては手伝う気にもならんさ」

 

 一定の敬意はあるだろううがどこか尊大な様子を見せる黎斗。

 彼からしてみれば理想を追い続けることは最も崇高な思想の一つであり、彼にとって人間を推し量る一つの尺度にもなっているようだった。

 その点で言えば、男の理想は合格点と言えよう。

 

「そうか。嬉しいことを言ってくれるね」

 

 嬉しそうに破顔する男。

 寄り道などとぞんざいな扱いをしてはいるものの、彼なりの褒め言葉だと解釈するのも別段おかしなことではない。

 一時とはいえ自分の夢を後回しにしてくれるのだ。同じ夢追い人としてこれ以上に嬉しいことはないのかもしれない。

 

「だったら、私の夢を叶える一つ目の手伝いを頼みたい」

 

 男は立ち上がり大きなデスクの前に立つと、そこに置かれたメモ用紙にすらすらと筆を走らせた。

 

「ほう」

 

 ――新しいゲームのアイデアとなれば御の字だろう。

 彼にとってこの世のすべては自分の才能を輝かせる道具のようなもの。

 それがアイドルをトップに立たせるという仕事であってもだ。

 

「シンデレラを迎えにいってくれるかね?」

 

 そう言って渡されたのは小さなメモ書き。

 意味を持たない数字の羅列と文字の集合。

 つまるところ電話番号と住所だろう。

 ここに行けば男の言う仕事は達成される。彼はメモ用紙を受け取ると、できる限り紳士的な笑みを浮かべて「ええ」とだけ言葉を返した。

 

 

 

 

 

→→→stage select!!!

 

 

 




檀黎斗が猫被ってたときの口調なんて覚えてないです。
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