Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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戦闘シーンも別の視点です




#3-3

stage:game area(quarry mark)

 

 

 

 

 いい調子だ。

 ついさっきまでの戦いを振り返れば僕にとってはそれが率直な意見であった。

 実際の医療行為、つまりは初陣となった今の戦いはハッキリ言って今までのどれよりも好調だ。奴に貸し与えられたVOと比べると幾分か好戦的な相手ではあったが、蓋を開けてみれば完勝と呼ぶにふさわしい結果だったからだ。

 

 今回は明らかに何かが違った。

 今までの僕は相手の動きを見切ることはできても体は思うように動かすことはできず直撃してしまうこともままあった。

 その結果、避けることを考えずいかにダメージを減らしながら戦うかを主眼に置いていた。

 それが今はまるで違う。

 ワンテンポ遅れて動くラグの酷い年代モノのパソコンとでも言うべき緩慢な動きは消え失せ、望んだ動きそのままにこの体が動いてくれる。

 殻を破ったような変わりようだが、原因なんて今はどうでもいい。患者の命を救う、今はただ、それだけだ。

 

 

 

 目の前に倒れたそれの体を構成していたウイルスは次第に減っている。正しくは、一箇所に集まっている、のだが。

 今まで何度も見た光景とはいえそれはあくまでも仮想空間、いわゆる想像上の世界での話だ。それを実際に目にしたところで何も変わった感情が湧いてくることはない。

 

 倒れ伏した巨躯が一体のシルエットを構成したとき背中を一筋の汗が伝った。

 見慣れたその怪物の背格好もおぞましく生え揃った二本の角も怪しげな艶と共に伸びた爪も、それらは僕がVO内で見たものと何一つ変わりはしない。

 だが――

 その傍で倒れる患者の姿が、

 足元に迫る死の匂いが、

 嫌でも僕の心を現実へと縫いつけその手に乗せられた命の重さを感じさせていた。

 

「2ndステージ」

 

 

【Gaccha! Level up!!!】

 

【―――――MEGGLE LABYRINTH!】

 

 

 ドライバーに備わったレバーを弾くとやかましい変身音が鳴り響く。普段なら騒音ともとれる苦痛な騒がしさも、今この場においては気にする余裕すら生まれない。

 第二ラウンド。

 その言葉に特別な意味はない。何の感慨も得ないはずのその言葉でも僕が対峙するそれと組み合わさりさえすれば、ひとたびに死の象徴へと生まれ変わる。

 怖くないかと聞かれれば嘘になる。

 それでも戦わなければならない。

 患者を救わなければならない。

 ウイルスを――滅ぼさないといけない。

 漲る闘志を叩きつけることだけが、今の僕に与えられた使命だ。

 

 

 

 

「本気で行かせてもらうぞ」

 

 油断なく構えるそいつを睨みつつ手斧の柄を引き伸ばす。今までと全く異なるそれは背丈ほどの長さほどになった。

 『メグルラビリンス』ガシャットの主兵装はガシャコンハチェットなどと言うらしいが名前はどうでもいい。それよりも圧倒的な器用貧乏さのほうが目立つ。

 手斧と戦斧の二つに形を変えることができるこの武器だが、武器と言うには少し尖っているように思える。

 一方は「速いが軽い」。もう一方は「重いが遅い」。長く使われる道具と言うものは一般に扱いやすさを求められるというのに「適度に軽くて適度に重い」というものを作らないというのはどういうつもりなのだろうか。

 一瞬の隙が命取りである戦いにおいて一長一短な武器を手に取ることしかできないというのは改善してもらいたいところだ。

 

 だがそんなもの、今は気にならない。

 

 確信とでも言うようなそれがこの手から伝わってくる。

 一、二度しか使った覚えのないこれだが、これこそが最良なのだと体を巡るこの感覚が教えてくれる。

 この間合い、この取り回しの悪さ、この威力。勝つための解がこの武器なのだと。

 

 

 

「――ッ!」

 

 爆ぜるように地を蹴り、化け物へと一目散に接敵する。

 ぐんと勢いよく力任せに振り切った横薙ぎの一撃は軽く身を引いただけで躱されてしまうが、一刀目にはハナから何も期待していない。

 身を引いたついでに腰だめにて拳を引き絞る化物の姿がちらと視界に映りこんだが、

 そんなもの――構うものか。

 寸でのところで躱された得物を、僕を中心としてぐるりと円を描くように振り回すと、もう一度ぐんと思い切り横薙ぎに叩き込む。

 初撃よりもスピードの乗った戦斧を避ける暇など与えない。さらに一歩と踏み込んだ間合いから繰り出されるそれは化物の丸太のような首元に吸い込まれていく。

 

「っ……!」

 

 鈍い音が、響いた。

 薙いだ戦斧と化物の角の、衝突音。受けることを選択した化物の角と戦斧がぶつかった音だ。

 片角が吹き飛び、もう一方に罅を刻んで刃が動きを止めている。

 結果だけを見れば、戦果は十分。

 破壊音と共に吹き飛んだ角が宙を舞って化物の後方に弾き飛ばされているのが見える。

 しかし、そんなもの、決定打にはなりえない。

 

「■■■■■!!」

 

 姿勢を低くしたそいつが唸った。低く構えたままに握られた拳が未だに僕を捉えている。

 まだ、諦めていないのか。

 絶対の一撃、必殺の一撃を狙っていたのは僕だけではなかったようだ。

 一刀、二刀と刃を突きつけたのに対してこいつは一度たりとも拳を振るっていない。ただタイミングがなかったわけではない、やろうと思えば二刀目との相打ちでも叩き込めていたはずだ。

 それを、この瞬間。

 フェイクを交えた渾身の一撃の直後。

 十全な間合いではないにせよ、無視できないこの隙を狙うつもりだったとでも言うのか。

 小さく丸めた体が跳ね、弾丸のように迫り、そこから太い腕が伸びた。

 心の臓をめがけて。

 

「―――くそっ!」

 

 それを……ぎりぎり、後ろに飛ぶようにして、距離をとった。

 

「がっッ!」

 

 つもりだったが――

 肺から息が押し出される不快感が体を襲った。

 瞬間、取り囲む景色が急に加速して通り過ぎていき、背中に伝わった強い衝撃が目の前の現実を僕へと叩き込んだ。

 詰めた一歩分の間合いと、跳んだはずの一歩分をはるかに越える距離が目の前にある。

 今まで幾度となく味わったそれだった。

 

「ぐぅ………っ」

 

 今のは、入った。

 後ろに飛んだ分のダメージを受けはしなかったが、途端に増した息苦しさはしっかりとこの痛みを教えてくれている。

 はっきり言って迂闊だった。ユニオン態を難もなく打倒しえたことがほんの少しの油断と慢心を作ったといっていい。それが、こんな状況を生み出すほどの、手酷いしっぺ返しにあってしまうとは。

 背中も胸も強く打った痛みは消えていないが気にしている余裕はない。受身すらまともに取れないほどの一撃を叩き込まれても、まだ僕が治療を止めるわけにはいかない。

 吹き飛んだ勢いに任せて立ち上がり、もう一度戦斧を構える。切っ先と峰を常に向け、敵意を叩きつける。

 

 仕切り直しだ。

 

 ほんの少しの油断が死に繋がるこの状況を、僕はどこか舐めていた。

 いくらVOとは違うとはいえ、やり直しのできるあれと、

 今目の前に広がるこの戦いを少しも重ねなかったと言えば嘘になる。

 悪いが、もう手を抜くつもりはない。

 最初の一歩を、踏み外すわけにはいかないんだ。

 

「今度こそ、全力だ……!」

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

「■■■■■ーー!!」

 

 怒号が、耳に響いた。

 鼓膜を突き破るような、言葉ですらない爆音が目の前から叩きつけられる。

 声だけじゃない。

 射殺すような視線の先、

 憤怒に塗れた瞳が、輝いている。

 間合いに入ってはならない、そう思わせる激情がひどく荒い呼気から伝わる。

 だが、それも、吉報。

 燃え盛る激烈さも、

 滲み出る直情さも、

 ことここにおいては、その馬鹿さ加減もありがたい。

 構えた戦斧をゆらゆらと揺らす。突きつけるでもない、切っ先を揺らすだけでも十分。

 それが、開戦の合図となる。

 

 

 だん、と踏み込むそのままに握られた拳の射線上に僕が映りこむ。ただ、ぼうと突っ立ってさえいてしまえば、それは僕を塵芥へと変えるはずだ。

 避けるか、逸らすか。

 二つに、一つ。

 単純で簡単にさえ見えるような浮かんだ選択肢を即座に打ち払って捨てる。

 まだ、一つ、残っているはずだ。

 あと一瞬、遅くてもコンマ数秒もすれば詰められるその距離から繰り出されるであろうそれが構えられるのを視認して――

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 上段に構えた得物を、ぐんと前方に突き出した。

 避けられない、逸らせない。

 ならば――逸らさせる。

 彼我の能力差を埋めるならば、戦略を練るしかない。戦型を組み立てるしかない。

 当たるかどうかの距離は、皮肉にも体が覚えている。

 目で追うしかできなくて、涙を呑んだこともある。

 幾度となく負けた身だ。

 何度でも叩き込まれたはずの拳だ。

 そんなもの――とうに見飽きている。

 

 

 間合いの外からの一撃。

 攻撃の瞬間への反撃。

 ともすれば相打ちともなってしまうはずのそれは、僕と相手の間合いさえ整えさえすれば、必着の一撃にさえなる。

 前へ前へと進む化物の体は止まることなく、打ち出された一撃に吸い込まれるように衝突する。

 ぐわん、とゆさぶるような重さが手のひらからびりびりと伝わってくるが、気にしている暇はない。

 二歩、三歩と下がってもう一度構え直す。

 その場でたたらを踏む姿が目に映る。放った一撃が有効打になったわけではないのだと内心で気の滅入る自分がいた。

 あと何度同じ事を繰り返せばいいかは分からない。一度か、二度か。はたまた、何十と重ねなければいけないのか。

 手に握っているはずの武器は途端に重くなったような気がする。強かに打ちつけた背中はじくじくと痛むし、息を吸うたびに襲う胸の苦しさはなくなってはくれない。

 

 ぐっと間合いを詰めて拳を振りかぶる怪物の頭をめがけた突き。

 なりふり構わない突進は挙動が見え次第に妨害。

 

 

 当てさせない。

 

 近寄らせない。

 

 手を、出させない。

 

 

 標語にも思えるそれこそがたった一つの勝ち筋。檀黎斗はこれをゲームだと言ったが、そんなわけがない。これは命を掛けた殺し合いだ。

 王道も邪道も卑怯も姑息も何一つありはしない、正真正銘命の奪い合い。

 目の前の怪物を打倒するために放つ一撃が、がりがりと精神を削っていく。

 何度も叩きつけられる殺意は、一秒また一秒と寿命を縮められる気分だ。

 それでも、この先に勝利はあるのだと。

 何があろうとも勝利を掴む、それこそが勝つために必要なことなのだと。

 何と言われようとも僕はこの武器を振るおう。

 その勝利が、僕の願いを叶えると言うのなら、どんな手段すらも行使しよう。

 まずは手始めに、この馬鹿を片付けるとするか。

 

 

 

 振るわれるはずの拳を突き飛ばし、間合いの外へと吹き飛ばす。

 慣れが一撃に重みを与えたわけではあるまい、とすればこの状況こそが弱っている証左となる。

 さあ、そろそろだ。

 

「■■■■■ーー!!」

 

 獣らしく馬鹿みたいに吼えるのを眺めつつ、ふうっと息を吐く。

 自分に分が悪いと思ったところで今更遅い。

 ――遅すぎるんだ。

 だん、と地を蹴れば、あと一歩という距離。

 もう、目と鼻の先。

 後先などない全霊全力の一撃が、来る。

 胸を反らし、ぐぐぅと仰け反りながら引き絞った拳が見える。

 今まで見たことのないその構えは、妨害なんて生温いもので止まるとは思えない。

 天秤を傾けるに足る、その一撃。

 だが、そんなもの、

 

「――取るに足らん!」

 

 前のめりに倒れるようにして、かすめるように躱すと、振り抜かれた拳に遅れるようにして()()と風切り音が通り過ぎる。

 そうだ、この一瞬。

 この間合い。

 決着を着けられるだけの隙を、

 僕も待っていたに決まっているだろう。

 

「ああああああっッ!」

 

 握った柄を、抱え込むように引き倒す。そうすれば、先端に付いた刃が遠心力に従い弧を描き、狙い通り奴の顔に――着弾する。

 

「――■■■ッ!?」

 

 その一撃が決定打だ。

 カウンターの要領で顔面に叩き込んだ一撃は、怪物をごろごろと後方に吹き飛ばした。

 それを僕は視界に捉えずに――それよりも早くに立ち上がり、ドライバーに差し込んだガシャットをガシャコンハチェットへと差し込む。

 

 

【KIMEWAZA!】

 

【MEGGLE CRITICAL STRIKE!】

 

 

 何をすべきかは、体が知っている。

 濁流にも似たエネルギーの奔流を刃先に集めたそれを担ぐように構える。

 化物はリーチの外。

 本来なら届くはずのないその距離も、今なら届く。

 

「――仕舞いだッ!」

 

 一刀。

 構えたそれを、槌を振り下ろすように、振り切る。

 

 

 

 瞬間、

 光刃が怪物を切り裂いた。

 

 

 

 それに遅れて、倒れ伏した怪物を爆発が包む。

 

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 

 爆風に乗って空中にテロップが映った。ぎらぎらと目に優しさを感じないその色使いは少し気に食わない。それを煽るように喧しいファンファーレもこの仮想空間に鳴り響いた。

 普段なら嫌悪するようなこの騒がしさも、今だけは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【KIMEWAZA!】

 

【BAKUSOU CRITICAL STRIKE!】

 

 

 

 

 

 刹那。

 爆炎の中から現れた黒い何かが、目の前へと迫っていた。

 

「なっ―――」

 

 風景が自分を置き去りにして通り過ぎていく。

 何が起きたのか分からなかったが、本日二度目にして今日一番の痛みと、一転して切り替わった視点が教えてくれていた。

 変身がいつの間にか解けたせいで、頬がざらざらした感触に撫でられている。

 おそらく、受身すらとれず地面に叩きつけられ、勢いのままに転がってしまったのだろう。投げ出された左手を覆う袖が砂まみれになっていた。

 

「っ、なにが……」

 

 訳が分からない。

 目の前であの怪物は倒れたはずだ。

 僅かながらの勝利の余韻に浸っていたはずだ。

 それがなんだ、この状況は?

 これはなんだ、何が起きた?

 全身に走る痛みで鈍った頭はまともに動いてくれない。

 思考は纏まらない。

 指一本、動かせない。

 それでも、この瞳は、陽炎に浮かぶシルエットだけは、捉えてくれていた。

 

「ナイスファイトじゃないの、先生」

 

 いやにハッキリと聞こえるその声が近づいてくる。

 誰だ、お前は。

 僕の勤める病院にそんな声の人間はいない。

 僕の知っている人間じゃ、ない。

 その人物は目の前に落ちている斧からガシャットを引き抜き、自身の変身を解いた。

 

「ちょっと借りてくんで、これ」

 

 それは――

 僕が手にした唯一の手段だ。

 諦めきれない自分を繋ぐ、約束を守るチカラだ。

 それだけは――

 

「あぁ、そうだ」

 

 好き勝手に喋って、邪魔をして帰っていく。

 あんたは誰なんだ。

 どうして、こんな。

 頼むから、

 僕からそれを奪わないでくれ。

 

「檀黎斗に、『よろしく』って頼んだぜ」

 

 次第に薄れていくその体を睨むことしかできないのか。

 崩壊していくこの空間で、僕は、何もできないのか。

 ほんの少し、体が動いてくれたなら。

 あと少し、腕を伸ばすことができたなら。

 

 

 

 その赤いジャケットを、掴むことができたのに。

 

 

 

 いつの間にか、見慣れた公園が目の前に広がっていた。

 遠くで倒れているのは患者だろう。

 街の騒がしさが地面の振動を通して伝わってくる。

 少しずつ近づいてくるのはサイレンだろうか。

 煩いな。

 ああ、すごく気に食わない。

 住み慣れた街の筈なのに、こんなにも騒がしかったのか。

 嫌いだ。

 騒がしいのは、嫌いだ。

 聞き慣れたサイレンでさえも、今は聞きたくない。

 

 

 

 

 

→→→stage select!!!

 

 

 




エグゼイドの初期と言えばガシャットの奪い合いですよね

関係ないですがdTVのCMが好きです
高橋n生が出てきますし(nは自然数とする)
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