Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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タイトル落ちで申し訳ない



#4-1 『BANされたあいつがやってくる!』

stage:CENproduction

 

 

 

 

「ガシャットが、奪われた……だと?」

 

 その声色は黎斗らしくもなく、困惑しているようにも聞こえた。

 桜庭薫襲撃事件から数日。

 例の一件に対する双方の疑問は解消されることなく今の今まで後伸ばしにされていた。だがようやく二人が顔を合わせることができ、こうしてこの場を介してそれぞれの意見を擦り合わせることが可能となったわけである。

 

「ああ。何者かに目の前でガシャットを奪われた」

 

 そう語る桜庭の表情は決して芳しいものではない。

 目の前で奪われたこと。

 ライダーシステムを利用する第三者。

 あの一件で彼が得た情報と今陥っている状況は、やはり彼にとって喜ばしい状況ではない。

 むしろ――最悪、とも言えた。

 

「盗難じゃない。目の前で、変身を解除させられて、だ」

 

 変身を解除させられた。

 今もまだ包帯の下でじくじくと痛む彼の胸が、その現実を教えてくれている。

 

 その現実が、

 

 その現実こそが、最悪。

 

 それは、ガシャットを奪われたこと()()に対してではない。

 

 自分以外の、ライダーの存在が、

 

 檀黎斗という後援者が抱える危険性が、

 

 あの瞬間に、牙を剥いたということを意味していた。

 

「あんたがまだ、僕に何か隠し事をしているのは気づいている。それを見て見ぬ振りをするのが一番いい選択だとは思っていた」

 

 桜庭の脳裏に焼きついているのは、あの黒いライダー。

 桜庭薫の知らない重大な事実を抱えているに違いない、あの存在。

 

「だが、気が変わった」

 

 放置することのできない問題がそこに控えているというのに、そのままにしておくというのは彼には無理な話だった。

 

「あの黒いライダーは一体何だ。奴はあんたの名前を知っていたんだ。僕に隠れてあんたは何をしようとしているんだ」

 

 だがその言葉を聞いた黎斗の態度は、いつもとはまるで違ったものだった。

 

「……黒いライダーだと?」

 

 奪われたことに加えて、新しいライダー。

 それは黎斗にとってガシャットを奪われたこと以上に衝撃的な情報であった。

 

「聞きたいのは僕のほうだ」

 

 ソファから立ち上がった桜庭の足がテーブルにぶつかったが、お構いなしだった。

 顔を翳らせながら考えに耽る黎斗に詰め寄った桜庭は、どこかぴりぴりとした雰囲気を漂わせている。

 

「あんたがドライバーとガシャットを渡したのは誰なんだ」

「渡してなどいない」

 

 徹底的な、否定。

 彼が望まない形でライダーが増えていることを嫌うのは、彼の生き様を見れば当たり前なのかもしれないが。

 

「今のところ私が開発したのはドライバーを一つと、ガシャットを二つだけだ。それに――」

 

 がら、とデスクの引き出しを開いた。

 

「もう一つは、ここにある」

 

 その手に握られていたのは、ガシャット。

 黒い装飾にモノクロのラベルで「MEGGLE LABYRINTH」と描かれたものだった。

 

「……あんたの言葉が嘘じゃないとしてだ。だったら奴はどう説明するつもりだ」

「私の想像通りであるならば――」

「おはようございまーす!」

 

 明るく、ともすれば騒がしいとも言える声だった。

 元気よく挨拶、なんて今更な話で当たり前ではあったが、今々の話題を考えるとなんとも言えないのも事実である。

 

 噛み合わない彼らの温度差。

 事務所に立ち込める沈黙。

 

「あれっ………タイミング悪かった?」

 

 非常に間が悪かったというのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

#4

 ―BANされたあいつがやってくる!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドライバーが行方不明?」

「その通りだ」

 

 黎斗の口から与えられた情報は桜庭によってオウム返しに聞き返された。

 

「桜庭先生が持っているドライバーとガシャットとは別にあるはずだったドライバーとガシャット、それを私は紛失している」

 

 事の重要性は彼らによってまちまちな反応である。

 只、その中で黎斗だけはこの問題を常に念頭に置いていたのは違いない。

 

「……それを手に入れた誰かが勝手に使って変身した、ということか?」

 

 首肯する黎斗。

 まあ、筋書きとしては正しい。

 

「多分だがあんたは奴が誰で、何故変身できるのか、ってことも全部分かってるんだろう?」

「一つ不明なことはあるが」

「で、聞いても答えないつもりなんだろう」

「答えないとは言ってないさ」

 

 この返答は些か意外だった。

 

 檀黎斗からすればひた隠しにしていたであろう重要な情報であるはずのそれを開示するということは、すなわち自身の思惑をも知らしめる可能性が付いて回ることに他ならない。

 

 それを許したとなれば、それほど彼にとって重要でない情報であるか、はたまた――

 

「あのー、未央ちゃん置いてかれちゃってますよプロデューサー」

 

 やはり彼女が割って入るタイミングは総じて良いとは言えなかった。

 

 だが、半ば察してはいるが仔細を知るわけではない彼女からすれば、目の前で内緒話でもされているような気分であろう。

 

 できることなら話の腰を折るのは避けたいところだったが、さすがの彼女もこれには耐えられなかったらしい。

 

「未央ちゃんの活動とは関係ないさ」

「先生も関わってるしアレなんでしょ? 例の病気のこと」

「君はもう患者ではない。部外者が口を挟んでいい内容じゃない」

「それなら先生こそ部外者でしょ! 事務所で遊んで勝手にコーヒー淹れて飲んでるだけでアイドルでもなんでもないし!」

「たしかにそうだが、ここに出向かない限り彼とこの話をすることができない」

「あー、たしかに」

「だから仕方なく、だ。僕が好き好んで芸能事務所に入り浸るわけがないだろう」

「うんうん、先生の話はよぉーく分かった」

 

 訳知り顔でしきりに頷く未央。未だ短い付き合いとはいえ、桜庭の持つ()()()を彼女はそれなりに理解しているようだった。

 

「でも話を聞くくらいいいでしょ?」

 

 まあ、理解していることと聞き分けがいいかは関係していないみたいだが。

 にこにこと笑顔を浮かべながらも「教えてくれ」と迫る姿は随分と強かであった。

 

「……ライダーシステムを利用できる何者かに僕のガシャットが奪われた、という話だ」

 

 折れた桜庭が簡潔にそれを語った。

 

「えっ……盗られちゃったの?」

 

 その報せは当事者でない彼女でさえ少なくない衝撃を与えるものだった。

 そのため、「私が貸し与えたガシャットだが」と黎斗がぼそりと呟いたのが彼女の耳に入ったかは怪しい。

 

「で、その何者かを彼が今から教えてくれるそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

「君達には先に黒いライダーの話をしようか」

 

 あえて開示はしなかったその情報。

 黎斗からすれば正規品を渡したために自然と省かれることとなったその話を今更蒸し返すことになるとは思いもしなかっただろう。

 

「黒いライダーはプロトガシャットを用いることで変身が可能となる」

「なにそれ?」

「さっき見せたやつか?」

「そうとも」

 

 もう一度引き戸から取り出し、それを自身の卓上に滑らせた。

 

「桜庭先生に渡したのは正規品で、アレは適合手術を受けた者だけが変身できるプロテクト機能を搭載していてね。プロトガシャットにはその機能がない」

 

 黎斗の脳裏に浮かぶのは原初のライダーとなった男の姿。

 友を、

 患者を、

 医師としての立場を、

 清算しきれない悔恨を自身へと積もらせた男の姿がちらと浮かんだ。

 勿論、それを知る者はこの場には彼――黎斗しかおらず、そのガシャットの危険性を知る者も同様である。

 

「つまり未央ちゃんでも変身ができるということさ」

 

 そんなことをおくびにも出さず、少しばかりの微笑みとともに彼は語った。

 それが、曰く付きの剣であることなど一言も交えずに。

 

「だとしても奴があんたと面識があったのをどう説明するんだ」

「焦らずとも説明をするさ」

 

 言外に匂わせたナニかを詮索することもなく桜庭は問う。今はそんなことにかまけている場合ではないらしい。

 

「九条貴利矢。おそらく彼が私のガシャットを奪った可能性が高い」

「あんたの知り合い……と見ていいようだな」

 

 その語り口は以前にも見た光景だった。

 ガシャットや自身の夢、ゲームというものを語ったときに見せた黎斗の姿を、桜庭は重ねていた。

 

「私と面識があるというだけで大分絞られるからね」

「プロデューサー友達少ないんだ……」

「せめて公私を区別していると言って欲しいところなのだが」

 

 どちらにせよ、この世界に彼の知人はいない。いるかいないかと言われれば、いないというのが現状である。

 話が、脱線してしまったが。

 

「で、あんたも動くつもりなんだろう?」

「そのつもりだ」

 

 静かに震えていた黎斗の拳が机へと叩きつけられた。

 

「九条貴利矢は私が見つけ出してガシャットを奪い返す」

 

 今までに彼の見せたことがない激情。桜庭は以前の彼の姿を重ねはしたが、それ以上の強い感情を滲ませた黎斗の表情は、いつもの飄々とした態度からは見受けられないほどだった。

 彼が醸し出すその空気はいかにも伝播していき……

 

 

 pllllllll.......

 

 

 電話が、鳴った。

 ぴりぴりと響くような音ではなく、篭るようなそれは、桜庭の懐から響くものだった。

 手に取り、光る画面に目を移せば、桜庭の表情は一転して優れないものへと変わった。

 

「患者だ」

 

 懐にそれをしまい直した桜庭は、ただ一言それだけを述べ、黎斗の目の前に手を広げた。

 

「使いたいというなら好きにするといい」

 

 渋る様子もなく黎斗はガシャットを手渡し――ているわけがなかった。

 

「だが」

 

 にこやかな表情とは違って手に握ったガシャットを離す様子はない。

 それは、ただでは渡さないという強固な意思に溢れている。

 

「私がそれを必要としたときは早急に渡すように」

 

 これを呑まなければ渡さない、というのは本気であるらしかった。

 

「……分かった」

 

 彼の個人的な理由が優先されるせいで患者の病気は進行していく。

 その現実が彼には受け入れ難いものであるのは確かだが、受け入れるほかない。

 それが、檀黎斗という男と関わる術であるならば。

 

「できる限り早急に解決してくれ」

「当然だ」

 

 黎斗の瞳に宿った激情がふっと消えたかと思うと、強く握られていたガシャットは容易く桜庭の元に渡った。

 そのまま踵を返して事務所から桜庭は去っていく。

 彼には待つ患者がいるのだから。

 残されたのは、檀黎斗と温くなったコーヒーと、

 

「よーするに人探しってことで、ファイナルアンサー?」

 

 内容が伝わりきっていない、本田未央だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:greenroom

 

 

 

「プロデューサーって、何者?」

 

 ふと、思い出したように未央が口を開いた。

 

「私は神の才能を持つゲームクリエイターだが?」

 

 同室にて持ち込んだPCのキーボードを叩く黎斗は、画面から目を離さずにあっけらかんとした態度で答えた。

 

「いやそっちじゃなくてさ」

 

 目を通していた台本から顔を上げた未央は、手に持ったそれをとんとんと叩いて黎斗へと示す。

 彼女が読んでいたのは、今日収録予定のドラマの台本である。端役ではあるが、彼女がオーディションで勝ち取ったものであり、地上波デビューを飾るものであった。

 

「これってドラマのちょい役的なやつでしょ? どーやって取ってきたの?」

「そんなことか」

 

 芸能界は実力社会、もしくはコネクションによって成り立っているのは彼女も少なからず気づいている。

 そんな業界に足を踏み入れたばかりだと言う彼――檀黎斗という男がどうやってこのオーディションを勝ち得るに至ったのか、彼女には不思議でならなかった。

 

「通りそうなオーディションくらい私でも分かる」

「そんな曖昧な……」

「向いてない向いているという話以前の問題だ。脚本の意図に沿ったキャラクターというのを突き詰めていけば、求められる人物像というのは自ずと決まっていく」

「そーなの?」

「だからオファーというものがあるのだろう。つまり私なりに未央ちゃんのイメージと合うものを探して、そのアドバンテージに乗せて役を掴ませればいいだけさ」

 

 それが正しいものであるかは定かではないが、現にその方針に則って受けたオーディションをパスしたのだから、強ち嘘ではないのだろう。

 

「へー。じゃあさ、私ってどんな感じ?」

 

 興味本位での、その言葉。

 そこに明確な意図があるかは不明だが、それを知ることはアイドルとして多聞に必要なものであった。

 以前、彼から問われたアイドルとしての心構えの中で「どんなアイドルになりたいのか」というのがあった。それとは正反対である「今の彼女」というものは、ある意味で目指すアイドル像に近づくための基準とも言えるのだろう。

 

「明るさと優しさ。そしてそれに見え隠れしたほんの少しの恐怖心、といったところかな」

「恐怖心?」

 

 イメージを司る言葉としてはおそらく使われにくいであろう言葉だった。

 

「今は気にせずともいい。いずれは自覚するだろうからね」

 

 はっきりとした彼なりのイメージではあったが、煙に巻いたような結果に終わった。

 

 

 

 

「そーいえばさ、アレ、探さなくていいの?」

 

 空中を指でなぞるように描いていく。

 描かれたのはやはり、ガシャットのようだった。

 

「急がずとも餌は撒いたさ。後はかかるのを待つだけだ」

「餌って……そんな釣りみたいな」

「私は彼の居場所を知らない。ならばおびき寄せる他あるまい」

「そんな簡単に出来るもんなの?」

「簡単ではないだろうね」

「先生も急いでーって言ってたけどいいんだ?」

「私にも急いた気持ちがないわけではない」

 

 「やっぱりねー」と呟く未央。

 先の事務所での一件は檀黎斗の()()()の一端を覗いたものであった。

 それはやはり、彼の担当アイドルである本田未央がより一層檀黎斗への理解を深めることに繋がったと言えよう。

 

「どうせすぐには見つかるまい」

「ふーん、大変だね」

「まあ、腰を据えて事にあたればいいさ」

 

 すれども、事の難解さを理解していない黎斗ではない。

 この問題が一朝一夕にはいかないことぐらい彼も理解しているだろう。ともすれば、黎斗が件の犯人とかち合う可能性が彼らの想像よりも小さくなってしまうことだってありえる。

 その状況で感情をいつまでも昂ぶらせているのはあまり良い選択ではないのだ。

 ゆったりと、すれど目を光らせて。

 それが今の黎斗にできることの全てだった。

 

「先に出ているよ」

 

 今更彼に社会人として振舞う必要性があるのかはわからないが、十分にプロデューサーとしての仕事を全うしているようだった。

 部屋から出て行く姿は、ゲームクリエイターというよりは只のサラリーメンといったところである。

 

 

 

 

 

 

 

 

→→→stage select!!!

 

 

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