Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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#4-2

 

stage:CENproduction

 

 

 

 

 かの日からいくらかが経ったある日の事務所。

 その日その時間にその場に居合わせたのは、桜庭薫と檀黎斗の二人だけであった。

 

「これは返す」

 

 アポもなく突然事務所を訪れた桜庭の発した言葉の意味。

 それは彼の手に握られた黒色のガシャットが雄弁に物語っていた。

 

「使わないのかね?」

「あんた、分かってて言ってるだろう」

 

 涼しい顔をした黎斗に多少の苛立ちを見せながら、それを彼のデスクへと置いた。

 

「勿論だが」

「確かに治療はすぐに終わった。それもこの前の目じゃないくらい直ぐにだ」

 

 桜庭の治療現場にもし誰かが同行していたならば、今まで見せたことのない強大な力に驚くことは避けられなかっただろう。

 

「ならば使えばいいだろう」

「目先の病気だけを治療しても意味がないことくらい君は知っているんだろ? それなのに命を削るつもりは僕にはない」

 

 プロトガシャットによるバックファイアを身を持って知った桜庭では、さすがにそれを使うのは躊躇われるようだった。

 

「桜庭先生が使わないというなら構わないが」

 

 返ってきたのなら何でもいいらしい。

 それは黎斗の手によって元あった引き出しの中へ収まった。

 

「それと聞いておきたいことがある」

 

 桜庭はすぐ隣のデスクのワーキングチェアーに腰を下ろし、黎斗を見据える。

 

「何かな」

「何故ウイルスの治療技術を公にしない?」

「そんなことか」

 

 瞬間。

 

「そんなことじゃないだろう! それを広めるだけで何千何百の患者の病気を治せると思っているんだ!」

 

 立ち上がって抗議するさまはいつもの冷静な様子ではなかった。

 彼が直前まで座っていた椅子も、まるで怒気に当てられて距離を取るようにころころとキャスターを鳴らしていた。

 

「私には関係ない」

「またそれか……」

「最初から先生には言っているだろう。私はお医者さんごっこに付き合うつもりはないと」

 

 四方八方に喧嘩を売るようなその物言いは、つまり彼のゲーム医療に対する所感であった。

 

「たしかに先生の熱意は素晴らしいが、私のゲーム開発とはなんら関係がない」

「そんなもの、情報だけ開示すればいいだろう」

「それを私が許すとでも?」

 

 優しさを滲ませていた瞳は一瞬にして燃え上がった。

 

「ガシャットは全て、私のモノだ。ゲームマスターの私に許可なくガシャットを生み出させるつもりなどない」

「……相変わらず独占欲の強い男だ」

 

 桜庭は椅子に腰を下ろした。

 やはり黎斗の行動理念も思想も桜庭には理解できないものであるらしい。

 

「その話は諦めるが、盗られたガシャットの方はどうなった?」

「抜かりはないさ」

 

 どす黒い怨嗟に塗れた瞳が細まった。

 

「私に用があるならば奴が現れる筈だ」

 

 確信とも取れるほどのその言葉は、少なくとも自信に裏打ちされた可能性というものがあるらしい。

 

「……信用ならないが」

「桜庭先生はゆっくりと待っていてくれたまえ」

 

 ゆっくりと。

 緩慢な進捗であればあるほどに病気の被害者は増えていくというのに、黎斗に焦った様子はない。

 

「………言い返さないでおこう」

 

 言外に込められた「治療などいつでもできる」という黎斗の言葉に、桜庭はため息をつくくらいしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

stage:by train

 

 

 

 

 耳を打つのは騒がしさ。

 密閉された地下トンネルを走り抜ける彼らは、反響した騒がしさに身を委ねる他なかった。

 

「私は今の今まで事務所の体制に疑問を抱いていた」

 

 黎斗が呟いた。

 

「え……どうしたのいきなり」

「まあ、私の話を聞きたまえ」

「ああ、うん」

 

 電車による移動の手前、空いた時間は黎斗が挙げた議題で時間を潰すこととなったらしい。

 

「未央ちゃんは事務所の中を見たときに疑問を持ったことはないかな?」

 

 質問にしては随分とふんわりした内容である。

 

「……社長室が広すぎるとか?」

 

 事務所面積の内、ほぼ半分が社長室。たしかにそれだけを聞けば広すぎるだろう。

 

「あれは応接室も兼ねている筈だからむしろ狭いくらいだろう」

「あ、わかった! 事務所が狭い!」

 

 実態は悲しいだけなのだが。

 実際の床面積だけを考えればそこらのコンビニとどっこいどっこいだろう。

 やはり新興芸能事務所では雑居ビルの一室を借りるしかないのかもしれない。

 

「たしかに少しばかり窮屈に思えることもあるが、違う」

「じゃあ何さ。デスクが多いとか?」

「……概ね正解だ」

 

 事務所に置かれているデスクは計四つ。黎斗の分を差し引いても余剰分が三つである。

 なにげなく呟いたものだが、それが彼の望んだ答えだった。

 

「正確には、事務員がいない」

「……たしかに」

 

 思い返してみれば、彼らの過ごす事務所には人の気配が無い時間と言うものが存在した。それは、営業や見学と言った外回りに割いた時間帯であり、まさしく()()()という時間を生み出していた。

 

「ここのところは私だけでも回っているようだが、未央ちゃんが売れ始めれば私だけでどうにかなるわけがない」

「そりゃそうじゃん。求人出さないの?」

「ここでは人事権も上が掌握しているはずだ」

 

 少数精鋭。

 悪く言えば、人事でさえも火の車。

 動き出した事業であるのに上手く走り始めるまで人手すら増やせないらしい。

 

「それくらい言ったら出してくれるでしょ」

「一度打診した記憶はあるのだが」

「…………」

 

 そんなどうしようもない現状に、未央は沈黙するほか無かった。

 

「芸能事務所の社長はどこも変わっているという話は聞いたこともある」

「……事務員までスカウトはないよ。ない、はず。多分」

 

 未央の言葉は、不安が募ると共に尻すぼみになっていく。

 

「帰ったらもう一度意見を仰いでみるとするさ」

「まずはこのお仕事頑張らないとね」

「ああ。いい活躍を期待しているよ」

 

 仕事の前だ。

 暗い話はよそう。

 がらがらと騒がしく唸る電車は、今日も光の差さない地下で暗闇を切り裂いて走り回っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:booth

 

 

 

 

「あの……プロデューサー?」

 

 どうしても確かめたいことがある、そんな風にも聞こえた呼びかけである。

 

「何かな?」

「仕事の内容、もう一度聞いていい?」

「このブースのコンパニオンガールだろう」

 

 彼らが今日赴いたのは、とあるイベント会場。

 それほど大きな会場ではないが、一部の界隈には一目置かれている、そんなイベントが催される場である。

 

「で、このブースの企画者は?」

「私だが」

 

 そんな会場の一場所を担うのが檀黎斗。

 

「で、これは本当にお仕事なの?」

「バイト代くらいは出そう」

「仕事じゃないじゃん! ただの手伝いじゃん! なんか怪しいと思ったもん!」

 

 悲しくも未央の予想は的中してしまったようだ。

 それほど広くないブースに置かれているのは一台のモニターと、それに繋がれたコントローラのようなもの。

 

 勘のいい未央が気づかないわけがなかった。

 

「手伝いだろうといい経験にはなると踏んでいるよ」

 

 だが、そんな未央を気にするでもなく黎斗は続けた。

 

「そーいう問題じゃないでしょ!」

「……?」

「え、なにさ」

「ああ。私は出勤日ではないよ」

「そこじゃなーい!」

 

 やはり、一人の少女の心の機微を理解するのは黎斗には荷が重いようだ。

 

「未央ちゃんを騙したことに変わりはない。だがそれほど悪くない話だろうに」

 

 だがそんなもの黎斗には関係がなかった。

 

「騙したって認めてるじゃん……」

「それでもそれなりに魅力的な話だろう」

「どこがよ?」

「クライアントは私な点だ」

「いや、全然わかんないし」

 

 今一要領を得ない問答だが、そんな黎斗の『魅力的な話』とは、

 

「第一に私の開発したゲームで遊べる」

 

 自信過剰、もしくは尊大な『魅力的な話』だった。

 

「……それはちょっと魅力的かも」

「まあ、それだけだが」

 

 それを聞いて肩を落とす未央。

 ゲーム開発に命を掛ける男らしい潔さだった。

 

「とはいえアイドルとしてもないわけではないだろう」

 

 ブースに置かれたモニターパネルを操作する片手間に未央の相手をする黎斗。

 ゲーム第一主義の彼が試遊以外の理由でわざわざ未央をこの場に連れてくるのに意味があるのだろう。

 

「この仕事に、君の成果で次の仕事に繋がるなどというプレッシャーは無い」

「遊び気分でいいってこと?」

「あながち間違いではないが、もう少し意欲的に物事に取り組むといい」

「仕事だと思ってやれって言いたい感じ?」

「まあそんなところだ」

 

 どんなものからもアイディアを吸収するクリエイターらしい提案。

 

「責任を問われる場ではないが、れっきとしたアイドルの仕事場の一つだ。十分な経験になるだろう」

「ふーん。プロデューサーの言いたいこと、なんとなくわかった」

「未央ちゃんのアイドルの方向性とは違った考え方かもしれないが一考の余地はあるはずだ」

 

 なんにせよ、ただの言い訳である。

 話半分、冗談半分に捉えるのが正しいのかもしれないが。

 

 

 

 

 

「で、結局今日は何すればいいの?」

 

 ブースの裏手での作戦会議。

 こじんまりとしたそのスペースで黎斗と未央は向かい合って座していた。

 

「ゲームの試乗のための呼び込みだ」

「それって客引きじゃん」

「客引きだからと侮ってはいけない」

 

 客引きの何たるかを知っているかのように苦言を呈す黎斗。

 

「何かの魅力を伝える力、それを見つける力。求められる技能など探せばいくらでもある。それに、アイドルならそれを活かせる場もその内現れるはずだ」

 

 歌って踊るだけがアイドルではない。

 舞台に立つことだってあり得るし、ラジオ放送に声を乗せる事もある。雑誌の取材だって受けることにもなるだろう。

 

 今は必要がないかも知れない。それでも、いつかその引き出しが役に立つときが来るかもしれない。

 

 その引き出しの多さが、生きるか死ぬかの明暗を分けるのだとしたら。

 

「まあ、これはインディーズゲームの体験会のようなものだからね。それほど固くならなくていい」

 

 「それに」と言葉を続ける黎斗。

 

「私が開発したゲームに必要以上の宣伝は不要だ。どこぞの情報誌のようなスポンサーの匂いがするレビューは気に食わない主義だからね」

「? 結局いらないじゃん」

 

 首尾一貫としない主張は未央を混乱させる。

 

「必要はないが……タダで得られる経験を無駄にする必要はあるまい」

「……せっかく来たんだしね。プロデューサーの口車に乗せられてあげる」

「二桁程度は呼び込んでみたまえ」

 

 タダ、という言葉で丸め込まれる未央。

 彼女の今日のスケジュールは、バイトということとなった。

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 の、筈なのだが。

 

「あー! それ私が狙ってたやつ!」

「速いもん勝ちだよー!」

「なにをー!」

 

 開始早々、会場に居合わせた少女とゲームに興じている本多未央の姿があった。

 

「………楽しんでいるようでなによりだ」

「……そうじゃん。遊んでたらダメだった」

「いや、夢中になるのも無理はない。好きなだけ遊びたまえ」

 

 我に返った未央がテーブルにコントローラを置くのを黎斗が止めた。

 

「プロデューサー、さっきと言ってること全然違うけど」

「気にしなくていい」

 

 その視線の先にはもう一つのコントローラを握る少女がいる。

 

「私のゲームが遊ばれていると言うのは気分がいいからね」

「プロデューサーらしいね」

 

 やはりゲーム第一主義であることには変わりがない。

 まさしく()()()というのを見た未央は、一つ笑った。

 

「ねえお姉さん。これってこの人が作ったの?」

 

 ゲームが人を笑顔にする、それを体現するようなその少女は未央に言葉を投げた。

 

「そうだってさ」

 

 肯定する未央は黎斗に視線を飛ばした。

 せっかくなら本人が相手をすればいい、ということらしい。

 

「どうだったかな私のゲームは」

「チョー楽しかった! 他にもある!?」

「ああ。好きなだけ遊びたまえ」

 

 彼がこの場に持ってきたのは数種類のゲーム。

 その中のいずれもが幻夢コーポレーションで売り出されたゲームとは異なっているようだ。

 

 只ひたすらに彼の望むままにゲームを作る。

 誰にも邪魔をされることがなく、自身の才能を世間に知らしめるかのようにゲームを作り続けられると言うのは彼にとって最高の環境なのかも知れない。

 

 

 だがそれも、長く続く筈が無い。

 黎斗の視界に映りこんだのは、見覚えのある人影。

 

 赤いジャケット。

 季節感を無視したアロハシャツ。

 丸いサングラス。

 

 どれも、檀黎斗には見覚えのあるものだった。

 その人影が会場の外に向かうというのを感じ取った黎斗は、

 

「しばらくここは君に任せる」

「え? なに? どゆこと?」

 

 彼女を置いてその場を抜け出した。

 待ち望んだその姿を追うために、

 彼は、駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

→→→stage select!!!

 

 

 

 





エグゼイドのせいで岩永さんがテレビに出てるだけで笑ってしまう
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