Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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#4-3

 

 

stage:backyard

 

 

 

 

 

「元気してたか? 社長さん」

 

 いつものように人を騙したような口調で、その男は語り掛けた。

 

「九条貴利矢……やはり君だったか……!」

「そんなの、最初っからわかってたんじゃないの」

 

 向かい合う二人の温度差は開いていく。

 落ち着きを失わない九条貴利矢に対して檀黎斗の激情は一言ごとに増していった。

 

「私は君に聞かなければいけないことがある」

「そんなの、俺だって同じだ」

 

 にへらと浮かべていた笑みが、貴利矢から消えた。

 

「つっても、あんたが目の前にいるって事は死んだわけじゃねえってことらしいけどな」

 

 目の前の男の手で消滅させられた九条貴利矢にとって、今までの自分に疑問を抱かない日はなかった。

 黎斗の言い分通りならば自分は死んでいる筈。それが今、不可思議な現象に巻き込まれている。

 よく言うところの死後の世界なんてものかもしれないと考えることはあったが、九条貴利矢が檀黎斗に出会った今この瞬間、その可能性は消え去った。

 

「よくよく考えたらあんたは自分の死ぬ可能性を作るような男じゃない」

 

 ライダーシステムの特徴の一つがプレイヤーの持つライフである。

 ゲームらしく全損すれば負け―GAMEOVER―になるとは言うが、わざわざデメリットを設定したのなら、それのリカバを行うことも手段を構築していないわけが無い。

 檀黎斗の人物像から、貴利矢はそれを導いたということだろう。

 

「だからよ、全部喋ってもらうぜ。一から全部な」

「私が君に話すことなど無い」

 

 黎斗はガシャットを構えながら言い放った。

 

「ドライバーとガシャットを全て渡せ。それは私のガシャットだ」

 

 自身のガシャットを勝手に所持していることへの憤りだけではないだろう。

 檀黎斗からすれば彼の存在ほど厄介なものは無い。

 九条貴利矢といえば檀黎斗の嘘や陰謀を独力で解明し、自身への対抗手段を持ちうる人間だ。

 そのうえ、今の黎斗にとって彼の持った情報ほど危険なものは無い。

 

「もう一度君は削除する」

 

 

 

【MEGGLE LABYRINTH!】

 

 

 

 ガシャットが、起動した。

 

「素直に話すわけないか……」

 

 面倒だ、とでもいわんばかりに貴利矢は頭を掻いた。

 だが、檀黎斗と言う男は元々こういう男だ。

 真を隠し平気で人を騙して、

 狡猾で綿密な計画さえも打ち立て、

 すれど激情も持ち合わせていて、

 まさにこういった状況――自身の想定から逸れることをひどく嫌う人間であると。

 

「いいぜ。その勝負乗ってやるよ」

 

 貴利矢はその手に提げたアタッシュケースを開くと、それを取り出した。

 

「それは私のモノだ……!」

 

 取り出したのは、ドライバーとガシャット。

 それを構え、ガシャットのボタンが押し込まれる。

 

 

 

【BAKUSOU BIKE!】

 

 

 

 

「あんたを倒してでも聞かせてもらうぜ」

 

 檀黎斗と九条貴利矢の因縁は簡単に断ち切れるものではないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 黒く彩られた甲冑に身を包んだ戦士は、手斧を片手に駆ける。

 彼の走り出した先には、同じく黒色の装甲を纏った戦士が立っていた。

 

「ハアッ!」

 

 大仰な叫びと共に振り下ろされた手斧。

 それを右腕を外向きに薙いで黎斗の腕に当てて狙いからほんの少しずらす。

 そしてその一瞬。

 すぐ脇を暴威が通り抜けるのを確認することもなく、貴利矢は左手を振り抜いた。

 が。

 それは黎斗の右手によって阻まれる。

 さっきまで手斧を握っていたはずの、その右手。

 その右手は、本来この一瞬で貴利矢の一撃を防げる位置にあるはずがない、

 だがそれは、手斧という重力に支配される枷を手にしているからであり、それを取り払いさえすれば決して不可能な話ではない。

 むしろ、それが無いということは――

 

「フゥン!」

 

 貴利矢の視界の右端に映ったそれ。

 それこそが、黎斗の置き去りにしたものであり、

 

「ぐっッ!」

 

 貴利矢を切り伏せる一撃へと姿を変えたのである。

 黎斗と距離を取るように―というよりは吹き飛ばされることでひとりでに距離が生まれた―転がる貴利矢。

 その体には左肩から逆袈裟に傷が刻まれ、胸元に描かれたゲージは黒く染まった空白が目についた。

 だが、黎斗の猛攻はそれで終わりではない。

 その手に握った手斧のボタンを数度叩けば、

 

 

【ZUBA-N!】

 

 

 刃先を光が纏っていき、

 

「ハアァァッ!」

 

 それが振るわれると共に、小さな光刃が貴利矢を襲った。

 

「っ、くそ!」

 

 目の前に迫るそれを貴利矢は地を転がるようにして避ける。

 

 

【ZUBBBBA-N!】

 

 

 しかし、一度ではない。

 猛る黎斗の叫び声に呼応するように飛び出した光刃は再度、貴利矢を襲う。

 立ち上がらせる気はないとでも言うように襲い来るそれを避けるたびに、貴利矢はまた一歩、また一歩と、黎斗との距離を開かせていった。

 

 

 黎斗とは違い、メイン兵装を搭載していない『爆走バイク』では相手が悪い。

 中距離までを卒なくこなす黎斗を相手にするとなれば――

 

「っ……、あんたには遠距離でいかせてもらうぜ」

 

 ドライバーのレバーを元に戻すと貴利矢はホルダーに手を伸ばした。

 ホルダーから取り出したのは同じ黒色のガシャット。

 ラベルに描かれているのは、

 

 

【JET COMBAT!】

 

 

 二本目のプロトガシャットだった。

 

「なぜプロトガシャットを……!」

「教えて欲しいなら、俺の質問に答えてからだな」

 

 起動したそれを、ドライバーに差し込んで、

 

 

【Agaccha! ―――JET COMBAT!】

 

 

 貴利矢が一たびコンバットゲーマを呼び出せば、それが彼を覆い――

 黒色の装甲を、

 二丁のガトリングを、

 空を駆ける羽を、

 黎斗を打ち落とすための航空兵の力を彼は手に入れることになる。

 

「おらよっ!」

 

 一声とともに貴利矢は地を蹴りその身を空に投げ出し空を舞う。

 黎斗から振るわれる暴力を避けるだけだった姿など今はなく、空を統べる勝者に与えられる景色というものを、彼はその目に捉えていた。

 

「んじゃあ、いくぜぇ!」

 

 背負ったターボエンジンを吹かして黎斗からつかず離れず縦横無尽に飛び回り、

 

「オラオラオラァ!」

 

 両手に提げたガトリングをかき鳴らした。

 

 

 

 手斧から放たれる光刃など足元に及ばないほどの夥しい銃弾が、黎斗へと襲い掛かった。

 空からの銃撃は彼だけを狙った驟雨に見紛うほど。

 

「クッ……!」

 

 猛威。

 暴虐。

 蹂躙。

 秒間何十発と打ち出されるそれは、一撃の威力など大したものではないのかもしれない。

 だがそれは数の暴力。その体を打ち抜く弾丸の数が増えれば増えるほどに、黎斗の体は傷を増やしていく。

 幾度となく襲いかかるそれを己の武器を盾にして身を守るのも限界はある。

 その限界とは、彼の胸元に輝くゲージが黒一色に染まる事。

 それまでとは言わずとも、彼の変身が解けることを意味している。

 そうなれば――負け。

 彼が望む結果など何一つ得られない、ただの敗走。

 もしくは、それすらも、無い。

 だが、

 それは、

 

「ヴゥァアアア!!」

 

 彼の望む未来ではない。

 

 

【ZU-GAN!】

 

 

 負けを認めるはずが無いこの男。

 マスクに隠れて見えない彼の瞳が、恐怖に塗れる事などあるはずが無い。

 むしろ、怒りが全てを支配していてもおかしくはない。

 ガシャコンハチェットについたもう一つのボタンを押して、

 彼は、跳んだ。

 迎え撃つ弾丸を物ともせず、只ひたすらに、彼は空へと跳び上がる。

 その目標は――九条貴利矢。

 建物を一足跳びで乗り越えられるほどの高さではない。

 ライダーシステムの補助を以ってしても薬莢と白煙を撒き散らすそれに近づけるわけではない。

 目に見えるスピードで減っていくライフ。

 だが、彼がその程度気にするはずが、無い。

 

「アアアァァ!」

 

 怒号にも聞こえる叫びを撒き散らしながら彼は得物を振り抜く。

 本来なら届くはずのない、その距離が、今は存在しない。

 赤く輝いた刀身から打ち出された光刃が貴利矢を斬りつける。

 

「がっ――ッ!」

 

 叩きつけたそれは、貴利矢へあからさまとも言える影響を与えた。

 下から突き上げるような強い衝撃が、()()()とエンジントラブルを起こした車両のようながたつきを見せ、

 綺麗な円運動さながらの軌道を見せていたはずのそれは、美しさの欠片もない歪な軌道を取らされる。

 

 

 そんな飛行ショーを眺める男が一人。

 黒々とした甲冑は所々に銃創が目立ち、胸元に煌々と輝いていたはずのゲージは雀の涙ほど。

 それでも、彼は、この一瞬の攻防に全身全霊を以って攻勢に出ていた。

 地へと降下する彼は、

 折り畳まれた手斧の柄を伸ばし、両手に携える長さまで伸ばす。

 着地した瞬間、

 ベルトから抜いたガシャットを斧に差し込んで、右手に握りつつ刃先が重力に引かれる形で下段に構える。

 

 

【MEGGLE CRITICAL SLASH!】

 

 

 脱力しながらも、彼は怨敵を視線から外すようなことはしない。

 ふらふらと不可思議な挙動を取るそれが、立て直すべく単調な動きを見せるならば一瞬の後に切り裂いてやるつもりに違いない。

 ――打ち落としてやる。

 まるで蚊トンボを叩き落すような軽い表現ではあるが、黎斗にとってはその程度。

 その程度の障害にしか、なりえない。

 

 

【JET CRITICAL FINISH!】

 

 

 なりえない――はず。

 

「何ッ!」

 

 だが、そんなのは、甘い。

 電子音が鳴り止んだ、直後。

 落下姿勢から()()()と体を捻り貴利矢は空へと飛び上がった。

 ゲーマに取り付けられたスラスターが黒煙を吐き出しながらも爆発的な加速を引き起こして空を舞う。

 そして、そのまま、

 鮮やかなループアクションの後、

 ガトリングの銃口が、黎斗を覗いた。

 

「オラアッ!」

「――ッ!」

 

 黎斗に向けられた二つの銃口から光弾が飛び出し。

 刹那、

 それに遅れる形で、光刃が空を切り裂いた。

 両者の狭間でぶつかり合う二つのエネルギー。まるで二人の想いを代弁するかのように暴風が吹き荒れ、砂塵を巻き上げて鍔競り合う。

 だがそれも、一瞬。

 永遠にも思えるほどにぶつかり合ったそれ。

 溢れ出る激流を食い破ったのは、

 

 

 たった一つの光弾だった。

 

 

 

「グッ、――!」

 

 気づいた時には、それが黎斗の胸に突き刺さっていた。

 秋風に煽られる枯葉が如く吹き飛び地に倒れ伏す黎斗。彼のライフゲージは、残り一目盛。

 何が、黎斗と貴利矢の運命を決めたのか。それは、誰にも分からない。

 ただ、

 もし、言えるとするならば。

 勝利への執着。

 それが、貴利矢が黎斗以上に持っていたものかもしれない。

 

「クリスマスのお礼、ちゃんと返したぜ」

 

 地へと降り立ち一歩一歩ゆっくりと黎斗へと近づいていく貴利矢。

 

「クッ……、ハァッ………!」

 

 立ち上がるべく黎斗が踏ん張ろうとも、震える手足が支えにはなりえない。

 

「あら――よっと!」

「ガッ!」

 

 蹴り転がして仰向けになった黎斗が踏みつけられる。

 

「っと……これで、俺の勝ちだな」

「ッ、九条貴利矢ァ……!」

「諦めろよ社長さん。どう考えたってあんたの負けだ」

 

 黎斗の両手が貴利矢の足を掴むも、彼にそれを退かす力は残っていない。

 まさにそれが、彼の負けを意味していた。

 

「つってもよ、今あんたにいなくなられたら困るんだよ」

 

 二人の間に流れる静けさとは裏腹に黎斗の胸元は弱弱しく明滅し、けたたましいアラームが二人の鼓膜を貫く。

 

「で、だ。話し合いといくか」

 

 話し合い。

 それは建前にすぎず、この状況が示す()()()()とはまさしくそういう意味の話し合いであった。

 

「あんたが今までにしてきたことを許すつもりはねぇけど、ここでそんな話ができるほど状況が理解できてないわけじゃねえ」

 

 思い返すのは、監察医として彼が明かした黎斗の策謀の数々。すべての元凶であり、数多くの市民を巻き込んだ彼の行いは、貴利矢には許しがたいものであるはずだ。

 それでも、それは、彼が以前まで生きた世界での話。

 今この世界で人間に襲いかかる病魔は、貴利矢の調べでは黎斗との関係を見出すには至らなかった。

 そうであれば、貴利矢が選択するのは、医者としての矜持か、過去を背負う自身の意地か。

「ま、話したところで心証が悪くなるだけだしな」と、一人ごちる貴利矢。

 

「んなわけで、あんたの立場が悪くなるようなことは言わない」

「……ッ」

「信じるかはあんた次第だろうけどよ」

 

 そんな話など呑む気はないともがく黎斗。

 だが、そんなもの、貴利矢には欠片も関係はない。

 

「俺の持ってるガシャットは返す。どうせ持ってても使えないしな」

 

 プロトガシャット。

 黎斗が本来望んだものとは外れてはいるが、それもまた、黎斗が望んでいるものである。

 

「後は俺の聞きたいことを教えてくれりゃいい。どうだ?」

 

 貴利矢の聞きたいこととは、バグスターのことだろう。

 彼が復活した理由。

 黎斗の復活した理由。

 バグスターとは、何か。

 全てを知るよりも先に退場した彼には、未だ知らない謎が残っている。

 それを知れば、貴利矢の抱える疑問も消え失せるだろう。

 それと引き換えに黎斗への憎しみが増すことも避けられないが。

 

「ま、この話を呑まないってんなら、あんたに過去を償ってもらうだけだぜ」

 

 黎斗の生殺与奪は彼が握っている。

 黎斗につきつけたガトリングの銃口が、鈍く輝いていた。

 

「九条貴利矢……君はいつか削除する………!」

 

 そんな捨て台詞。

 それが、黎斗の出した答えだった。

 

「じゃ、交渉成立ってことで」

 

 足を退かし、数歩後退する貴利矢。

 未だ立ち上がる気配の無い黎斗を他所に変身を解く。

 

「なんだかんだあんたの才能は必要だからよ。よろしく頼むぜ」

 

 マスクの下に隠した表情は何だったのか、今はもう分からない。

 今分かるのは、黎斗を見下ろす貴利矢はいつもの薄い笑みを浮かべていることだけだった。

 

「とりあえず、コレ返すわ」

 

 倒れて起き上がらない黎斗に『ジェットコンバットプロトガシャット』を押し付けた貴利矢は、その場を去った。

 今日も、彼のジャケットは、たなびいていた。

 

 

 

 

 

 

→→→stage select!!!

 

 




制限付きフォームってやっぱりロマンを感じますよね。
その点でいくとファイズアクセルの格好良さは群を抜いてると言っても過言ではない。
異論は認める。
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