Game m@ster & Cendrillon 作:井浦むょ
stage:CENproduction
いつぞやの休日。
燦々と煌く太陽が地に降り注ぎ、熱線に当てられたコンクリートが今にも溶け出してしまいそうな、そんな季節。
ゆらゆらと人影が揺れるのはなにも陽炎によるものだけではなく、うだるような暑さにあてられた誰かの足取りが、危なっかしいものになっているようにも思える。
そんな季節。
彼らの居る事務所はそんな暑さなど嘘のようで、外の騒がしさすらここには届いていない。
この事務所で騒がしいものといえば、ひっきりなしに働き続ける空調と、
「ダメだぁああアアーーー!!」
一人で勝手に盛り上がる檀黎斗だった。
#5―"X"bikeをかっ飛ばせ!―
「あぁもう! いつまでやってんだよ!」
それを聞いて声を荒げた貴利矢もソファへと身を投げた。
「もうなんでもいいからガシャット作ってくれよ!」
「黙れェエエーー!!」
カッと目を見開いた黎斗は勢いそのままに立ち上がり貴利矢へと詰め寄った。
「私が納得のいかないゲームなど世に送り出すつもりはない!」
「聞こえてっから近くで大声出すなって!」
「私の開発に口出しをするなァ!」
「わかったから離れろ!」
貴利矢が虫を追い払うように腕を振るうと、黎斗は自分のデスクへと戻っていく。
「ほんっっっと、めんどくせえな……」
貴利矢がぼそりと呟きため息を溢すと、体を跳ね起こした。
「それ以外にもゲーム作ったんだろ? それでガシャットは作れないのか」
貴利矢が言っているのは、つい先日彼が展示会に持ってきていたゲームのことだろう。復活してから作ったであろうそれらも彼の力なら一日二日もあればガシャットにできるはずだ。
「あれをガシャットにするのは難しい」
「はあ? 難しいとかあんのかよ?」
「ガシャットにできないことはない。だが、ゲームを活かしたシステム故に使いこなすのはただの医者には不可能だ」
「あぁそう……」
黎斗の言っている事の真偽は貴利矢には判断しかねるものだが、少なくともガシャットを作る気がない彼の言葉に肩を落とすしかなかった。
「それに、私も少し新しいことに挑戦してみようと思っていてね」
「? まだやってないことでもあったのかよ」
「勿論だろう。ゲームに終わりはない」
ふっと笑みを溢す黎斗。
彼にとってのゲームとは彼の才能を証明する唯一無二の存在であり、どれだけの作品を生み出そうとも彼のゲームに終わりはない。
「今まで数多くのゲームを世に送り出してきた私だが、ゲームの手直しというものを行なった事はこれまで一度もない」
「へー」
「私が世に送り出した段階でそのゲームの完成度は100%であるからね。手直しなど必要がないと思っていた。
だが私が進化を続けている以上、過去の100%も今の私にかかれば120%を出せるはずさ」
「で、ゲームを作り直してるってわけか」
「そういうことだ」
「の割には『全然ダメだぁァアー!』とか情けないこと言ってんじゃねえの」
茶化すように口角を吊り上げる貴利矢。
彼にとっての黎斗は自信に満ちた健啖家で、さっきのような言葉を口にするような人間ではなかった。
「新しい出来事に苦悩は当然だろう。これを乗り越えてこそ私は私を越える」
「あっそ。なんでもいいけどちゃっちゃと作ってくれ」
「それができれば苦労はしない」
「まじかよ……ってことはただの口だけの男だったってわけだ」
その言葉に黎斗が、ほんの一瞬、固まった。
ぴくりと眉を寄せた黎斗。
「……もう一度言ってみたまえ」
いつもと変わらぬ口調。
だが変わらないのは語り口だけで、その声は何かを押し留めるような――今にも何かが溢れてしまいそうなものだった。
だがそれも彼にはどこ吹く風で、
ニッと口元を歪めた貴利矢は、どこか楽しそうだった。
「言ってやるよ。あんたなんかよりもっと才能ある奴なんざいっぱいいる」
「九条貴利矢ァ!」
我慢ならない。
自分こそが最上の才能を持っていると言い触れる彼にとって、自身の才能を馬鹿にされることだけは、許せなかった。
だんと立ち上がって睨みつける黎斗。
今にも取っ組み合いが始まりそうな、剣呑な空気が立ち込めたその時、
「うるさーーーい!」
もう一人の同室者が爆発した。
爆ぜるように声を荒げた彼女は、立ち上がり手に持った冊子をテーブルへと叩きつけた。
「ちょっと静かにしててよ! ていうかプロデューサーも遊んでないで仕事して!」
「今日は出勤日ではない」
「じゃあなおさらじゃん!」
テーブルに叩きつけたそれを手に取り、見せつけるようにして再度声を荒げた。
「この仕事を成功させなきゃって言ったのプロデューサーでしょ!」
「私の見立てではそれが成功すれば次の段階へと進めるはずだ」
「だったらお願いだから静かにしててよ! 私なりに頑張ってるんだからさ!」
一息にまくし立てると彼女の怒りも次第に収まっていく。
肩を怒らせていたのも鳴りを潜め、怒気を孕んでいた瞳も落ち着きを取り戻していた。
「……ていうか暑くなるからあんまり騒がないでよ」
pllllll......
篭るように着信音が響いた。
発生源を辿ってみれば、赤色のライダージャケットの内側から聞こえているようで、自身が原因だと気づくと苦笑いを浮かべつつ立ち上がった。
「あーっと、ちょっと用事できちゃったから」
よろしく、とだけ黎斗に言葉を残して彼は事務所の扉に手をかける。
入り込んだ熱気が黎斗らの頬を撫でたがそれも一瞬だった。
二人だけとなった部屋に沈黙が立ち込める。
未央は息を小さく吐くとソファに腰を下ろした。
「……プロデューサーは?」
静かにしててよ、との意味を込められているそれは彼女には珍しく圧を感じるものだった。
「できる限り大人しくしていよう」
「いきなり『ダメだぁー!』とか言い出さないでよ」
「絶対とは言い切れない」
「あぁ、まあ、とりあえず静かにだけお願いします……」
反省の色が見えない黎斗に彼女も呆れるしかないようだった。
stage:sickroom
「なんつーか、タイミングが悪いこって」
貴利矢は、患者には届かない大きさに小さく呟いた。
「なんか言ったかよ」
「いーや、何も」
それを耳聡く捉えた彼女は貴利矢に聞き返したが、それは事もなく流された。
「まあ身を預かる立場としては色々知っとかなくちゃいけないわけで……ちょっと聞かせてもらったぜ」
カルテの留められたクリップボードを指で叩いた。
「おいッ!? 誰だそんなの教えた奴!」
「電話してきた子だけど」
「あんにゃろ……帰ったら覚えとけよ」
散らすことのできない怒りが彼女の眉を細やかに震わせた。
「まあ、こんなもん大して役に立たねえけどな」
事実、ゲーム病に似たそれを治療する手段は明確に定まっていない。あくまでも暫定的な手段としてライダーシステムを利用した治療を施しているだけだ。
そうである以上治療に必要なのは身体検査の結果なんかではなく、ライダーシステムそれだけである。
ベッド脇に置かれたテーブルにそれを置いて、貴利矢は彼女と向き合った。
「どっちにしろあんたを今日中に治療するってのはちょいとばかし難しいってのがあるし、今日は大人しくそこで寝てろ」
随分と間が悪い患者だと、貴利矢は心の中でため息をついた。
なぜ病院側からの連絡がわざわざ自分のところに届いたのか、それはなんとなく気づいていたように治療を施せる医者である桜庭が手を離せないからであった。
「ハァッ!? んなことできっかよ病人でもねえのによ!」
病床に伏せた人間とは思えない怒声が病室に響き渡る。
これほどまでに活力に溢れた人間であったとしても、彼女の身に何が起きているかなど一目瞭然である。
「いや病気だって」
タオルケットの上に置かれた腕は、濁った景色を透過しておりおよそ普通とは言いがたい。
それこそが、病気であることの証左である。
「どうせ知ってるだろ、Nウイルスってのがどんな病気を引き起こすのか」
「それくらいアタシだって知ってる。ちょっとほっとけば勝手に治るやつだろ」
何も知らない一般人にとっては、その程度の認識らしい。
放っておけば勝手に治る。
まるで季節の移り目に流行る風邪のような扱いを受けるそれは、断じてそんなものではないというのに。
態度で示すように、貴利矢は大きくため息をついた。
「んなもん迷信だっつの。ちゃんと治療しねえと危険だってのも聞いてないのか」
「ちょっと危険なくらいでビビッてたら特攻隊長なんて務まんねえ」
「ビビるとかの問題じゃねえから……」
実のところ、彼女は何一つ分かってないのかもしれない。
自然に漏れ出した嘆息をかき消すように貴利矢は頭を振った。
と、そこで。
ふと呟いた彼女の言葉が、心につかえていた朧げな記憶を唐突に鮮明にさせた。
「あー思い出した。レディース特攻隊長ちゃんでしょ? 特攻隊長向井拓海。どっかで見たことあんなと思ったらテレビで見たわ」
「それがどうしたっつの……てか、『ちゃん』とか言うな気持ちわりぃ!」
肌寒さを抑えるように腕を抱える拓海。勝気な性格である彼女には『女性扱い』というのはどうもむず痒いものであるらしい。
「レディースって少ないでしょ? 珍しいなーって思ったからさ」
「それがあんたに関係があんのかよ……っていうならよ、アタシがこんなとこ世話なるわけいかねえことくらい知ってるよな」
「知ってるぜ。あんまし褒められた集団じゃないことくらいな」
「だったらよ――」
――アタシは邪魔になる
そう続く筈の言葉は、
「殺人犯だろうが暴走族だろうが、患者は患者だ」
当然とでも言うように言い放った、貴利矢によって遮られた。
病魔に侵されてしまえば誰であろうと手を差し伸べない理由にはならない。
それは、今はここにはいない青臭さの残る研修医の言葉にも似ていた。
「……そうかよ。ま、気持ちだけ受け取っておくぜ」
呆れるような嘆息を溢すと掛けていたタオルケットを蹴飛ばして拓海はベッドから立ち上がろうとした。
「おいおい、患者は大人しく寝てろって――」
「――大人しくしてられるかよ!」
怒号。
耳を裂くような怒鳴り声が部屋中に響いた。
騒がしさとは縁のない病棟には似つかわしくないそれは、溢れ出る感情すら抑えられないもので、
「あいつらが傷ついちまうかもしれねぇんだぞ!」
それは、怒声というよりも、
空しさを詰め込んだような叫び声であった。
「……悪ィ。あんたには関係ないのによ」
抑えようのない感情がため息となって吐き出される。
ため息を溢した口元が僅かに震えているようにも見えた。
「族の仲間が心配ってところか」
不意に飛び出たその言葉にほんの一瞬反応を見せた拓海は項垂れて沈黙する。
その様子に、貴利矢はどうしようもなく閉口する他なかった。
ウイルスが違うとはいえ、根元の部分は同じ種のウイルスであるのならNウイルスもまた、患者の抱えた問題をトリガーとしていると考えられる。
それを今、彼女こそが体現している。
自身の抱えるストレスを形にして。
「患者の悩みを聞くのも医者の仕事の一つだぜ」
備え付けの椅子に腰を下ろして拓海と貴利矢が面と向かう。
浮いてしまった時間を費やすのなら、患者に使うのも悪くない。
そんな風に考えてしまうのは、あの時間を共にした医者がいたからで。
自分の全てを託せるほどの信念に共感したからで。
監察医であっても患者の笑顔を取り戻したいと、柄にもないそんなことをして、患者と向き合ってみたいと思っていた。
だが、慣れないものはするものでもなく、座った椅子がいつの間にかじんわりと熱を持ち始めていた。
横たわる沈黙とは反対に悠々と進み続ける秒針が五周ほど回っていたとき、その沈黙が破られた。
その沈黙を破ったのは、
「これはアタシの独り言だ」
向井拓海だった。
「族やってるとよ、怪我ってのはどうしても避けられねえんだ」
彼女の脳裏に浮かぶのは手足に浮かんだ生々しい青痣や裂傷。避けることのできない痛々しい光景がいつだって彼女の心を苦しめていた。
「そりゃ他の奴らとぶつかることは仕方ねえんだけどよ。それでもさ、見ちまうと……やっぱ辛いんだ」
零れた本音が、次から次へと隠していたはずの心の内を詳らかにしていく。
「仲間が怪我してんのなんかアタシは見たくねえんだよ……!」
そんな悲鳴にも似た慟哭を、貴利矢は頷くでもなくただじっと口を挟むことすらせずに耳を傾ける。
「その度に思うんだ。『アタシが全部ぶっ飛ばせればいい』ってよ」
握られた拳が細やかに震えていた。
「だから、あいつら守るならこんなとこにいるわけにいかねえんだ。分かったかよ」
鋭く睨まれたはずの貴利矢は、独り言じゃねえのかよと呟きながらも面白いものを見たとでも言うように小さく笑った。
「言いたいことは伝わったぜ」
大切な人を守りたい。
純粋な感情であっても肥大化してしまったそれは、時に重荷となってしまうかもしれない。
それはまるで、目に映らない鎖のようで。
大切な恋人を失った外科医が抱える感情とも似ているのかもしれなかった。
そしてそれは、貴利矢自身にも言えることだった。
どうしようもない自身のミスで大切な友人を失ったとき、彼は誰かを守るために自分が傷つく道を選ぶ事を決意した。
それが誰に疎まれようとも、誰からの信用を得られずとも。
それが自分の道なのだと、あの時彼は選んでいた。
そのはずなのに、利用するだけの間柄のはずがいつの間にかお互いに信頼を結ぶほどになっていて、
自分の求めたものを得るために誰かに背中を預けるなんて、信じられない話だった。
「自分も――」
「貴利矢先生」
拙いながらも紡ごうと構えた瞬間、彼の言葉は遮られた。
振り向いてみれば、一人の女性と視線がぶつかった。
「院長がお呼びです」
たったそれだけを残して部屋を去る。言い訳だとか、口答えなんかをする暇さえありはしなかった。
「悪ぃな。話はまた後でってことで」
立ち上がり座っていた椅子を持ち上げ端に寄せるとテーブルに置かれたクリップボードを持ち上げた。
「ま、誰かが傷つくとか言うよりもあんただって重症だ。少なくとも明日までは大人しくしとけよ」
それは建前でもなく蓄えた知識による貴利矢の私見によるものだ。
勿論ウイルスによるものだけでなく、単純に彼女の心労を伺った故のものでもあるが。
「少し落ち着いて考えるのもいいんじゃないの」
せっかくの機会だと言い残し、貴利矢は背を向けた。
これでいいのだろう。
九条貴利矢は多くを語ることなど、ない。
→→→stage select!!!
東郷あい姉貴のSSR衣装のパワー、まこりんの絶険並の破壊力ありますよ。