Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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これ書いてるときに思ったんですけど黎斗は無戸籍なので使ってる免許証が意味を成してないのでは。



#5-2

 

stage:room

 

 

 

 

 外の喧騒など嘘のように静まり返ったこの部屋。

 対面に置かれたソファはかの事務所のものとは読んで字の如く桁違いないもので、そこに腰を下ろした二人に肩ばった雰囲気を強いているのであった。

 

「わざわざ来てもらってすまないね」

「自分だって一応医者だからな」

 

 貴利矢の対面に座るのはこの医院にて長を勤める男、坂上である。

 医者の不養生を体現するような恰幅のいいスーツ姿は患者の不安を煽る出で立ちではあったが、その実彼の座る席がそれ相応であることは壁に掛けられたいくつかの書状を眺めるだけで合点がいく。

 

「で、あんたの用事ってのは?」

「君なら分かっているだろうに」

 

 彼が自分の足元から持ち上げたのは一つのハードケース。

 それは、貴利矢には見慣れたもので。

 

「預かってきたのね」

 

 納得がいったとばかりに貴利矢はそれをテーブルの上を滑らせて手元へと引いて寄越した。

 

「わざわざ私を仲介する必要などないだろうに」

「いやまあそりゃそうだけどな」

 

 自分から願い出たわけではない。

 どちらかといえばわざわざガシャットやドライバーを借りてまで例の患者を治療する必要性が貴利矢自身にはなかった。

 なにも今日でなくとも明日になりさえすれば桜庭薫は外科医としての忙しさも落ち着きを見せ、自分から患者の治療を買って出るはずなのだから。

 

「で、無免許医の自分に具体的なところ院長先生は何がお望みで?」

 

 それをわざわざ彼が仲介をするというのは、ここに設けた自身と貴利矢との面会の場に必要性を感じたに他ならない。

 ならばと自分から申し出た貴利矢に対して、彼は待ってましたとばかりに話を切り出した。

 

「桜庭先生のサポートをお願いしたい」

 

 彼の望みは曖昧で、噛み砕くにはあまりに漠然としたものであった。

 

「サポートってのはどんなもんだ? ウイルス治療のサポートなら今もやってるぜ」

 

 貴利矢が所持しているのは「爆走バイクプロトガシャット」だけであり、彼が単独行動をしてもそれにコンバート機能が搭載されてないために桜庭の代わりとして自主的にウイルスを消滅させて回るということはできない。

 彼に出来ることといえば、桜庭が実体化させたウイルスを協力して消滅させることくらいである。

 つまるところ、サポートをしていると言いはするものの、その実態はサポートしかできないと言い換えることもできた。

 

「それを手伝ってくれているのは非常に助かる――」

 

 彼は温和な笑みを浮かべた。

 

「――なにせ、大切な医者だからね」

 

 貴利矢とぶつかっているはずの彼の瞳は貴利矢を映してはいないようにも見えた。

 桜庭の口からライダーシステムの危険性を知らされているのだろう。

 あと数年もすれば優秀な外科医として名を轟かせるというのを見据えているだけに、抱えた人材をむざむざ手放すのは惜しいに違いない。

 

「大切な、ねぇ……」

 

 貴利矢自身も思うところはあるようで、それとなく笑みを返した。

 

「彼が何を望んでいるのかを、君は知っているか?」

 

 こほんと小さく咳払いをして話題を移し変えた。

 うって変わって真剣な物言いに貴利矢はこれこそが本題なのだと悟った。

 

「ああ。ウイルスの撲滅、だろ?」

「おおむねそんなところだ」

「つっても俺に出来ることだって限られてる。特に、あのウイルスを完全に消滅させる方法なんて自分は知らない」

 

 彼らよりウイルスに対して知見があるとはいえ、それはほんの少しといわざるを得ない程度だ。

 それに、彼が目指していたウイルスの予防策というのも未だ目処は立っていない。

 

「『今は知らない』の間違いではないかね?」

「……はー、そういうこと」

 

 何か含んだ物言いを感じ取った貴利矢は、彼が次に何を口にするのかを理解することは難くなかった。

 

「君は聡明で助かるよ」

 

 背を預けたソファから、ずいと体を前のめりに倒した。

 

「あのウイルスのブラックボックスの解明。これを君には依頼したい」

 

 予想通りの展開に貴利矢はどうしようもない高揚感を感じていた。

 過去に成し得なかった後悔をやり直す機会が今ここに巡ってきたことが、彼にはたまらなく嬉しかったのだ。

 身元すら定まらず立場を失ってしまった彼の目の前に立ち塞がっていた壁は大きく、一人でどうにか出来るものではなかった。それは、この世界に辿り着いてからも同じ、いやそれ以上で、目の前で誰かが悲しみや苦しみと共に病魔に蝕まれていく姿を眺めていることしかできない自分が悔しくてならなかった。

 それが、やっとの思いでここに辿り着けたのだ。悔しいながらも黎斗の助力があったとはいえ、もう一度自分が医師の端くれとして闘える。

 自分の望みを叶えることができるのだと。

 

「随分と大きく出たじゃないの」

 

 だがそんな素振りを見せずに貴利矢は続きを促す。

 

「夢は大きい方がいいだろう?」

「いい年してそんな柄じゃねぇな」

「だが興味は沸くだろう? 現代では明かされていない未知のウイルスの完全解明。これほど心が踊ることはない」

 

 数多の功績を残してきた坂上でさえ、今もまだ夢を追っている。

 だがそれは世界に希望を齎すためのもので、一人で抱えるには大きすぎる夢ではあった。

 

「……ま、一応医者やってた身だ。患者を増やさないために手伝ってやるよ」

 

 なんにせよ貴利矢がもの申し出を断ることなど最初からありはしなかったのだが。

 

「感謝するよ」

「礼は言葉じゃなくて――」

「分かっているさ」

 

 坂上は頷いた。

 

「君の願いはしっかりと聞き届けよう」

「……それならいいか」

 

 前のめりになっていた体を投げるとソファは形を変えて沈んでいく。

 

「ちょっとお茶でも飲んでいってはどうかな? 最近はまっていてね……」

 

 坂上は立ち上がり部屋奥に置かれた茶棚へと足を運んだ。これは彼なりの礼を込めたコミュニケーションであるらしい。

 

「じゃ、頂いちゃおうかな」

 

 やっと始まった。

 スタートラインを割った今、目の前に出された水面の揺れている湯飲みは少し温かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:passage

 

 

 

 

 とたとたと聞こえてきそうな足音。

 およそ病棟とは思えぬ騒がしさであった。

 仕事の話とちょっとした雑談を交えた貴利矢は手にしたドライバーを携えて患者の元へと向かって廊下を歩きながら、随分と忙しそうだと人事に構えていた。

 脇を走り抜けていく彼らに意識を割くでもなく歩けば、懐かしさすら覚えないその病室の前にまで辿り着いていた。

 几帳面さの感じられない無造作に閉じられた扉はかすかに向こう側の景色を覗き見れて、病室の主のがさつさを表している様だった。

 

「失礼するぜー……って、いないのかよ」

 

 開け放った扉を潜った貴利矢はあからさまな落胆を示していた。

 蹴飛ばされたタオルケットを置きなおして貴利矢はベッド脇の椅子に腰を下ろす。

 持て余した時間を潰すようにぐるりと部屋を見回していると、中途半端に開けられたクローゼットが視界に入って、当たってほしくのない想像が貴利矢の頭の中を駆けた。

 

 ――まさか……!

 

 椅子を蹴飛ばしながら立ち上がって勢いよく部屋を出ると、近くを通り過ぎようとしていた看護師の肩を叩いた。

 

「おいあんた! この部屋の病人どこ行ったか知ってるか!?」

「向井拓海さんのことですか――」

「その子だ。今どこにいる!」貴利矢は食い気味に掛かった。

「それが――」

 

 気圧された様子で視線を揺らす彼女を見た貴利矢は頭を掻いた。

 

「やっぱ逃げ出したかあいつ! なんでそんな元気なんだよまったく!」

 

 今日はどうもイライラする日だと、面倒事が次から次に舞い込む自身の不運を呪った。

 冷静さを欠いたままに探したところで見つかるはずがないとは分かっていても、今ここで立ち止まってなどいられないのだと、胸ポケットから取り出した手帳にがりがりと書き付けて破ってそれを看護師に渡すと、

 

「それ自分の連絡先だから。見つかったらすぐ連絡してくれ!」

 

 じゃ、と後ろ手に最低限の礼だけをして貴利矢は走り出した。

 

「あの! 誰ですか!」

 

 理解の追いついてないままなのか、後ろから声が聞こえてくる。

 

「あいつの担当医の九条貴利矢だ!」

 

 立ち止まって振り向きジュラルミンケースを見せ付ける。探して見つけて治療するなら一刻を争う事態となる。

 事態を察したのを見てすぐに向き直って走り出す。

 

「あぁもう、くそッ! 頼むぞまじで!」

 

 人目も憚らず、貴利矢は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 肺から次々に空気が逃げ出していくのが分かる。

 もう人間の体を失ってしまったはずなのに、気づけば浅い呼吸をしている自分がいる。

 不思議がって自分の姿を目で追ってくる通行人なんて気にしてる暇は殆どなかった。

 こんなに必死になって走って何かを考えてる余裕なんてないはずなのに、忘れることのできないあの日のことが頭を過ぎる。

 

 どれだけ泣いたのか。

 

 どれだけ悔いたのか。

 

 どれだけ――自分の行いを呪ったか。

 

 多分、そういうことなんだろう。

 最悪の結果が待っているとするなら、自分はまた、助けられない。

 

 今はもう会えなくて、

 

 悲しみを背負うことしかできなくて、

 

 同じ過ちを繰り返してはならないと心に誓ったあいつの横たわる姿が、脳裏に浮かぶ。

 

 また繰り返してしまうのか。

 

 

 ――あれだけ泣いたのに。

 

 

 また失ってしまうのか。

 

 

 ――何度も心に刻んだはずなのに。

 

 

 今度は――救えたはずの命を、失うのか。

 

 

 

 

 不意に過ぎった恐ろしい想像を打ち払うように頭を振る。

 弱気になってどうする。

 飲み込まれるな。

 蝕まれるな。

 患者を救うんだろ――九条貴利矢!

 止まってしまいそうな足を回して刺さる視線を振り切るように地を蹴り飛ばす。

 人目の少ない路地裏に最後の力で飛び込んで、力を揮う。

 目指すなら、事務所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:CENproduction

 

 

 

 窓の外に広がる街並みは既にネオン街へと姿を変えていた。

 道端で千鳥足の青年が歌う陽気さも路地裏から聞こえる張り上げるような怒声も事務所には届いていない。

 ぽつんと光る一本の蛍光灯とその下で光るデスクトップやその脇で唸るファンの音が唯一事務所に残る人の気配を感じさせていた。

 光に当てられながら画面を見つめる貴利矢は、いつもの人を食ったような雰囲気ではなく、差し迫ったかのような真剣な面持ちであった。

 

「お疲れ様でーす。本田未央戻りましたー」

「同じく檀黎斗」

 

 扉が開かれ二人の声が貴利矢の耳を打ち、スイッチが叩かれる音に倣って残りの蛍光灯に光が灯った。

 

「やっぱり貴利矢さんじゃん」

「おそらくそうだとは思っていたさ」

「さっきと言ってること違うと思うんですけどー」

 

 騒がしく部屋になだれ込む二人を横目に時計に目を移せば、短針が左を向いている。いつになく肩の凝る時間を過ごしたようで貴利矢は立ち上がり表情を緩めぐっと伸びをした。

 

「貴利矢さんもお疲れな感じ?」

「まあ、ちょっとね。未央ちゃんこそお疲れさん」

「いやいや未央ちゃんはまだまだ元気ですから。未来のスーパーアイドルがこれくらいでへこたれちゃダメでしょ!」

「へー……カッコいいじゃん」

 

 アイドルというものに深い理解がない貴利矢ではあるが、夢を追う青さや若さだけは十分に理解できるものだった。

 

「元気なのはいいが帰りたまえ。明日以降の稽古に支障が出ても困るはずだ」

 

 黎斗の目の前のデスクには紙束の飛び出したビジネスバッグが置かれていた。

 

「じゃあプロデューサー送ってくれてもよかったじゃん」

「さっきも言っただろう。私はこれから用事がある」

「やっぱダメかー」

「大人しく電車を使いたまえ」

 

 顔色一つ変えない興味がなさけな表情にむすっとしてしまう未央。

 文句の一つでもと思ったが、自分の隣で押し黙ったままの貴利矢に興味を移さずにはいられなかった。

 

「どったの?」

「こいつが真面目にやってるのが変っつーか」

 

 貴利矢が思い描く黎斗像と言えば高そうなチェアーに背を預けてキーボードを叩く姿であって、一介のサラリーマンとして社会に溶け込んでいる姿ではない。

 

「あー分かりますよ兄貴。こーゆうのするタイプの人じゃないもんね」

「そうそう。偉そうにしてゲーム作ってる方が似合ってるんだよな」

「あと高笑いが似合う!」

「悪人面も似合う!」

 

 笑みを浮かべた貴利矢と未央の二人のハイタッチが事務所に響いた。

 

「私を好き勝手言うのは構わないが、帰らないのなら施錠は忘れないように頼む」

 

 淡々とデスクを片付ける黎斗は見向きもせずに言った。

 

「そーいえばそんなに急ぐ用事なの?」

「そこまでではないが早いに越したことはないだろう」

「ふーん。で、結局なんなのさ?」

「ゲームの取材に面白いものを見に行くだけさ」

「や、わかんないって」

 

 自分のことを語らない黎斗に、気づけば詰めるような形になっていた。

 

「……族の殴り合いがあるそうだ」

 

 渋々とため息交じりに黎斗は答えた。

 

「え!? 絶対やばい奴じゃん! やめた方が――」

「おい黎斗!」

 

 その瞬間、貴利矢の目が燃え滾った。

 

「それってレディース特攻隊長のやつじゃねえよな!?」

「貴利矢先生も知っていたか。確かにそうだが――」

「んなのいいからどこにいるか教えろ!」

 

 貴利矢は被さるように声を荒げ黎斗の胸倉を掴みかかった。

 

「ど、どったの?」

 

 いつもの飄々とした姿とかけ離れた姿に未央が狼狽える。

 

「……あぁ悪ィ、ちょっと自分も用事があってな」

 

 離した黎斗のジャケットの胸元はひどくよれていた。

 

「もしかして、アレのこと?」

 

 右手で何かを握るようなジェスチャーを見せると貴利矢は「そんなとこだ」と頷いた。

 貴利矢はデスクの上で淡く光るPCを数度操作して電源を落とすと、再度黎斗に向き直った。

 

「行くんだろ」

「……そういえば君は私のことを口だけと言っていたと記憶している」

「それがどうしたよ」

「私の才能が口だけではない事を君に教えてあげよう」

 

 黎斗は散らかった荷物を片付けデスクの引き出しを開けると、中から黒いアタッシュケースを取り出した。

 

「プロトガシャットではあるが受け取りたまえ」

「桜庭先生から借りたから別に――」

「受 け 取 り た ま え」

「………」

 

 有無を言わせない圧が言葉に篭っていた。

 

「ぶっちゃけあんたからガシャット受け取りたくねえんだけど」

 

 思い返せば黎斗の策略に乗ったがために貴利矢は消滅している。

 

「わざわざこのタイミングで君を削除する理由はない」

「不穏すぎるっつの……」

 

 あれだけ事を構えておきながら信用するというのは難しい話である。

 

「わーったよ。大人しく乗せられてやる」

 

 YESと言わなければ話が進まないのを悟ったのか、貴利矢は渋々といった様子でそれを受け取った。

 

「ちゃっちゃと行くぞ」

「未央ちゃんも帰りたまえ」

 

 未央に鍵を渡した黎斗は勢いそのままに貴利矢と共に事務所を去っていった。

 

「………なんなんかなぁ」

 

 事務所の扉が閉まる音を聞いた未央は、一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

→→→stage select!!!

 

 

 




世代じゃないRXのサビをなぜか聞いたことがあるんですけどどっかで流れてましたかね。
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