Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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こんなちんたら書いてるうちに平成ライダーまで終わってしまうのでは?


#6-1 『絶体絶命のpandemic!?』

stage:game area(quarry mark)

 

 

 

 けたたましい爆音が当たり一面に轟く。

 発破とは言い難い爆発が何もない平坦な場所で爆風を撒き散らした。

 その後に聞こえたのは雰囲気とミスマッチなファンファーレ。いい爆発だとでも賞賛を送っているのであればどこか筋違いだろう。

 

「やっと危なっかしい闘いじゃなくなってきたな」

 

 爆炎の先に見えるのは黒色の人型。決して煤けたわけではない。

 

「毎日のように同じ相手とやっていればさすがの僕でも慣れる」

 

 その隣に佇むのは藍色の甲冑。杖代わりの斧と合わさると西洋の物語から抜け出してきたような出で立ちといえた。

 

「ま、敵が変わんないってのはラクだな」

「聞いた話だとウイルス種によって敵が変わったらしいな。当然といえば当然だろうが」

「そんなに種類はいないけどな。Xバイクのモータスもそいつらの一体だ」

「あの喧しい奴か。どちらかといえば筋肉達磨の方が僕はマシだ」

「先生は煩いの嫌いだもんな」

「どっちも煩いんだがな」

 

 腰に巻いたドライバーからガシャットを抜くと、いつの間にか活気溢れる街並みが背後に映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

#6―絶体絶命のpandemic!?―

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:CENproduction

 

 

 

 一段一段昇るごとに鳴る靴音に合わさるように口笛が階下から聞こえてくる。

 その音は最近よく街頭で聞くことの出来る流行の楽曲で、それを口ずさむ人がいるのを見ればそれもまた宣伝として成功しているということだろう。

 

「おはよーございまーす!」

 

 それはあくまでも出社したというポーズでしかないわけであるが、朝一番の挨拶というものに気合が入っているのには違いない。

 

「プロデューサーもおはよー!」

「ああ、コンディションはいいみたいだね」

「フッフッフ! ベストコンディションを維持するのがプロですから!」

 

 軽くおどけてみせる未央。それに満足そうに頷く黎斗。

 

「プロだというならスケジュール管理もしっかりしてほしいものだけどね」

 

 黎斗の言葉に未央はぎこちない笑みを返した。

 

 

 

 アイドルとして順調に動き始めている未央は、駆け出しというには十分すぎるほどに仕事を充てられていた。

 つい先日も雑誌のモデルとしての撮影、先週はドラマの端役、先月に至っては満員御礼の舞台に立っている。コネクションの少ないプロデューサーと駆け出しアイドルにしては仕事量が見合っていないというほどに勢いに乗っている状態であった。

 

「インタビューで何を喋るかを考えながら歩いていた、というところだろう?」

「うっ、その通りでございます」

「昨日の打ち合わせに沿ってすればいい筈だが」

「そうは言ってもですねー色々喋りたいこともあるもんですよそりゃ」

 

 今日もまた、朝一番に仕事が入っている。

 週に一度のペースで刊行されるアイドル雑誌”どっとっぷMG!”に記事を作っていただけるということで取材が予定されている。

 向こうから仕事の話が舞い込んできたのはいい傾向だが、それ以上にアイドルとして認められるだけの活躍が目に入っていたというのは彼らにとってもいい報告となった。

 アイドルたちにとって売れっ子だとか駆け出しだとか、そこに明確な基準は無い。

 ライブで箱が埋まるだとかチケットが一瞬で完売するだとかの一定の基準はあるがそれは売れているからこそできる判断方法で、売れ始めのアイドルがそれを基準になどできるはずがない。

 だからこそ取材が来るだとか仕事が月にいくらあるだとかの判断になるわけで、これでようやくアイドルとして本田未央が認知されだした確証を得たというわけだ。

 

「今日は先方が遅れるという話を貰っているからまだ時間はあるが、慌しく準備するのも気分が悪いだろう」

「ま、まあね……」

「前もって準備できるに越したことはない。次からはそのところを気にして動きたまえ」

「はーい……朝からビミョーにテンション下がるなぁ………」

「まあ、スケジュール管理なんて完璧な仕事をすれば巻き返せるのだから気にする必要はない。準備できれば仕事の完成度が上がる可能性があるというだけだからね」

「あー? そういう話だったの?」

「そういう話さ」

 

 要領を得ないというよりもはがらかすように語る黎斗に、いつも通り納得がいかない未央だった。

 

「そういえば、遅れるってどういうこと?」

 

 黎斗の言葉に気がついた未央は尋ねた。

 

「記者の出社が遅れているらしくてね。こっちへ直接来て貰うように計らってくれたらしいからもう少しで来るらしいが」

 

 黎斗は遅れたということに特に興味を示した風はない。

 ただ、タイミングが良かったとでも考えているようだった。

 

「記者って忙しいイメージあるし大変なのかな?」

「なんにせよ慣れているはずだろうに」

 

 黎斗自身も大企業のCEOとしてあちらこちらと立ち回っていた時期もあり、そういった内部の事情について多少の覚えはあるらしい。

 ただ彼の記憶に残っているのは、忙しなく走り回る彼らを見て同情することもなく「十二分に宣伝してくれ」と言い放った記憶くらいだが。

 

「……なんか音がしなかった?」

 

 ふと、未央が呟いた。

 

「どんな音だ?」

「んー、なんか、物が落ちる音?」

「資料室で何か落ちたのかもしれない」

 

 席を立った黎斗が、入口脇に備えられた資料室の扉を開けた。

 それほど広い部屋ではないそれをちらりと見た彼は、未央に振り返り首を振った。

 

「違うな」

「じゃあ外?」

 

 デスクに戻る黎斗と入れ替わるように外へと出ていく未央。

 扉を半開きにして首だけを外に出した未央は、声を上げた。

 

「プロデューサー!」

 

 扉を開ききり、外へと躍り出た未央がもう一度声をあげる。

 

「誰か倒れてる!」

「こんなときに……」

 

 はた迷惑な輩だと、黎斗はため息を吐いた。

 黎斗が外に出ると、踊り場には女性が倒れていた。

 息が荒く、何かに耐えるように眉を顰める姿がどこか痛々しかった。

 

「これは……ウイルスか」

 

 屈みこむ黎斗の目線は一点に定まっている。

 首筋にじりじりと橙色のノイズのようなものが走ったそれ。

 面倒事でしかないそれを見た黎斗は、もう一度ため息を吐いた。

 

「プロデューサーがやってあげたら?」

「桜庭先生を呼びたまえ」

「目の前にいるのに?」

「私は医者ではないと何度言ったら……いや待て」

 

 立ち上がろうとした黎斗がもう一度彼女のそばで屈んだ。

 同じ場所をもう一度じっと見つめる黎斗。

 その視線の先、患部とも呼べるそこにあるのは橙色のノイズ。だが、さらに黎斗が注視しているものは、彼にとってより見慣れたものだった。

 

「?」

 

 患部にてうようよと蠢くそれら。

 じっと見なければ分からない程度であるが、間違いない。

 バグスターウイルスだった。

 

「気が変わった。中に運ぶとしよう」

「な、なに? どゆこと」

「そっちの肩を持ってくれ」

 

 倒れこむ女性の腕を肩に回して黎斗は立ち上がった。

 

「話を聞かないなあ……」

 

 何一つ理解していない未央も、それにつられるようにもう一方の肩を持った。

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

「で、説明してくれるんだよね? プロデューサー」

「それくらいはしようじゃないか」

 

 ソファに横たわった女性を横目に未央は黎斗を詰めた。

 

「私が見せたガシャットは覚えているかな?」

「黒いのと青いのと黄色いのでしょ」

「おおむねその通りだ」

 

 

「ガシャット内にはそれぞれ別々のバグスターウイルスが内包されていてね。そのウイルスと患者のウイルスが反応してコンバート、つまりは治療が可能になる」

「へー、そんな風になってたんだ」

「それは本題ではないがね」

 

 自分の開発した技術は今ここで気にすることでもないと、黎斗は話を切り替える。

 

「最初に言っておくと、その患者に感染したウイルスはNウイルスではない」

「てことは、バグスターウイルスっていうこと? でもそれっておかしいよね」

「だからこそ問題なのだ」

 

 黎斗の視線は一段と鋭いものとなった。

 

「本来この世界で発症する筈がないウイルスがこうして現れている」

 

 ウイルスの病原体を持っているのは檀黎斗、九条貴利矢、桜庭薫の三人だけである。

 桜庭に至っては体内の抗体によりウイルスが効果を発揮することはないし、残りの二人はウイルスの効果を抑制する能力を持ち合わせている。

 彼らが確認できる限りにおいては、ウイルスが発症することなどあり得ないのである。

 黎斗が思い描いたシナリオは続けて語られていく。

 

「君は知らないだろうが、私は以前にもガシャットを作成している」

「貴利矢さんが持ってたやつでしょ」

「それとも関係している」

 

 

「私がこの世界に来た理由は未だに不明なのは今は置いておくにしても、私の復活に必要なのはオリジンガシャットとドライバーだけだ。

 他のプロトガシャットは必要としていない」

 

 貴利矢が持っていた「爆走バイク」と「ジェットコンバット」のプロトガシャットがこの世界に存在している理由が黎斗には分からなかった。

 オリジンガシャットがある以上、すべてがこの世界に持ち込まれてしまったと考えるべきだろうが、それの必要性について彼が思いつく理由はなかった。

 

「それなのに九条貴利矢はプロトガシャットを所持している。それはつまり、どこかに残りのプロトガシャットがあるというわけだ」

 

 奇跡的に貴利矢が持ち合わせていたわけではないらしく、彼自身もそれの発見はあくまで偶発的なものであったらしい。

 

「あー……、繋がった」

 

 未央の思案顔が、引き締まった。

 

「見つかってないやつに入ってるウイルスがこの人に感染したってことか」

「さらにもうひとつある」

「おい! 檀黎斗はいるか!」

「あっ」

 

 事務所への乱入者に目を向けた二人だったが、黎斗はすぐに向き直った。

 

「貴利矢先生か……事態は把握している。今は君の相手をしている場合ではない」

 

 詰め寄ってくる貴利矢を黎斗は軽くあしらう。

 

「続きを話すとしよう」

「っと! 無視すんなっつの!」

 

 面倒だといわんばかりに黎斗が顎をしゃくりソファを見せると、思いつめたような貴利矢の表情がさらに険しいものとなった。

 

「ガシャットはそれ単体で放置されたからといってウイルスが漏れ出すということはない。同様に破壊された場合も内部で自動消去機能が働くので事故的にウイルスが散布されることは無い」

 

 事故的に。

 ともなれば、導かれる結果は一つだけだ。

 

「ってことは――」

「ああ。誰かがばら撒いてやがる」

 

 最悪のシナリオが、出来上がっていた。

 

「そんなの……テロと変わらないじゃん!」

「だから止めるんだよ。どこの誰かは知らねえけどな」

 

 貴利矢は小さく舌打ちをした。

 

「私も犯人を捜すとしよう」

「プロデューサーも?」

 

 未央は意外そうに首を傾げた。

 

「ガシャットの不正利用は許されない……!」

 

 別に、黎斗にとっては誰かがウイルスに感染したことなど大した興味もない。加えて、ガシャットが余分にこの世界に現れたことも特段気にするものでもなかった。

 だが、彼にとっては、自分のゲームが与り知らぬ場所で私利私欲のために何かに利用されているというのは我慢がならなかった。

 

「自分は先生と協力して患者から話を聞いてみる」

「ついでにこの患者も連れて行きたまえ」

「どうやってだよ」

「タクシーでも使えばいいだろう」

 

 貴利矢を無視して黎斗は事務所を飛び出していく。

 いきなり現れた貴利矢に未央が「どうする?」とでも言いたげな視線を飛ばすが、貴利矢は苦笑するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:ruins

 

 

 

 天が何層にも積み重なった暗雲に埋め尽くされた頃。

 町外れの廃屋で屯する影があった。

 

「魔の微笑みに讃えられたようね」

 

 優雅に紅茶を嗜むその姿は、どこか異界の者を髣髴とさせた。

 

「貴様は上手くいくと思っているのか」

 

 柱を背に男は腕を組んでいる。

 

「賽は神の意のままよ」

 

 わからない、それが彼女の率直な意見である。

 しかし、彼には見えているものがあった。

 

「どうにも上手くいくとは思えんな」

 

 ガシャットを使った集団感染。それは過去に自分が行使した作戦である。

 事の顛末は彼も知っている通り、自身の消滅とともに解決されている。

 彼我の戦力差は未だ以って不明であるが、ライダーシステムを使用した痕跡が残っている以上、戦いになることは必至である。

 そうなれば、ドライバーの製作者――檀黎斗と敵対することになる。

 パワーバランスを決定できる彼がいるのなら失敗する可能性が高いのは、彼の評する通りであった。

 

「それでもよい」

 

 それさえも、彼女は気にした様子はない。

 成功も失敗も、彼女にはまったくもって関係がないという風に。

 

「円卓の騎士が欠けようとも我らが聖戦は終わらぬ」

「奴も仲間だろう」

 

 同種であるはずの者が消滅しようとも彼の心に浮き沈みがあった記憶はない。それだというのに、自身が仲間という言葉を吐いたことが可笑しく思えた。

 

「貴殿も我と変わらぬ業を背負いし者だろう」

「訳のわからんことを」

 

 何を理解したつもりでいる、と吐き捨て彼女に背を向けた。

 

「俺にとって最も必要とするものは闘争、そう言ったはずだ」

「左様。友誼も契りも我等には必要がない」

 

 理解しあう必要はないのだと、彼らに繋がりはないのだと、その言葉が物語る。

 

「ならば好きにさせてもらうぞ」

 

 そのままに、男は闇に消えていく。

 結局のところ彼にとってこの関係は利害によるものでしかない。

 自身の望みが果たされるかどうか、それだけが彼の求めるものなのだから。

 一人となったその少女は、空になったカップをテーブルに置いた。

 かちゃりとぶつかった金属音は空しく響いた。

 

「友とは――如何様なものであろうか」

 

 その声は、誰にも聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

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