Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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もう#6はアイドル関係ないんでタグ詐欺とか言われそう


#6-4

 

 

 拓海の対するバグスターは怪人態について回るだけの存在にも思えるが、なんの対抗策も持たない人にとっては脅威となりうる。

 

 それを多勢に無勢でありながらも――バグスターを倒しうる決定打がないながらも翻弄し続けるその様は一騎当千の闘いを髣髴とさせるものだった。

 

 迫る拳を瞬時に見切り懐に入り背負い投げて別のバグスターへと投げつける。

 

 隙のできた横っ腹に迫る刀を飛び込みの要領でくぐり抜けて目についたバグスターを腕と体のバネで跳ね起きて足を首に巻きつけ、重力に任せてJ・Sの要領で頭から地に叩きつける。

 

 立ち上がるついでに側頭部を蹴り追撃する。

 

 走りながら向かってくる者はカウンター気味に顔面を殴ってふらついたところを掴んで他のバグスターに投げつける。

 

 

「取柄は頑丈なことだけかァ!」

 

 

 戦い慣れしている拓海からすれば拍子抜けな相手だった。

 

 一般人からすればワケのわからない妙な生き物でちょっとしたモンスターのようなものだが、覚悟を決めて「ぶん殴る」と考えている拓海には見た目は大した問題ではない。

 

 まともに避けることもしない、攻撃は単調、連携による攻撃なんて一度も見せていない、そんな頭の悪い敵が束になったところで拓海には効果はない。

 

 勿論殴り続けているにも拘らず一体も倒れていないのは拓海にとって苛立ちを募らせる問題であった。

 

 その問題を解決できるのは敵の親玉である怪人態のバグスターを倒せばいいのだが、

 

 

「いつまでやってんだ!」

 

「無茶を言うな!」

 

 

 先のユニオン態での活躍ぶりは鳴りを潜め、不利な状況に陥っていた。

 

 

「もう少しで敵の行動ルーチンが割り出せる! それまで待っていろ!」

 

 

 桜庭――仮面ライダービコーズの戦闘スタイルは、敵バグスターがただのAIであることを利用した戦法だ。

 

 バグスターに意識はあるもののゲームウイルスとして患者から引きすりだした以上ゲームキャラクターである。

敵対MOBには必ず弱点というものがあり、それを的確に突くことでウイルスの除去を行なっていた。

 

 ゲームならば死に覚えができるかもしれないが彼が行なっているのは命を賭けた医療行為。

自分が死ぬことも許されないし、患者を治験と称して見殺しにすることなんて以ての外だ。

 

 結局、桜庭が行き着くのは戦闘中に攻略法を見つけるという手間のかかる手段であった。

 

 

「待てるかよンなもん!」

 

 

 それを拓海が待つ筈がない。

 

 手近なバグスターを放り投げながらバグスターの間を抜けて桜庭の下へと辿り着くと、

 

 

「選手交代だ! 代わりに片付けてろ!」

 

 

 飛び上がり桜庭の肩を踏み台にしてカイデンバグスターの顔面に膝蹴りを放った。

 

 頭部を蹴られた衝撃に数歩下がったのを見て拓海は桜庭へと振り返る。

 

 

「そっち、すぐに終わらせてこい。それまでアタシが相手しててやる」

 

「こっちはもう少しなんだ。自分の言ったことくらい守ったらどうだ」

 

「サンドバッグ殴ってるみてーでイライラしてくんだよ!

 あんなのいつまでも相手してられねえっつの!」

 

「自分勝手でうるさいやつだ……」

 

 

 桜庭は背を向けガシャコンハチェットの柄を引き伸ばす。

 

 

「十五秒で片をつける」

 

「頼むぜ」

 

 

 カイデンバグスターが二対の刀を構えたのを見て拓海も拳を構え、二人は同時に駆け出した。

 

 拓海が地を蹴った瞬間、カイデンバグスターも動き出す。

 

 まっすぐに迫る拓海へ向けて突きを放つ。それを拓海は頭をずらして避けるも彼女の長い髪が数本切り落とされた。

 

 突いた刀を引き戻さないままにもう一本の刀で逆袈裟に切り払う。

 

 それを、脇を通り抜けるような軌道で飛び込んで、刀をくぐり抜ける。

 

 がら空きになった胴――を狙うことなく、拓海は飛び込みざまに足を背面側に振り上げ、ぐいんと伸びた足がカイデンバグスターの顎をかち上げた。

 

 

「もういっちょ!」

 

 

 効き目を見ずに跳ね起きて背後を取り後頭部を蹴って間合いを取った。

 

 刀の間合いから抜け出した拓海はバグスターと向き合うと舌を鳴らした。

 

 

「分かってても凹むんだっつの、こっちはよ」

 

 

 視界の端で桜庭の姿を捉えながら拓海はもう一度拳を構えた。

 

 件の桜庭は黙々とバグスターを処理している。

 

 向かってくる敵だけを叩き切り、深手を負った敵を追って攻めるのは後回しにしていた。

 

 目にした敵はそれぞれ一太刀ずつ浴びせたところで、ちらりと見た拓海の姿に小さく息を吐いた。

 

 

「喧嘩慣れというよりは動物のそれだな」

 

 

 自分で定めたリミットを守るため、桜庭はドライバーに刺さっていたガシャットをハチェットのスロットに差し込む。

 

 

 

 

 

【KIMEWAZA!】

【MEGGLE CRITICAL SLASH!】

 

 

 

 

 

 

 柄の先端を両の手で握り締め水平に構えると自分を目として一帯を切り裂く。

 

 取り零しを確認することなく桜庭はカイデンバグスターに向けて武器を構えた。

 

 

 

 

 

【ZU-BAN!】

 

 

 

 

 

 

「離れていろ!」

 

「嘘だろオイ!」

 

 

 桜庭が遠巻きに叫んだ姿を見て何かを察した拓海は一も二もなく横に飛んだ。

 

 振り下ろした斧から飛び出した衝撃波は不意を突かれたカイデンバグスターを吹き飛ばす。

 

 

「怪我はない様だな」

 

 

 予想通りの結果に満足げに近づく桜庭が地を転がった拓海に言った。

 

 

「二人になるところだったぞォ……!」

 

「生身で化物と戦える人間なら避けられると思っただけだ」

 

「馬鹿にしてんのか!」

 

「一応褒めているつもりなんだが」

 

 

 言い返すのをやめた拓海から目を外してバグスターと向き合った桜庭はハチェットの柄を縮め肩口に構えた。

 

 

「後は僕がやる」

 

「倒し方わかんねえんだろ? あたしが手伝ってやる」

 

 

 服についた砂利を払いながら立ち上がった拓海は手の平を拳で叩き戦意を露にした。

 

 桜庭にしてみれば邪魔なことこの上なかったが、一連の会話を思い返した桜庭には言い包めて眺めさせておけるビジョンが見えなかった。

 

 

「背面から隙を作れるか?」

 

「できねえなんてあたしは言わねえぞ」

 

「二人同時とは……刀の錆にしてくれる!」

 

 

 擦り合わせた刀が金切り声を上げた。

 

 突然口上を述べたバグスターに拓海は視線を外すことなく桜庭へと言葉を投げる。

 

 

「こいつ喋んのかよ」

 

「今までのは言語を使う様子はなかったが……獣人よりは知能があるということらしいな」

 

「今更だろ」

 

「なんでもいいが、な!」

 

 

 武器を前に突き出したままに桜庭はバグスターへと迫った。

 

 牽制で振るわれる刀を受け流しながら間合いを詰めていく。

 

 追随する拓海が回り込み、刀の間合いから一歩分だけ離れた背後を取り拳を構える。

 

 カイデンバグスターの重心が後ろに傾いた瞬間、拓海が一息に近づき後頭部に肘を撃つ。

 

 

「ドラァッ!」

 

 

 続けざまに腰を蹴る形で元の間合いへと戻る。

 

 

「隙だらけだ!」

 

 

 拓海により一歩前に動かされたカイデンバグスターが桜庭により袈裟懸けに切りつけられる。

 

 

「ぐうっ……卑怯な!」

 

「喧嘩か決闘のつもりかよ!」

 

 

 桜庭の有効打を追ってバグスターの手首を拓海が蹴り飛ばし、その手に握ったものを吹き飛ばす。

 

 返す刀で振るわれた桜庭のハチェットがバグスターに傷を増やした。

 

 

「リスクは極力少なく。当たり前だ」

 

 

 

 

 

【ZU-BBBAN!】

 

 

 

 

 

 三重に飛来した斬撃がその肉を抉り、カイデンバグスターに片膝をつかせる。

 

 

「オペは迅速に、だ」

 

 

 ガシャットをハチェットのスロットに差込み、柄を伸ばして上段に構えた。

 

 

 

 

 

【KIMEWAZA!】

【MEGGLE CRITICAL SLASH!】

 

 

 

 

 

 

 気合一閃に振り下ろされると共に、背丈ほどもある光刃がバグスターへと迫った。

 

 それを、バグスターが腰溜めに構えた刀で、居合い抜く様に向かい撃ち衝突する。

 

 その場に留まって耐える姿を一瞬見せたが、刀を弾かれると共にその瞬間光刃に切り伏せられる。

 

 前のめりに倒れたバグスターは爆炎に巻き込まれ、軽快なファンファーレに飲まれていく。

 

 変身を解除した桜庭に近づいた拓海が口角を引き上げつつ桜庭の背を叩いた。

 

 

「ひょろい医者だと思ってたけど、やるときゃやるんだな」

 

 

 それを鬱陶しそうに眉を顰めた桜庭がため息を吐いた。

 

 

「君こそ人というよりは獣だな」

 

「ぜってー馬鹿にしてるだろソレ!」

 

 

 後ろで叫ぶ拓海を無視して桜庭は事後処理を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウイルスの発生源である患者を診察する桜庭を、拓海はベンチに腰を下ろしながら眺めていた。

 

 

「お嬢さん」

 

 

 聞き覚えのある声に拓海は振り向いた。

 

 

「さっきの爺さんか」

 

「そんな風に言われるなんて私ももう歳なんですかねえ」

 

「まあ兄さんって見た目じゃねえな」

 

「まだ娘も独り立ちしてないしてないんですがねえ」

 

「最近よくある晩婚ってやつか?」

 

「若いときはそれは……あなたに言った通りの日々でしたので」

 

「後悔してねえならいいだろ」

 

「言うようになりましたねぇ」

 

 

 拓海の隣に座った男は話を区切り、居住まいを正した。

 

 

「本当に申し訳ない」

 

「……気にしてんのかよ」

 

 

 体を捻り頭を下げたのを見た拓海は、先の会話を思い出した。

 

 警察官。

 

 この男は子供を守ったときそう言った。

 

 市民を守るのが仕事であり信条であると考えているであろうのはわかっていたが、それが自分にも適用されているということだろう。

 

 それを含めての謝罪の言葉。

 

 拓海からすれば些細なことだが、彼にしてみればそれだけ見過ごせないことだったのだろう。

 

 

「本当なら残るべきは私でした」

 

「それはあんたが仕事だったらだろ?」

 

「いえ。非番であっても私は警察官の一人です」

 

「……そうかよ」

 

 

 彼の言葉がわからないわけではない。

 

 自分にはわからなくてもその志を秘めている人間は拓海も目にしている。

 

 それは現に、目の先で患者を診ている桜庭や犯人を探している貴利矢のことだ。

 

 桜庭の込み入った事情は知らされていないが、これらが医者としての仕事から離れてしまっているのは理解している。

 

 貴利矢にしても、今は医者ではない。

 

 それでも、一人の医者として罹った患者を治療しようと今も尚奮闘しているということは拓海でさえも知っている。

 

 そこに面倒な理屈なんてない、固い意志だけが残っているということも。

 

 

「だけどわかるだろ? あんたよりアタシの方が向いてる。

 あんた言っただろ、自分にできることをしろって。だからアンタだってあのガキ連れて避難したんだ」

 

 

 気持ちを否定したいわけではない。

 

 簡単に割り切れない内容だからこそこうして彼が頭を下げているのだ。

 

 

「アタシが残って皆が無事だった。それで終わりでいいだろ」

 

 

 だけどそれだけで納得するはずがない。

 

 何年も自分の感情と戦った人間がおいそれと割り切れるようには思えなかった。

 

 

「だからこっからはあんたらの仕事だ」

 

 

 ならばと、拓海は男の感情を汲んで話を持ちかけた。

 

 

「さっきみたいな化物を倒すのはあそこの先生とかみたいな特別なやつらしかできねえ。だけど人手が足りねえ。だからあたしみたいな人間が手伝ってる」

 

「私どもに手伝って欲しいと?」

 

「まあ手伝ってもらうのは人探しとか避難とかだけどよ」

 

 

 割り切れないのならば、割り切れる理由を作ればいいだけだ。

 

 

「アタシらに周りを気にするだけの余裕は多分もう無え。原因を叩けば終わるが、アタシらじゃ人手が足りない。

 解決する力があっても、そこに辿り着くだけの力が無い」

 

「それがしてほしいことだと?」

 

「餅は餅屋って言うだろ? あたしらにできないことをあんたらならできる」

 

 

 実のところ、彼の心情を汲んだものではない。

 

 拓海が守るべき市民の一人として扱わないということになりかねない話である。

 

 それでも、守るべき市民を守る理由が作れるかもしれないという可能性を汲んでくれる可能性に拓海は賭けることにしていた。

 

 

「わかりました。乗せられましょう」

 

 

 それを含めて、男は了承した。

 

 

「わたしにできる範囲で掛け合っておきます」

 

「助かる」

 

「餅は餅屋、らしいので」

 

 

 飄々とした笑みを浮かべる男に、拓海は鼻を鳴らした。

 

 

「そういえば、族は辞められたんですか?」

 

「ハアァ!? なんであんたが知ってんだよ!」

 

「いえ、私の後輩がですねえ交通課なもので。この前追い回したときは見なかったとかで」

 

「つっても神奈川だぞ!」

 

「世間は思ったより狭いものですよ」

 

「そりゃ隣町だけどよ……」

 

「それで、結局どうなんですか?」

 

「噂通りだっつの」

 

「それはそれは、面白い話が聞けなくなりそうで寂しいですねえ」

 

 

 残念がる男にほんの少しの苛立ちを感じたが、それはすぐに霧散した。

 

 拓海にとって族として集う意味は、国家権力に楯突くということとは関わりがない。

 

 

「安心して走れるなら族なんて要らねんだけどな」

 

「それも伝えておきましょうか?」

 

「それはこっち側の都合だから気にすんな」

 

 

 安心して――つまりは、仲間を守っていくための理由があそこにあって、それは身勝手な自分達側の理由でしかない。

 

 

「あたしは守りたいものが守れれば、それでいい」

 

 

 身勝手な理由で振るった拳の痛みは今でも覚えている。

 

 その痛みは今も続いている。

 

 

 

 




・仮面ライダービコーズ
 桜庭薫が『メグルラビリンスガシャット』にて変身したライダー。初登場からだいぶ経ってやっと名前が出てきたが多分変身者の名前で言ったほうが楽なので本編ではあんまり書いたりしない。通常兵装はガシャコンハチェット。名前の由来は桜庭薫の個人楽曲より。

・警察官
 仮面ライダーにて登場した警察官の一人。この世界では機械生命体もいないので本庁勤務のただの警察官。つまり○岡○太郎。

・爆走Xバイク
 檀黎斗が開発した爆走バイクのフルリメイク作品。破壊妨害なんでもありのレースゲーム。爆走バイクでは物足りないと感じていた部分をボリュームアップしたもの。作品のイメージはGCで発売された頭のおかしい名作レースゲームでお馴染み『カービ○のエ○ライド』。

・仮面ライダーレーザー
 黎斗と同じくバグスターとして復活したのにレベルゼロでないのは、自信のデータが入ったガシャットを使って変身していないため(という設定の下書いている)。じゃあプロト爆走バイクガシャットがあればレーザーターボになれるのかと言われても黎斗が回収するので関係ありません(辻褄合わせ)。



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