Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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戦闘パートです。






#2-3

stage:garden

 

 

 

 

 鳴り響いた起動音。

 MEGGLE LABYRINTHと書かれた半透明の映像が檀黎斗の後ろに浮かび上がる。

 

「えっ!? なにそれ! すごっ!」

 

 黎斗を中心として球形に広がった藍色の波紋のようなものが彼女を通り抜ける。

 空間が書き換えられるような感覚に驚くことしかできないのか、本田未央は騒ぎ出す。

 だがその騒がしさもほんの一瞬。

 

「うっ――」

 

 突如として呻き声をあげ、自らの頭を抱えるようにして倒れる。

 それだけではない。

 今まで落ち着いていた症状も激しさを増し、じりじりと体を走るノイズは次第に数を増やしていき――

 

「あっ、ああっ、あああああああああ!」

 

 膿を吐き出すように体から湧き出したそれらはふつふつと膨らみ異形へと生まれ変わった。

 茶色に濁った三メートルにも及ぶ巨人。

 いや、むしろゴーレムといったほうが適当であろうか。

 楕円に膨らんだ頭部と末端をつなぐ団子状に連なった腕足。

 半球状の足先は地を踏み荒らし芝を削り取る。

 球状の手は全てを叩き潰すという意思を持った鉄球の様。

 湧き上がる危機感。

 身を脅かす恐怖。

 異形の怪物の誕生を目撃した人々が金切り声を上げ蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく。

 

 ただ一人、檀黎斗を除いて。

 

 怪物が地を叩き割り木をなぎ倒そうとも一歩も引くことなくガシャットを目線の高さに構える。

 握るのをやめればからりと半回転しプラグが下を向く。

 

「変身」

 

 ドライバーにガシャットが差し込まれた。

 

 

【GASSHAT! Let's game! Meccha game! Muccha game! What's your name!?】

 

【I'm a Kamen Rider】

 

 

 仰々しく騒がしい声とともに彼は装甲を纏う。

 藍色と白に彩られたプレートメイル調の装甲。

 デフォルメされた瞳と胸元にでかでかと描かれたゲージが目立つ三頭身。

 握っているのはその図体に似合わない片手斧。

 ずんぐりむっくりとした見た目は相対する怪物と見比べてみても強さを連想させるようなものではなかった。

 

 影。

 

 いつの間にやら彼の目の前で腕を振り上げた怪物の影が彼を覆っている。

 

「ハアッ!」

 

 それを、寸でのところで横に躱し勢いそのままに化物を中心に円を描くように走り抜ける。

 その姿を捉えた怪物は追って体を反転させる。それに引かれるように一拍遅れて腕が追従する。

 ぶうん、と風を切る音は死の予感を感じさせはするが、それが聞こえるということは何にも当たることなく通り過ぎたことを意味する。

 質量と速度を持った一撃。

 木々をなぎ倒し地面にドーム状の跡がつくほどの一撃。

 空を切った腕がそれほどの勢いを殺すには体をねじりバランスをとらざるを得ない。

 その一瞬。

 バランスをとるために伸ばされた逆側の腕が彼の握りしめた手斧に切り払われる。

 輝くシステムエフェクトが空中に扇形を描く。

 その一撃が合図とばかりに彼の猛攻は始まった。

 ぐわんぐわんと振り回される腕も叩き均すように振り下ろされる脚もぎりぎりのところで避けていく。

 滑り込むように股を潜って背面へ。

 鎌のように振るわれる腕から逃げるように空へ。

 懐に飛び込み三角跳びでリーチの外へ。

 妙手の存在しない化物を嘲笑うかのように避け続け、攻防一体避ける片手間に手斧が振るわれ空中に軌跡を生み出していく。

 一撃。

 また一撃。

 ヒットアンドアウェイを繰り返すうちに怪物の一撃は次第に勢いを失っていく。

 血気盛んに破壊を行なっていたはずが、慣性に任せて振り回される腕に重心を取られるほどの鈍さを見せ始めた。

 

 その機を逃すほどの彼ではない。

 

 振りかぶった腕に一気に駆け寄り初動に合わせて手斧の腹でそれを受け止めた。

 仰け反ることもなく易々と受け止めたそれを流すように上方に軽く弾き返す。

 黎斗をぎりぎり避けるような軌道で薙ぎはじめた腕は直下に影を作っていく。

 その真下。

 今にも腕が通り過ぎようとするその真下。

 彼は体をねじって力を溜め、

 

「フンッ」

 

 振り上げた手斧が腕をかち上げた。

 思いもしない一撃に怪物の腕が弧を描き稼動域を抜け出して背面へと引っ張られる。

 腕の重心が外に移動したことでバランスを崩したたらを踏むのを彼は見逃さない。

 一呼吸もなく駆け寄ると、

 

「ハアアッッ!」

 

 股から胴を抜け頭へ、跳びざまに縦一閃手斧が振り抜かれた。

 慣性に従い宙を舞う黎斗が見たのは右と左の二つに切り分けられた怪物が膝を折る姿。

 力なく前のめりに倒れ、ずずんと腹の奥にのしかかるような音が辺りに響く。

 

「これではチュートリアルにもならんな」

 

 横たわったそれを見る彼の手元は手慰みにくるくると手斧が回されている。

 

「■■■■■――」

 

 怪物の悲鳴か怒声か言葉にもならない音が耳を劈き窓ガラスをがたがたと揺らす。だがそれが、終わったかに思えた戦いを次のステージへと進ませた。

 分断された怪物に突如として異変が起きはじめる。

 一つは元の形を失いはじめ段々とウイルスが薄れはじめ。

 一つは形を失いはするものの、欠け落ちた体が寄せ集まるように人型に近い何かに変貌していく。

 

「エネミーのモデルデザインも想定通りか」

 

 彼の見つめる先。

 赤茶けた異形の怪物から生み出されたのは、黒々とした毛皮を纏い猛々しい角を二つ携えた人型の何か。

 それはこの世にあるとは思えない化物。人型であり二本足で立ち地を踏みしめるそれはまさしく人であるようにも思えたが、隆々と盛り上がった胴に握り拳を作るのは六本の指。そしてなによりもその面は、獣。修羅に身を落とした猛獣がぎらぎらと殺意の篭った瞳で射殺さんばかりに黎斗を怨敵と見定めていた。

 

「■■■!!!」

 

 地を蹴り黎斗へと迫る怪物。

 ほんの数歩の距離、身を包む膨大な筋肉を駆使して迫る異形は固く握った拳を振りかぶっている。

 だがそれも、彼の薙いだ手斧が行く手を阻んだ。

 手斧を叩きつけられた腕は軌道をわずかに変え、手斧を叩きつけた反動で黎斗の体は逆にずらされる。

 

「■■ー!?」

 

 さらに一太刀。返す刀で胴に一閃。

 呻くような声を漏らしながらも攻撃を抑える様子もなく、振り返る勢いを利用した拳が彼に迫る。

 ほんの一瞬、バランスを崩した黎斗をタイミングよく狙った拳。

 それをぎりぎり、引き戻した手斧の腹で受け止め、勢いを殺すように後方に跳ねる。

 完全には衝撃を殺しきれなかったのだろう、バックステップで距離を取る彼の胸元のゲージはほんの少し目盛を削られていた。

 

「……ダメージもスピードも想定ほどではないな」

 

 手斧すら構えず呟く。

 今の一合、たった二、三度の斬り合い殴り合いも彼にはデータとして蓄積されるのだろう。殺意の篭った一撃がその身を狙っているとしても彼からすればこれはゲーム。暴力的な殺意の応酬であったとしてもゲームの域は出ない。

 たった数歩で迫ったその瞬発力も。

 彼を吹き飛ばした拳の威力も。

 どうしたってそれはゲームで、デジタル。

 目に見えずとも決められたパワーは彼を潰すには威力が足りないし、高速で繰り出される突きも避けられないほどではない。

 

「貴様は用済みだ」

 

 手斧を左手に持ち替え、右手でドライバーのレバーに触れ――

 

「グレード2」

 

 レバーを弾いた。

 

 

【Gaccha! Level up!!!】

 

【―――――MEGGLE LABYRINTH!】

 

 

 彼の身を包んでいた装甲は消え、頭身が変わった。

 三頭身ほどすらなかったのが人型、七頭身ほどに。

 デフォルメされていた甲冑風の装甲は細部にも意匠が施されている。

 それでも描かれた双眸は依然として変わらず、敵を見据えていた。

 

「貴様は削除する」

 

 右手に握り直した手斧を肩上に構え地を蹴り、第二幕が始まった。

 互いが間合いに入った瞬間、同時に力が振るわれる。

 袈裟切りに振り下ろされる手斧。

 迎え撃つように繰り出される拳。

 ぶつかりあった拳と刃が不快な金属音を発し鍔迫り合う。

 

 だが怪物の攻撃はそれで終わりではない。

 巨躯から繰り出されたのは腕一本分の拳。まだ、片腕が残っている。

 残った腕が彼の武器に伸びる。

 互いが拮抗するパワーを持っているとしても素手では分が悪い。逆を言えば武器を奪ってしまえば形勢は容易に傾くような状態。

 その程度考えないわけがない、とでも言うように踏ん張るのをやめてバランスを崩しながらも押し飛ばすような蹴りを放つ。

 勢いを利用して後方へ跳び巨椀のリーチから外れると、すぐに駆けた。

 間合いを詰め、剣戟の届く距離に迫る。

 抉るように放たれた拳を躱して一太刀。

 横から迫る拳を身を引いて回避。

 伸びる拳を避けながらも一太刀。

 いたってなんてことはない攻撃と回避。奇手妙手の入る余地のない変わらない一手。

 だがそれとて当たり前だ。

 初撃での鍔迫り合い、怪物は片手間に反撃を繰り出している。それだけで彼我の筋力差は目に見えている。

 受け止めずに戦う。

 なんてことはなく当たり前の選択、然るべき戦法。

 彼を狙った拳撃が乱れるまでの消耗戦。

 一手一手を慎重ながらも大胆に、体力を削れるだけの威力をぶつけ続ける。ただ、それだけ。

 ただそれだけであり、ただそれだけだからこそ技術の差が出る。

 闘志と殺意にまみれた獣の怪物にはそれだけの、それを打ち破るだけの力はない。

 

 

 

 

 受け止め受け流し、切り傷をつけ続ける。そんな戦いに変化が訪れる。

 

「ハアッ!」

 

 隙のできた胴に踏み込んだ一撃を叩き込む。

 

「■■……!」

 

 深い傷を負った化物は片膝をつき地に手をついて体を支える。

 苦しそうに呻くがその瞳は闘志に溢れ、未だ敵を打倒しようとする意志は衰えていない。

 だが、そんなもの彼には関係ない。

 ドライバーに刺さったガシャットを脇に備えられたホルダーに差し込みスイッチを押す。

 

 

【KIMEWAZA!】

 

【MEGGLE CRITICAL STRIKE!】

 

 

 跳びあがり、重力を無視するような軌道で怪物へと蹴りを放つ。

 それは一撃、一瞬に全力を込めた必殺の一撃。さっきまでの応酬では比べられる威力にない。

 逃げる暇を与えるつもりはない。

 それを感じてか、怪物も立ち上がり腕を体の前に交差させる。

 防ぎきる。

 それならば、必殺の威力を上回る力を持たない黎斗に勝機はなくなる。

 放たれた蹴りは怪物の腕に叩き込まれ、押し込まれるように後ずされば足元の土は捲れていく。

 衝撃の余波が草葉を揺らし窓ガラスを鳴らすが、それほどのエネルギーを以ってしても化物の抵抗は続く。

 だが、消耗している体で受けきれるほどの威力のはずがない。

 ほんの数瞬拮抗していたかに思えたそれも、構えた防御を突き破り怪物の体に刺さった。

 宙を舞い、後方へと飛ばされる怪物。

 地に叩きつけられた後も勢いは収まらず、地を滑っていく。

 

「■■■■■■■■!!!」

 

 最期の一撃だったのだろう。もう一度立ち上がりはしたが、力は入らない。

 糸が切れたように膝を折り、前のめりになって倒れていった。

 

 

【GAME CLEAR!】

 

 

 ファンファーレとともに怪物の体は欠け始め、空気に溶けるように形を失っていく。

 さらさらと消えていった体はもう跡形もない。

 残ったのは、激しい戦いの跡だけだった。

 

「演出が寂しい、といったところか」

 

 いつのまにやら変身を解き思案顔で呟く黎斗。

 彼の言動や行動を察するに、ゲーム開発のことでも考えているのだろう。この世に現れた異形を斃し一人の少女の運命を変えたとあっても、彼のスタンスは何一つ変わっていなかった。

 思考を打ち切り派手に転がされたジュラルミンケースを拾うと中からもう一つ謎の機材を取り出した。

 バグルドライバー。

 紫色に染めあげチェーンソーの刃のようなものがついた物々しいその出で立ちは腰に巻いたドライバーと比べても現実味を感じさせない存在感を放っている。

 それを、リモコンを扱うように何もない―正確には既に何もないが適切か―ところに向けてボタンを押す。

 すると、目に見えない何かがドライバーへと吸い込まれる。

 黎斗はドライバーに備えられた画面を見ると何事もなかったかのようにそれをドライバーやガシャットとともにケースへと仕舞った。

 

「うーん……」

 

 戦いを終え、静かになった庭で彼女が目を覚ます。

 倒れた体を起こして一息つけば、彼女の意識も徐々に戻り始める。

 

「んー、ん? ん?」

 

 違和感に気づいたのだろう、感覚を確かめるように手を開いたり閉じたり、はたまた腕を回したりとする彼女の表情は少しずつ明るくなっていく。

 

「お? おおー!」

 

 調子よさげに声も次第に明るさを増し、テンションも上がっているのか一人で盛り上がりはじめた。

 

「調子はどうかな」

 

 見下ろす形で彼女に声をかける黎斗。

 

「あっプロデューサー! なんか調子いいよ!」

「フッ。そうだろう」

 

 久し振りに見せた尊大な態度。だがそれも、この場においては間違いというわけでもないだろう。

 

「なんでそんな自慢げなのさ」

「当たり前だろう。なにせ君の体内のバグスターを削除したのは私だからだ」

「ん? どゆこと?」

 

 ぱたぱたと土埃を払いながら立ち上がる。

 

「簡単に言えば私が君の病気を治したということだ」

「えっ、でも治らないって言われた気がするんだけど」

 

 彼女が罹った病気は不治の病の一種とされるもの。

 それを一介のアイドルプロデューサーごときがどうにかできるはずがない。

 まさしく当たり前の疑問だった。

 

「そんなもの関係ない。私には神の才能があった、それだけのことだ」

「そ、そう? よくわかんないけどとりあえずプロデューサーが治してくれたんでしょ!」

「そうだ。私の神の才能に感謝したまえ」

「よっ! さすがプロデューサー! 神サマ黎斗サマ!」

「そうだ、神の恵みをありがたく受け取りたまえ!」

「ははーっ、ありがたき幸せ!」

 

 おどけるように褒めちぎる本田未央と気分よく声を上げる檀黎斗。

 芝居がかった掛け合い。

 まさかこれがこの世界において歴史に刻まれる偉業が達成された瞬間だとは誰も思うまい。

 

 

 

「そういえば、ココこんなに荒らしてよかったの?」

 

 ふと我に返り辺りを見渡す彼女。

 こんなに、というにはあまりにも酷い有様だ。

 土は捲れ青々とした庭は茶色く露出し都会であることを忘れさせるような樹木はばたばたとなぎ倒されている。

 

「まあ……あまりよくはないだろう」

「なにそれ!」

「本当は荒らさないことも可能だったわけだが、少し気分が昂っていてね」

「カッとなってやったみたいじゃん!」

「残念だが、俗に言うコラテラルダメージだと考えるほかあるまい」

「無駄にかっこいいけども!」

 

 驚き、呆れ、困惑するように一言一言に声をあげる彼女。

 とは言うものの過ぎたことは仕方ない。

 

「バグスターの内情を知らなければわからないことだ。誤魔化せばいい」

「あっ! 悪い顔してる!」

「正義に犠牲はつきものだから構わんさ」

「いやめっちゃ悪役っぽいから!」

 

 もう後始末のことを考えるのはやめた、そんな風に彼女は笑う。

 

「ここに用はない。戻るとしよう」

「ちゃんと説明しなよ」

 

 呆れたように告げ、庭の端に転がる車椅子を取りに行く彼女。

 

「そういえば、まだ言ってなかったや」

 

 ぴたりと足を止め、振り返る。

 

 

 

 

「ありがとうプロデューサー!」

 

 

 

 

 彼女は、溌剌と笑った。

 

 

 

 

 

stage select!!!

 




PS版の無印ペルソナやって液晶かち割りそうになったのは私です。


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