Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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レジ打ちは唸らないしメスは光らないです


#3-1 『光り輝くscalpel!』

stage:CENproduction

 

 

 

 

 『-Game Over-』

 

 胸元で明滅を繰り返していたライフゲージは消え去り黒一色となる。

 受け止めきれない一撃をその身に叩き込まれ膝を折り前のめりに倒れた体は靄がかかったように実体を失っていく。

 ばらばらと崩れていくパズルのように体からデータが漏れ出し大気に紛れて薄れ消えていった。

 かろうじて動かせた首を動かして自身を覆う影を睨むが、倒れ付した自身に興味を失っている姿を見てどうしようもない無力感が胸に溢れた。

 またしてもか、と心の内でひとりでに零れたその言葉は誰にも届かない。

 最後のピースが零れ落ちた時、体は散り散りとなって消えていく。

 残ったのは、勝鬨を上げる猛獣と憂うような曇り空だけだった。

 

 

 

 

 

#3--光り輝くscalpel!--

 

 

 

 

 

 

「っ、くそ……」

 

 昼下がりのプロダクションにて部屋の角に並べられたソファの上で意識を取り戻した彼は苛立ちを隠す様子もなく呟いた。

 体を起こし目元を覆うゴーグルを取り外して胸ポケットから取り出した眼鏡をかけ直す。手元で力なく揺れるゴーグルへと繋がれたコードはテーブルに置かれた騒がしく唸る機械へと延びていた。

 

「いやー、今日は惜しかったねぇ」

 

 うんうんと物知り顔で語った本田未央はソファの向かいに置かれたテレビを見ていた。

 

「惜しいも何も、成功か失敗かの二つに一つだ。どちらにしても実践なら失敗だ」

 

 端々に棘の残る物言いだが、それが逆に彼の医者としてのプライドと真剣さを表しているとも言えた。

 

「でも練習だしいいんじゃない?」

「練習だからこそだ。いつ治療が必要になるかも分からないのにいつまでも余裕のない闘いを繰り返すわけにはいかないんだ」

「焦りすぎじゃないかなぁ」

 

 傾けたガラスコップの中で氷がからりと鳴る。

 なんだかんだと自分の病気が治った彼女をしてみれば桜庭が必要以上に気負っていると思えてならなかった。

 

「もしものときはプロデューサーがいるじゃん」

「私はお医者さんごっこに付き合うつもりはない」

 

 そんな彼女の期待は当の本人により切り崩された。

 

「プロデューサーは戦わないの?」

 

 未央を治療したのは他ならぬ彼女のプロデューサーである檀黎斗であるし、それに加えて自分の開発したものへの執着を知る彼女からすれば意外ともとれるのだろう。

 

「医師でもない私が戦う必要などないだろう」

「医者じゃなくてもできるんだったらやればいいのに」

「私には戦う理由がない。ドライバーを貸し与えるだけでもありがたいと思いたまえ」

 

 ぴしゃりと言い放つその言葉は、否定というよりも拒絶に近い。

 彼の言葉に眉を寄せる桜庭と目が合った未央は、やれやれとでも言うように肩をすくめてかぶりを振った。

 

「と、言うことだ。僕が焦る理由はわかっただろう」

「プロデューサーらしいけどね」

 

 らしいと言えばらしい。自分のためだけに他者の心情を汲まない彼の姿勢はまさしく檀黎斗というものだった。

 

「そうだプロデューサー! これ私も使える?」

 

 声を張りながらテーブルに置かれたゴーグルを指差す。

 

「使えるとも」

「私もやってみていい? 遊んでみたかったんだよねー!」

「……これは玩具じゃないぞ」

 

 無邪気、というよりも無遠慮と呼べるようなそれに桜庭が反応した。

 低く落ち着いた声で異を唱えるのも、念願の治療手段の足がかりとしてこれ―VO(ヴァーチャルオペレーション)―を利用している桜庭らしいものだ。

 

「いや、それもゲームの一部であることに変わりはない」

 

 とはいえ生みの親である檀黎斗からすればゲームの一部だろう。

 勿論、仮面ライダーの性能テストのためにVOを利用したり八つ当たりで九条貴利矢をVO内でボコボコにしたりと用途は様々であるらしいが。

 

「ほら、プロデューサーだって言ってるし!」

「……ゲーム感覚でやるには刺激が強いんじゃないか?」

 

 なんだかんだとVO内でボコボコにされてる桜庭らしい言葉だった。

 

「それくらいなら設定でいじれるさ」

「だったら好きにすればいい」

 

 桜庭は立ち上がり給湯室へと消えていく。

 

「……やっぱやめとく?」

 

 たはは、と未央が苦笑いを浮かべた。

 明朗快活を体現する彼女は持ち前の明るさだけでなく他者の心情を汲み取る能力も十分に持ち合わせている。VOを日頃より利用する桜庭がお遊びでそれを利用することに躊躇いを覚えてしまっているのを、未央は少なからず感じていた。

 

「気にしなくてもいいさ。彼もそれをゲームだと一応納得しているようだからね」

「んー、そっか」

「なによりライダーシステムを利用した例が私も欲しい」

「そう? だったらやってあげよーかな?」

「是非とも頼むよ」

 

 頼まれたのなら仕方ない。

 仰向けになりゴーグルを取り付ける。データ収集と言う名目で、本田未央の意識はゲーム空間へと飛んだ。

 彼女が意識をゲーム空間に移したのと入れ替わるように桜庭が湯気の上がるマグカップを手にして給湯室から戻ってくる。

 テレビに映し出された彼女の姿を見てほんの少し眉を寄せただけでそれ以上気にした様子はなかった。

 

「桜庭先生にはガシャットについて説明をしていなかったね」

 

 事務椅子を横滑りさせて桜庭に寄る。

 安そうな椅子と偉そうな檀黎斗という組み合わせが、重要な話をしようとしている割には随分と緊張感のない絵面だった。

 

「元々はゲームのカセットでね。それに変身機能を付加したものが君の持っているガシャットさ」

「だったらこれはゲームじゃないだろう」

 

 元々と言っても桜庭が過ごしてきた世界には幻夢コーポレーションは存在していないためカセットとしてのガシャットは販売されていない。

 彼からすればガシャットは医療器具の側面しか持ち合わせていない事になる。

 

「いや、それもゲームの試作品のようなものさ」

「この変身機能もゲームだと言うつもりじゃないだろうな」

「さすがは桜庭先生。ライダーシステムは新たなゲームの根幹とも呼べるシステムを担っている」

 

 いつも浮かべているものとは違う勝ち誇ったような笑みが様になっていた。

 

「誰でも変身することのできるガシャットを使って現実世界でMMORPGを売り出すのが私の目的だったからね」

「誰でも、だと?」

 

 つい先日適合手術を受けた身としてはその言葉は安易に聞き流すことはできなかった。

 

「そうさ。勿論適合手術は必要ない」

 

 さも当然と語るその内容を桜庭は聞かされていない。

 変身には適合手術が必要で、もし前準備もなく使うことになれば体内のウイルスが増殖して発病する恐れがある――そう桜庭は説明されていた。

 

「ウイルスを敵キャラに見立てて協力プレイで倒していく、それが私の打ち立てたゲームだった」

「そうか……だが、その様子を見るに失敗したようだな」

 

 桜庭の対面に座る檀黎斗はいつもの涼しい顔ではなく苛立ちを隠さない酷く歪んだ表情であった。

 

「パラドめ、バグスターの分際でゲームマスターの私に逆らうとは……!!」

 

 彼らしく言えば『ゲームキャラクターごときがGMに逆らった』というのが癇に障ったといったところか。

 CRに協力する一方でバグスターと互いに利用しあっていた檀黎斗は、まさか自分の生み出したウイルスの手で消滅させられるとは思ってもいなかったのだろう。

 

「……奴の事を今更蒸し返しても仕方がないな。次こそ究極のゲームを作ればいいだけだ」

 

 桜庭はその言葉に何か言葉を返すことはしない。

 彼からすれば檀黎斗という男はあまりにも謎が多すぎる。

 世に出せば後世に名を残すことのできる偉業を達成するはずのそれら。それを見せびらかすどころかできる限り隠蔽しようとするその姿勢に何か怪しいものを感じずにはいられなかった。

 そんなきな臭さを醸す黎斗にあれこれと聞いたところでのらりくらりと躱されることは目に見えているし、場合によっては薮蛇ともなってしまうだろう。

 なにより彼のウイルスの扱いやライダーシステムの見識の深さを鑑みると、桜庭はそう判断せざるをえないし、無闇に彼の立場を脅かす真似は出来なかった。

 

「ゲームを作るのは構わないが僕に協力することは忘れないでくれ」

「ガシャットの提供だろう? それなら構わないさ。といっても今の段階はそこではないみたいだが」

「……運動は苦手なんだ」

「先生のやる気もわからないことはないが、苦手なら適性のある人間にガシャットを託せばいいものを……意地の悪い質問だったかな?」

「誰かに託すことができるのなら、僕が医者になるはずがない」

 

 適性のない人間がオペをするにはやはりそれ相応の危険と隣り合わせとなってしまう。

 それでも彼は自分が戦わないという選択肢を選ぶことはない。

 

「……ゲーム医療に携わる人間はどこも同じようだ」

 

 黎斗の目には桜庭がCRのドクターと重なって見えた。

 自身を犠牲にして全てを救おうと肩書きすら捨てた人間か。

 自身の悲しみを繰り返させないために刃を振るう人間か。

 自身の過ちを悔やみ隠された真実を追い求める人間か。

 自身の医師としての矜持に従い患者の笑顔を守る人間か。

 誰にせよ彼もまた、戦うことを厭わない人間であることに違いなかった。

 

「本田君も随分と奮闘しているみたいだね」

 

 体験型ゲームの先駆けとなるVOは外部入力によりゲームを中継することが可能である。知らぬ間に怪人態となったタブロスバグスターと取っ組み合う未央の姿がテレビ画面に映っていた。

 

「難易度は?」

「通常の二段下くらいだったはずだ」

 

 とはいえ黎斗の言葉が真実と考えるのは桜庭には難しい話だった。

 

「初めてでこれくらいならプレイヤースキルとしては十分だろう」

「……運動能力の差なのか?」

「本人に聞いてみるといい」

 

 未央が駆ける姿を見て気を沈ませる桜庭。

 やはり何度もVOを利用している身としては思うところがあるようだった。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 ライダーシステムを利用した初戦闘(桜庭薫の名誉のために彼女は善戦したとだけ述べておこう)を終えた未央は体を起こし、ぐっと伸びをした。

 

「お疲れ様。どうだったかな」

「いやー難しいね!」

 

 難しい、と話す未央の表情を見ればより相応しい感想があるようにも見えた。

 

「作った私としては中々に上手く動けていたと思うよ」

「そう?」

「ライダーとしてはギリギリ及第点といったところか」

「おーやったー! じゃあじゃあ、アイドル未央ちゃんの方はどう?」

「それはまだまだだ」

「えー未央ちゃん頑張ってますよー」

「アイドルのイメージが足りていない。わかったらダンスレッスンにでも行きたまえ」

 

 クリエイターの檀黎斗らしい辛辣な意見だった。

 

「へいへい。未央ちゃんはレッスンに行ってきますよー」

 

 傍らに置いたリュックサックを引っ掴んで立ち上がる。

 

「プロデューサーもお仕事取ってきてね!」

「言われずとも」

 

 「行ってきまーす!」と持ち前の明るさそのままに未央が事務所を飛び出していく。

 事務所内に取り残されたのは、温くなったコーヒーを傾ける桜庭と合いも変わらず事務机に向かいキーボードを叩く檀黎斗だけだった。

 

「不健康な医者を患者は信用しないだろうね」

 

 独り言、と言うにはよく通る声で黎斗は呟いた。

 

「僕もレッスンを受けろと言いたいのか?」

「そこまでは言っていない」

 

 呆れるようなため息が桜庭の口から漏れた。

 

「………気に食わないが君に乗せられるとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:dance studio

 

 

 

 

「ふーん。や、よくわかんないけど」

 

 壁一面に張られた鏡に大小異なる像が映りこんでいた。

 小さい方から並べて青木慶、本田未央、桜庭薫である。

 

「一見まともなようで可笑しな話だからな」

 

 そう語る桜庭の格好はカジュアルシャツとデニムパンツだけのシンプルな出で立ちで、どう考えても運動をするようには見えなかった。

 

「ていうか慶ちゃんは聞いてた?」

「未央ちゃんだけだって黎斗さんから聞いてますよ……」

「当然だな」

「当然って、来ても意味なかったじゃん……」

 

 呆れた。

 わかりやすく顔に出した未央だが、それを気にする様子もなく桜庭はつらつらと持論を述べる。

 

「元々僕は反復練習なんて非効率な訓練に必要性を感じていない。『見て、考えて、動いて』のサイクルトレーニングが性にあっている」

 

 黎斗に語ったように彼自身運動がそれほど得意ではないことは理解している。壁に映った桜庭の鏡像が油の切れたブリキのようなぎこちない動きをすることは期待できないようだった。

 

「見てるだけってことですか?」

「見学みたいなものだと思ってくれて構わない。可能なら休憩中にでも場所を貸してくれれば十分だ」

 

 二人のレッスンを無為に眺めて時間を過ごすつもりはないようだ。ダンスレッスンで得た知識がバグスターとの戦闘で役に立つかはわからないが、少なくとも体を動かすことに慣れておくことは無駄ではないだろう。

 

「勿論場所を借りたことやらに対価を払う気はある」

「ありがとうございます……」

「見てるだけでいいんだ? 一緒にやればいいのに」

「君がここにいるのは仕事のようなものだということは知っている。彼に乗せられたとはいえ邪魔をするつもりはない」

 

 桜庭が休日を過ごしているのとは違い彼女は契約と上司に従ってこの場に足を運んでいる。それが彼女の意志に基って行われた行動であったとしても、あくまで仕事は仕事。社会人である桜庭はそこのところを弁えている。

 

「わかったら気にせず始めてくれ。時間は有限なんだ」

「なんかプロデューサーが二人いるみたい……ま、いいや。慶ちゃんやろっか!」

 

 なんとも既視感のある桜庭の言葉が未央の表情を喜色ばんだものに変えた。

 

「そうですね。始めましょう」

 

 いつもと変わらないレッスンが始まる。

 ただ少し違うとするならば、見学者がいることだろうか。

 どこか彼女らの表情もいつもより引き締まって見えた。

 

「威厳ってどうしたら出るのかな………年齢? 身長?」

 

 おさげを揺らしながらぼそりと呟いた。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

「二歩目の重心が左により過ぎなんじゃない? 次のステップがずれてる感じするし」

「たしかに一瞬遅れる感覚はあるが、合わせようとすれば動きが小さく収まってしまうことになる」

「ふらつくのが悪いってこと? うーん、筋力がないのが原因とか?」

「限られた能力でパフォーマンスを引き上げる方法を考えてるというのにそれじゃ意味がないだろう」

「でも筋肉ないんでしょ先生? 少しくらいつけないと体力もつかないんじゃないの?」

「……適度に運動は心掛けるさ」

 

 適度な室温を保つために忙しなく働く空調の稼動音がスタジオ内に響く。

 レッスン中に反響したシューズのゴム底が擦れる音は今は鳴りを潜めている。

 壁の上方に取り付けられた小窓に収まった景色は道路の向かいに立ち並ぶビル群を写し出すだけで、季節感というものを無視したひどく無機質で無感動な絵画とも見て取れた。

 

「先生の『運動が苦手』って絶対嘘でしょ? ふつーに踊れてるじゃん」

 

 首にかかったタオルを揺らしながら鏡像を眺める未央。映りこんでいるのは手足を大人しく―というよりは慎重に―動かす桜庭薫で、真剣なのか不機嫌なのか判別のつかない表情を浮かべながらもゆっくりと一つずつレッスンの内容を復習している最中だった。

 

「君たちの練習具合を見れば『初見にしては踊れてる』ということは理解している。何であれ中途半端に取り組むのは僕の主義に反しているからな」

 

 一つ一つの動作を完璧にするために鏡越しで動きを真似る自分を睨んでいるが、普段の冷静さにはない熱意、ともすれば射殺さんばかりの気合が溢れ出している。

 

「さすが先生は違いますなー! ぼーっとしてたら抜かされちゃいそー」

「別に習熟度について張り合うつもりはない。ただ、芸能界の人間でもない僕に抜かされてもいいというのなら好きにすればいい」

「むむっ! それは金の卵と呼ばれる未央ちゃんに対する宣戦布告と受け取った!」

「そういうつもりではないが……」

 

 ややぁ、と勢いよく立ち上がり桜庭に詰め寄る。

 

「これは先生と私のライブバトルで決着を着ける必要がありますぞ!」

 

 未央が仰々しく声を張った。

 バトルの名を冠する通り互いの実力をぶつけ合うものではあるが、ライブバトルは謂わばアイドル同士の対決。未央の望む形で雌雄を決するというのであれば、桜庭薫もまたアイドルとしてステージに立つ必要がある。

 

「僕はアイドルを目指す気はない。第一に僕はダンスより歌うほうが得意だ」

 

 一通りレッスンを復習し終えたようで壁に背を預けている。きつく締められていたネクタイが緩み、開いた襟が桜庭の首を外気に晒していた。

 

「へー。カラオケとか好きだったり?」

「僕は喧しいのが嫌いだ。あんな馬鹿が集まって騒ぐような場所に行く気はない」

「プロデューサーに負けない刺々しさだ……」

 

 桜庭の四方八方に喧嘩を吹っかけるような物言いにたじろぐ未央。花の女子高生である彼女からすればその発言はなんとも反応に困るものらしい。

 

「それに、歌うのが好きかは本当は自分でも分からない」

「分からない?」

 

 好きか嫌いか、単純な問いであるだけに未央は聞き返す。

 

「僕の歌を聞いて楽しそうにしている姉さんを見るのが僕は好きだった。もしかしたら、歌うのより姉さんの笑顔を見るのが好きだったのかもしれない」

 

 過去を懐かしむような調子で歌への想いを語った。自分の言葉を追うように脳裏に浮かんだ彼女の笑顔に桜庭の表情もいつもより緩んだようなものへと変わる。

 

「お姉さんいるんだ」

 

 兄弟への思慕を理解する未央は桜庭の言葉が自分のことのようにも聞こえた。

 幼き頃に刻んだ大切なひと時。それは未央にとってもたまらなく愛おしいものなのだろう。

 

「まあ……()()というのが正しいな」

 

 ただ、彼女の反応は事ここにおいては運が悪かったという他ないが。

 

「―――」

 

 その言葉に一瞬体を跳ねらせる。

 詳しい話なんて彼女にはわからない。ただ一言、『いた』という言葉だけでその意味は十分に理解できるものだった。

 ばつが悪そうに視線を揺らす未央を見て深い息を吐き桜庭は立ち上がる。

 

「湿っぽい話はよそう。君たちの邪魔になるからな」

 

 軽くはだけていた服装が次々に整えられていく。

 きゅっとネクタイを締め直したタイミングで、未央が搾り出すように言葉を吐き出した。

 

「……ごめん」

「気にしないでくれ。もう過ぎた話だ」

 

 過ぎた話、本当に彼にとってそれが過ぎた話であるのだろうか。

 大切な人を失った悲しみは当人以外に理解できるものではないし、理解されるために誰かにその想いを語ることもない。

 その悲しみを桜庭は乗り越えられたのだろうか。

 その苦しさを呑み込むことはできたのだろうか。

 未央の側からは決して覗くことのできない桜庭の表情は何を語っているのか。

 

「邪魔したな。いい気分転換になった」

 

 ジャケットを携えてスタジオの扉を開く。

 今日の扉はいつもより重かった。

 

 

 

 

 

→→→stage select!!!

 

 

 

 




ミリオンライブがサービス終了したせいで伊坂と戦ってるときの橘朔也みたいになってる
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