Game m@ster & Cendrillon   作:井浦むょ

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試しに視点を変えてます。
視点が変わるだけでとっつきやすさは変わりますね。


#3-2

stage:public park

 

 

 

 

「社長、ほんとよく来るよな。働いてんのか?」

 

 不躾な言葉が黎斗に刺さる。敬語だなんだと話していた初対面の頃とは違い、黎斗と彼女の仲は年が離れているとはいえそれなりに親しげな間柄となっているようだった。

 

「もちろん働いているさ。私ほどの才能があれば一人分の仕事なんて些細なものだ」

「いつにも増して偉そーだな」

 

 今日もこの人は変わらないな、なんて感じるような尊大な態度を見ると自然と口角が上がるような気がした。この人が本当に社長であるとは思ってはいないし本当に働いてるのかも怪しいところだが、大人なのに俺を馬鹿にしたりしないしなんだかんだと一緒にサッカーをしてくれたり実は楽しそうにしてるのとかを見るとそこまで気にするのは悪いような気がした。

 

「私の才能が余裕を生み出しているといったところさ」

 

 この人は会うたびに才能、才能と壊れたおもちゃかってくらいに自分のことをアピールしてくる。ホラ吹いてるわけじゃないだろうし何かそれだけすごい才能を持ってるんだろうけど、ここではオレとサッカーしたり話すくらいで例の才能とやらを見せる機会はどうせ来ることはないと思ってる。

 

「じゃあ今日こそその才能ってやつ見せてくれよ」

 

 で、偉そうなことを言った社長をオレが突っついてやる。いつもやってることだ。よーするにお約束みたいなものだ。そんで次に社長はもったいぶって「また今度」みたいなことを言ってくる。これも決まり。

 だけど今日はいつもと違うみたいだった。

 

「勿論遊ばせてあげよう。ようやく試遊まで漕ぎつけたところだ」

 

 そう言って見せびらかすように鞄からよくわかんないものを取り出した。

 

「何だよそれ?」

 

 金がいっぱい入ってそうな角ばった鞄から出てきたのは、ボタンとか画面とか色々ついた、まあ要するによくあるゲームっぽい見た目の機械だった。

 『ゲームっぽい』って言ったのはオレにはそれが本当にゲームかはわかんないから。同じ学校の男子とよく遊ぶからそういうのは少しくらい知っているつもりだけど、そんなオレでも見たことがなかったし曖昧な言葉でそれを表現するしかなかった。

 

「晴ちゃんが見たいと言ったのだろう? これこそ私の才能が生み出したゲームさ」

「これ社長が作ったのか? スゲーな」

「私の才能を以ってすれば容易い」

 

 なんてことはないって風をしてるけどオレには分かる。ちょっと嬉しそうにしてるし社長なりの照れ隠しなんだと思う。

 

「ゲームを作るだけではない。生み出したゲームが名作となることこそ私の才能だ」

「ふーん。オレはゲームとかあんまやらねえから分かんねえぞ?」

「構わない。誰でも楽しめることも良いゲームの証拠さ」

「あっそ」

 

 受け取ったそれをくるくるとひっくり返したりして見てみたけど、オレには知らないタイプのゲームだった。ゲームは持ってなくて遊びに行ったときにやるくらいだから知らないのも当然なんだろうけど、少なくともテレビでCMをやってるのは見たことがない。

 ということは分かんないくらい古いか、自分で全部作ったのどちらかってことになる。自分で作ってたんなら社長って名前は嘘じゃないかもしれないな。

 

「でもやっぱサッカーしてえ」

 

 つっても、今はサッカーの気分だけど。

 

「そう言うと思っていたよ」

 

 なんて言っていつも通り軽く笑う社長。押し付けてくるタイプのめんどい人じゃないのはこういう時に助かる。

 満を持して登場した割にすぐに鞄に引き返していくゲーム達が少し可哀想だった。や、オレがやらないって言ったんだけど。

 

「これはここで遊ぶにはふさわしくないのは私も理解している。できることなら遊んでみての感想が欲しいところだけどね」

「ま、バカみてーに晴れてるもんな」

「晴れている日は好きに遊ぶといい。私のゲームは機があれば自然と惹かれるのだから気にせずとも遊びたくなるはずさ」

「……すげー自信だよな」

 

 こんな自信に溢れた社長の言葉を聞くとなんだか羨ましく感じてしまう。

 社長の持ってきたゲームがどんなもんなのかはオレには分からないけど、自分のやってきたことにこれだけ自信を持って言えるのは本当に珍しい。よくわかんねーけど、普通だったら「売れないかも」とか思いそうなもんなのに、そんなこと全然考えてないってことはオレでも分かる。

 それがほんとに羨ましかった。

 

「なんで社長はそんな風にしてられんだよ」

 

 別にオレが自信がなくて自分を変えたいとかそんなカッコいい理由があるわけじゃない。ただ、口が勝手に動いていて、なんだか今聞いておかなきゃいけない気がしただけだ。

 

「そんな自信があって、ほんと社長は羨ましいんだ」

 

 なにか喋るわけじゃない、ただオレの言葉を聞いている社長はオレのことをバカにしたりしないのは分かってる。

 それでも自分からビミョーに空気を重くしたオレとしてはなんとも気分が悪かった。

 

「私に才能があることを私は知っている。それが当然だと思っている私がそうであれるのも当然の話さ」

「……よくわかんねー」

 

 イマイチわかんないけど、社長に聞くのは間違ってたってことは分かった。

 なんか住む世界が違うんだろうな。

 バカと天才は紙一重って聞いたことあるけどそんな感じだ。

 

「社長に聞いたオレが悪かったかもな」

「フッ。私の才能が必要になったらいつでも頼りにしたまえ」

「話聞いてなかったのかよ」

「冗談だ」

 

 社長の軽口を聞き慣れた今でも冗談には聞こえない。

 話半分っていうか冗談とか出まかせっていう部分よりも本気で言ってるような気がするのは多分、オレだけじゃないと思う。この人の性格とか知ってる人がいたらオレと同じこと考えると思うぜ。

 まあ、今日は社長の才能なんかいらない日だから気にしなくてもいいか。

 

「社長のゲームはまた今度にしようぜ。今日はほら、これ」

 右足を駆使して蹴り上げたボールを手にとり社長に掲げて見せる。ボールについた砂埃がざらざらと手のひらを撫でた。

 面白そうなもんを見せてもらえたけど、やっぱりオレにはこの大きさと重みがちょうどいいや。

 

「……晴ちゃんらしい言葉だ」

 

 軽やかにジャケットを投げ飛ばした社長が笑った。

 ……ほんとに働いてんのか?

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

 

「で、プロデューサーは何してるわけ?」

 

 私にしては珍しく棘のある言い方になってしまったのは仕方ないとは思う。

 なんてったって勤務中に公園で子供とサッカーしてるってのはサボるにしては堂々としすぎでしょ。もう少しサボり方くらいは考えて欲しかった。や、サボってほしいわけじゃないけど。

 

「見ての通りさ。未央ちゃんも一緒にどうかな?」

 

 艶やかさの消えた革靴で蹴り飛ばされたボールが足元に流れてきたのを受け止めてテンポよくプロデューサーの元に蹴り返した。

 

「いいパスだ」

 

 それはどうも。

 

「そーいうのじゃなくてさー、未央ちゃんはなんで遊んでるのって言いたいわけですよー」

「子供の相手をするのも大人の役目だろう」

「そーだけどさ、お仕事中でしょ」

「それは抜かりないさ。いくつか未央ちゃんに合いそうなものを受けてきた」

「ちゃんとお仕事もらってきてるんだ……」

「義務を果たせないようでは信頼は得られないからね」

「サボってるってゆーのはさすがに減点でしょ」

「ゲーム開発に必要なことだとは思わないかい?」

「まーいーけどさ。せめて昼休みとかにしなよー」

 

 プロデューサーと喋っている間も、名前も知らない少年とプロデューサー、そして私の三人で作った三角形をサッカーボールがごろごろと忙しく渡り歩いている。

 なんとなく気づいてたけどプロデューサーにとってはゲーム開発が第一みたいなんだよね。社長はそーいうの気にしてないみたいだけど、私としては仕事のパートナーが片手間にやってるっていうのはどうしてもモヤモヤした気持ちになっちゃう。

 

「なー姉ちゃん。聞いてもいーか?」

 

 プロデューサーとは違ったほうから声が聞こえた。声の聞こえた方から転がってきたボールを蹴り返しながら答える。

 

「なにー?」

「この人って働いてんのかー?」

「働いてるよー。アイドルのマネージャーみたいなのしてるー!」

 

 会話が止まっても少年はボールを蹴るのを止めない。というよりは飛んできたら受け止めて蹴り返すのを無意識にやってるような気がする。だってなんかぼそぼそ喋ってように見えるし。たぶん「無職じゃないのか……」とか言ってるんじゃない?

 

「じゃーさー、姉ちゃんはー?」

「何を隠そう私は今を輝くアイドルなのだー!」

「へー」

「反応薄いぞ少年ー!」

 

 ぷんすかとわかりやすく怒って見せるような態度をとってはいるけど内心では怒りなんてものが湧いてくることはない。だって、この時代に現れた新人アイドルなんて星の数ほどいる。それを知らないのだって当然も当然、逆に知ってるほうが驚きってくらいなんじゃない? 少なくともお仕事で学校を休むくらいまでならないと有名と名乗るのは無理でしょ。

 でも私はアイドルだし、目の前の少年を笑顔にするのが仕事だ。ひとつ芝居を打つくらいはしてみせないとね。

 

「知らないなら覚えて帰ったほうがいいんじゃなーい? なんたってスーパーアイドル未央ちゃんだぞー!」

「社長も姉ちゃんもわけわかんねーって」

「なにをー!」

 

 まったく心外ですよ。変人っぽいプロデューサーと一緒にされるとはこの少年も困ったものだ。

 

「未央ちゃんはプロデューサーみたいに変じゃないからー!」

「私もおかしくなどないが」

 

 でもなにが一緒なんだろう……もしかして偉そうだった?

 

「プロデューサーみたいに偉そうじゃないし!」

「そうじゃなくてさー」

 

 返答と一緒にころころと転がってきたボールは心なしか弱い気がする。それに表情もちょっとだけ曇ってるようにも見えた。

 

「なんで姉ちゃんはスーパーアイドルになれるって思ってるんだよ」

 

 『なんで』なんて随分と大人びた質問をしてくるとは、いまどきの少年は夢を見たりしないのかな? アイドル時代なのに世知辛いね……いや、逆に、こういう時代だから? そうだとしたらこの少年もそういうこと? だったら先を歩く先輩として一言言ってあげないとね!

 ボールを返してやり腕を組んで面と向き合う。

 

「なれるとかなれないとか、そんなのどーでもいいんだぞ少年! 『なりたいからなる』、それだけで私には十分!」

 

 私は今どんな顔してるんだろう。自分では笑ってるつもりだけど、それがこの少年に伝わってるかは分からない。もしかしたら恥ずかしさで顔が赤くなっちゃってるかも。

 それでも、この言葉は撤回できない。

 単純で、簡単で、考えが足りないかもしれないけど、私にとっての『将来のアイドル像』は煌びやかで誰もが憧れるスーパースターだ。目指す理由なんて私にはそれだけで十分だから。

 

「やっぱわかんねーよ、姉ちゃんも!」

 

 ばん、っと大きな音と一緒に蹴り出されたボールがじんと鈍い痛みをくれた。蹴られたボールの力強さが少年の納得のいかない気持ちを表してるんだろう。

 けど、と言葉が続く。

 

 

「楽しい、って気持ちだけは分かったぜ」

 

 

 遠目からでも少年の笑顔が見えた。

 ああ、これだ。理屈なんかじゃない、アイドルが楽しいって思える瞬間がここには詰まってるような気がした。

 私の笑顔が知らない誰かを笑顔にする。魔法みたいで信じられないようなことがアイドルならできる。私はそれを、()()ライブで知ったんだ。

 だから、この、瞬間。

 

 

 

 私は初めてアイドルになれたような気がした。

 

 

 

 

「わかってるじゃん!」

 

 嬉しくなって力強く蹴っ飛ばしたボールが見当違いの方向に転がってしまった。ちょっと反省。

 

「楽しいからアイドルをやってるのさ! だから、もっと楽しいことがしたいから、スーパーアイドルになりたいってこと!」

 

 考えなしに口走ったその言葉が私の中にすとんと収まったような気がした。足りないピースを一生懸命探して見つかったときみたいなスッキリした気分だった。

 理論と感情が油を差した歯車のようにがっちりと組み合わさった感じがなんとも気分がいい。

 

「じゃー社長も……いねえ」

 

 いつの間にかいなくなったプロデューサーをこの少年は気にしているみたいだけど、私にとって今はそんなことほんの少しも気にはならなかった。

 私の中で自己完結したこの最高の気分は、誰のものでもない、私だけのものだから!

 

「プロデューサーにはお仕事が残ってるから帰ったんだよ。そんなことより少年、未央ちゃんと遊ばないかい!」

 

 いつもの二割増しくらいのテンションで少年へと声を投げた。

 

「まー、社長じゃなくてもいいか」

「三十代のおっさんと一緒にするなー!」

 

 ひとつひとつがいつも以上に楽しい。こんな日はそう何度も来ることはないだろう。

 だったら今日は遊ぶしかないね!

 忘れられない一日を。

 いつでも思い出せる大事な日をカラフルに彩ろう。

 本田未央のアイドル生活は、最初っっからアクセル全開だ!

 

「ボール持って相手抜いたら勝ちってどうよ?」

「おっけーおっけー! 未央ちゃんの華麗なドリブルを見せてあげよう!」

「へっ、負けねえぞ」

「年下だからって男でも容赦しないぞー!」

「いや。オレ女だけど」

 

 あ、そうだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

stage:???

 

 

 

 

 めまぐるしく回っている足が自分のものではないように感じる。

 それは当たり前に僕が動かしている足に他ならないわけだが、僕の思考や理性から切り離されたそれは気づかないうちに道往く人達を抜き去っていく。

 僕の足がまっすぐに目指しているのは患者のいる所だろう。ついさっき入った急患の連絡がそれを嫌でも教えてくれる。

 

 手に入れた力を奮う日はいつか来ることは分かっていた。『自身の勤める医院に運び込まれた患者のみ治療を行う』ということを院長と秘密裏に約束を交わしている以上、僕が闘うことは避けられない。

 それでもできることならば十分な自信が生まれてからというのが本心だ。

 

 仮想敵との戦闘では連戦連敗、まさしく失敗に次ぐ失敗という状況で治療に臨まなければいけないというのはどうしても僕の心に仄暗いものを残している。てきることならこんな状態で治療なんて考えられることではない。

 言わずとも、精神的余裕がオペに与える影響というのは少なくはないからだ。

 

 それだけじゃない。

 この医療行為は成功が一人の患者を救い、失敗が一人の患者と医者の命を奪う。

 患者だけじゃない、医者も命を掛けなければいけない。そんな闘いに向かうにしては不十分としか言いようがない。

 

 

 治療が成功する可能性は低い。

 

 死ぬかもしれない。

 

 今すぐに治療をしなくても患者が死ぬわけじゃない。

 

 

 理性的な自分が、戦地から遠ざかるための理由をいくつも並べていく。当たり前な理由が並んで一般的な常識を弁えた医師であるならば治療を行うなど考えられることではない。

 

 

 だがそれでもこの足が止まることはない。

 止まってはいけない、止まるわけにはいかない。

 理性とはかけ離れた何かが。

 自分では抑えることのできない無意識で強固な意志が。

 自分で結びつけた闘いの運命を今果たさなければいけないのだと、無意識に秘めたそれに対する膨大な熱量が否定的な思考を打ち払っていく。

 

 

 

 この足が向かう先は死地か、あるいは――

 

 

 

 

 

 

 

 

→→→stage select!!!

 

 

 




黎斗と未央が大して関わってないのでアイドルコミュですらない
しいて言うなら閑話

-追伸-聖來お姉さんのssr衣装きて嬉しいです
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