The beginning of "Z"ero 作:気まぐれな男
A2は決闘が終わった後、シエスタに報告するため食堂へと向かおうとしていた。
が、女子生徒の一団にそれが阻まれていた。
「キャー!!お姉様〜!!」
女子生徒のその言葉にA2は驚く。付いてきていたルイズもこの状況に苦笑いを浮かべていた。
「お、お姉様!?」
そこではいつかのパスカルの村であった光景が繰り広げられていた。
女子生徒からの質問と賛辞の言葉の嵐を、A2は適当に受け流す。
いつまでも終わらないと思いしびれを切らしたA2。
「私は食堂に行きたいんだ!早くどかないとぶっ飛ばすぞ!」
この言葉ならいい加減この一団もこの変な熱から冷めてくれるだろう。そう思っていたのだが。
「キャー!!格好いいー!!」
逆効果だった。女子生徒達は誰一人どく気配がない。
「なんでこれで喜ぶんだ......。」
これではまるであのときと同じである。どうしたらいいのだろうかとA2が考えていると、
「ほら!ニーア!行くわよ!」
と言って、ルイズがA2の手を強引に掴み女子生徒達の間を無理矢理掻き分けて進んでいった。
取り残された女子生徒達は未だにA2に熱っぽい視線を向けていた。
「どういう事か、いい加減聞かせてもらうわよ。」
食堂に向かう道中、ルイズはA2の手を握ったまま言う。
「.......部屋に戻ってからな。今はシエスタが先だ。」
その言葉にムッとするルイズだが、元はと言えばシエスタを庇ったことが原因なのだから、ルイズは何も言えなかった。
いつもであれば、そんな事お構いなしに問い詰めるところだったが。
彼女も、A2との出会いがきっかけで何かが変わったのかもしれない。
「ニーアさん!大丈夫ですか!?怪我は、ありませんか!?」
「大丈夫だ。私があんな雑魚に負けると思っていたのか?」
食堂についたA2にシエスタが駆け寄り、慌てた様子で無事かどうかを確認していたが、A2の言葉に胸を撫で下ろした。
「......ありがとうございます。」
「.....シチューは?」
A2はお礼を言われることに慣れていないのか、恥ずかしそうにシエスタから目を逸らし、気に入った料理を頼む。
「はい!ただいま!」
シエスタは朝見せてくれたような笑顔に戻り、厨房へと向かっていった。
しばらくすると、シエスタと一緒にマルトーも厨房から現れた。
「おぉ〜!!"我らが剣"が来たぞ!」
その言葉を皮切りに使用人達がぞくぞくと来る。どうやらマルトーは、嫌いだった貴族をぶっ飛ばしたA2を更に気に入ったらしい。
マルトーを中心とした男性陣からは強さの秘訣を聞かれ、シエスタを中心とした女性陣からは先程の女子生徒のような熱い言葉を受け取った。
それらをA2は適当に受け流しており、ルイズはこんなのでいいんだろうかと思っていた。
料理には満足したが人には疲れたA2はルイズの部屋に戻り、先程とは気持ちを切り替えてルイズからの質問に答えようとした。
彼女自身あまり話すタイプではなかったのだが、このときばかりはたくさん話した気がした。
地球のこと、人類のこと、機械生命体のこと、自分自身のこと、全て話しきるにはたくさんの時間を要するだろう。
あの忌まわしき"ヨルハ計画"のことは話せなかった。
彼女のような年端もいかない少女が知るには荷が重すぎると思ったからだ。
「......そんな事って...。」
ルイズは目に涙を溜めていた。同情でもしているのだろうか。
「でもアンタ、ここに来れて良かったんじゃないの?」
その言葉にA2はピクリと反応する。
「.....みんなは許してくれるかな。私だけがのうのうと生きていて。」
「きっと、許してくれるわよ。」
いなくなってしまった仲間達。彼女らが許してくれるとは思っていなかった。
ルイズにはきっと、多分、そんな事しか言えなかったが、A2の心を和らげることは出来たのかもしれないと思っていた。
「....そう、かもな。」
またA2が悲しそうな顔になる。見ていられなかったルイズは空気を切り替えるために、パンッと手を叩き、笑顔でA2に言う。
「ほら!そんな顔しないでお風呂にでも入りましょ!ね?」
これが、今のルイズの精一杯だった。
風呂に行こうとするルイズを見ていたA2は、小さな声でありがとう、と呟いた。
ルイズはA2を慰めるために一緒に風呂に入った。
A2はそんな必要ないとは言っていたが、そんな事は気にしない。
何故ならルイズはご主人様なんだから。命令は絶対である。
半ば強引にA2の服を脱がせていく。ところどころ傷はあるものの、同性のルイズも見惚れる程のスタイルの良さである。
そして言われてから見ると、A2の身体のあちこちに節のようなものがあった。これがA2が人間じゃないという理由なのかと思った。それこそ良く見ないと分からない程度だが。
ひと通りA2の身体を見たあと、ルイズは珍しく身体を洗ってやることにした。
いつもであればむしろA2に自分を洗わせるところだったが、今回は自分がしてあげるのだ。
仲良く風呂に入っている姿は、さながら姉妹のようであった。二人共、外見は全く似ていないが。
「ねぇA2、買い物行くから準備して。」
既に騒動からは数日たっており、ここでの生活も大分慣れてきていたことだった。
「授業はどうした?」
いつもならこれから授業の筈だが、とA2が疑問に思う。
「今日は虚無の曜日だから休みなの。さ、準備して。」
A2はそろそろ外に出てもいい頃合かもしれないと思い立ち上がる。
「アンタに普通の剣を買おうと思うの。」
「剣なら持ってるが....。」
そう言ってA2は近距離戦闘装備を起動し、決闘のときに使ったものではなく今度は"四十式戦術刀"を抜刀する。
「そんなんじゃなくて!もっと普通の奴にしたいの!」
「.....何のために?」
「武器出す度にこんな事してたら普通怪しいし、アンタの武器見たことないやつばっかりじゃない!」
A2は改めて感じる。ここが地球ではなくて、科学ではなく魔法が発展している世界であることを。
それもそうかと返事したA2は納刀し、近距離戦闘装備を解除する。
「そういうわけだから。ほら早く。」
A2は準備を始めた。とはいえ、持ち物などなかったが。
学院の外からは馬で移動する必要があった。A2に乗馬経験があるかどうか聞くと、シカとイノシシには乗ったことがあるらしい。
何故馬には乗ったことがないんだと思っていたルイズだが、とりあえずA2を馬に乗せてやることにした。
A2は最初こそおぼつかなかい様子だったが、慣れてきたのかすぐに乗れるようになった。
二人が街へ行こうとしていたときに、学院の学生寮では、タバサがゆったりと読書を楽しんでいた。
今日は虚無の曜日だ。ゆっくりと読書をしよう。そう思っていた矢先、
「タバサ!街に行くわよ!早く支度してちょうだい!」
友人であるキュルケが急いだ様子で部屋に入ってきた。
一瞬魔法で吹き飛ばしてやろうと思ったが、相手がキュルケであるのを確認すると今度は言葉で拒否を示すことにした。
「虚無の曜日」
そう言っても、キュルケは引き下がる気配がない。
「あのルイズとその使い魔が馬で行ったのよ!早く追いかけなきゃいけないわ!」
その言葉にタバサは反応した。ルイズはともかく、あの使い魔が行くのだと聞けば行こうと思ったのだ。
キュルケとタバサは、あの決闘騒動からA2のことが気になっていた。なればこそあの使い魔を追いかけ、少しでも強さの秘訣を知りたかった。
「わかった。」
そう言ってせっせと支度を始めるタバサ。キュルケも彼女がA2のことを気にしていることを知っていたからこそ、この頼みが出来たのである。
「貴女の使い魔なら追いつくから、お願い!」
そういうとタバサは自分の使い魔であるシルフィードを呼び、キュルケと共にそれに跨り街へと向かった。
その頃街に着いていた二人は、大通りを歩いていた。
「狭いな.....。いや、あそこが広かっただけか。」
A2は廃墟都市を思い出した。あそこも建造物にまみれていたが、ここほど活気のある街などではなかった。廃墟なのだから当然のことではあるが。
「ここでも大通りなんだからしっかりしなさいよ、ニーア。」
「あぁ、わかってるよ。」
少しの受け答えをしてから、ルイズの案内で進んで行く。
「ここはトリステインの宮殿があるから、街としても発展してるのよ。」
目的地である武器屋へと向かう道中にルイズがこの街についての説明をしてくれる。
他にも宮殿についての説明を聞きながらA2はルイズについて行った。
「.....本当にここであってるのか。」
武器屋があるという路地裏に二人はいた。活気のある先程の大通りと比べ、ここは少し陰気臭かった。
A2の疑問を文句と受け取ったのかルイズは自信ありげにあってるわよ!と言って、ズカズカと進んでいった。
案内通り進んで行くと、ここが武器屋だとわかるような看板がしてある店らしき場所に着いた。
そこはやはり武器屋であるから当然武器に囲まれた店だった。
あちこち見回しても視界から武器が消えることはない。
店の奥の方にいた如何にも柄の悪そうな店主らしき男がルイズを見て、媚びへつらったような声を出す。
「こりゃあ貴族様、うちは真っ当な商売してまさぁ。お上に目をつけられるような事なんて.....。」
「違うわ。この人に武器を見繕って欲しいの。」
その言葉に店主は悪どい笑みを浮かべながら店の奥に消える。
しばらくすると、一振りの剣を持ってきた。
「これなんかどうでさぁ。」
その剣には豪奢な装飾がなされており、ルイズも気に入った様子だ。
「なかなかいいわね。ニーア、これにしましょ!」
「いや、これはダメだ。」
A2はこの武器があまり質の良いものではないことを見抜いていた。
「装飾が多すぎる。そのくせ肝心の刀身は鈍らだ。」
最初こそ店主はせいぜい女二人の買い物なんだから、適当に選んで高く売り付けてやろうと思っていたのだが、A2の観察眼にその気持ちを変える必要があると思った。
「アンタ、なかなかいい眼しとりますね。なら、」
「こんな小娘が武器振れんのかよ!」
店主の声を遮るように、A2を馬鹿にする声が聞こえた。
「やいデル公!今大事なお客さんの相手してんだ!邪魔するんだったらお上に頼んで溶かしちまうぞ!!」
「おうやってみろ!こちとら世の中そろそろ飽き飽きしてたんだ!」
店主が武器が突っ込まれた樽に向かって話している奇妙な様に、ルイズは首を傾げるが、A2がその樽に近づく。
「ん?お前まさか"使い手"か!?こりゃおでれーた!」
「なんだ?こいつ。」
A2の疑問に店主はデル公と呼ばれた剣を呆れた顔で見つめて答える。
「こいつはいわゆる"インテリジェンスソード"ってやつさぁ。一体どこのどいつが始めたんだか.....。お客さんに暴言ばっか吐いて、こっちは迷惑してるんでさ。」
暴言ばかりとは言うが、その"インテリジェンスソード"とやらはA2を見て嬉しそうに柄をカチカチと鳴らしている。
「よし、てめ、俺を買え。」
「......だそうだが。」
と言ってA2はルイズを見る。ルイズはその錆び付いた剣を嫌そうに見ていた。
「嫌よそんなボロっちいの。」
「なんだと!?お前は俺の魅力を分かってねぇな!俺はな.....」
「ルイズ、こいつを買ってくれ。」
「.......。」
A2から意外な提案が出た。まさかあんなボロボロの剣を買おうというのだ。
ルイズは驚くがA2の目には敵わず、渋々買うことにする。
「店長、これいくら?」
「あぁ〜、そいつは新金貨で......」
店の奥で勘定をしている間、A2はデル公を見ていた。
「あんた、人間じゃねぇな?」
デル公の言葉にA2は驚く。この剣は自分が人間ではないことを見抜いたのだ。
「やっぱりな。だけど俺っちの"使い手"ともあろうものが、ただの小娘だったらガッカリだぜ。.....俺はデルフリンガー。宜しく頼むぜ、人間じゃないお嬢ちゃん。」
「.......。」
この目の前の剣に、A2は黙っていることしか出来なかった。
勘定が終わり、二人は店を出る。A2は目の前の剣にただならない雰囲気を感じていた。
だが、とりあえず彼のことは剣として使ってやろう。
そう思いデルフリンガーを持つ彼女の左手のルーンは静かに輝きを放っていた。
「結局、剣を買って終わりだったわね.....。」
「......。」
一日二人を尾行していたキュルケとタバサは、結局何の情報も得られずに、ガッカリとした様子で帰路に着いた。
だが二人は必ずあの使い魔の強さの秘密を暴こうと、静かに燃えていた。
難産