The beginning of "Z"ero 作:気まぐれな男
柄にもなく素っ頓狂な声をあげたA2に対して、その反応を混乱と受け取ったのか、コルベールが説明を始める。
.........どうやらこの生意気な子どもが私を呼んだらしい。しかも、そのガキはどうやら私を召喚したことに不満をもっているらしい。全く、自分勝手なガキだ。と、こちらも返事をしているかのように不満を垂れ流す。
子どもは嫌いではない。しかし、こういったいわゆるお嬢様なガキはA2としては苦手であった。
しかもその召喚というのも偽善によって自分を助ける為でもなく、あくまで自分本意な、使い魔と呼ばれる汎用随行支援ユニットにA2を任命するためのものであった。
「貴女の事情は分かります。元いた場所に帰りたいと思うでしょうが.....。」
「ミスタ・コルベール!やり直しを要求します!まさかこんな平民を召喚してしまうなんて......。」
「なりません。ミス・ヴァリエール。やり直しはできないし、何より彼女を見捨てるのですか?」
「でも.....。」
二人のやり取りは私への問いかけから、二人だけの話題に切り替わっていった。
.......馬鹿馬鹿しい。自分が呼んでおいて嫌だからやり直したいだと?
A2はあの機械生命体の子ども達にとっていた態度とは全く違っていた。
当然だ。彼女はそもそも死ぬ筈だったし、このまま彼らの元に旅立つ予定だったのが、目を覚ませばいきなり人類がたくさんいるという彼女の中では不可解に等しい出来事の連続で正確に思考ユニットが作動していなかったのだ。
「....あぁ、そうそう。ミス?お名前は?」
「ミスタ・コルベール!こんな平民にそんな風に....。」
「ミス!」
コルベールがルイズを制し、思い出したかのようにコルベールがA2へと問いかける。全く、何だこの生意気な子どもは。と、ルイズへの文句が口に出そうなA2は、それを堪えながら既に捨てたはずの自らの名を口にする。
「.....私は.....私は、旧ヨルハ部隊アタッカー2号。A2だ。」
そう少しばかり長ったらしいような名前を口にする。
「旧......?ヨルハ?」
「アタッカー.....2号ですか?」
案の定、二人はその奇妙な人形の言葉に対し、困惑の表情を浮かべていた。続けてコルベールが疑問の言葉を漏らす。
「その.....軍人さんでしょうか?」
「......簡単に言えば。」
そうぶっきらぼうに答える。やはり未知の生命体、それが創造主たる人類だとしても、A2には警戒心が浮かび上がっていた。
「で.....何?」
その言葉を聞いてコルベールが説明を始める。
「.......落ち着いて聞いてください。貴女は隣にいるこのミス・ヴァリエールに使い魔として召喚されました。これから、貴女にはミス・ヴァリエールの使い魔として生きていってほしいのです。」
「.......こちらの事情は無視か。」
「すみません........。ですが規則なのです。でなければ彼女は進級できず、留年ということに.......。」
"リュウネン"という言葉がなんなのか、A2は一瞬の思考の中で答えを導き出す。
それは旧世界の人類が学業にて一定の成績を獲得せずにいた生徒に起こってしまうという現象だ。
A2はこんな生意気な子どもだからではないのかという考えを浮かべたが彼女の顔を見て、それを撤回した。
彼女は決意ある表情をしていたが、自分が周りの同じような服装をした(おそらく生徒であるが)者達の中でイレギュラーであることに対する不安の表情にも見えた。
(彼女は.....自分が周りよりも劣っていると思っているんだろう。)
A2の予想は的中していた。ルイズは周りの嘲笑に耐えながら、やっとの思いで召喚した使い魔が人だったのだ。もし契約に失敗したらどうしようと不安を感じながらも、必ず成功させるという決意もその内に存在していた。
(絶対に...!コイツを使い魔にしてやるんだから.....!)
A2は辺りを見回す。群衆からは好奇と奇異の視線を感じとれた。反対にルイズに対しては依然としてクスクスという好意的に受け取れない笑顔が向けられていた。
「......分かった。一度は死を迎えようとしていたんだ。呼ばれたのなら、応えるべきかも.....しれないな。」
"死"という聞き慣れない言葉に思わず身を震わせるルイズ。しかし、使い魔になってくれると言うのだから本当に嬉しかったのだろう。その眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「では、ミス・ヴァリエール。コントラクト・サーヴァントを。」
コルベールの言葉にハッとしたルイズは、服の袖で目元を擦り、A2に向かってコントラクト・サーヴァントと呼ばれたものを実行する為に、詠唱を始めた。
詠唱に対して、A2はかの文献で知ることになった世界を滅ぼした男が使った魔法を思い浮かべる。
そのせいか、自然と立ち上がり、ルイズから一瞬で距離をとってしまった。
「ッ!」
「ちょ、ちょっと何してんのよ!」
「その魔法は無害だろうな?」
「む、無害に決まってるでしょ!使い魔契約なんだから!」
「......すまないな。」
その言葉で安心したのかA2はルイズの元に戻って来る。ルイズはその一瞬の動きをした目の前の美人にただならぬ気配を感じていた。
「......頼んだよ。」
「....ッ!わ、わかったわ。」
そう言ってルイズは詠唱を再開する。
「か、感謝しなさいよ。貴族にこんなことされるって一生ないんだから。」
詠唱を終えてから頬を赤らめながらそう言うルイズにこんなこととは?と聞こうとしてA2の唇が動く筈だったのだが何かに遮られてしまう。
「ッ!」
それはルイズの唇であった。今、人間と人形の間で接吻が成されたのである。それは傍から見れば女性同士の可愛らしいキスであるが、A2にとってはそれがとても歪んで写っていた。