The beginning of "Z"ero 作:気まぐれな男
ルイズは夢を見ていた。自分は今ボロボロの橋の上にいて、目の前には目隠しをしていてゴシックのような服に身を包んだ少女が足を引き摺りながら歩いていたのだ。身体のあちこちから出血しており、いかにも重傷であることが分かる。
なんとか助けようと思った。目の前の、しかもルイズと年はそう離れていないであろう少女を見捨てるほど、彼女は残酷な人間ではなかったし、何より貴族としてのプライドが目の前の少女を助けるべきだと彼女に囁いていたからだ。
ルイズは少し離れていた少女を追い越さんばかりの勢いで駆け寄っていった。なんとかその少女に止まって貰おうと声を掛けようとするも、声が出ない。ではこれならどうかと少女にしがみつこうとするが、触れる筈のその手は虚空を裂く。
(どうなってるのよ!これじゃああの娘が......。)
そうルイズが内心文句を言っている間にも少女はまるで何かから逃げているかのように、いち早くこの場から離れなければという確固たる意志を持って、ときどきつまづきながら歩いていた。
渡り終えた頃に少女に待ち受けていたのは少女には不釣り合いな奇妙な鎧を着込んだもの達であった。
ルイズにはその構図が理解出来なかったが、ただ間違いなく目の前の少女に敵対している様子であった。
少女がその姿に似合わない筈なのに何故かしっくりくるような美しい剣を取り出し、そのもの達に応戦しようとした。
(ッ!まずいわ!)
そう思い、ルイズが慌てて杖を取り出そうとしたとき、少女の目の前に少女と同じような神秘的なまでに白く、そして少女とは違う長い髪をたなびかせた女性のフォルムをした人物が化け物の頭上に落ちてきた。その衝撃か少女は近くの岩に吹き飛ばされる。女性はそんな少女を気にもとめずに、すぐに化け物達を倒した。明らかに手練の風貌だ。
女性は少女の方に振り向く。それに応えるように少女は自分の剣を杖がわりにして立ち上がる。
(あれは......A2、かしら.....。)
ルイズが見たA2は無造作に切られていたショートの髪だったが、その女性にはA2を漂わせる雰囲気があった。
A2は無言で小さな方の剣を抜き、新たに現れた鉄の化け物へと斬りかかっていった。
(凄い.....。)
その一言しかルイズの心には表せなかった。まるで踊り子のように剣とA2の身体が回る。それでいて、自然と少女を守る守護者のようなイメージをルイズは感じ取った。
その姿は命のやり取りであるというのに、あまりにも"美しかった"。
ルイズが呆然と立ち尽くしていた間に、戦闘は既に終わっていた。
A2は息切れ一つした様子がなく腰に剣を戻し、ゆっくりと少女の元に歩いていく。
「......ここ.....まで.....かな。」
そう、少女は漏らし、目隠しを自らの剣で切り裂き、素顔をA2に晒す。
素顔を晒した少女の瞳は、何かに取り憑かれたように紅く光っていた。
そして、少女は力を振り絞って剣を地面に突き立てる。
「これは、私の......記憶。」
息を切らしながらそう呟いた少女は、これだけは伝えなければと言葉を続ける。
「みんなを......未来を.....」
「....お願いするね.....A2。」
そう言って自分の思い出であろう剣をA2に託そうとする。
(.....もう、助からないのかしら...。)
一人思うルイズをよそに、A2は少しの間を空けて少女に近づき、その剣を抜く。
そしてA2は
少女の思い出を
少女に突き立てた。
「ッ!A2!どこ!?....ッ....ハァ.....ハァ......あれ?ここって....。」
ルイズは自室にいた。先程まで橋を渡った先にある廃墟と化した建造物の前にいたというのに。
混乱した様子で部屋を見回す。もう暗くなっており、明かりといえば月明かりだけであった。
ルイズが召喚した使い魔は用意した藁ではなく、ソファーに横になっていた。
ルイズは重そうに上半身だけ起こしていた身体を動かし、ベッドから出る。
目の前の女性を改めて見ると、とびきりの美人であることが確認できた。
線が細く、華奢な印象だが引き締まった身体。その美しい身体を無駄なく包んでいる、決して華やかではないが綺麗な服。顔の造形もルイズに負けず劣らず整っており、無造作に切られた髪はどこか夢の中の少女を想起させる。
(何か....あったのかしら....。)
眠っているA2の悲しそうな顔は、ルイズに目の前の女性が貴族のようなきらびやかな生活をしてきたわけではないと思わせるには充分すぎるくらいだった。
(せめて....これくらいなら....。)
ルイズはベッドから毛布を引っ張り出し、A2にかけた。
そして自分は貴族の象徴であるマントをかけ、眠っているA2と手を繋ぐ。その手はありえないほど冷たかった。
(人間じゃないって、本当なのかな....。だとしたら.....。)
夢の中の少女も何か関係しているのだろうと考えたルイズは汗でぐしゃぐしゃの身体を気にもとめず、そのまま目を閉じた。
ありがとうございました。