The beginning of "Z"ero 作:気まぐれな男
報告:前書きによる、誤字報告の連絡。
ルイズとA2の二人は授業が行われるという教室のある塔に向かっていた。
道中、ルイズがA2の顔を覗き、
「なんか嬉しそうね、A2。」
「あの料理人、流石だと思ってな。」
当然のことだった。戦いに明け暮れ、もはやそれ以外では満足出来なかったA2を、あのシチューは一杯のみでA2を満足させて見せたのだ。あの料理ならここの者達もさぞ食事が楽しみだろう。
ルイズは満足そうに頷き、
「もちろん!ここの料理人なんだから凄いに決まってるじゃない!」
まるで自分のことのように誇らしげに小ぶりな胸を張る。その姿は正しく幼き子どものようだ。
そんな小さなやり取りをしていると、ルイズが思い出したように真面目な顔をしてA2に問いかける。
「ねぇ、A2。」
「なんだ?」
その空気の変化にA2も察したのか、どんな質問が来るのだろうかとその顔を少し緊張させる。
「....あの目隠しをした黒い服の女の子って、誰なのかしら?」
「.....ッ!」
A2は一瞬でルイズから距離をとり、構えながら問いかける。
「.......どこで知った?」
「え、A2....その、夢で見たの。貴女がその娘を.....その、殺したところ......。」
A2は驚いていた。目の前の小娘は、自分が2Bを殺害したところを夢で見たというのだ。
昨夜の説明の"感覚の共有"の一部かもしれないと推測したA2は狼狽えている主人に近づきながら言う。
「.......然るべきときに話してやる。その夢の内容と、私が人間じゃないことも含めてな。」
「そ、そう。わかったわ。」
最初にあったときのように怖い顔をしているA2を見て、ルイズは身を震わせる。彼女は普段は気丈に振る舞っていても、本当の恐怖は経験していないのだ。
このまま話せる雰囲気でもなく、二人はそれ以降無言のまま教室に向かった。
教室につくと結構な数の生徒がいた。皆それぞれ違った行動をしており、友人と談笑している者もいれば、一人で読書に勤しむ者もいた。
ルイズが教室に入ると、生徒達から笑い声と共に平民を召喚した"ゼロ"に関する噂が聞こえてきた。例の如く、それは気分のいいものではなかった。
ルイズはそれらをしている者達に睨みをきかせると、生徒達から嘲笑が途絶えた。
「ニーア、貴女は後ろで待ってて。」
そう指示すると、A2は教室の後ろの方に下がり壁に背を預け、待機状態に移行する。
少し経ってから、どうみても生徒達よりは歳をとった女性が教室に入ってきた。
「皆さん。春の使い魔召喚は大成功でしたね。このミセス・シュヴルーズ、毎年生徒達の使い魔を見るのが楽しみなんですわ。」
シュヴルーズと言った女性は教室を見渡して、一人一人の使い魔を確認する。
「あら?ミス・ヴァリエール。これはこれは珍しい使い魔を召喚しましたね。」
そのとき教室内にいた生徒達から笑いが起こる。その中でもシュヴルーズと同じように太った男子生徒は、明らかにルイズを馬鹿にしていた。
「ゼロのルイズ!いくら召喚出来なかったからってそこら辺の平民を連れてくるなんてな!」
その言葉に更に笑いが起こる。ルイズは我慢ならない様子で男子生徒に反論する。
「何よ!見てたでしょ私が召喚に成功したところ!」
「はいはいそこまで。それでは授業を始めますよ。」
その言葉に大半の生徒は静かになったが、未だに騒いでいた生徒にシュヴルーズが杖を軽く振ると、彼らの口に粘土のようなものが押し込まれた。
A2はその様子に驚いていたが、これも魔法なんだろうと結論づけると、また興味なさげな態度に戻った。
授業が進んでいき、実際にやってみようという話になった。実践する魔法は"錬金"と呼ばれるものである。
最初にシュヴルーズがやってみせたら、ただの石ころが金色の物体に姿を変えた。
その様子にキュルケは身を乗り出しながら、シュヴルーズに金かどうかを聞いたら、どうやら真鍮だったようだ。キュルケはガッカリしていた。
さて実践する生徒だが、シュヴルーズは座学トップの成績だったというルイズを指名した。
生徒達からは次々にやめた方がいいという言葉が聞こえたが、ルイズは気にすることなく教壇の前まで教室内の階段を降りてきた。
ルイズがシュヴルーズにならって同じ錬金の呪文を唱える。
生徒達からは絶望の様子が漂っており、中には冷静に教室から出ていく者もいた。
A2はその様子にただならぬ気配を感じ、警戒はしておくことにした。
呪文を唱え終わったルイズは自らの杖を石ころに向けると、その石ころを中心にして、
大爆発した。
ルイズとA2は誰もいなくなった教室を片付けていた。ルイズが魔法に失敗し、教室をめちゃくちゃにしたからである。
ルイズは泣きそうな顔になりながら無言で、しかもルイズより早いペースで片付けるA2に問いかける。
「なんで......何も言わないのよ.....。」
「....何が?」
ルイズは目の前にいる使い魔も自分を馬鹿にしているのではないか、そんな疑いの念を持っていた。
「どうせアンタも私のこと馬鹿にしてるんでしょ!ゼロのルイズだって!」
「.......魔法に失敗したら、普通どうなる?」
純粋な疑問であった。しかしルイズは当たり前のようにこう答える。
「どうって.....何も起きないわよ!」
「じゃあ、何故爆発した?」
「そりゃあ、私が失敗したから.....。」
この短い会話でどこかおかしいと感じたA2は、更にルイズに質問する。
「そのメイジとかいうのは、失敗すると爆発するのか?」
「!」
ルイズは気付いた。もし詠唱が失敗しているのであれば、確実に何も起きない。しかし自分は爆発する。
何か、意味があるのではないかと。
「ああいう爆発は、大方お前しか起きないんだろう?」
「!そ、そうよ。」
「では、あれがお前の"魔法"であるとしたら?」
ルイズはハッとした。今まで何の魔法でも爆発した。
それで自分は他とは違う何か、才能のようなものがあるのではないか、そんな事を考えたこともあったのである。
その淡い期待は打ち砕かれようとしていたが、A2の言葉がその考えを強固なものにしたのだ。
「それじゃあ、あの爆発が私の魔法?」
「.....確証はないし、知識のない私の言葉だ。あまり期待するな。」
それでもルイズはA2の言う可能性に縋りたかった。
才能のない自分が魔法を使えたのだという喜びがとてつもなく大きく、出来ればそうであって欲しかったのだ。
ルイズが一人喜びを噛み締めていると、A2が付け加える。
「私は、使い魔の中でもイレギュラーの存在なんだろう?なら呼んだお前もそうだ、と考えたのだが....。」
A2にとってこれだけ論理回路を使ったのは久しぶりな気がした。それほど目の前の少女を気に入っているのだろうかという考えを振り払い、ルイズに向き直る。
「.......さっさと片付けろ。」
その言葉にやっと我に帰ったルイズは、慌ててA2と共に片付けを再開した。終わる頃にはいつものような小生意気な態度が戻っていた。
ルイズとA2は、片付けをしていたために周りに遅れて昼食をとることになった。
一度訪れた食堂であるが、今回はご丁寧にルイズの席まで付いていき、椅子を引いてやった。教室の一件で彼女を笑い者にする連中がどこか許せなかったからだ。
あまり期待していなかったルイズは、使い魔らしくない使い魔の意外な行動に目を丸くするものの、すぐに冷静さを取り戻し着席した。
A2は今度はルイズに断りを入れ、また賄いの食事を貰うべく調理場に行こうとした。あのシチューという料理がまた食べたくなったのである。
しかしその行動はある一つの人だかりに遮られることになる。
「何だ?あの連中。」
道を塞ぐ程の人だかり、その中心に使用人シエスタがへたり込んでいた。
そのシエスタに向かって金髪の派手な姿をした男子生徒が怒ったように言う。
「君のせいで二人の女性の名誉が傷ついたじゃないか!どうしてくれるんだい?」
たくさんの生徒達に一斉に見られているシエスタは今にも泣き出しそうな顔で謝罪の言葉を繰り返していた。
「......どういうことだ?」
その疑問に近くにいた事情を知っている男子生徒が答える。
「あの金髪、ギーシュが愛しのモンモランシーの香水を落としてな。そんであのメイドが拾ってやったらその現場を一年のケティって奴に見られたんだ。それがモンモランシーにも見つかって見事二人から平手をくらったのさ。んで、アイツはそれをあのメイドのせいにしてるってわけ。」
長ったらしい説明を言ってからまたその生徒は面白そうに事の成り行きを見守る。
A2はため息を漏らしながらだったら助けてやればいいのに、と思う。
ルイズも何事かとA2の元に来ていた。
「要するに二股じゃない.....。呆れたわ.....。」
「.......。」
A2は無言でとうとう杖を取り出し始めたギーシュというキザったらしい男の元に寄っていき、シエスタを庇う形でギーシュに向き合う。
「......何だい?君は。僕は今このメイドを躾ようとしていたんだ。邪魔をしないでくれるかい?」
躾、という言葉にA2は鼻で笑う。
「馬鹿馬鹿しい。話を聞けば、ただお前が二股をかけて、それが失敗したからこの娘に当たってるだけじゃないか。」
すると、そうだそうだと野次が飛ぶ。......彼らはどうやら、ただこの状況を面白がっているだけのようだ。
「.......だがね、この使用人にも非があるのだよ平民君。彼女もその場の空気を読んで機転を利かせても良かっただろうに。」
図星を突かれたギーシュは苦し紛れの反論をすると、それもまたA2に一蹴される。
「......そもそも二股しなければいい。」
その言葉に周囲から一斉に笑いが起こる。顔を真っ赤にしたギーシュはA2に向かって叫ぶ。
「ならば、決闘だ!平民!君もメイド共々躾てやろう!!」
食堂中におおー!と歓声が巻き起こる。彼らは怠惰な日々に少しでも刺激が欲しかった。
「.....いいだろう。来い。」
「いや、ここではなんだ。ヴェストリの広場に来い。そこで決着を付けようじゃないか!」
そう言ってギーシュは最後までキザったらしく食堂からいなくなっていった。
「だ、ダメです....ニーアさん。殺されちゃいます......。」
怯えながらA2にそう言うシエスタだが、A2は決意のこもった表情でシエスタに言った。
「.....すぐにカタをつけるさ。それに、お前が手引きしてくれないとあのシチューが食えないからな。」
貴族に勝てる確証なんて無いのに、それでもここまで決意に溢れた顔をするA2にシエスタはそれ以上何も言わなかった。いや、この人なら勝てるかもしれない、そんな事まで思ってしまっていた。
「ちょっと!勝手に決闘しようとするなんてどういうつもり!?」
人混みを掻き分けながらA2に問い詰める。しかしA2はニヤリと笑みを浮かべ、
「....さあな。」
そう言って、その辺にいた生徒にヴェストリの広場の場所を聞き、そのまま案内されて行った。
その背中は、主人であるルイズも未だ見たことのない頼もしさがあった。
次回、A2による初戦闘。