深夜二時過ぎ、爆破による火事はようやく弱くなり始めていた。
その炎に照らされて近くに停められた第35装甲師団所属のsdkfz251/3の傍に3人の士官の影があった。
ホスバッハ「ああ、何とか始末できそうだ。
助かった」
ノイベアト「どういたしまして」
ロッゲ「なに、この部隊は連合軍の要だ、お安い御用よ。」
ホスバッハと第152山岳重装備大隊大隊長のノイベアト少佐、そしてロッゲ少佐だった。
3人は燃え盛る格納庫を眺めながら話していた。
ロザリー「ホスバッハさん、状況は?」
ホスバッハ「少佐、見ての通りですよ」
ロザリーがやってくるとホスバッハは燃える格納庫を指さす。
格納庫の周りでは兵士達が消火作業と安全確認を行っていた。
ホスバッハ「無茶苦茶だ、爆発で弾薬と整備用のエンジンオイルに引火して大火災。
ガスと電気を緊急遮断して延焼は食い止めたがストライカーユニットは2機を除いて大破。
一部は全損だよ。
壊れなかったのはフーヴァー少佐のFM‐2と少佐のスピットファイアだけ」
ロッゲ「負傷者については移動不可能な重傷者以外はうちのトラックとか装甲車に乗せてセダン市内の病院に分けて運んだ。
外周部とセダン市内にも同じくうちの部隊が緊急展開して治安維持任務中だ。」
二人が状況を話しているとsdkfz251/3の車内の野戦電話が鳴った。
通信兵「少佐、第2中隊長から電話です」
ロッゲ「何?」
電話の主は第35装甲擲弾兵連隊第Ⅰ大隊第2中隊長だった。
第2中隊は基地の外で戦闘団“ホスバッハ”の第1中隊とともに警備を行っているはずだった。
ロッゲ「なんだ、何があった」
第2中隊長『はい、それがガリア軍諜報部のキーラ少佐と名乗る士官に率いられた諜報部の車列が通せと言ってきてるんです。
そちらに連絡は来てますか?』
それは突然の来客の事だった。
ガリア軍の諜報部が突如来たことに混乱し上の判断を仰いだのだ。
ロッゲ「はあ?諜報部?そんな連絡が来るわけないだろ。
ホスバッハ、あんたんとこにも来てるか?」
ホスバッハ「そんな連絡来てない」
ロッゲ「そんな連絡は来てない、追い返せ。
それでも通せという気なら撃っても構わん」
第2中隊長『了解!』
ロッゲは野戦電話を切った。
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外周部の警備拠点では第2中隊長が警備ポストに設置された野戦電話を切ると後ろにいる女性に話した。
第2中隊長「というわけですのでお帰りください。
帰る邪魔はしないので」
キーラ「我々はガリア政府より正式な命令を受けている。
追い返すとはどういうことかね?」
後ろに立っていた女性、諜報部のキーラ少佐は不満そうだった。
第2中隊長「言葉の通りですよ。
上に連絡が来てない以上この先は通れないですよ」
キーラ「そうか、正式な連絡はまだだったか。
では今日は帰らせてもらう。明日正式な連絡を受けてから来ますので」
不満そうだったがどうしようもないためキーラは車列に戻るとUターンして帰って行った。
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翌朝、やっと鎮火し現場で作業が続いていた。
鎮火した後周囲には規制線が張られ早朝にやってきた憲兵と警察部隊が取り囲み、現場では兵士達が不発弾など危険物がないか捜索していた。
また周囲には数台のsdkfz10/4が配置され上空警戒を行っていた。
本格的な捜査は現場の安全性の確認が完了次第とされた。
ホスバッハは格納庫の傍に置かれたドラム缶にもたれかかりながらコーヒーを飲んでいた。
既に戦闘団“ロッゲ”、“ノイベアト”は残地部隊として合計1個中隊程度の部隊を残して撤退した。
ホスバッハ「状況はどうだ」
兵士A「今の所不発弾など危険物は見つかってません、爆発地点については恐らくあのあたりかと。」
ホスバッハ「そうか、ありがとう。
不発弾か爆薬らしきものを見つけたらすぐに連絡して退避しろ。」
兵士の報告を聞いていると後ろから車の音がし振り返ると昨夜やってきたガリア軍の車列がやってきた。
その車列の乗用車から一人の女性が降りるとホスバッハに話しかけた。
キーラ「ガリア諜報部のクリス・キーラ少佐だ、ホスバッハ少佐とお見受けする。
昨夜は失礼した」
ホスバッハ「どうもキーラ少佐、戦闘団“ホスバッハ”長のエーリヒ・フォン・ホスバッハだ。
ようこそセダンへ」
キーラとホスバッハは握手するがホスバッハは一切信用しようとは思わなかった。
キーラ「よろしく、今回の事件では我々ガリア軍諜報部が連合軍と協力して調査をすることになった。」
ホスバッハ「そうかい、だがあんたらの手を借りなくてもこっちでどうにかできるさ。
うちの作業の邪魔をするなよ、今危険物がないか調査中だ。
捜査はその後だ」
キーラ「分かっているとも。」
ホスバッハ「なら邪魔するな、ここじゃお前らが客人だからな。
引っ掻き回すなよ。」
ホスバッハは釘をさすと現場を別の士官に任せた。
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ホスバッハ「プレッツ、どういうことだ?」
プレッツ「ガリア政府の圧力だ。
“これはガリア国内で起きたテロ事件である以上ガリア政府も見過ごす訳にはいかない。
その捜査に我が国が介入できないのは如何なることか”と連合軍に詰め寄ったそうだ。」
ロザリー「それって悪い事なのかしら?」
ロザリーの部屋にロザリー達506幹部5人が集まって協議していた。
プレッツはガリア軍諜報部の介入のあらましを伝えるがロザリーにはなぜそれが反発を生むのか理解できていなかった。
カート「大方、地位協定でしょうね。
地位協定で連合軍基地内の治安維持と捜査権は基本的に連合軍にありますから。」
プレッツ「そうだ、軍隊ってのは前例主義だ。
新しい事をあまりやりたがらない組織だが一度前例を作ってしまえばその次もその又次も介入してくるに決まってる。」
ジーナ「連合軍の独立性が損なわれる…」
プレッツ「そうだ、我々はこの国では“表向き”中立でなければならない。
まあ実際は全く違うがね」
ガリア軍諜報部の介入は連合軍のガリアにおける独立性が損なわれる可能性を意味した。
独立性が損なわれるとガリアにおける軍事活動に政府があれこれ口を出す可能性を生みそうなれば政治的理由という碌でもない理由で無用な軍事作戦を強いられる可能性もあった。
プレッツ「それともう一つが…」
もう一つの理由を話そうとするとプレッツは窓の外を見て、更にドアの外を確認するとカーテンを閉めた。
ロザリー「プレッツさん?」
プレッツ「これでいいだろう、これから話すのは機密情報だ。
言えば全員銃殺刑だ」
釘をさすと話した。
それを聞くと少ししてから全員が理解し頷いた。
プレッツ「ガリア政府内には我々連合軍を快く思っていない者も多い、そしてその一部はテロ組織又はテロ組織と繋がりのある人物や組織と繋がりを持っている。
実際一部の情報がテロ組織に漏れている可能性もある」
「「え!」」
プレッツの言葉に驚いた。
ロザリー「それって…」
プレッツ「諜報部のあの女には十分注意しろ。
それも含めてこの基地内にはスパイがいる可能性もある」
プレッツは釘を刺した。
プレッツ「まあ我々も手をこまねいてるわけではないのだがな。」
最後にプレッツは含みのある言葉を言った。
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爆破事件から約36時間後のガリア南部ペルピニャンの町中に一台のシムカ5が路上駐車されていた。
そのシムカに新聞を持った男が近づくと開けられた窓の中に新聞を投げ入れた。
乗っていた二人組の男は受け取ると何も言わずに窓を閉めた。
新聞を開けると中から数枚の書類とネガが出てきた。
その書類とネガはそれから何人もの人の手を介されパリへと運ばれた。
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爆破事件から5日後、セダンのA部隊は未だ復旧作業が続いていた。
ユニットは全て修理され部隊は戦闘能力を回復、更にこの機会に戦闘団“ホスバッハ”は解散され代わりに第506/1空軍大隊と第506/1高射砲兵連隊が配属された。
第506/1空軍大隊は3個山岳猟兵中隊と1個降下猟兵中隊、そして1個戦車小隊と2個装甲車小隊の装甲偵察中隊からなる警備部隊で装備も戦車は中古のⅢ号戦車5両、装甲車小隊も中古のsdkfz251のC型とsdkfz232、sdkfz222などの旧式装甲車主体の部隊だった。
装備では劣化したが部隊の兵員自体は陸軍部隊からの抽出で戦闘能力は変わらず、第506/1高射砲連隊は4個大隊編成で88ミリ高射砲や105ミリ高射砲だけでなく陣地設営式の128ミリ高射砲、40ミリ高射機関砲など合計132門を有する部隊で定数140門に対して充足率94%、兵員定数でも106%という優良部隊で事実上戦闘能力を教化されていた。
さらにこの高射砲連隊の陣地設営の為急遽陸軍から建設工兵大隊と国家労働奉仕団の人員が派遣され工事が開始され事実上防衛能力自体は飛躍的に向上した。
混乱も収まり邦佳の怪我もある程度回復しA部隊は日常を取り戻しつつあった。
貫二郎「ふむ、スイングジャズ…
今度レコード買おうかな」
カーロイ「何見てるんだ?」
朝食を食べながら貫二郎はレコード会社のカタログを見ていた。
見ていたのはリベリオンのスイングジャズのページだった。
貫二郎「レコードのカタログですよ。
B部隊の人が聞いていたスイングジャズのレコード買おうかと思って」
カーロイ「スイングジャズか、ルイ・プリマのシング・シング・シングとかが定番だな。
何枚かレコード持ってたよ」
貫二郎「羨ましいですね。
こっちはアメリカ文化は敵性文化だ!なんて言って英語狩りとかやってましたよ。
まあ酷いですよ、父の知り合いの軍人の殆どが戦争が始まってから英語のできる人材が足りないからもっと教育を強化してくれとかよく言ってましたよ」
貫二郎が日本での敵性語狩りの話をする。
それにカーロイはあからさまに不愉快になる。
カーロイ「そいつら馬鹿だね。文化に優劣もクソもあるかってんだ。
文化に優劣があるならとっくの昔に人類は滅んでるよ」
貫二郎「確かに」
カーロイ「ああ。親父が言ってたよ『文化とか芸術に優劣をつけたり金をつけるのはバカだ。本来は全て平等に値段など付けられる代物じゃない』って。」
貫二郎「納得ですね」
二人共芸術に対して興味を持っていた人物であるため芸術雑談に花を咲かせていた。
その斜め向かいではイザベルが何故か朝食のアスパラガスを残していた。
邦佳「あー、アイザック君駄目だよ~
アスパラガス美味しいのに」
イザベル「好き嫌いじゃないんだよ…呪いさ」
邦佳「え?」
イザベル「ご先祖様が8本足の八木に呪われて以来、代々我がバーガンデール家の女子はアスパラガスに触れるとおぞましい姿に変身してしまうんだ…
僕が男の子として育てられたのもそれが関係してね」
邦佳「ほんと!?」
イザベルが真面目な口調ででたらめを言う。
邦佳は半分信じるが突如二人共頭に一撃を食らう。
ハインリーケ「単なる好き嫌いじゃ!
いちいち本気にするな!」
ホスバッハ「生意気言わずに全部食え!」
ハインリーケとホスバッハが突っ込んだ。
イザベル「…どうして今の話、真に受けるかな、黒田さん」
邦佳「え~嘘なの…?」
邦佳の反応に呆れていた。
その一部始終を見ていた貫二郎は苦笑いしていた。
貫二郎「邦佳、すぐ信じちゃうから…」
カーロイ「本当ならアスパラガス無理矢理口に詰めたんだが」
カーロイもジョークを飛ばした。
ハインリーケ「そなたもいい加減こやつのジョークに慣れたらどうじゃ?」
邦佳「だって、アイザック君真顔なんだもん」
ハインリーケ「ならば騙されるたびに罰金じゃな。」
邦佳「それだけは!」
話していると、突如サイレンが鳴り響いた。
ハインリーケ「警報!?」
ホスバッハ「何が起きた!」
ロザリー『この基地へ低空低速の飛行物体が接近中』
未確認の航空機が接近していた。
テロ事件の直後という事もあり新たな攻撃の可能性もあった。
ホスバッハ「セダンの防空司令部に問い合わせろ、姫さんとバーガンデール、カーロイは出撃しろ!」
対応を指示するとホスバッハはセダンの防空司令部直通回線を使い問い合わせている間にハインリーケとイザベルが出撃した。
ホスバッハ「こちら506、セダン司令部、現在西から接近中の航空機の情報はありますか?
え…?」
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ハインリーケ「見つけた、あれじゃな」
イザベル「戦闘隊長、撃墜許可を」
ハインリーケ「やめんか!あれは…」
カーロイ「複葉機?」
出撃して15分後、ハインリーケ達は接近中の航空機を視認した。
ハインリーケ「ソードフィッシュMkⅡ」
接近中の機は大戦中の名艦上雷撃機にしてストリングバッグ(網袋)と言われたほど汎用性に富んでいたフェアリー・ソードフィッシュだった。
するとソードフィッシュから無線が来た。
『あーあー、聞こえるかね?
こちらブリタニア政府公用機』
イザベル「この声は…」
無線の主の声にイザベルは聞き覚えがあった。
無線の主はさらにジョークを飛ばした。
『ウィッチの皆さん近くのガソリンスタンドを知りませんかな?』
カーロイ「一つ知っているがオクタン価が60の安物しかないね」
ハインリーケ「…所属を明らかにされよ」
ハインリーケが所属を問い合わせる。
『任務の秘匿性によりパリの司令部に確認されたい。
そしてできればセダンまでのエスコートをお願いしてもよろしいかな?』
カーロイ「残念ながら男のケツを守る趣味はないがよろしいか?」
『私だってできればそこの淑女お二人にエスコートされたいのだが』
セダンまで護衛を要求してきた、すると突如ホスバッハが無線に割り込んだ。
ホスバッハ『こちら鷲の巣、こちら鷲の巣、姫様、接近中の機はブリタニア政府の機。
飛行目的に関しては不明なれど重要人物が搭乗しているらしい』
カーロイ「了解、高官輸送機ってことか。それにしてもちゃちだが…」
カーロイはソードフィッシュを怪しみながら眺める。
そしてイザベルはものすごい嫌そうな表情をした。
遅れた