WWⅡウィッチーズ   作:ロンメルマムート

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(まだ)平穏です。


第14話:故郷

 こうして1週間後、演劇をすることになった506は早速舞台の台本を書き始めることになった。

 そしてそこに集められたのが唯一芸術に関する教育を受けている貫二郎、芸術・演劇に関して幅広い知識を有するカーロイ、演劇経験はないがくじでお目付け役にされたジェフ、そして怪奇映画好きの邦佳とイザベル、唯一演技の経験があったマリアンが集められた。

 

イザベル「それでは今から演出・脚本の私イザベルとブダペスト1の芸術の知識を有するカーロイさん、未来の天才作曲家大野さん、怪奇映画、チャンバラ大好き黒田さん、お目付け役のフィッツジェラルドさん、そしてザ・シンデレラことマリアンによる企画会議を執り行い…」

 

マリアン「シンデレラって呼ぶな!」

 

 イザベルが適当な事を言うとマリアンが怒った。

 

マリアン「だいたい、なんで私がAの連中と一緒にこんなことしなきゃならないんだ!」

 

貫二郎「演技経験者で上手だって聞きましたので」

 

マリアン「だからそれは小学校の劇でやっただけだと…

     それだって嫌々…」

 

ジェフ「誰がここに放り込まれるかを選ぶポーカーで何故かドヘタクソのカートに負けて放り込まれた俺よりはマシだな」

 

 彼女をジェフが諫める。

 ジェフは誰がお目付け役として参加するかというポーカーで大負けしたため放り込まれたのだ。

 

貫二郎「ところで、何処まで決まってるんです?

    一応ネタが一つあるんですけど」

 

カーロイ「なんだ?ネタって」

 

貫二郎「ヴィクトル・ユゴーの小説レ・ミゼラブルのミュージカル」

 

邦佳「流石貫二郎!」

 

イザベル「すごいね、でどこまでできてるの?」

 

 貫二郎はレ・ミゼラブルのミュージカルを提案し進捗を聞かれるが顔をそむけた。

 

貫二郎「ぜ、全然…」

 

カーロイ「一応聞くが完成にどのぐらいかかる?」

 

貫二郎「は、半年かな…最低で」

 

ジェフ「劇は来週だぞ」

 

 貫二郎の案はあまりにも準備に時間がかかるため却下された。

 

イザベル「じゃあ予定通りシェイクスピアでいいよね」

 

カーロイ「シェイクスピアかぁ、リチャード3世か?

     『馬をくれ、馬を! 馬のかわりに、わが王国をくれてやる!』てか?」

 

貫二郎「『今や我らが不満の冬は去り、ヨーク家の太陽によって輝かしい夏となった。

     我ら一族の上に不機嫌に立ち籠めていた雲も全て大海の底深くに葬られた。

     今や我らの額には月桂冠が巻かれ、我らの傷だらけの具足は記念品として壁に掛けられている。

     我らの恐ろしい警鐘の音は楽しい宴の声に、我らの重苦しい行進は軽やかな舞踏に変わった。

     厳しい表情の戦闘がしわくちゃ笑顔の戦線に緩んだ。

     そして今や、装備した軍馬にまたがり怯えた敵の魂を驚愕させる代わりに、ご婦人の部屋で、みだらで甘いリュートの調べに合わせ兄エドワードは軽快に跳びはねている。

     だが俺は、生まれながらに陽気な遊びには向いておらず、好色な姿見に気に入られるように作られてもいない。

     俺は、いいかげんに型出しされたできそこないで、気取って歩く浮気な美女の前を闊歩する威厳に欠けている。

     俺は、嘘つきの創造主に背丈を騙し取られ、五体の美しい均整を奪われ、歪められ、未完成のまま、半分できるやいなや、生まれるべき時が来る前にこの世に放り出されてしまった。

     ひどい不具で不格好なものだから俺がびっこを引いてそばを通れば、犬が吠えかかる。

     するってえと、俺は、このひ弱な泰平の世で暇つぶしをするどんな楽しみがあるんだい。

     日向で自分の影法師を見つめながら、己の無様な姿を歌にして口ずさむ以外に。

     それならば、俺は口先ばかりもてはやされるこの時世を、楽しむ恋人にはなれないのだから、俺は決めた、悪党になってやる、今日この頃のだらけた快楽を憎んでやる。

     筋書きは描いてある、その危ない序幕はな、酔っぱらいの語る予言、誹謗、夢占いで兄のクラレンスと王エドワードをお互いにひどく憎しみ合わせてやるんだ。

     そしてもし王エドワードが、狡猾で不実で二心ある俺に負けないほど真っすぐで心の正しい男であれば、今日にもクラレンスは牢に押し籠められるはずだ。

     Gが頭文字の人物がエドワードの後継者たちを殺すだろうという予言のせいで。

     考えは胸中深くしまっておけ、当のクラレンスが来やがった。』」

 

カーロイ「ブラボー、あの長回しのセリフをそらんじれるとはな」

 

ジェフ「『幼くして聡い者長生きせず、だってな。

     春が早いと夏は短い。』」

 

 リチャード三世のセリフをそらんじるがその様子にマリアンは不満だった。

 

マリアン「むむ…勝手にやれ!私は知らないからな!」

 

邦佳「えー」

 

 マリアンはベッドに入り込むとそのまま寝てしまった。

 

 

---------

 

 

 数時間後、マリアンは寝ていなかった。

 ベッドに潜り布団で隠しながら狸寝入りをしていた。

 勿論理由が脚本の様子が気になるというものだった。

 

イザベル「これだとストーリーに意外性がないよね」

 

 イザベルの言葉にマリアンは疑問を持つ、だがさらに疑問を持たせる単語が飛び込んでくる。

 

邦佳「犯人の動機はどうしよう?」

 

貫二郎「これ大丈夫なんですか…」

 

カーロイ「関係ないだろ、こっちは演目決めるぞ」

 

ジェフ「スウィングジャズは絶対やれよ」

 

 なぜか脚本を話しているのは気がついたら邦佳とイザベルだけで男衆は別の事を話しているようだった。

 その上何故かジェフの声は何処か陽気な感じになっていた。

 

イザベル「この役はジャンプ力のある人でないと」

 

貫二郎「で、どうします?歓喜の歌入れます?それとも双頭の鷲の旗の元?」

 

カーロイ「ハンガリー舞曲入れたか?」

 

ジェフ「子供が寝るぞ、というかレコードで実際にどれ使うか決めるか?」

 

貫二郎「いいですね、とりあえずレコード取ってきます。」

 

ジェフ「あ、ビール忘れるなよ。アイリッシュスタウトで」

 

 邦佳とイザベルの会話はますます謎が増え、一方で貫二郎は部屋から出るとレコードとビールを取りに行っていた。

 戻ってきてグレン・ミラーのインザムードが流れ始めた。

 

邦佳「折角だし他の作品も混ぜてみない?」

 

イザベル「じゃ適当に」

 

貫二郎「スタウトもおいしいですね」

 

ジェフ「だろ?俺達アイリッシュの本場のアイリッシュスタウトだ。

    紛い物とは全然違うぜ?」

 

 邦佳とイザベルの発言にマリアンは怒りを感じ始める。

 一方で男衆が気がつけば酒盛りになっていた。

 

イザベル「リベリオンのテイストも入れたいよね?」

 

邦佳「いい考え!カール大尉に聞いてみよう!」

 

 すると邦佳がマリアンを起こした。

 

邦佳「ねえ、カール大尉、大尉ってば」

 

マリアン「んん…何だ?よく寝てたのに」

 

 狸寝入りしていたマリアンは目が覚めたばかりのような演技をする。

 寝ぼけたふりをするマリアンに邦佳が聞いた。

 

邦佳「リベリオンの事知りたいんだけど大尉の故郷ってどんなとこ?」

 

マリアン「故郷は駄目だ」

 

邦佳「教えてよ」

 

マリアン「絶対に嫌だ」

 

ジェフ「あ?アメリカの事聞きたいなら俺が答えてもいいぞ」

 

 マリアンは邦佳の問いに答えることを断固拒否する。

 すると酔っ払ったジェフが答えるが酔っ払いの戯言と思われ無視された。

 

邦佳「教えてくれたら扶桑の成田山の交通安全のお守りあげるから」

 

マリアン「いるか!」

 

邦佳「教えて教えて教えて!」

 

 とうとう邦佳は駄々をこね始めた。

 そして彼女が折れた。

 

マリアン「あー五月蠅い分かった!

     教えるから黙れ!

     ただし、ひとっ言でもバカにしたら本気で殴るからな」

 

邦佳「はーい」

 

イザベル「了解です」

 

 イザベルと邦佳は正座してマリアンの話を聞き始めた。

 男衆も気にして耳を傾けた。

 

マリアン「私が生まれたのはオレゴンの北西にあるハバードって町だ。

     家はホップを栽培している。」

 

 マリアンがそう言うと突如ジェフがビールを噴出した。

 

マリアン「おいジェフ!殴るぞ!」

 

ジェフ「待て待て待て!いやマリアンお前ハバード生まれだったのかよ!」

 

マリアン「殴るぞ!」

 

ジェフ「違うよ!俺セーラム生まれなんだよ!オレゴン州セーラム!

    しかもハバードにはうちの醸造所と農場があるんだよ!」

 

マリアン「えー!」

 

 ジェフとマリアンの故郷は直線で20キロも離れていなかったのだ。

 広大なアメリカで20キロはまさに目と鼻の先である。

 

ジェフ「親父が禁酒法時代に地元のアイリッシュギャングと組んで材料のホップの産地で近くにハイウェーがあるハバードの寂れた農場を買ってそこにセーラム市内にあった醸造所の設備を移して密造してたんだ、禁酒法時代が終わるとその醸造所をそのまま復活した会社の醸造所にしたんだ。

    だからハバードには会社の醸造所と農場があるんだよ。

    最近は麦の栽培まで始めたらしいが」

 

マリアン「そう、ずっと嫌いだったけどな」

 

ジェフ「嫌い?あの長閑な町が?」

 

 するとマリアンが本音を漏らした。

 

マリアン「ハバードの暮らしには何もなかった、夢も希望も将来も。

     あの町に生まれたら大抵は親と同じように働き死んでいくだけだ。

     学芸会でほんのわずかな間シンデレラになっても幕が閉じて喝采が終わった瞬間に思い知るんだよ。

     自分がただの農家の娘で待っているのは家の手伝いで汚れた手に色褪せて擦り切れた服、塩辛くて油っぽいダイナーでの食事。

     夢を抱けば抱くほど現実が押し寄せてくるんだ。

     黒田、お前たちは貴族と私たちの間に何も違いがないって笑うけどなそう言われるたびに私みたいな人間は傷つくんだよ。」

 

 マリアンが嫌いな理由を語る。

 今でこそアメリカは各地を飛行機とハイウェー、バスで繋がり、殆どの人が州の外に行ける世の中だが当時、1940年代はまだ交通機関が未発達でアメリカを横断できる乗り物と言えば鉄道か飛行機、それもまだ命懸けで乗るような時代の代物のみだった。

 この状況から脱却できるようになるのは50年代以降だった。

 彼女の話を聞いて全員が涙を流していた。

 

邦佳「ごめんなんか気持ちをわかってなかったよ」

 

イザベル「うん、反省」

 

ジェフ「マリアンも彼奴みたいに苦労したんだな、えらいえらい」

 

マリアン「いや別に責めた訳じゃ…放せ!

     というかジェフ頭をなでるな!キスするな!赤ちゃんじゃない!

     大野は土下座しなくていい!カーロイは懺悔するな!」

 

 ジェフはマリアンに抱き着き頭を撫で、キスし貫二郎は土下座しカーロイは懺悔していた。

 するとマリアンは振りほどいてテーブルの上のタイプライターを奪い取った。

 

マリアン「あーもう!これ以上余計な事を喋るくらいなら3人でさっさと脚本を完成させるぞ!」

 

貫二郎「こっちも戻りますか、とりあえずこれとこれは入れましょう。

    というか今日中に決めないと練習が間に合わないんですよ」

 

カーロイ「ああ、そうだよな」

 

ジェフ「だな、クラシック中心だと子供が寝るぞ」

 

 マリアン達は脚本を書き始め、貫二郎は曲目を検討し始めた。

 その様子を聞いている人物がいた。

 

カート「良かった、殴り合いにはなってないみたいです」

 

ロザリー「良かった」

 

ジーナ「どうも私たちは過保護なようですね」

 

ロザリー「全く」

 

カート「その通りみたいですね」

 

 カートとジーナとロザリーが心配で聞いていたのだ。

 だが中の様子は3人の心配をよそに平穏そのものだった。

 

 

---------

 

 

 翌日、貫二郎は軍楽隊を集め曲目のリストを配っていた。

 

貫二郎「これが来週やる曲目のリストです。

    まず506参加国の代表的な行進曲として…」

 

 リストは子供たちにやる曲目とその日の夜にやるラジオ放送向けの両方だった。

 

貫二郎「これが孤児院の子供向けで、こちらがラジオ放送向けのです。

    まずガリア国歌ラ・マルセイエーズを流した後、ドヴォルザークの交響曲第9番新世界第4楽章、ショスタコーヴィチの交響曲第7番ペテルブルク第4楽章、トリッチ・トラッチ・ポルカで…」

 

 ラジオ向けは格調高クラシック音楽の演目だったが孤児院向けは子供にもわかりやすいクラシック音楽ばかりだった。

 

貫二郎「孤児院向けは相手が子供なので分かりやすく明るい曲です。

    なので兎に角明るくやってください。

    ラジオ放送は…」

 

 貫二郎が軍楽隊を集めて説明しているその頃、同じくウィッチ達にも脚本が渡されていた。

 

カーラ「え、もうできたの?」

 

イザベル「我ながら隠れた文才にびっくり。

     きっと亡き父も称賛にむせび泣きを見せてくれることかと」

 

カーロイ「勝手にお前の親父を殺すな」

 

 イザベルのジョークにカーロイが後ろから頭を叩いて突っ込む。

 そして二人で全員に脚本を配った。

 

ジーナ「ふむ、配役も決定しているのか」

 

ロザリー「あの、カール大尉。私も舞台に立つの?」

 

ジェニファー「え、この役って?」

 

カーラ「なんだこのタイトル?」

 

アドリアーナ「分厚いなこの台本」

 

ハインリーケ「ほう、妾が主役か。

       まあ当然じゃな」

 

キーラ「どうしてこの配役の欄に私の名前がある!」

 

 その配役に全員が驚いたり感想を漏らしていた。

 

イザベル「では早速読み合わせを、がっつりやるからね」

 

 

 

---------

 

 

 その日の夜、ホスバッハは執務室である人物に電話をかけていた。

 

ホスバッハ「ハイル・ヒトラー。

      例の女狐は来週506の慰問に付いて行く。

      その時…は、了解しました。」

 

 短い会話を終えると目の前に立つプレッツに話した。

 

ホスバッハ「あの不快な虫をこれで駆除できる。」

 

プレッツ「我々に喧嘩を売った報いだ。」

 

 そう言うと二人は机の上に置かれたワイングラスを一気に飲み干した。

 

 

 

---------

 

 

 翌週、ウィッチ達はジープなどの車両に分乗して孤児院を目指していた。

 唯一ホスバッハとプレッツは宛がわれたオペルアドミラルに、軍楽隊は2台のオペルブリッツトラックに乗っていた。

 

マリアン「やっとか…長かった…」

 

ジェニファー「今日で終わるんですね…」

 

アドリアーナ「ネウロイとの戦いの方がまだ楽だったな。」

 

 それぞれ愚痴っていると突然止まった。

 前を見るとダークイエローに3色迷彩を施したトラックとキューベルワーゲンの隊列と交差するため停車したようだった。

 

邦佳「なんだろう?」

 

貫二郎「憲兵かな?」

 

 乗っている兵士達をよく見ると憲兵のように見えた。

 トラックの隊列が過ぎ、最後に憲兵将校を乗せたキューベルワーゲンが通過すると隊列が発進した。

 そしてしばらくして孤児院に到着した。

 孤児院には先に警備部隊から分遣された小隊が到着していた。

 表では警備部隊の山岳猟兵と共に孤児院の子供が出迎えていた。

 

 




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