到着から1時間ほどした後、控室では女衆が劇の準備をする一方、軍楽隊と貫二郎は前座として舞台に並び幕が上がるのを待っていた。
そしてブザーが鳴ると万雷の拍手と共に幕が上がった。
貫二郎「レディース&ジェントルメン、私たちのリサイタルを聞きに来てくださり誠に感謝いたします。
では、前口上はこのぐらいにしまして早速始めましょう、まず最初は我が506参加国の中から行進曲として陸軍分列行進曲、旧友、双頭の鷲の旗の元、星条旗よ永遠なれ、ベルサリエリ行進曲、ブリティッシュグレナディアーズです」
貫二郎はお辞儀をし前口上を述べると振り返り指揮棒を取る、同時に軍楽隊も楽器を構える。
そして振り下ろすと同時に演奏が始まった。
最初は扶桑軍の陸軍分列行進曲、それが終わると旧友、双頭の鷲の旗の元、星条旗よ永遠なれ、ベルサリエリ行進曲と続き最後にブリティッシュグレナディアーズと行進曲のメドレーが行われた。
演奏の間子供たちと来賓達は静かに聞いていたが子供たちは退屈そうだった。
演奏が終わると来賓とメディアは歓声を上げて拍手するが子供たちはやはりつまらなさそうな表情だった。
貫二郎「ありがとうございます、では続いて皆様に新世界の音楽を教えましょう。
リベリオンのジャズです、スウィングジャズ。
よく斜め音楽だとか言われますがこれが新しい音楽です。
お行儀よく聞く曲ではないのどうぞ立ち上がって踊るなり、手拍子をお願いします。
まず最初はシングシングシング!」
次に始まった曲はスウィングジャズのシングシングシングであった。
明らかにテンポが違い明るくクラシックとはかけ離れた所謂低俗的な音楽に伝統的な価値観重視の来賓は顔をしかめるが一方で子供たちは元気になりノリノリで手拍子を叩く。
最初のシングシングシングが終わる頃には子供たちは楽しそうにしていた。
貫二郎「それじゃあ次はクラッシックのトリッチ・トラッチ・ポルカ!
クラシックだってつまらない曲ばかりじゃないぞ!」
子供たちの興奮は貫二郎にも移り大声で次の曲を開始する。
さらにトリッチ・トラッチ・ポルカが終わるとインザムード、茶色の小瓶、ペンシルベニア6-5000と代表的なジャズを続けた。
これで全演目を終わると会場は興奮のボルテージがマックスとなっていた。
演目が全て終わると万雷の拍手が鳴り響き、その音と共にゆっくりと幕が降ろされた。
幕が終わると第二部の演劇の為軍楽隊はそそくさと片づけを始める。
貫二郎「楽器は当たり前だけど壊さないようにね」
カーロイ「ブラーボブラーボ、素晴らしい演奏だった。」
舞台袖に戻ると貫二郎にカーロイがほめたたえる。
さらに他のウィッチも褒めたたえた。
ハインリーケ「良かったぞ、そなたの指揮と演奏は」
ホスバッハ「素晴らしい、あのシュゲーレ・ムジーク以外は」
ジェフ「最高だよ!あんたこのままニューヨークのナイトクラブでジャズバンドを率いれるぜ」
トニー「家のファミリーのナイトクラブに来ないか?便宜はするぞ。
年収10万ドルも夢じゃない」
アラン「カラヤンにも負けない素晴らしい指揮だった」
カート「最高でしたよ、素晴らしかったです」
貫二郎「いやあ、ありがとうございます。」
邦佳「良かったね!貫二郎!」
褒められ照れる貫二郎に邦佳がハグし頬にキスすると貫二郎が真っ赤になった。
貫二郎「く、邦佳…」
ジェフ「見せつけてくれるねぇ、後は若い二人に任せて老人たちはさっさと退散しましょうか」
貫二郎「ちょ」
カーロイ「俺はイザベルとしっぽりやってくるわ」
貫二郎と邦佳を置いて男衆は離れていった。
貫二郎が慌てるが邦佳は抱き着いたままだった。
邦佳「別にいいでしょ~この一週間ぐらい忙しくて全然だったんだからさ」
貫二郎「まあそうだけど…準備は?」
邦佳「あ、忘れてた」
邦佳は部隊の準備を忘れていた。
言われて気がつくとすぐに舞台の準備に向かった。
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その約1時間半後、控室ではハインリーケとマリアンが不機嫌な表情をしていた。
だがそれ以上にジェフとホスバッハの空気が悪かった。
ハインリーケ「全く、誰かさんのお陰でとんだ醜態を晒してしまったわ」
マリアン「いいぞ、ここで二回戦を…ひ!」
ジェフ「ランバージャック!腕立て伏せ500回!」
マリアン「サーイエッサー!」
ホスバッハ「お前ら…次やったらその頭に鉛弾ぶち込むぞ」
二人が怒り狂っていたのはこの少し前の舞台が途中から大乱闘と化してしまったのである。
その醜態にホスバッハとジェフ、そしてプレッツが怒り狂ったのだ。
その怒りはホスバッハの右手には薬室に弾が入ったワルサーを持っていることからも明らかだった。
ジェフはマリアンに腕立て伏せをさせる程怒っていた。
カーラ「あー疲れた。この劇、やる意味あったのか?」
カーロイ「ひでぇ芝居だったな。酒屋の乱闘レベルだったよ」
アラン「似たような劇を知ってるぞ、喧嘩って言う劇を」
キーラ「頭が痛い」
あまりの酷さにカーロイとアランが皮肉を言う。
それほどの酷さだった。
貫二郎「はぁ、僕の演奏は何だったんだろうか…」
貫二郎がこの一週間の苦労が何だったのか頭を抱えているとドアが開いて場違いなほど明るい声を出して邦佳が入ってきた。
邦佳「皆さん!お疲れ様です!
大成功でしたね!劇!」
ハインリーケ「はあ?何をどう考えたらそうなるのじゃ!?」
カーロイ「あれで成功ならクセルクセスはギリシャを支配してたぞ」
邦佳「うわっ!?痛たたたたっ」
その場違いな言葉にハインリーケが突っかかり頬を引っ張る。
邦佳の言葉はとかく場違いだった。
邦佳「だって、子供たちすっごい楽しんでくれたじゃないですか。
あんな劇見た事ないって大はしゃぎでしたよ。
大成功じゃないんですか?」
邦佳が理由を言うとウィッチ達はポカンとする。
すると笑い声が聞こえてきた。
ハインリーケ「ククク、確かに。
子供を笑顔にさせたのなら成功じゃな」
カーラ「そういう事ならジェニファーがかんだところが最高だった」
ジェニファー「ええっ!?」
イザベル「黒田さんはアドリブ多すぎ」
それぞれに面白かったところを言い始めた。
アドリアーナ「これは…」
ロザリー「マスコミや司令部に対してのイメージアップには散々だったけど慰問に来たことは大正解ね」
アドリアーナ「隊長、最初からこれが狙いですか?
先週までいがみ合っていたのが嘘のようだ」
ロザリー「さあ、でもこの雰囲気と引き換えなら後で4、5時間上層部の嫌味を聞くくらいなんでもないわ」
その空気を見てロザリーがそう評する。
アドリアーナ「それ以上延びなければいいですね」
ロザリー「え…頑張る…」
アドリアーナの言葉に青ざめる。
二人の会話を聞いてその後ろでプレッツとホスバッハが漏らした。
ホスバッハ「どうせこんな些細な事で呼ばれることはないだろうがな」
プレッツ「既に準備はできた、ハンツマンが猟犬を解き放つだけだ」
ホスバッハ「狐の最後は猟犬に噛み殺される。
それ以上に惨い最期を遂げなければいいがな」
プレッツとホスバッハの意味深な発言の意味はまだ誰も知らなかった。
すると突如ドアがノックされ小柄な女が入ってきた。
「ほーう、酷い劇をした割に賑やかじゃねえか」
ホスバッハ「誰だ?名乗れ」
咄嗟にドアの傍にいたホスバッハが拳銃を向け誰何する。
スペード「おっと、悪かった。銃を向けないでくれ。
俺はサマンサ・スペード、ニューヨーク市警の2級刑事だ。
ジーナ・プレディはここにいるか?」
「「ニューヨーク市警の刑事?」」
入ってきたのはニューヨーク市警(NYPD)の刑事だった。
だが、自称刑事では怪しい事には変わりなくプレッツもホスバッハも警戒していた。
プレッツ「本当かね?とりあえずパリのリベリオン大使館に身分を紹介するがよろしいか?」
スペード「ああ、構わねえよ。やましい事はないんだからな」
プレッツはリベリオン大使館に身分の紹介をするため電話をかけに行った。
その後身分照会により実際に刑事であることが判明した。
カート「中佐なら医務室ですが何の御用で?」
スペード「俺は…」
プレッツが出て行くとカートが用を聞き答えようとすると突如邦佳が声を上げた。
邦佳「うわわわ…すっごい!本物!?バッジ見せて!バッジ!」
邦佳が何故かものすごい勢いで食いついた。
そのようにトニーがドン引きする。
トニー「なんでこいつこんなに食いつくんだ…」
アラン「まあ、あんたは苦手だよな…」
トニー「苦手じゃない、天敵だ。
シマウマの天敵がライオンなのと一緒だ」
トニーにとってはNYPDは天敵だった。
何せ彼は元マフィアな上にまだ法で裁かれていない殺人が数十件存在した。
もしその全てか一部が露見すれば電気椅子は免れなかった。
邦佳「よく映画で見るじゃないですか!
西部劇の保安官とメジャーリーガーに並ぶリベリアンヒーローですよ!」
カーロイ「そういや映画好きだったな」
スペード「お前、よくわかってるじゃねえか」
映画でよく見るヒーローの登場に大興奮の邦佳にスペードがバッジを自慢げに見せた。
ホスバッハ「で、その刑事さんとやらが何用で?
言っておきますがこの国はリベリオンでもニューヨークでもございませんので逮捕権があるのは連合軍とガリア政府だけだ」
キーラ「確か、市警からはガリア警察にも群にも正式な協力依頼は届いていない。
そもそも、本当に市警の刑事なのか?
そんなバッジなどいくらでも偽造できる。」
プレッツ「いや、そいつは本物だ。さっき大使館に問い合わせた。
実際に刑事で一昨日シェルブールから入国した」
キーラとホスバッハが問い詰めているとプレッツが戻ってきて問い合わせた結果を伝えた。
スペード「そうだ、市警の刑事だ。
捜査ってのはセダンの爆破事件のか?
あんたらは506の人間じゃなさそうだ」
キーラ「ご名答、私はガリア軍諜報部の者、そちらは連合軍からの連絡将校だ。
だがそこのホスバッハ少佐に関しては実際に506の所属で警備部隊指揮官でもある。
まず彼らか私を通してもらおうか」
キーラがスペードを威圧する。
だが彼女は屈しなかった。
スペード「俺は市警の命令で海を渡ってきたわけじゃねえ。
俺個人の調査で…」
ジーナ「遅くなりました」
話し始めると同時にジーナが入ってきた。
カート「おかえりなさい、中佐」
カートに言われ気がついたスペードは振り返ると目の前に立つジーナに聞いた。
スペード「お前がジーナ、いやG・Pか?」
ジーナ「私をそう呼ぶのは…マーフィの知り合いか?」
ジーナには彼女と面識はなかったが何かピンと来たようだった。
スペード「ようやく会えたぜ、マーフィは、俺の親友のマーフィは先日死体で発見された…
俺はその黒幕を追っている」
マリアン「マーフィ??」
カート「知り合いですか?」
スペードの話にジーナ以外付いてこれていなかった。
マリアンとカートは疑問を口にする。
するとジーナはいつもとは明らかに違う暗い口調で返事した。
ジーナ「ここでは落ち着いて話せそうにないな。
B部隊の基地に戻りながらでもいいか?」
スペード「ああ、構わないぜ」
プレッツ「この件に関して、私もご同席してよろしいかね?
この件は何かしら爆破事件に関係すると思われる」
キーラ「彼の言う通りだ。私も話を聞きたい」
するとプレッツとキーラが反応したがこれにホスバッハとプレッツは焦りを感じた。
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それから数十分後、B部隊とB部隊に付いて行った邦佳とプレッツとスペード組と演奏の為ラジオ局に行った貫二郎たち軍楽隊を除いたA部隊はセダンに戻っていた。
だが先頭を走るホスバッハは珍しく殺気立ちイライラしていた。
ロザリー「ホスバッハさん、どうしたの?そんなにさっきから殺気立って」
ホスバッハ「何でもないですよ少佐」
何でもないと誤魔化すが明らかに異常に見えた。
すると突然、目の前に憲兵が検問所を作っていた。
憲兵A「止まれ!検問だ!」
憲兵に車を止められると真っ先にホスバッハが車から飛び降りた。
ホスバッハ「フェルカーザム!大変なことになったぞ!」
ロザリー「え?」
ホスバッハが大声でキューベルに乗っていた士官に話しかけた。
その言葉にロザリーが驚いた。
まるでこの憲兵部隊とホスバッハがグルのようなのだ。
フェルカーザム「なんだと!どういうことだ!」
キューベルから飛び降りた士官、即ち駆逐戦隊“ガリア”隊長のフェルカーザムが聞き返す。
この憲兵部隊は偽装であり実際は駆逐戦隊“ガリア”の兵士達だったのだ。
ホスバッハ「そのままだ!あの女狐はセダンじゃなくディジョンに行った!
今すぐ向かうぞ!すぐに司令部に連絡!急いでディジョンの部隊を動かせ!
奴がディジョンにいる間に捕まえるぞ!」
フェルカーザム「分かった、通信手!急いで司令部に目標はディジョンのB部隊にいると伝えてディジョンの部隊を向かわせるよう要請しろ!
全員移動だ!動かせない物は壊して置いて行く、5分後には出発だ!」
フェルカーザムが周りの兵士達に指示する。
ホスバッハは車に戻ると車の中に置かれたStg44を取り出す。
するとロザリーが聞いた。
ロザリー「ホスバッハさん、何が起きてるの?」
ホスバッハ「裏切り者の大捕り物だ。」
ロザリー「裏切り者?それって誰なの?」
ホスバッハ「国家機密だ。」
ロザリー「私にも言えないの?」
ロザリーがホスバッハの腕を掴んで問い詰める。
ホスバッハは一瞬戸惑うとその裏切り者の名を言う。
ロザリー「そう、やはりあの人なのね」
その名を聞いて、それだけ彼女は言った。
彼はフェルカーザムのキューベルに飛び乗りディジョンへと向かった。
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参謀「閣下!大変です!目標がディジョンに!」
ハイドリヒ「慌てるな、そいつが死んだわけでも消えたわけでもない」
パリではフェルカーザムの報告に参謀が慌ててハイドリヒに報告するが彼は落ち着いていた。
ハイドリヒ「ディジョンのカールスラント軍第1騎兵軍団に下令、緊急治安維持命令アル・ファジル。」
ハイドリヒは即座にディジョンとその周辺に駐屯するヴィルヘルム・シュテンマーマン大将指揮のカールスラント軍第1騎兵軍団の5個師団、即ち第3騎兵師団、第4騎兵師団“フェルトマルシャル・フォン・マッケンゼン”、第8騎兵師団、第22騎兵師団“マリア・テレジア”、第37騎兵師団“リュッツオウ”を緊急治安維持目的で展開させるという命令だった。
これにより事実上、ディジョンの交通の一切と通信の全てが封鎖された。
裏切り者は袋の鼠となった。
さーて、何処の誰でしょうね、裏切り者は(棒)
ディジョンが5個騎兵師団に封鎖されるというとんでもない状況発生。
ちなみに番号のモデルはドイツ軍とSSの騎兵師団から。
ハルテネック大将はいません、いいね?
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(解説)
・ヴィルヘルム・シュテンマーマン
史実ドイツ陸軍第11軍団長
1944年にコルスン包囲戦で戦死して飛ばされる。
一般的にコルスン包囲戦で包囲されたシュテンマーマン集団の司令官として知られる。