パリのノール駅の4、5番ホームはパリメトロのホームである。
パリを南北に縦断し2番目に乗降客数が多いパリメトロの4号線と5号線が走る駅で地上ホームには長距離路線と近郊都市路線などが停車するホームがあるターミナル駅の一つだ。
そのため乗降客は非常に多く、警備もそれに合わせて200人近い兵士が動員されていた。
兵士が警備が多い以外ほとんどの人にとっては大したことのなかった昼下がりだが、突如地下鉄ホームの端で爆発が発生し人々は逃げ惑い始めた。
その様子を間近で見ていたのがキーラとジェニファーだった。
ジェニファー「なんてことなの…」
ジェニファーは駅から立ち上る煙を見ながら呆然とする。
周りでは兵士達がせわしなく動いて民間人の避難をさせていた。
折しも地下では2本の線路の両方に地下鉄が停車していたため人でごった返していた。
ジェニファー「あなたたちの仕業ですね!?」
キーラ「私達の組織はこうした事態に備えパリ市内に色々と工作している。
派手なのは音と煙だけだ。
無辜の臣民を傷つけるのは我々の本心に反する」
キーラがジェニファーの問いに答えた。
これもキーラ達王党派の仕業、それもこれまでの政府高官や軍関係者を狙った所謂ハードターゲットタイプのテロではなく市民を狙ったソフトターゲットのテロだった。
だが彼女彼らはこのテロが事実上王党派全体がガリア国民の敵になるきっかけになるとは思っていなかった。
ジェニファー「助けに行かないと…」
キーラ「おっと、君が逃げ出せば別のスイッチが作動する。
今の爆発は人気のないホームの端だったが…次はどうかな?」
助けに行こうとしたジェニファーをキーラが腕を掴みとめた。
ジェニファーは歯を食いしばる。
そんな彼女をキーラは肩を抱いて逃げ惑う人々と野次馬に紛れて歩いて行く。
キーラ「いい子ちゃんはいい子ちゃんの殻を破らず言いなりのお人形さんでいればいいのさ。」
ジェニファーにそんな言葉をかける。
だが突如後ろが騒がしくなり始めた。
キーラは振り返ると人ごみの中を猛スピードでシムカ8が突っ込んできた。
シムカは二人の横を通り過ぎると目の前でドリフトし車の右側を見せて止まると助手席のドアが開いた。
アラン「動くな!手を上げろ!」
トニー「ぶち殺すぞ!サバノビッチ!」
ドアが開くとステンガンを構えたアランと運転席からグリースガンを構えたトニーが現れた。
さらに二人に遅れてスペードたちが乗ったジープも到着した。
キーラ「アラン・ド・メーストルだと?」
ジェニファー「アランさん!トニーさん!黒田さん!カーラ!」
キーラはアラン達の登場に驚いた。
スペード「この爆発、お前らの仕業だな?」
キーラ「これは古き良きガリアの再生に必要な破壊だよ」
アラン「はん、なんだその時代錯誤のレジティミストの言い草は?
処刑台と間違えてきたか?それともおつむはギロチンに落とされたか?」
スペード「民主主義の時代にレトロな王政復古か?
ガリア国民はだれも支持しちゃくれないぜ?」
キーラの弁にアランとスペードが皮肉を言う。
その弁は一昔も二昔も前の絶対君主制の言い草だった。
キーラ「衆愚による統治より優れた王による独裁の方が国家により利益をもたらし延いては国民も富と幸福を享受できる。
それがガリア人の心に中世以来刻まれている決して近代哲学では消し去れぬドグマなのだ」
キーラが自らの理論を振りかざす。
次の瞬間、キーラの帽子にいくつもの穴が開いた。
アランを見ると持っているステンガンから硝煙が出ていた。
アラン「ますますあんたが許せなくなった。
あんたの言っている事の意味が分かるか?
我々の神聖且つ不可侵の権利を剥奪しようとしているのだぞ!
自由と権利を得るために我々の先祖は戦った!
その権利を奪うというのか!
ならばこちらの答えは奪おうというのなら戦うまでだ。
我々の自由と権利を守るために、そして我らの父祖のようにな!」
キーラ「意見の相違だな。」
アラン「意見の相違?違う、あんたのやった事は我々への宣戦布告だ。
意見の相違じゃない、戦争だ。
一方は民主主義と自由と権利を標榜する国家ともう一つは独裁と束縛を是とするテロリスト、民衆はどっちを支持する?世界はどっちを支持する?」
アランは銃を構える。
だがこの二人のやり取りをカーラと邦佳は頭にはてなを浮かべながら聞いていた。
邦佳「ええっと、どぐま?」
カーラ「こっちに振るなよ」
キーラ「つまりは我々の理想とするところは貴族を中心とした編成、A部隊の設立理念と一緒なのだよ。
誰もが政治に口を出すようになればお前たちが言うような高貴なる義務など滅ぶんだ、黒田、分からないのか?」
邦佳「ん~もう少し簡単に説明して」
キーラ「高貴なる義務を果たそうとするなら衆愚が政治を左右する現状を止めなくてはならない。
古き良きガリアを護るために」
邦佳「全っっっ然簡単になってないんですけど!?」
邦佳が簡単な説明を求めるがそれでもちんぷんかんぷんだった。
アラン「細かい事はいい、唯一言えるのはこいつらは民衆の敵、国家の敵だってことだ。
あんたが望むような世界にしたけりゃ俺達国民の屍を超えていきな」
アランがステンを構え車から降りる。
キーラ「ふ、ご高説承ったよ。
しかし私にかまけていていいのかな?」
アラン「何?」
キーラ「実はこのメトロの駅にはもう一つ少しばかり強力な爆弾が仕掛けてある。
こちらは時限式でね、あと9分40秒か。」
キーラが腕時計を見る。
キーラ「まだ駅の構内には逃げ遅れた市民が残っているだろうな。
どちらを選ぶ?市民の救助か仲間の身か」
アラン「市民は軍に任せる。
見ろ、次から次へと軍と警察と消防が来てるぜ?
爆弾のありかでも教えてくれなきゃ動きにも慣れないぜ。」
ノール駅には爆発の連絡を受けて消防や軍、警察が殺到していた。
トニー「それにこっちの命令はブランク大尉の身柄の救出だ。
市民の事など命令の範囲外だ。俺達は軍人だぞ?」
アラン「ああ。命令違反して欲しかったらもうちょっと派手なジョークが欲しいね」
アランとトニーにとってはこの程度の事は全くの無関心だった。
何せ命令の範囲外の話だからだ。
だがこの脅しは邦佳やカーラには十分だった。
邦佳「駄目だったら!爆弾が爆発したら大勢が死ぬかもしれないんだよ!」
アラン「知るか!それは憲兵と警察の仕事だ!」
カーラ「でもジェニファーが…!」
邦佳は銃を構えるアランを止める。
邦佳とカーラはジェニファーか爆弾かの板挟みになっていた。
キーラ「大サービスだ、爆弾はそこを降りてすぐの柱の所にある。
急いだ方がいい」
キーラが揺さぶりをかける。
するとジェニファーが叫んだ。
ジェニファー「私はいいから!みんなを、みんなを助けて!」
アラン「く」
トニー「どうする?」
アラン「クソ!」
とうとうアランが折れた。
キーラはジェニファーを連れて人ごみへと消えて行った。
カーラ「次は、次はきっと助けるからな!」
カーラは人ごみに消えるジェニファーに涙ぐみながら叫んだ。
するとアランが肩を叩いた。
アラン「急ぐぞ!命令違反をしてるんだ!失敗したら銃殺刑ものだ」
アランはそう言うと市民の避難作業と消火作業中の憲兵たちの下に向かった。
現場の周りはいち早く規制線が張られ多数の消防車と警察、憲兵、軍が集まり規制線の外には野次馬が集まっていた。
アラン達は野次馬をかき分けながら規制線までたどり着くと野次馬を押しとどめていた若い憲兵に叫んだ。
アラン「おい!ここを通せ!」
憲兵A「駄目だ!関係者以外立ち入り禁止だ!」
アラン「俺はこういう者だ。
ハイドリヒ中将の特命を受けて仲間と共に現在パリ市内で作戦行動中だ。」
アランは止める憲兵に本物の身分証を見せる。
その階級と所属を見て憲兵は敬礼した。
アラン「命令だ、ここを通せ」
憲兵A「分かりました!」
アランの強い口調でも命令に憲兵は従い規制線を開けた。
アラン「爆弾がもう一発ある、その捜索と無力化を行う。
これから構内に入るがよろしいか?」
憲兵A「分かりました、許可します」
アランは駅構内に入る許可を得ると邦佳達を率いて階段を下りて行った。
階段の奥からは煙が立ち上り床には消防用のホースが置かれ横を民間人が消防士と警察と兵士の付き添いで避難していた。
邦佳「すごい煙…」
貫二郎「ゲホッ、ゲホッ、酷いな…」
そのすさまじさに貫二郎はむせていた。
階段を降り、ホームのある階の一つ上にある改札までたどり着いたところで一行は民間人を避難させ消防隊を構内に入れる憲兵に止められた。
憲兵B「誰だ貴様ら」
アラン「こういう者だ。もう一発爆弾があることが分かった。
構内を捜索する」
憲兵B「分かったが何人か手を貸してくれ。
民間人が多すぎる」
憲兵が了承するが同時に手伝いを求められた。
あまりにも人が多く避難するのに手が足りていなかった。
アラン「了解、黒田、カーラ、スペード、貫二郎は憲兵の手伝い。
俺とトニーで探す。」
貫二郎「了解です」
アランは二組に分けるとアランとトニーは階段を降りて銃を構えながら爆弾を探し貫二郎たちは民間人の避難を手伝った。
邦佳「出口はこっちです!押さないでください!」
貫二郎「動けないけが人はいるか!」
警官「こっちに怪我をした母親がいる!」
邦佳達は民間人の避難を手伝い貫二郎は警官が運んできた重症の女性を運んだ。
一方アラン達は不審物がないか見て回っていた。
そしてホームの階段のすぐそばの柱の陰に不審な箱を見つけた。
アラン「トニー、あったぞ。」
トニー「分かった、爆弾だ!急いで避難させろ!」
爆弾を見つけるとトニーが叫んだ。
トニーの声を聞いて階上の民間人が騒ぎ始めた。
市民A「爆弾だって!?」
市民B「まだあるのか!?」
憲兵B「急げ!爆弾が爆発する前に全員退避だ!」
憲兵は無理矢理民間人の避難をせかし始めた。
その間にアランは座って爆弾の蓋を開け中身を確認した。
中にはダイナマイトにコードが繋げられた時計のついた爆弾があった。
アラン「時限式爆弾か」
トニー「解体方法は分かるか?」
アランは中身を見て腕を組んで考えた。
その構造には見覚えがあった。
アラン「ああ。昔使ってたタイプの爆弾だ。
使用爆弾はダイナマイトか?」
トニー「で、どうする?」
するとアランはナイフを取り出し時計に繋がるコードに添えた。
アラン「このタイプはこの時計と爆弾のコードさえ切れば止まるか爆破不能になる。
一番楽なのが…」
するとアランは爆弾の中のダイナマイトを引っ張りそれにつながったコードを一気に全部切り落とした。
これで例えタイマーが切れても爆弾は爆発しない。
アラン「こうやって爆弾と爆破装置を切り離す方法。
次に信管を抜き取る。」
次にアランは爆弾に繋がったままの方のコードを力づくで引き抜いた。
信管を除去しこれで爆弾が爆発する可能性は皆無となった。
アラン「次にタイマーを止めるんだが、どっかに電池があるはずだ。
それと繋がっているコードを切ればいい。」
アランはタイマーの下の赤白青の三本のコードを見る。
そしてそのコードの元を一本ずつ探った。
すると真ん中の白のコードが下にあった乾電池の容器らしきものに繋がっているようなのが確認できた。
アラン「これだ。白を切る」
アランは迷いなく白を切った。
すると爆弾のタイマーが停止した。
タイマーの数字は気がつけば一分を切っていた。
トニー「はぁ…寿命が縮んだぞ…」
アラン「お前がか?嘘言うなよ。
それよりさっさと地上に上がるぞ。ここは暑くてたまらねえ」
トニー「ああ、ピザ焼き窯の中みたいだ。」
二人は立ち上がると爆弾を持って階上に上がっていった。
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数時間後、一行は司令部が用意したセーフハウスにいた。
5人は地図とにらめっこしながら次にどこに行ったかという事を議論していた。
スペード「ノール駅とは反対側に向かうリヨン駅に向かったとすればリヨンに向かったに違いない。」
トニー「だがリヨンからブリタニアには行けないぞ。
なぜリヨンに向かう必要がある」
アラン「俺としては可能性が一番高いのがトゥーロン、マルセイユ、ペルピニャンの地中海側の港街だと思うんだが。
しかし情報が無いとな」
貫二郎「市内を出てすぐ北に向かったかも。
別にパリ市外で北向きの列車に乗り換えたり長距離バスに乗ったりすれば英仏海峡まで行けますよね?」
議論していると突然ドアがノックされた。
全員身構えトニーが代表して拳銃を後ろ手に持ちながらドアを少しだけ開ける。
トニー「誰だ?」
ドアの隙間から覗くとそこには少年が立っていた。
少年「シュティグリッツのおじさんからこれ」
少年はドアの隙間からメモを渡すと走り去っていった。
ドアを閉め振り返るとアランが聞いた。
アラン「何だった?」
トニー「ガキだ。シュティグリッツの遣いらしい。
これを渡してきた」
トニーはアランにメモを渡した。
メモを開くとそこにはフランス語で文が書かれていた。
邦佳「えーっと、なにこれ?」
カーラ「ガリア語か?」
アラン「ああ。フランス語だ。
“秘密の8は正義、11は力。”」
アランがメモを訳する。
だがメモの文は全く理解できない内容だった。
トニー「なんだこりゃ?」
アラン「多分暗号だと思うがどういう意味だ?」
トニー達は頭を抱えた。
この文は全く意味が理解できなかった。
邦佳「8番の秘密が正義で11番の秘密が力ってこと…?」
カーラ「こっちに振るなよ。」
貫二郎「この秘密って何の事なんでしょうね?」
アラン「ああ、秘密って言うか、何故かここだけラテン語のアルカーヌムなんだよな。
普通フランス語で秘密は別の言葉だ…
もしかして…」
するとアランはあることに気がついた。
アラン「これ、秘密じゃない、アルカナだ!」
「「え!?」」
邦佳「アルカナって?」
アランが叫んだが邦佳はアルカナが分からなかった。
カーラ「アルカナって言うのは占いで使うタロットカードのカードの事だよな?」
貫二郎「ええ。でも確か普通のタロットカードは8が力で11が正義ですよね?」
アランに聞いた。
普通のタロットカードは8のカードが力を指し11が正義を意味する、本来は逆だ。
アラン「だけどな、一つだけ8が正義、11が力になっているカードがあるんだよ。」
スペード「一つだけ?」
アラン「マルセイユ版タロットだよ。
16世紀から18世紀までマルセイユで作られていたタロットカードだ。
それが8が正義、11が力になってるんだ。」
マルセイユ版タロットというタロットカードの一種ではこの文の通りになっている。
その事を思い出したアランはこの文に合点がいった。
そしてアランはガリア全土の地図を取り出し広げた。
アラン「つまりは…ジェニファー達が向かった可能性のある街は…」
そしてアランは地図のある街を指した。
アラン「ここだ…!」
「「マルセイユ!」」
指さした先にはマルセイユと書かれていた。
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