WWⅡウィッチーズ   作:ロンメルマムート

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第27話:新機材

 ジーナ・プレデイ中佐の私室を自由に出入りできる人間は二人いる。

 一人は彼女の身辺の手伝いもしている世話役ともいえる人物であるクハネック曹長。

 もう一人はやや年を取っているが穏やかで教養に溢れ、与えられた仕事はテキパキとこなす、礼儀正しさと紳士的な態度から僅かな間に彼女の信頼を得たカート・フーヴァー少佐である。

 彼とジーナは固有魔法が立体空間把握とホークアイという面でも相性は良かった。

 ノーブルウィッチーズ編成後、カートのB部隊での立ち位置はB部隊の作戦参謀であった。

 

ジーナ「それで、またか?」

 

カート「またです。相変わらず、警備を増やしてもそれを搔い潜ってパパラッチが近づいてきます。

    持っているのがライカならいいですが、これがルガーなら中佐は場合によっては死んでいます。」

 

ジーナ「気を付けて置く」

 

 夕食後、深夜の当直に交代する頃、カートはジーナに先程クハネックと二人で捕獲したどこぞの新聞社に写真を売りつけようとした不逞の輩を報告していた。

 この手の輩はカートが警備強化を命じても何処からかすり抜けて来ているためカートの密かな頭痛の種であった。

 

カート「中佐は自分自身の価値をもう少し再確認すべきでは?」

 

ジーナ「フーヴァー少佐、それは余計なお世話というべきものだ。

    私の価値は君よりも理解しているつもりだよ。」

 

カート「そうですか、では服を着ることをお勧めします。

    まだ夜は冷えますし、ここは赤道直下の護衛空母の艦内ではありませんので。」

 

 ジーナは裸にシャツを羽織っただけというラフな姿だ。

 それに顔色一つ変えずにいつもの調子で応対するのがカートだ。

 絶世の美女で完璧なプロポーションの彼女の裸体に近い姿を見ても何一つ反応を変えない姿は、同性のウィッチの反応よりも奇妙に思えた。

 

ジーナ「検討しておく」

 

カート「了解しました。では、私はこれで。

    早朝の当直がありますので。」

 

 カートは敬礼すると出て行こうとする。

 それをジーナは引き留めた。

 

ジーナ「待て。君に新型ユニットが与えられる話は聞いているか?」

 

カート「それは初耳ですね」

 

 ジーナの突然の話題転換に驚くカート。

 新型ユニットの話は知らなかった。

 

ジーナ「今度新型ユニットが種送られる。

    そのうちの一つを君に任せたい」

 

カート「了解しました。」

 

 カートは敬礼すると再度出て行った。

 興奮するわけでもなく冷静なカートの態度にジーナは不思議な感覚を覚えた。

 

ジーナ「ふむ、本当に不思議な男だ」

 

 ジーナはシャツのボタンを外しながら呟いた。

 

 

---------

 

 

ジーナ「――ということだ。」

 

 翌朝、B部隊の休憩室で夜間演習に関する説明をジーナが行っていた。

 

カート「何か質問は?」

 

ジェニファー「あ、あの…」

 

 質問してきたのはジェニファーだった。

 

ジェニファー「どうして私なんですか?パットさんがいるじゃないですか」

 

 ナイトウィッチ用機材を扱うウィッチとして白羽の矢が立ったわけを聞きたいジェニファー。

 既にナイトウィッチとしてはパットがいたがそれとは別にジェニファーをナイトウィッチにするわけを知りたがった。

 

カート「ナイトウィッチが二人になればシフト制を敷ける」

 

パット「それと、あくまで俺のは限定的だからだろ?

    探知範囲45%ぐらいらしいからな」

 

ジーナ「それに、こうした最新の機器に習熟するのは君が一番早いというのが上層部の見立てのようだ。

    我々の抗議や一存では覆りそうにないな。」

 

 カート曰く二人の方がいい、ナイトウィッチであるパット曰くそもそも能力的には一段劣っている、そしてジーナ曰く上からのお達しだという。

 

ジーナ「それともう一機別の新型ストライカーが到着した」

 

マリアン「どんなストライカーだ?」

 

 話題を昨晩カートに話したストライカーに変えるジーナ。

 その話題に食いついたのがメカニックとしての才も実はあるマリアンだった。

 

ジーナ「名前だけで多分分かるだろう。XF8F-1」

 

 その名前に全員が驚いてジーナの顔を見た。

 それはリベリオンによってリバースエンジニアリングされた後、修理されて基地の格納庫から離れた倉庫で管理されているカートの愛機F8F-1を基にしたストライカーであることを指していた。

 

マリアン「それってつまり、アレを基にストライカーにしたってことか?」

 

ジーナ「正確には参考にした、らしい。

    性能だが、P-51に匹敵するかそれ以上、とのことだ」

 

 F8F自体レシプロ戦闘機としては究極の機体だが、それを参考としたストライカーもまた究極のストライカーに仕上がってしまった。

 F8Fは拡張性に難があったが高い運動性、速度性能を持ち、エアレースでも使用されるなど優れた機体だ。

 それをベースにしたXF8F-1も高性能を発揮していた。

 

ジーナ「この機体についてだが、これはカートに任せたい」

 

カート「了解しました。」

 

 ジーナのカートに任せるという判断には誰も異論を唱えない。

 元々がカートの機体をベースにしているのだから文句を唱える理由がなかった。

 一方置いてきぼりにされていたジェニファーはグロッキー状態だった。

 

トニー「大丈夫か?」

 

パット「水持ってこようか?」

 

 トニーとパットが背中をさすりながらみるみる顔色が悪くなる彼女を心配する。

 

ジェニファー「少し、医務室まで行ってきます。」

 

トニー「ちょっと付き合ってきます」

 

ジーナ「ああ」

 

 トニーを連れて幽霊のような足取りで医務室へと向かう。

 それを見てジーナは首をかしげる。

 

ジーナ「伝え方を間違えたかな?」

 

 そのままジェニファーは夕食の時間を過ぎても自室に引きこもり続けた。

 それにトニーは丁寧に付き合い続けた。

 

 

---------

 

 翌朝、食堂に現れたジェニファーに全員がぎょっとした。

 何せ機能よりもやせこけ、更に顔色も悪く、目は虚ろで隈が出来ていた。

 

トニー「その様子だと昨日寝なかったな?寝ないとお肌に悪いんだぞ。」

 

パット「記者が来るなら見た目もちゃんとしてないとな。」

 

 コーヒー(リベリオンらしく南リベリオン産の本物の豆である。戦場で代用品をチマチマ飲んだりするカールスラントの陸軍兵や紅茶で代用するブリタニア軍とは大違いである。)を飲んでいる男二人がからかい気味に言う。

 

アラン「レディーにそういうことを言うのはあまりいただけないな。」

 

ジェニファー「そうですよ、それにちょっとは寝ましたよ」

 

マリアン「目に隈が出来てるが?」

 

 マリアンがジェニファーを指さすと顔を逸らしてジュースを注ごうとする。

 もう振る舞いからして幽霊のように力なく滅茶苦茶だった。

 それはコップがさかさまであることに気が付かないほどには。

 

アラン「おい!コップ!」

 

ジェニファー「…え?はい?」

 

アラン「逆!逆!」

 

 アランが叫んで食べていたスクランブルエッグとソーセージの乗った自分の皿とコーヒーカップを持って立つ。

 カーラが慌てて紙ナプキンで堤防を作ろうと投げつける。

 

ジェニファー「きゃああああ!!」

 

 自分の手元がジュース塗れになってやっと事の次第を理解するジェニファー。

 ジュースは零れてジェニファーの軍服も汚していた。

 

カーラ「ったく、何やってんだよ。」

 

ジェニファー「ご、ごめんなさい」

 

マリアン「ここはいいから着替えてこい」

 

 マリアンが慰めるように言うと彼女は自室に戻る。

 ジェニファーがいなくなると残った朝食を食べながらアランが言う。

 

アラン「だいぶ重症だな」

 

マリアン「だな」

 

パット「奥ゆかしい性格は悪い事ではないが、あそこまであがり症になるか?」

 

カート「彼女はそういう性格なんだ。悪く言うな。」

 

 いつの間にか食堂に来ていたカートが言う。

 振り返るとリンゴを齧っていた。

 

カート「だが、不安なのは事実だ。今日にもそのユニットが届くのに。

    私のもだが」

 

マリアン「早いな!」

 

 驚くマリアン。

 

カート「元々小改造を施したユニットと先行量産型だからな。

    輸送機ですぐ運ばれるよ。」

 

 

 

---------

 

 

 その日の午後の格納庫。

 昼前に到着したC-54から降ろされた二機のユニットが並んで格納庫に置かれていた。

 一つは大型で黒色で明らかに夜間戦闘を意図したユニット、もう一つはマリアンが使っているF6Fよりもさらに一回り小さくずんぐりむっくりしたデザインのユニットだった。

 だが、小さいが洗練されたデザインでもあった。

 

マリアン「これがXF8F-1…!」

 

 カートより先に来ていたマリアンは目を輝かせてXF8F-1を見つめる。

 

ジーナ「ああ。XF8F-1、最高速度372ノット、上昇力は2万フィートまで約5分、実用上昇限度34500フィート。

    あらゆる面でF6Fよりも優れたユニットだ。」

 

カート「これは先行量産型でシリアルナンバー22だそうだ。」

 

 ジーナが一緒に送られた性能要目と前任機F6Fとの比較をしながら紹介する。

 目の前のユニットはテストのための先行量産型であり、22番目に製造されたことからヴィクターと呼称されていた。

 そんなユニットに突然現れたカーラが提案する。

 

カーラ「名前つけちゃおうよ!」

 

カート「いいな。どんなのがいい?」

 

 それに真面目で物静かなカートが珍しく同調した。

 

カーラ「そうだなぁ、コーラ号とか?」

 

カート「もう少しカッコいいのがいい。

    クリッパー、何とかとかがいいなぁ」

 

カーラ「クリッパー?」

 

 突然クリッパーというカートに首をかしげる。

 クリッパーとは帆船の一種の事だが、ここで言うクリッパーは別の物だった。

 

カート「昔見た映画に出てた旅客飛行艇がクリッパー何とかって名前だったのを思い出したよ。

    クリッパー…クリッパー・ストーム」

 

 カートが戦前に見た旅客機映画で登場した飛行艇の名前を模してつけたがった。

 それは史実ではその後、民間航空の分野を切り開き、自ら切り開いた民間航空の進化によって破滅したパンアメリカン航空の飛行艇の事である。

 パンアメリカン航空はその破滅まで自社の機体にクリッパーから始まる愛称をつけていた、有名な物ではボーイング747量産初号機「クリッパー・アメリカ(後にクリッパー・ファン・T・トリップ」号、747初の事故を起こした3号機「クリッパー・ストーム・キング」号、初の営業運航を行った「クリッパー・ヴィクター」号、パンナム103便爆破事件の機体である「クリッパー・メイド・オブ・ザ・シー」号などである。

 

カーラ「ストーム・バード!」

 

カート「クリッパー・ストーム・バード、いいねぇ。」

 

 カートはユニットにクリッパー・ストーム・バードと名付けた。

 

 一方、隣に置かれたF7F-Nはピカピカに磨き上げられ、準備万端というべき状態だった。

 

整備班長「こいつはいつでも飛ばせますよ。ねじの一本に至るまで全部の点検が終わったところですから。」

 

 整備班長が自信満々で話す。

 機体は合衆国海軍機特有の艶のあるグロッシーブルーに塗られて光っている。

 

カート「一回テスト飛行と行きたいが、大丈夫かね?」

 

 カートはさっきまでの会話を格納庫の隅で虚ろな目で見ていたジェニファーに尋ねる。

 彼女は無言でユニットを眺めるだけだった。

 

トニー「ジェニファー?」

 

ジェニファー「あっ、はい!?お願いします!」

 

 トニーに肩を叩かれてやっと気が付いたジェニファー。

 ジェニファーは慌ててユニットを履いて使い魔の耳と尻尾を出す。

 だがどちらも心なしか元気がなさそうだった。

 ジェニファーはゆっくりと発進して滑走路を駆ける。

 だが一向に上昇しない。

 

カート「大丈夫か?」

 

トニー「上がれ、上がれ、上がれ」

 

 双眼鏡で離陸滑走をするジェニファーを見ているトニーとカート。

 だが全くその気配なく機体は滑走路の末端から草地へ飛び出して横転した。

 

トニー「…ちょっと回収してくる」

 

 トニーはそういうと格納庫に置かれていたジープに乗りジェニファーの元に向かった。

 

ジーナ「前途多難だな」

 

カート「ですね。」

 

 ジーナの呟きに相槌を打つカート。

 

---------

 

 

 

 模擬夜間演習に向けてB部隊では着々と準備が進んでる一方でA部隊は別の意味で大変なことになっていた。

 それはニースとサヴォイア地方の併合に対して一応の対抗策として連合軍がガリアの後方部隊全部隊に対して警戒作戦命令を発出したからであった。

 

ホスバッハ「警戒部隊ホスバッハ、本日も異常なし」

 

ロザリー「お疲れ様、毎日大変ね」

 

 ホスバッハは506の警備部隊と後方部隊からなる警戒部隊を指揮してセダン周辺での警戒任務に当たっていた。

 

ロザリー「この警戒任務も大変ね。」

 

ハインリーケ「ああ。警戒命令『グリーンダンサー』、警戒作戦『ムムターズ・マハル』と色んな事をやっておるの」

 

 ハインリーケは警戒命令の書かれた命令書を読みながら紅茶を啜る。

 

ホスバッハ「それだけじゃない、ガリア海軍は早速ツーロン沖で演習だ。

      ボナパルティスト作戦と題して派手にやってるようだ。」

 

 ロマーニャに強力に対抗できるガリア海軍は早速ツーロン沖で大規模な軍事演習を実施してロマーニャを牽制していた。

 彼女らは知らないが高速艦艇によるジェノヴァ周辺の領海侵入など挑発行為を繰り返すなどかなり問題のある演習であった。

 

ホスバッハ「ところで少佐のユニットがピンクに塗られたという噂は事実で?」

 

 突然ホスバッハが切り出した。

 その事に頭痛を感じるロザリー。

 

ロザリー「それをどこで聞いたの?」

 

ホスバッハ「うちの部下たちがピンク色のスピットファイアを見たと噂しています。」

 

ロザリー「ええ事実よ。整備班の人が勝手に塗ったのよ」

 

ホスバッハ「そうですか、一度履いて飛んでいる姿を見せてもらいたいな。

      兵達も喜ぶでしょう」

 

ロザリー「いやよ。暇があればすぐに塗りなおしなさいと命じたところよ。」

 

 整備班の人達が「目立つように」と赤に近いピンク色にされたスピットファイアだが既に塗り直すように命じてあった。

 さらに言えば、恐らくその色を見てホスバッハはいいなと言った感想ではなく錆止めみたいな色だという印象を持つだろうし、昼間は目立っても赤は夜はあまり目立たない色だという事を整備班は忘れていた。

 ロザリーは生来の優しさからか「手が空いたら」という条件を付与して再塗装を命じたがその条件が満たされることは終ぞなかった。




クリッパー・ストーム・バードの名前のモデルはクリッパー・ストーム・キング号ともう一つ、偉大な種牡馬であるストームバード(父ノーザンダンサー、母サウスオーシャン、母父ニュープロヴィデンス、ストームキャットの父)からです。
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