WWⅡウィッチーズ   作:ロンメルマムート

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ウマ娘に時間を取られる。


第29話:護衛任務

 明け方、A部隊の射撃場では銃声が響いていた。

 普段はMG42などの銃声が響く場だが、今日のは朝早く、そしてもっと軽い銃声だった。

 それはルガーP08の射撃を練習する邦佳の物だった。

 

邦佳「拳銃はあんまり使ったことないんだけれど…」

 

 ハインリーケのお古の拳銃を構える。

 拳銃用のターゲット(どういうわけか敵兵のイラストである)に狙いを定めて撃つ。

 マガジン二つ分を撃ち尽くして的は穴だらけである。

 

アドリアーナ「見事だな」

 

 拍手が聞こえて振り返る。

 するとアドリアーナとイザベルと貫二郎、そしてカーロイがいた。

 

カーロイ「殊勝に練習するタイプには見えないんだがな」

 

イザベル「うん」

 

 カーロイとイザベルが感心してるのかしてないのか皮肉なのか分からない感想を述べると照れ隠しに笑う邦佳。

 

邦佳「あははは」

 

貫二郎「まあ僕よりは上手いでしょ」

 

カーロイ「お前は酷すぎる。この距離で拳銃使ってみろ」

 

 カーロイがリンゴを齧りながら煽る。

 するとそれを真に受けた。

 

貫二郎「邦佳、それ貸して」

 

邦佳「はい!大尉から借りてるのですから壊さないようにしてください」

 

 そういうと貫二郎は邦佳の拳銃を借りて隣の的めがけて撃ってみるが一発が端に当たっただけで残り全部を綺麗に外した。

 カーロイは予想通りの結果に大笑いしている。

 

カーロイ「がハハハハハ!!」

 

 大笑いしていると邦佳がお願いしてきた。

 

邦佳「ところで、私が練習してるなんてウィトゲンシュタイン大尉には秘密にしてくださいね?」

 

アドリアーナ「うるさいもんな、アイツは」

 

 腕を組んだアドリアーナが頷く。

 

邦佳「そうそう」

 

イザベル「でもここのところいつもこれでしょ?

     秘密も何もないと思うけど」

 

 イザベルが指摘する。

 だが案外バレていない。

 何しろ、ここが通常の陸戦部隊向け射撃場であったため、陸戦部隊の将校か機関銃手か何かが朝から熱心に訓練に精を出しているのだろう、最近は情勢が不穏だからな、と思われている。

 

貫二郎「邦佳、練習もほどほどに朝食に行こうか。」

 

 貫二郎が練習を切り上げるように促す。

 それに素直に従うのが邦佳だ。

 

---------

 

 それから数十分して、朝食後の事。

 

アドリアーナ「実はさ、」

 

 ロザリーとホスバッハとカルヴィ以外のウィッチが格納庫の待機室で寛いでいるとアドリアーナが切り出した。

 

アドリアーナ「黒田達に手伝いを頼みたくて。」

 

貫二郎「達って、邦佳以外にも?」

 

アドリアーナ「貫二郎とカルヴィにも手伝って欲しい事だ。

       言っておくが手当は多分出ないぞ」

 

 先にアドリアーナは邦佳がお手当大好きマンという事で釘をさす。

 それに異論を唱えなかった。

 

邦佳「戦闘禁止の今の私は隊のお荷物ですから。

   文句は言いませんってば」

 

 そういうと溜息をつく邦佳。

 

アドリアーナ「姫様も知ってるだろ?ロマーニャからの補給の件」

 

 説明する前にハインリーケに話題を振る。

 

ハインリーケ「ああ、あれか。

       妾も個人的に発注した荷があるからのう」

 

カーロイ「今度来る奴か。画商に幾つか絵画を見繕って貰ったんだよな」

 

 ハインリーケは新聞から顔を上げて気のない声で答え、チェスの対決をしていたカーロイと貫二郎も割り込んできた。

 

貫二郎「良いですね。今度飾りましょう」

 

カーロイ「そうだな。って中々面倒な手を使ってくるな」

 

 すぐにチェスに集中するカーロイ。

 

邦佳「ところで、ロマーニャからも補給を受けていたんですか?」

 

イザベル「ああ。一部の規格とかはロマーニャからしか手に入らないとかもあるからね。

     それにロマーニャだけじゃない、欧州全土から物資を搔き集めて、やっと足りてる備品や銃弾も多いんだよ。

     外にある戦車だって、元は訓練部隊のお古らしいからね」

 

 イザベルがピアノの鍵盤をたたきながら答える。

 イザベルの言う通り、物資の中にはロマーニャからしかない物や、欧州中から集めている物も多かった。

 警備部隊の車両や戦車も中古品が比較的多く、その大半が訓練部隊で使用されていたり、再編成の際に余った装備を転用したものである。

 

邦佳「で、その補給がどうしたんですか?」

 

アドリアーナ「いつも使っている滑走路がこの紛争で使えなくなってな。

       仕方なくジェノヴァの民間空港を使うことになったんだ。」

 

 アドリアーナが説明する。

 ガリアとロマーニャは現在危機的な状態である。

 おいそれとは近づけず、現在では陸路では途中で何度も検問を受け、ちゃんと通れるかどうかその日にならないと分からない程になっていた。

 幸い、連合軍と事を構えることを恐れるロマーニャ政府のお陰で連合軍関係の人員や物資の輸送はフリーハンドとなっていた。

 しかし民間向けは断続的で船便や航空便への切り替えから地中海周辺の傭船料はうなぎのぼり、船舶が足りず、旧式貨物船でも相場の3倍になっていた。

 航空路はマルセイユ~コルシカ又はサルデーニャ島~ロマーニャ路線に切り替えられていた。

 その影響から、軍用空港はまず使えず、仕方なく民間空港を使うことになった。

 

ハインリーケ「つまり、よりカールスラントに近いルートを通り、且つロマーニャ軍やガリア軍の影響を受けやすいってことじゃな」

 

アドリアーナ「で、ロマーニャの地勢に詳しくていざという時はロマーニャ軍人の肩書が効くだろうってことで私に護衛任務の白羽の矢が立ったんだ。

       故郷の様子も知りたかったから渡りに船なんだが、黒田に同行して欲しいんだ。

       飛ぶだけなら飛べるんだから、護衛任務には就けるだろ?」

 

ハインリーケ「それで黒田か。」

 

カーロイ「イザベル連れて行ったらこっちが手薄になるもんな」

 

 カーロイとハインリーケは納得の顔になる。

 するとハインリーケが思い出した。

 

ハインリーケ「それにしてもカルヴィはミラノか」

 

邦佳「何しに行ってるんですか?」

 

ハインリーケ「ビジネス、とやらじゃ」

 

 カルヴィは基地に不在だった。

 一応名目上は休暇扱いだが、ミラノに出張に行っているとのことだった。

 

ハインリーケ「まあ、いい。戻ってきてから黒田を持っていくがよい」

 

邦佳「持っていくって…私はお荷物ですか?」

 

ハインリーケ「お荷物以下じゃ。

       基地に置いておっても、抜いてしまったワインの栓より役に立たぬのだからな」

 

邦佳「あううう」

 

 邦佳に反論の余地はなかった。

 

---------

 

 ところ代わって、イタリア半島最大の経済都市、ミラノ。

 数か月前のテロのショックから立ち直らんとしていた都市だったが、トラヤヌス作戦による難民など経済的混乱から街の空気はあまりよくなかった。

 ロマーニャ情勢はトラヤヌス作戦以降、ロマーニャ国家連合という政党が中心となって動いていた。

 この政党はヴェネチアとも連携してイタリア統一のアイデンティティを醸し出していた。

 実際、この戦争が続く中でイタリア統一、チロルアルプスからリビアまで、ニッツァ・サヴォイアからアドリア海までを支配する古代ローマ帝国の後継たるイタリア国家を意識する人々が急激に増えた。

 そして実際にニッツァ・サヴォイアの併合事件によってこの風潮は最高潮に達した。

 街には新たに運動で使われていたイタリア統一旗(例によって史実イタリア国旗)が増えていた。

 

 そしてこれはガリアに対して激しい対立軸となった。

 そのためロマーニャ陸軍は事実上二正面作戦となっていた。

 その両極に軍隊を送る中継地点がミラノであった。

 このミラノから西に行けば国境線に送られ、ガリア軍と対峙し、東に行けばネウロイをポー平原で要撃し逆襲を仕掛ける機動軍団となった。

 

 そのミラノ中央駅に近いオフィスで眼下の鉄道網をカルヴィは眺めながら仕事をしていた。

 とある、元ロマーニャ軍人だという男がロードス島総督の紹介状を手に彼の銀行のミラノ支店を訪れていた。

 

男「ですので、支援してほしいのです。」

 

重役「しかし、南部の貧しい連中にこいつを買うほどの金など。

   ましてや南部人がこんなものを貰ったところで…」

 

 重役らしい男はロマーニャ南部への偏見剥き出しの意見を述べる。

 このミラノ生まれミラノ育ちの男はこれっぽっちも南部に対して知識を有していない。

 

カルヴィ「南部人とは酷い言い草だね。

     確かに、現在南ロマーニャの小作農の大半は貧しい。

     そして農業効率も悪い、それは事実だ。

     だが彼らを古い悪弊に染まった連中だと見下すのは間違いだよ。

     マフィアは別だが」

 

 そういってコーヒーを口にする。

 

カルヴィ「だが、現状リベリオンも含めて世界中から集まった物資の中には既に旧式で今すぐ放出されてもおかしくない物も多くない。

     中には民需に回した方がいい物も多い。トラクターなどね。」

 

男「それはつまり…!」

 

カルヴィ「少額だが支援しよう!君の事業には将来性がある。

     将来性のある事業こそが銀行の未来を分ける。

     この事業が成功すればきっと、ロマーニャ、そしてヴェネツィアの農業効率と輸送効率は向上するだろう。

     現状この二つの効率を突き詰めることでより安価により大規模に大量流通が可能となる。

     それを目指すためにも貴方に投資したい。」

 

 カルヴィと男は握手した。

 後にこの男はロマーニャ有数の大手自動車メーカーを興すことになるのは十数年先の話である。

 

 

---------

 

 

 カルヴィが戻ったのはその日の夕刻であった。

 即座に翌日から護衛任務に駆り出されることになった。

 アドリアーナを指揮官にカルヴィ、貫二郎、邦佳の4人でロッテ編隊を組んでロマーニャへ向かった。

 セダンを飛び立ち、フランスアルプスを避けてマルセイユまで来ると東に旋回、連合軍関係は通行が自由なニースとサヴォイア地方の上空を目指す。

 途中、ガリア・ロマーニャ国境近くになると地上から無線で呼びかけられる。

 

ロマーニャ軍『こちらニッツァ、カンヌ上空を東に飛行中の機体応答せよ』

 

カルヴィ「こちらノーブル01、所属は第506統合戦闘航空団。

     目的地はジェノヴァ、現在高度と方位を維持」

 

ロマーニャ軍『了解した。サヴォーナに向かえ』

 

カルヴィ「ノーブル01、了解サヴォーナに向かいます」

 

 カルヴィが応答し、飛行ルートを支持される。

 カンヌからニース経由でサヴォーナに向かう海岸沿いのルートを取った。

 

アドリアーナ「面倒くさくなったな」

 

カルヴィ「仕方ない」

 

 面倒な連絡が増え、自由に飛びにくくなったことにアドリアーナが愚痴る。彼女の手には紐が握られその先には邦佳がいた。

 

邦佳「あのー、今更なんですが、これなんですか?」

 

アドリアーナ「エンスト起こして墜落しそうになっても、これなら大丈夫だろ?」

 

 こんなものを提案したのはイザベルとカーロイである。

 もしエンストが起きたら首吊り状態になるがそれはそれだった。

 

邦佳「なんだか犬みたいですね」

 

貫二郎「使い魔犬だから元々では」

 

邦佳「酷ーい!」

 

 そういうと笑う邦佳。

 全員が一通り笑うとアドリアーナが尋ねた。

 

アドリアーナ「なあ、ちょっと寄り道していいか?」

 

邦佳「良いですよ」

 

貫二郎「右に同じ」

 

カルヴィ「構わないだろう。どうせ時間はいっぱいある」

 

 全員から同意を取れるとアドリアーナたちは進路を逸れてピサへと向かった。

 

 

 

---------

 

 

 ピサはロマーニャ中部、トスカーナ地方の地方都市である。

 かつてはピサ共和国としてイタリアの都市国家群の一つとして地中海の覇権を争い、その栄華はピサの斜塔に代表される建築物に残されている。

 文化的にもかつてガリレオやフィボナッチなどを輩出し、名門ピサ大学で知られる。

 現在ではトスカーナ地方の鉄道ハブとして北に送られるロマーニャ軍や南へ向かう難民などが行きかっていた。

 

カルヴィ「成程、ピサか」

 

 ピサの市街地が見えるとカルヴィが呟いた。

 

アドリアーナ「ああ。来たことは?」

 

カルヴィ「仕事で数回ね。父親はピサ大学の出身だが」

 

 カルヴィは仕事でしか来た事はないが、彼の父はピサの大学出身だった。

 そんなピサ郊外の中に一軒の大邸宅を見つけるとアドリアーナは高度を下げ始める。

 

アドリアーナ「あそこだ」

 

 彼女が指さす先にはまさにイタリア貴族の大邸宅というべきものがあった。

 屋敷は庭園に囲まれて、小さな町は丸ごとすっぽり入りそうなほどだった。

 一行は正面の門の前に着陸する。

 

貫二郎「ここは?」

 

アドリアーナ「ヴィスコンティ家の元邸宅」

 

邦佳「元?」

 

 この大邸宅はヴィスコンティ家の元邸宅だった。

 だが、屋敷は酷く痛んでおり、手入れも不十分だった。

 豪勢な邸宅には全く似つかわしくない姿だ。

 カルヴィにはその理由がすぐに合点が行った。

 

カルヴィ「維持できなくなったのか?これだけの大邸宅だ。

     維持するだけで相応に資金が必要だ」

 

アドリアーナ「その通りだ。

       私が小さかった頃に家族はこの屋敷を維持できなくなった」

 

 このような大邸宅を維持するためには相応の資金力が必要である。

 それを持ち続けられなかったという事だ。

 

邦佳「維持…できない?」

 

 邦佳は不思議そうな顔をする。

 

カルヴィ「こういう大邸宅はただ管理するだけでも専門のスタッフが多数必要なんだ。

     貴族ってのは権威だ。権威は何もしなくても来るものじゃない。

     権威を維持するためには貴族らしい生活をする、なんて方法がある。

     その一つがこんな大邸宅を構えて何十人ものスタッフと一緒に暮らすのがある。」

 

アドリアーナ「が、当然その生活を維持するためにはお金がかかる。

       私の家族は安く暮らせるあちこちの都市に住んで、好き勝手やってるよ。

       我がヴィスコンティ家は。お前はどうなんだカルヴィ家は」

 

 アドリアーナが肩をすくめ、カルヴィに話題を振る。

 

カルヴィ「まあ、名門貴族で銀行家だからな。

     一種の大富豪状態さ。こういう屋敷をあっちこっちで買っては別荘に使って遊んで暮らしていると言えばわかるかな?」

 

アドリアーナ「景気のいい話だ」

 

カルヴィ「ハハ、半分は借金の抵当で分捕ったような屋敷だけどな。」

 

 カルヴィの場合、裕福な貴族家であったため、むしろ大邸宅をあっちこっちで買い増ししていた。

 そしてその買い増した屋敷を別荘にして余暇を楽しんだり、パーティを開くなど享楽的に暮らしていた。

 そんな一行に突如声をかけられる。

 

「お嬢様!」

 

 振り向くと12、3ぐらいの田舎娘らしい少女がバスケットを抱えていた。

 

アドリアーナ「久しぶりだな、ミミ」

 

 アドリアーナはミミと呼んだ少女を抱きしめて頬にキスする。

 

アドリアーナ「お父上は息災か?」

 

 アドリアーナが聞くと眉間にしわを寄せる。

 

ミミ「それが、ぎっくり腰がまた悪化して。お嬢様に会いたがっていたのに」

 

アドリアーナ「あはは、今度見舞いを送るよ」

 

 普段とは違うリラックスした表情のアドリアーナに彼女との関係は非常に親密で、家族に近い間柄なのだろうと邦佳たちは推測した。

 

アドリアーナ「黒田中尉、カルヴィ大尉、大野少尉、こちらはミミ。

       屋敷の管理を任せてる一家の娘さんだ。

       ミミ、こちらが黒田中尉、カルヴィ大尉、大野少尉だ。」

 

邦佳「よろしく」

 

貫二郎「よろしくね」

 

カルヴィ「よろしく」

 

 3人が手を出しだすと小さな手で一人ずつ握り返した。

 

ミミ「お噂は伺っています。」

 

邦佳「…どんな?」

 

 普通ならあいさつ程度の発言に不安になる邦佳。

 

ミミ「それは…言えません」

 

 目を逸らした。

 邦佳はアドリアーナに振り返る。

 

邦佳「ヴィスコンティ大尉~」

 

アドリアーナ「事実に反したことは言ってないぞ~」

 

 口笛を吹いて頭の後ろに腕を組んで開き直る。

 明らかにあれやこれやを伝えていたのだろう。

 中々見られない態度だ。

 

ミミ「それで、今日はこちらにお泊りになるのですか?」

 

 ミミが尋ねる。

 

アドリアーナ「いや、任務のついでに少し寄っただけだ。

       30分ほどストライカーユニットを預かっていてくれ。」

 

 アドリアーナが答えた。

 

ミミ「はい。軽食は足りないと思いますが。」

 

貫二郎「大丈夫だと思います。」

 

カルヴィ「その辺りはわきまえておりますので」

 

 ミミは鍵と軽食の入ったバスケットを渡した。

 

アドリアーナ「それじゃあ、行くか。」

 

 アドリアーナはそれらを持って屋敷へと入って行った。




地味にランボルギーニ氏が出てます。
ロードス島総督の運転手やってたんですよね戦中、ランボルギーニ氏って。
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