ハインツとミラーたちがリストを確認している間、邦佳はぼーっとDC-3を見ていた。
その様子を目にしたカルラが声をかけて来た。
カルラ「気に入ったかい?」
邦佳「よくわからないけど、すごいんだろうなぁって」
邦佳は目の前の飛行機の値段について考えていた。
飛行機は大概高額である。
ただ、大量生産品はある程度価格が落ちる物である、そのため見た目よりもDC-3は安い機体だ。
だが、カルラはスペックの事だと思い自慢げになる。
カルラ「頑丈さと搭載量は折り紙付きさ。」
DC-3は頑丈な機種であり、搭載量も貨物型なら2.7トン程度は確保できる。
頑丈さは後に機関銃が追加されてガンシップとしてベトナム戦争に投入されたり、中小国の主力輸送機や爆撃機や攻撃機として50年以上愛されている事からもわかる。
カルラ「前のは銃座を搭載していたんだが、その分物資を多く積みたかったから外してある。
危険地域を通過する際には代わりにそちらで護衛をつけてもらうことにしたんだ。」
邦佳「前の」
カルラ「以前はDC-2を使ってたんだが、扱う物資が増えたんでこいつに変えた。
前のハンシン・ユッカと名付けた輸送機はスオムス空軍に寄付した。
こいつはいわばハンシン・ユッカ2世だな」
邦佳「寄付って、ひひひ飛行機を!?」
邦佳の声が裏返って硬直する。
カルラ「ああ。驚くほどの事じゃないさ。
…って、お、おい中尉?」
硬直しているのに気が付いたカルラはアドリアーナの方に振り返る。
貫二郎「ああ、世の中には自分の想像の範疇を超える金持ちがいるの事に遭遇して思考がストップしているんですよ。
邦佳にとっては寄付って言うのは小銭の事ですからね。ね、邦佳!」
貫二郎が大声でどやしつけると我に返った。
邦佳「はっ」
頭を犬のようにブルブル振るとカルラたちの顔を見る。
邦佳「今、頭が真っ白になってました。
何か、信じられない事を聞いたような気がして」
アドリアーナ「世の中にはスケールの違う金持ちがいるってことさ」
そういって肩をすくめるアドリアーナ。
そんなこと言っているとハインツが怒鳴ってきた。
ハインツ「おい!お嬢ちゃんたち!早く仕事してくれ!
こっちは今日中には戻らないといけないんだ!」
カルヴィ「私も仕事が一杯あるんだ、早くしてくれないか。日が落ちる前に出たい」
アドリアーナ「分かった分かった、黒田達がチェックしてくれ」
邦佳「分かりました」
そういって邦佳たちは物資の方に向かう。
邦佳と貫二郎がいなくなり、カルヴィ、ハインツ、アドリアーナだけになると戦況を聞いた。
アドリアーナ「…ヴェネツィアの方は?」
ハインツ「まあまあだな。ポー平原でアイケ将軍の機動軍団が機動防御戦を実施して大打撃を与えてる。
ロマーニャ軍も西進を抑え込んでる。
ヘルウェティアの方からもモーデル大将が指揮して反攻が実施されてる。」
現状のロマーニャ情勢を伝える。
現状、陸軍の機動戦のお陰で状況には余裕があった。
ハインツ「まあ、それよりも、アイツらが動いてるのがなあ」
カルヴィ「あいつら?」
ハインツ「ファシストだよ。急に湧いてきた。噂じゃ各地で秘密裏に共産主義者やマフィアを処理してるらしい」
ハインツは虐殺の噂を伝える。
その話に虐殺の被害者であるカルヴィは複雑な表情になる。
なにせ彼自身もこの計画に一枚噛んでいるからだ。
カルヴィ「噂であるといいな」
そういうとカルヴィはタバコに火をつける。
ハインツ「後は、504の再編成も上々らしい。
各国海軍も増援の艦隊を派遣して多分近々大攻勢があるんじゃないか」
ハインツも煙草に火をつけて話す。
アドリアーナ「確かか?」
ハインツ「噂みたいなもんだ。」
アドリアーナ「そうか」
頭の後ろで手を組み空を見上げ繰り返す。
アドリアーナ「そうか…」
ハインツ「で、あれかい?大スランプの嬢ちゃんは」
ハインツはタバコを挟んだ指で邦佳を指さす。
アドリアーナ「そうは見えないだろう?
個人的な問題だってのは重々承知なんだが」
後ろ頭に手をやって憂いの色を浮かべるアドリアーナ。
ハインツ「放ってはおけないんだろ?分かるよ」
ハインツは頷いてタバコを吸う。
アドリアーナ「例えこの先飛べなくても、アイツはセダンに残させる。
司令部と直談判してでもな。あいつは私達にとって必要な奴なんだ」
言い聞かせるように言うアドリアーナ。
ハインツ「そういう奴は一人二人いるもんさ」
ハインツも優しげに書類を確認する邦佳を見つめる。
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軽くサンドウィッチで遅めのランチを取りながら夕方前には積み込みは終了した。
アドリアーナ「護衛は3人で十分だ、黒田はこいつに乗れ」
アドリアーナは最後に邦佳のストライカーを運び込ませた。
邦佳「え、でも」
アドリアーナ「甘えていい時だってあるんだ」
貫二郎「そうですよ。」
躊躇する邦佳の背中を貫二郎が押す。
カルラ「出発するぞ!」
カルラがアドリアーナ達に声をかける。
DC-3のエンジンが始動して、プロペラが回り始める。
ハインツ「じゃあな、姫様と隊長殿によろしく言っといてくれ」
ハインツはそういって手を振った。
邦佳「はい!分かりました!」
邦佳は後ろの貨物扉から機内に入る。
機体とウィッチたちはゆっくりと飛び上がった。
離陸した機体は一路南へ迂回し、コルシカ島へ向かいそこから北へ旋回、マルセイユ上空を通過してセダンへと向かった。
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数時間後、ハインリーケ、イザベル、カーロイ、ホスバッハ達はベルギカ上空にあった。
ハインリーケ「そなたにとってはちょっとした里帰りじゃの?」
4人は司令部からの命令でベルギカ方面の航空偵察に出ていた。
いざという時に備えてホスバッハもカーロイも手榴弾や梱包爆薬などで武装していた。
イザベル「と言っても、この辺りに来るのは実は初めて。
家とは全然別の地区だし」
イザベルの顔には故郷を目にしたような感慨はない。
カーロイ「国内旅行とかで来た事も?」
イザベル「うん、箱入り娘だから」
カーロイ「自分で言うな」
カーロイは苦笑する。
それに双眼鏡を覗いて周囲を確認していたホスバッハが苦言を呈する。
ホスバッハ「真面目にやってくれよ、後ろには勝手についてきた連中がいるんだ」
クローディア『勝手についてきたって何なんですか!』
ホスバッハ「勝手についてきたも同じだ!邪魔するな!」
クローディアがル・タン紙の取材のために派遣した旧式複葉機に乗って同行取材を敢行していた。
だがホスバッハにしてみれば、気に食わない取材であり、態度は攻撃的だった。
ハインリーケ「この辺りも一時期と比較するとだいぶ落ち着いたと聞いたが、ここが危険地域であることに変わりない。
妾の指示に従い、戦闘中は距離を取れ、よいな?」
クローディア『もっちろんですよ。私だって死にたくありませんからね。
あ、今カメラマンが視線くださいだそうですって、席キツイんだから動かないでよ!』
旧式の服用練習機を無理に3座にして乗っているクローディアたちだが、席は狭く、速度もギリギリ200を超える程度で戦闘に巻き込まれたいい的になるのは言うまでもない。
緊張感がない記者達にウィッチたちは呆れる。
ハインリーケ「やれやれ、緊張感のない」
ハインリーケはそうこぼしながらもキリっとした表情を向けてファンサービスを怠らない。
写真は音声が入らないからどんなことを言っても伝わらない。
カメラを意識しながらふと、ハインリーケはあることを訊ねた。
ハインリーケ「これまで尋ねた事はなかったが、そなたらは惨状を目にした事があるのか?
自国の民が敵に襲われるところを?」
敢えてカーロイとホスバッハにも聞こえるようにネウロイではなく敵と表現する。
イザベル「戦火が迫る前に、父さんと僕たちはブリタニアに避難したから」
イザベルが頭を振り、付け足した。
イザベル「最後までベルギカにとどまるべきだって、僕は言い張ったんだ。
それが広軌なる義務なんだって」
カーロイ「そうか」
イザベル「でもね、今となっては分かるんだ。
倒産が白い目で見られてもブリタニアに渡った理由が」
カーロイ「数十万の難民を纏めてその処理をするための人が必要だった、だろ?」
カーロイがイザベルが続けようとしたことを代弁する。
イザベル「うん。父さんは、父さんなりにそうやって広軌なる義務を果たしていたんだ。
娘に非難されても。
でも、あの時は、それが分からなかった。
だから僕は家出してブリタニア空軍に志願したんだ」
恥ずかしそうにベレー帽を目深に被り直す。
カーロイ「いい話だねぇ。お前そんないい奴だったんだな」
カーロイが乱暴に頭を撫で回す。
恥ずかしがるイザベルにハインリーケは笑みを浮かべる。
ハインリーケ「妾も久しぶりに父上に逢いとうなったわ」
すると無線でクローディアが割り込んだ。
クローディア『うう~、いい話ですね。ハンカチなしには聞けませんよ。今の、記事にしていいですか?』
イザベル「嫌だ」
イザベルが即答した。
即答したところでホスバッハが何かに気がついた。
ホスバッハ「前方、機影発見」
ハインリーケ「下がれ、モーリアック!」
クローディア『りょ、りょ、了解!』
慌てて複葉機は旋回して距離を取る。
クローディア『できればフィニッシュは大尉でお願いしますね!大尉の写真が第1面を飾ってくれると、編集長の機嫌が抜群によくなるんです』
ハインリーケ「いちいちかようなことを考えながら戦闘ができるか!臨機応変じゃ!」
ホスバッハ「知らん!記者風情は黙ってろ!PKでもないのに」
クローディア『記者風情ってなんですか今の!』
逃げながら記事の要求をしてくるクローディアにホスバッハが怒りながら黙らせる。
PK部隊や従軍記者ならば好意的なホスバッハだが、クローディアは一介の雑誌記者に過ぎず、正式な従軍記者ではないためホスバッハは鬱陶しがっていた。
その間にもハインリーケはMG151を構えて、カーロイとイザベルに右翼につくよう合図した。
相手は中型のネウロイだった。
針路はまっすぐこちら向きだ。
射程に入ると最も長い距離を撃てるハインリーケが撃ち始め戦闘が始まった。
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その日の夜、ハインリーケ達は無事ネウロイを撃破し、一方の黒田達も何事もなく基地に帰り着いていた。
ホスバッハ「来たか」
ローゼン「これが今回の物資だ」
ホスバッハ「相変わらずふざけた量と内容だな」
ローゼンの渡した積荷リストを見ながらホスバッハは文句を言う。
内心ここは最前線なのだぞと思いながらそのリストを眺める。
ホスバッハ「全く、ここは最前線なんだぞ。
知ってるか?うちの部下達は姫様の豪華な生活をなんて言ってるか?」
あまりにも豪勢な生活をホスバッハの部下達は妬み嫉みで揶揄していた。
何せどう頑張ってもハインリーケと比べたらよく言えば質素、実際には粗末な食事と配給の差は不満を抱える原因になっていた。
ローゼン「なんて言ってるんだい?」
ホスバッハ「マリー・アントワネット。陸軍兵士の配給を知っていれば、あんな豪勢な暮し向きなぞできやしない。」
ふとブダペストでの飢えと寒さとソ連軍との死闘を思い出す。
愛馬すら肉にしても馬肉数切れと豆をスプーンひと救いが1日の食事だった頃を思い出せばここはまさに天国だが、それ以上にホスバッハはハインリーケの楽天的な暮らしが気に食わない。
ホスバッハ「おい、ワイン一箱は警備隊食堂に持って行ってやれ。
それとロマーニャ産のパスタなど一箱分あるはずだ、それもだ。」
兵士「了解!」
ホスバッハは積荷を下ろしていた兵士にワイン一箱などの物資を兵舎に運ぶように命じた。
ローゼン「いいのかい?」
ホスバッハ「こうやらないとアカが蔓延ってもおかしくないからな。
物資は適当に積み忘れたとでも向こうで盗まれたとでも説明しておけ」
ローゼン「適当だな」
ホスバッハ「適当で結構」
ローゼンの指摘を軽くいなしたホスバッハ。
後々指摘された通りにハインリーケから聞かれたが既にその頃には警備部隊の胃の中に全部入っていた。