WWⅡウィッチーズ   作:ロンメルマムート

20 / 171
なぜか微量の糖分あり。
会話を楽しむというより退役軍人のインタビューと考えた方が楽しめる話です。


第14話:或る軍人の話

 ポーランド。この国ほど20世紀の歴史で翻弄された国はないだろう。

 史上初の世界大戦と世界初の共産主義革命によって独立を手にした直後にかつての宗主国相手に戦争を行い機動戦の有効性と騎兵の最後の花道を飾りある稀代の名将に唯一黒星をつけた。

 そして西に復活を遂げつつあるライヒ(ドイツ)と東に虎視眈々と西への道を求めてねらっている労働者のユートピア(ソ連)に挟まれたポーランドはイギリスとフランスに助けを求めた。

 

 だが、助けは求めても来なかった。独立から20年、ポーランドは蹂躙された。

 西からは世界を戦争の渦に放り込む独裁者の軍が、東からは世界を真っ二つに割ることになる独裁者の軍が。

 そしてポーランドは全てを破壊された。

 首都はまた自由を手に入れた時ただの残骸と化し、国民は10人に1人が死んだ。国中からユダヤ人という当時最大の少数民族が消えその内の9割が生きて故郷に戻ることはなかった。

 

 そして45年、戦争は終わった。エルベ川の向こうに鉄のカーテンを下ろして。

 ポーランドに自由を与えたのは新大陸ではなく旧大陸のかつての宗主国だった。

 かつての宗主国は欲しくもない共産主義を与え、彼らが行なった数々の蛮行を隠し、さらなる蛮行を重ねた。

 そしてそれに耐えかねたポーランド人はある電気技師を中心とした運動を開始した。

 彼らはもう一度自由を手に入れるために連帯した。

 その動きはこの国で生まれ、史上最悪の独裁者の元神を信じたある男によって支持され、守られた。

 そしてその動きはさらに続いた。

 ポーランドから東欧全体へ、中欧へと。

 こうして世界史の一つの時代が終わった。そして自由と新たなヨーロッパが出来た。

 ポーランドはその中にいた。

 

 だが歴史は終わらない。歴史は続くよどこまでも。

 平和と自由は戦いによって手に入れた。そしてそれを脅かすものは常にいる。そしてポーランドはその最前線にいる。

 かつての宗主国、未だ野心に溢れ勢いに乗った北の大熊からヨーロッパを守るために。

 

---------

 

 だがこの事のうちこの男、アレクサンデル・ノヴァクが知っているのは45年に欲しくもない共産主義を与えられたところまでである。

 それでもこの先、祖国に何が起きるかは分かっていた。

 そしてそれを見れないことにどこか安心している気もしていた。

 

 バルクホルンが撃墜された日の夜、ノヴァクとバルクホルンはノヴァクの部屋にいた。

 

バルクホルン「ノヴァク、昨日は本当に済まない。つい感情的になって…」

 

ノヴァク「バルクホルン、謝るのは俺の方だよ。

     いくら説得するためとはいえ他人のデリケートなところに土足で踏み込んだんだ。

     本当にすまない。」

 

 バルクホルンは昨日感情的になってノヴァクのティーカップを割ったことを、ノヴァクはバルクホルンのデリケートな話をしたことを誤っていた。

 

ノヴァク「バルクホルン、昨日は本当に済まないことをした。

     謝罪の意を込めて何かしたい。ダメか?」

 

バルクホルン「別に駄目じゃない。

       それじゃあ駄目なら構わないんだがノヴァクの家族の話を聞きたい。」

 

 バルクホルンがノヴァクの家族の話を聞きたいと言う。

 それに一瞬ノヴァクは戸惑うが、

 

ノヴァク「別に構わない。君が家族の話をしたんだ。こっちが話しておあいこだ。」

 

 そう言うと、深く深呼吸して持っていたティーカップをテーブルの上に置いた。

 

ノヴァク「俺が生まれたのはグディニャ、ドイツ語じゃあゴーテンハーフェンって言うんだっけ?

     父はドイツ軍の騎兵将校。祖父はドイツ陸軍の指揮官だった。

     祖父は軍の勤務で世界中を回っていた。

     それで子供の頃からいろんな話を聞いてきたよ。

     今考えたら大ホラ話がほとんどだったけど。」

 

 ここでノヴァクの表情が明るくなった。笑みを浮かべながら話を続ける。

 ノヴァクの祖父はドイツ軍の指揮官だった。

 

ノヴァク「じいちゃんの話は本当に面白かったよ。

     義和団事件鎮圧のため中国に行って巨大なヒョウを狩った話。

     清の皇帝の宮殿に押し入って高そうな白磁の壺と屏風を手に入れた話。

     中国で穴掘ってたら龍の骨見つけた話。

     マジ・マジ反乱でアフリカに行ってライオンに襲われた話。

     日本軍に捕まって捕虜収容所から脱走して逃げてたら綺麗な日本人にあって口説いてたら捕まったって話。

     その女性と数週間後に胃潰瘍で入院したら看護婦として出会った話。

     全部が面白くて楽しかった。」

 

 ノヴァクの祖父は義和団事件やマジ・マジ反乱や戦い数々の功績を挙げた軍人だった。

 一次大戦では青島で日本軍の捕虜になり、戦後独立したポーランドに戻ると孫たちに自分の話をよく聞かせていた。

 最後には満遍の笑みで楽しそうに話していた。

 

ノヴァク「じいちゃんは戦争が始まる5年前に74で死んだ。

     最後の言葉は「今度はサタンを退治してくる。天国なら天使を抱いて来る」って。

     ほんと最後まで楽しいじいちゃんだったよ。」

 

 祖父が死んだ時を思い出したのか目が少し涙ぐむ。

 

ノヴァク「父さんは英雄だった。

     一次大戦中にロシアの騎兵と鉢合わせして一騎打ちで倒したこともあったらしい。

     家にはその時ロシア騎兵が持ってたって言うサーベルがあったよ。

     独立後のソビエト・ポーランド戦争ではヴィスワ川の奇跡に参加した。

     その後もポーランド陸軍で騎兵将校だった。

     母さんとは大戦前に出会ったらしい。

     母さんはなんでもできたよ。

     家事、料理、勉強、車の運転、一回馬に乗って父さんの部下の騎兵を追い抜いていたこともあったかな?

     家では英雄だった父さんも頭が上がらなかった。

     父さんと母さんはまさに理想の夫婦だったよ。

     毎日キスして愛してるって言ってた。ホント素敵な両親だったよ。」

 

 遠い目をしてノヴァクは紅茶を飲んだ。

 父親はかの有名なヴィスワ川の奇跡に参加していた。

 ヴィスワ川の奇跡は1919年から21年まで続いたポーランド・ソビエト戦争のハイライトのひとつ。

 当時新興国でいくらフランスやイギリスの支援を受けているとはいえ弱小国だったポーランドに侵攻したソビエト(ソ連の成立は22年なんで当時まだロシア・ソビエト共和国)はその軍事力に物を言わせてワルシャワ前面にまで侵攻した。

 だがこの時赤軍(ソビエト軍の成立は実は46年。それまでは労働者・農民赤軍が正式名称)はあるミスを犯した。

 本来ならワルシャワ方面の赤軍の側面を南の部隊にカバーさせるはずなのだが、ワルシャワ方面の軍司令官と南部の部隊の指揮官が不仲であったためカバーしなかった。そのため赤軍の南に巨大なギャップが生まれてしまった。

 そしてそれをポーランド軍が見逃さなかった。即座に強力な機動部隊が投入。

 主力をワルシャワの北で拘束してる間に機動部隊はそのギャップを突破。

 一気にワルシャワ前面の赤軍を包囲しようとした。包囲を恐れた赤軍指揮官は撤退を開始、これがヴィスワ川の奇跡だった。

 この戦史に残る輝かしい勝利は次の戦争で機動力が重要になるという結論が導かれポーランドは騎兵を強化、ソ連は機動戦を研究し次の戦争を迎えることになった。

 

ノヴァク「俺には姉と兄、それに妹がいた。

     姉は俺より6歳年上。

     父さんの部下の友人だって言う男と結婚してワルシャワに行った。

     兄貴は3歳上で俺より大きくて強かった。

     父さんに憧れて陸軍に入って騎兵将校になった。

     妹のバーシアは俺の4歳下。優しくて誰にでも愛想が良くて誰からも愛された。

     俺は子供の頃に父さんに連れられて見に行った飛行機レースで飛行機を見てパイロットになりたいって思った。

     それで地元のグライダークラブに通って18になってポーランド空軍に入った。

     そこでは大切な親友、先輩、上官、いろんな人に出会った。

     でも…戦争が始まって…うう…」

 

 するとノヴァクの顔が暗くなり泣き始めた。

 

バルクホルン「大丈夫か…」

 

 バルクホルンが心配する。

 

ノヴァク「うう…ああ大丈夫だ。戦争が始まって…

     全員死んだ。」

 

 その言葉にバルクホルンは衝撃を受けた。彼女は両親を失った。だがまだ妹がいる。

 彼は両親も、姉も、兄も、妹も失ったのだ。

 

ノヴァク「家族だけならまだ良かったかもしれない。

     戦争が始まったその日に大切な友人、親友、尊敬した先輩・上官。全員が死んだ。

     戦争が始まった日、俺はいつもより早く目が覚めて散歩に出ようと宿舎を出た。

     そして宿舎から20メートルぐらい歩いたところでサイレンみたいなのが上から鳴ってきたんだ。

     それで振り返ったら…宿舎が爆発した。空襲だった。

     あまりに突然すぎてなんなのか分からず呆然と立ってた。

     そしたら次の瞬間、誰かに押し倒された。

     暫くすると敵機は消えて周りにはたくさんの穴が開いてた。

     それで動こうとしたら何かがのし掛かって動けなかった。

     退けようと見たらそれは知り合いの整備士、その死体。しかも上半身だけ。

     下半身はそこから5メートル先にあった。」

 

 そのショッキングな、現代でもこの手の話に慣れた人間でないと衝撃を隠せない話にバルクホルンは衝撃を受けた。

 彼女自身同僚の死を何度も目撃した。それでもここまで衝撃的な話ではなかった。

 ノヴァクはそれでも話を続ける。

 

ノヴァク「それで腕を怪我して近くにあった野戦病院で手当てを受けると基地の指揮官がやってきて動けるものは歩いて、動けないものはトラックに乗せて撤退するといった。

     それで俺はそれから数日何十キロと歩いた。食うものも飲むものもなく歩いた。

     クラウツが空襲してきて砲撃もしてくる中、時にはドイツ軍の偵察部隊に出会って戦いになった。

     俺も機関銃でフリッツを何人も殺した。そうしなかったら自分が死んでた。

     そして撤退してきた街で基地の負傷者を乗せた車列がドイツ軍の戦車部隊に見つかって全滅したと聞いた。

     それから数日、その街で休んでた。そしたら今度はソ連が攻めてきた。

     ここだけの話だが当時、俺はどことなくナチスとソ連にシンパシーみたいなのがあった。

     共産主義は悪くないって思ってたしナチスの反ユダヤ主義もその通りだと思ってた。」

 

 共産主義に25までに〜と言う言葉があるが彼は39年までは共産主義にシンパシーを感じていた。

 そして同時にナチスの反ユダヤ主義も支持していた。

 余り知られていないが当時ポーランドはドイツに次ぐ反ユダヤ国家だった。しかもその割合は都市部であればあるほど高かった。

 これは国内のユダヤ人が多すぎ(当時ヨーロッパで最もユダヤ人が多かったのがポーランド)、同化政策の失敗、ユダヤ陰謀論の蔓延(これは今でも世界中である)、そもそもユダヤエリート層がポーランド化ではなくロシア化を支持していたなどの理由から徹底的に嫌われていた。

 当時のポーランドの非行少年はユダヤ人の店をドイツ人と一緒に襲ったりしていた程だった。

 だが現代ではポーランド人は自らを被害者だと主張して全責任をドイツに擦りつけている。

 

ノヴァク「それで、俺たちは中立国のルーマニア、ここじゃあダキアになる、そこに逃げ込んだ。

     そしてそこで父さんがソ連に捕まって兄貴が戦死したことを聞いた。

     最初に聞いた時、言ってる意味がよくわからなかったが理解してからは本当に泣いた。

     それでいつか兄貴の仇を討つと誓った。

     それからはルーマニアの難民キャンプを脱走して歩いてユーゴスラビアに密入国。

     ベオグラードにあったカナダ大使館に逃げ込んだ。

     イギリス大使館じゃなかったのはどうやら沢山のポーランド人がイギリスとフランスの大使館に逃げ込んでたらしくて警備がかなり厳しかったから連邦のカナダのほうに逃げ込んだ。

     そこからカナダ大使の協力を得てドブロブニクからベネチアに船で渡った後、そこで船をイタリア船に乗り換えてアレクサンドリアに亡命した。」

 

 ソ連が参戦した後ポーランド軍将兵は大挙して国境を接していた国で中立だったルーマニアとハンガリーに逃げ込んだ。

 隣国にはスロバキアもあったが実はスロバキアもポーランド侵攻に参加していた。(なおボロ負けだった)

 このルーマニアルートはポーランド銀行(現:ポーランド国立銀行)の有していた金をカナダに脱出させるルートにも使われた。

 

ノヴァク「で、そこでカナダ軍部隊の飛行隊に合流。

     一応義勇兵扱いで初めはグロスター・グラディエーターって言う複葉機を飛ばしてた。

     それから暫くするとホーカー・ハリケーンって言う戦闘機に乗り換えた。

     それでイタリア軍相手に戦った。

     イタリア軍はこっちが羽布張りとはいえ単葉機なのに複葉機で立ち向かって来たんだぜ?

     ドイツの同盟国がこんなザコとは思わなかったよ。」

 

 北アフリカの戦いはドイツのイメージが強いが始めから最後までイタリア軍の方が多かった。

 そもそも北アフリカの戦いはイタリアが準備不足なのにエジプトに突っ込んだ結果、イギリスに鎧袖一触で潰されて逆にキレナイカを失いかけドイツに泣きついたというのがドイツがアフリカに介入した理由だった。

 そのためドイツにとってアフリカはイタリアへの外交的配慮だったのだが指揮官のロンメルはそこから更にエジプト、スエズを渡って中東の油を抑え、大英帝国の心臓部インドに侵攻するという壮大な計画を立てていた。

 残念ながらその計画は某チート国家の物量に叩き潰されたが。

 

ノヴァク「イタリアが来てから5ヶ月ぐらいしてから今度はドイツ機がきた。

     メッサーが多かったな。

     メッサー相手だとハリケーンは部が悪かった。

     ハリケーンは悪い飛行機じゃない。初めて乗った時はこれならメッサーが10機来ても勝てるとか思ってたよ。

     ケツが軽くて離陸滑走中に浮く癖があったけど飛べばそれを忘れるぐらいいい機だった。

     操縦は楽だし火力もある、その上無線機と風防がついて最高だった。」

 

 ハリケーンの評価というのはかなり面白いところがある。

 ハリケーンを供与されたソ連では無線や風防の品質などを評価されたが一方で火器の信頼性や運動性に関しては悪かった。

 兵器としては必要な時に必要な数が必要な場所に存在するという兵器として最も重要な点を満たしていた。

 少なくともあまり評価のよろしくない機なのだが重要な2番手として数々の戦線で活躍した。

 ノヴァクにとってはポーランドのPZのような一次大戦の機に毛が生えた機と比べればまさに無敵に思えた。

 ただメッサーはさらに強かった。

 

ノヴァク「だけどメッサーはもっと強かった。

     ハリケーンで初めてメッサーに挑んだらあっという間に撃墜された。

     今でもその時を思い出すよ。

     間一髪パラシュートで脱出して見上げたらメッサーがいたんだ。

     黄色の文字で14って書かれてて手を伸ばせば届きそうなところを飛んでて屈辱的だった。」

 

 メッサーシュミットBf109はハリケーンよりも優秀な機である。

 その優秀さはソ連ではフィッケル(Fw190)よりメッセル(Bf109)の方が恐れられたぐらいである。

 

ノヴァク「それでも何機か撃墜してた41年の年末に新しい機に乗り換えた。

     カーチスP40キティホーク。

     ハリケーンとは違って全金属製で頑丈で旋回性能もかなり高くてメッサー相手に互角に戦えた。」

 

 P40はザコのイメージがあるが意外にも地中海戦線では非常に評価が高かった。

 これはそもそも太平洋戦線では日本機に機動性で劣っていたと言うのが原因だった。

 一方メッサー相手の場合、速度性能に劣っていたが旋回性能に優っていたため評価は高く多くのドイツ機を撃墜した。

 

ノヴァク「それから43年までキティホークに乗って戦った。

     地上ではエル・アラメインって街の近くで大規模な戦いが何度もあった。

     そして42年10月にイギリス軍が戦線を突破、そのままチュニジアまで追いかけて43年の5月にドイツ軍は降伏した。

     その翌月、俺はイギリス本土に移動した。

     そしてスピットファイアに乗り換えた。」

 

 エル・アラメインの戦いはミッドウェー海戦・第3次ソロモン海戦・スターリングラード攻防戦に並ぶ第二次世界大戦の転換点の一つである。

 「エル・アラメインの前に勝利無く、エル・アラメインの後に敗北無し」とチャーチルが語る大転換点だった。

 この“始まりの終わり”の後、ドイツはアフリカから叩き出されイタリアは降伏、連合軍は再度大陸に戻った。

 するとノヴァクの顔が暗くなった。

 

ノヴァク「そんなある日、ニュースでこんな事をやってた。

     ベラルーシのカチン近郊でポーランド人将兵の虐殺死体を発見。ソ連の犯行と思われる。って。

     そのニュースを聞いて分かったよ。父さんがボルシェビキに殺されたって。」

 

 それは現代でいうカチンの森事件だった。

 1940年にソ連のNKVD(KGBの前身)がポーランド軍捕虜の将兵3000人をベラルーシのスモレンスク近郊、カチン近くのグニェズドボで殺害し埋めたと言う事件だった。この将兵の多くはポーランドの知識人階層出身かソビエト・ポーランド戦争に参加した軍人だった。

 その中にはポーランドを代表する映画監督アンジェイ・ワイダの父親も含まれていた。

 ノヴァクの父はこのボルシェビキの蛮行に殺された。

 

ノヴァク「そして6月のある日。

     あの日は本当に天気が悪くて出撃はないと思って前日に酒飲んで寝ていたんだが突然隊長に叩き起こされた。

     で、急いで起きたらラジオから連合軍がノルマンディーに上陸したって言うニュースが流れてたんだ。

     驚いたよ。みんな来月ぐらいになるんじゃないかとか思ってたからさ。

     それから数ヶ月ノルマンディーで対地攻撃に精をあげたりビールを運んでた。

     あの頃はまだ317じゃなくて302にいたからさ。」

 

 有名なスピットファイアのエピソードにノルマンディーでのビール輸送の話がある。

 最も有名なのが両翼の下にビール樽をぶら下げたもの。

 実はこれを考えたと言われてる(いろんな部隊が自分のとこだと主張してる)のがポーランド人部隊の第302又は308飛行隊だった。

 ちなみにこの任務、一部は司令部の公認だったらしい…

 

ノヴァク「ノルマンディーの後、俺は317に移動。それからずっと対地攻撃してた。

     この世界に来る一ヶ月ぐらい前俺に来客が来た。

     そいつは俺の姉婿の弟のアンジェイ・カチンスキだった。」

 

 ノヴァクの顔がまた暗くなる。

 

ノヴァク「彼とは姉の結婚式で会ったきりだったけど家族や姉のことを知ってると思って会った。

     そして聞いたんだ。家族がどうなったかって…

     母さんとバーシアはグディニャがドイツに占領されてすぐにSSの部隊に殺された。

     連中にとってはポーランド人はゴミ以下の存在だったらしい」

 

 ノヴァクの妹と母はドイツのタンネンベルク作戦でSSのアインザッツグルッペンに殺されたのだ。

 アインザッツグルッペンは独ソ戦のイメージが強いがポーランド侵攻でも活動しており、ポーランドの知識人階層や元将校、活動家をタンネンベルク作戦だけで約2万人殺害していた。

 その言葉、人がゴミ以下というのはバルクホルンには衝撃だった。

 この世に“生きるに値しない命”なる概念があることに軍人以上に一人の人間として衝撃的だった。

 

ノヴァク「そして姉さんはもっと酷かった。

     44年8月に姉さんの暮らしてたワルシャワで大規模な蜂起があった。

     姉さんと姉婿のリシャルト・カチンスキはAK、国内軍のメンバーとして参加した。」

 

 ワルシャワ蜂起、ポーランド史に残る悲劇の一つ。そして東西冷戦の最初の犠牲者となった戦いである。

 バグラチオン作戦で東部戦線が崩壊した44年8月にワルシャワのレジスタンスが蜂起した。ソ連軍が助けてくれると思って。

 残念なことに結果は最悪だった。ワルシャワは文字どうり破壊され尽くした。

 スターリンはこのレジスタンスを見捨てた。

 

ノヴァク「そしてリシャルトはドイツ軍のリモコン爆弾を伴った歩兵部隊と交戦中に戦死。

     姉さんは…姉さんのクリスティナ・カチンスキは…トルキスタン人とアゼルバイジャン人に強姦されて殺された。」

 

 ノヴァクは泣き始めた。

 姉婿リシャルトはリモコン爆弾を伴った部隊。即ちポーゼンの歩兵学校から分遣されゴリアテを装備していたレック少佐指揮の歩兵大隊レック(記録によるとゴリアテを装備してたのはこの部隊だけ)との交戦中に戦死した。

 そして姉のクリスティナ・カチンスキはワルシャワ蜂起鎮圧部隊でも悪名高い部隊の一つ、アゼルバイジャン人とトルキスタン人の反共義勇兵からなるベルクマン特務隊から分遣された戦闘団ベルクマン(記録によるとアゼルバイジャンとトルキスタン義勇兵がいたのはこの部隊だけ)に強姦されて殺されたのだ。

 

ノヴァク「アンジェイはなんとか生き残ってドイツ軍に投降して捕虜収容所に入ってたらしい。

     それでその収容所が連合軍に解放され、自由ポーランド軍に入ろうとして俺の名前を聞いて話しに来た。

     こんなもんだな。満足か?」

 

バルクホルン「すまない。本当に申し訳ない。そんな事を軽々しく聞いて本当にすまない。」

 

 話終わるとバルクホルンはすぐに謝った。

 この彼女にとっては自分以上に過酷な素性になんてことを聞いたんだと思っていた。

 

ノヴァク「なに、別に謝らなくていい。いつか話さないとダメな話だと思ってたからな。

     バルクホルン、家族は大事にしろよ。いつ死ぬか分からないんだから。

     俺みたいに家族が居なくなって初めて分かる孤独を味あわせるなよ。」

 

バルクホルン「そうだな。それとノヴァク、お前の家族ならいるじゃないか。

       ウィッチーズの全員が家族だ。」

 

 バルクホルンの言葉にノヴァクは面食らうがすぐに微笑むと。

 

ノヴァク「そうだったな。お前と俺は家族だったな。」

 

バルクホルン「ああそうだ。私とお前は家族だ。」

 

 その言葉に安堵したのか紅茶を一口飲む。

 紅茶はすっかり冷え切っていた。

 

ノヴァク「なら家族だからぶっちゃけた話をするが、今日お前を助けた時なんというかその…お前のことを失いたくないって思った。

     今までも戦友を失いたくないって思ったことはあったがそれとはもっと違うものがあった。

     家族を失いたくないと言うかそう言う感じのだったな。

     これってどう言うことか…ああそういう事か。」

 

 バルクホルンに話していると突然何かに納得して紅茶を飲んだ。

 それに疑問に思ったバルクホルンが聞く。

 

バルクホルン「どうしたノヴァク?」

 

ノヴァク「いや、なんでもないよ。あとアレックスって呼んでいいぞ。

     戦友の英国人からはよくそう言われてたからな。」

 

バルクホルン「分かったアレックス。」

 

 その答えに軽く疑問に思うが特に気にせず紅茶を飲み部屋を出て行った。

 部屋を出て行くバルクホルンを見ながらノヴァクは、

 

ノヴァク(まあ流石にあいつのことが好きだなんて言えねえよな…)

 

 まさかの上官に恋していたようだった。




ポーランドはホロコーストで被害者ヅラしてますが結構ポーランド人もやらかしてます。

ノヴァクの家族の名前の由来は
妹バーシア・・・名前の由来はポーランド国歌の歌詞から
姉クリスティナ・・・元ポーランド上院副議長クリスティナ・ボヘネクから
姉婿リシャルト・カチンスキ・・・ポーランドの政治家カチンスキ兄弟と亡命ポーランド政府最後の大統領、リシャルト・カチョロフスキから
義弟アンジェイ・・・元ポーランド空軍司令官アンジェイ・ブワシクから
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。