WWⅡウィッチーズ   作:ロンメルマムート

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ちょっと短めです。


第28話:理想は平和だが現実は残酷だ

 ロンドン、西方総軍司令部近くにある連合軍第13課のオフィス、そこに向かって一人の男、カールスラント陸軍の軍服を着用し階級章は少佐、首元には鍵十字が彫られた騎士鉄十字章をかけた男が向かっていた。その手にはある部隊に潜入中の腹心の部下の報告が握られていた。

 そして目的のオフィスにつくと服装を整える暇もなく飛び込んで叫んだ。

 

ケーネン「ボック大将、マロリー中将、シコルスキ少将、重大な事案が発生しました。」

 

ボック「重大な事案?」

 

マロリー「奴がやったのか?」

 

シコルスキ「それともチャンネル諸島か?」

 

 口々にオフィスで紅茶を飲みながら話し合っていた将軍たちはこの若い少佐、フリードリヒ・フォン・ケーネン少佐に聞く。

 

ケーネン「全部違います。出ました。奴が。」

 

シコルスキ「奴?ヒトラーか?」

 

ケーネン「違います。人型です。501に先ほど出たと報告が。」

 

 ケーネンの持ち込んだ情報にこの場にいた全員が驚愕する。

 

シコルスキ「クルヴァ!とうとうこっちにも出やがったか!

      現状は?」

 

ケーネン「それが…フェルカーザムからの情報によると迎撃に出たウィッチ一名が負傷、取り逃がしたようです…」

 

シコルスキ「あの無能共!スオムスの事例を周知しとけばこんな事態にはならなかったはずだ!」

 

マロリー「とにかく不味いな。

     また出てくる可能性がある上に最悪の場合は…」

 

ボック「ゼーレーヴェか…」

 

 彼らにとって人型とはネウロイが活発化する、もしくは大規模な行動を起こす重大なトリガーの一つと認識していた。

 ただこの考えは非常に異端であり支持はあまり受けていなかった。

 

ボック「ふうむ…全予備部隊をケント州南部に移動、各師団より連隊規模戦闘団を緊急輸送させよう。

    全部隊は警戒レベルをレベル5から3に引き上げ、ケント州への緊急輸送準備をさせろ。

    ドーバー師団はレベル2にしろ。ディートルに指示しろ。」

 

シコルスキ「分かりました。」

 

 

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ディートル「さてとみんな。不味いことになった。」

 

 第7軍団軍団長エデュアルト・ディートル中将は急遽行われた作戦会議で参加した将校たちに向かって話した。

 

ギルザ「ええ。ヤツが出たんですよね。

    すでにこちらでは一個戦闘団の戦闘準備が完了、今すぐドーバーに送れます。

    残りも緊急輸送に備えて待機中です。」

 

 不愛想なブルドックのような顔をした将軍、第52歩兵師団師団長ヴェルナー・アルブレヒト・フライヘア・フォン・ウント・ツー・ギルザ少将が答える。

 

ディートル「第55装甲師団は?」

 

クリゾリ「シェレンドルフ大佐を指揮官に1個戦車連隊を基幹とする戦闘団を編成済みです。

     現在サウサンプトン駅で列車への積載作業中です。今日の夜にはケント州に送れます。」

 

 古傷のある、切れ者だということを感じさせる口調の将軍、第55装甲師団師団長ヴィルヘルム・クリゾリ少将が話す。

 

プラット「こっちは既に大陸反攻用だった輸送機をかき集めて展開済みだ。

     今日の夕方にはカーライル少佐の部隊をサセックスに送れる予定だ」

 

 リベリオン訛りの英語を話す将軍、第18空挺師団師団長ドン・プラット准将が報告する。

 

ディートル「分かった。その他部隊はどうなってるシュタウフェンベルク。」

 

 報告を聞くとディートルは彼の後ろに立っている眼帯をつけた片手がない参謀に話しかける。

 

シュタウフェンベルク「第113歩兵旅団は現在ドーバーに緊急輸送中。

           戦闘団ブリタニアはケント州北部に輸送中。

           ドーバー師団は既にドーバー市街北部に展開しています。」

 

 第7軍団主席参謀クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐が目の前に置かれた地図を指して説明する。

 地図にはケント州の北に一個戦闘団が、さらにテムズ川の対岸に一個旅団、ドーバーに一個師団、ワイト島に一個師団、サウサンプトンに2個師団あることが書かれていた。

 

 

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ハインツ「はぁ…中佐が少佐にかかりっきりなせいであいつの仕事全部こっちに丸投げかよ…」

 

ミラー「だからって僕まで巻き込まないでください。」

 

ハインツ「しょうがねえだろ。人手が足りねえんだよ。」

 

 ハインツが書類を処理しながら愚痴るがそれにミラーが愚痴で返す。

 坂本が撃墜された後、ハインツはミーナが坂本につきっきりになったためミーナの書類とさらにユニットの損失関連の書類、坂本の負傷に関する書類、更には坂本が戦死した場合の書類を用意しなければならなかった。

 その上元々あった書類も減る訳ではないので人手が足りないためハインツはミラーを連れて帰還してから数時間二人執務室に缶詰になって書類処理をしていた。

 それから暫くすると書類がひと段落したので二人は坂本の様子を見に行った。その頃にはすっかり夜となり暗闇があたりを覆っていた。

 二人が医務室に着くとそこにはベットから体を起こして宮藤と会話していた坂本がいた。

 

宮藤「…よかった」

 

坂本「宮藤、顔色が悪いぞ」

 

ハインツ「よ、大丈夫か?宮藤も大丈夫か?さっきノヴァクから聞いたぞ坂本を治療してぶっ倒れたんだろ?」

 

 その会話に割り込む形でハインツも参加する。ハインツは書類を処理していた時に書類を持ってきたノヴァクから宮藤が治療してぶっ倒れたと聞いていた。

 

坂本「ああハインツ。多分大丈夫だ。宮藤、ありがとう。」

 

 ハインツの話を聞いて坂本は宮藤に感謝を述べる、だがすぐに表情が変わる。

 

坂本「…何故撃たなかった」

 

宮藤「えっ」

 

坂本「あの時、何故お前はネウロイを撃たなかった」

 

 坂本は宮藤に聞く。

 

宮藤「…撃てなかったんです」

 

坂本「人の形だからか?あれはお前を誘い込む罠だ」

 

宮藤「でも、私あの時なにか感じたんです…」

 

坂本「ネウロイは敵だ」

 

 宮藤の答えに坂本が返すがそれはある意味硬直した思考からの答えだった。

 この答えにある意味ハインツは呆れてしまった。なにせ「上官の命令は絶対」というのは軍の訓練所の一時間目に習う事である。

 そしてその手の話を宮藤にする事を忘れていたことを内心後悔していた。

 

ハインツ「坂本、宮藤、その話は後だ。宮藤、悪いが君を拘束しなきゃならないらしい。」

 

 ハインツはそう言うと二人の会話を止め宮藤を連れて出て行った。

 宮藤を連れて出て行ったハインツは宮藤をミーナの執務室まで連れてまでいく。

 執務室に入るとミーナ、バルクホルン、ハルトマンがいた。

 

ハインツ「中佐、連れてきましたよ。」

 

ミーナ「ご苦労、ハインツさん。

    さて、宮藤芳佳軍曹、あなたは独断専行の上上官命令を無視、これは重大な軍規違反です」

 

宮藤「はい…」

 

 入ってきた宮藤にミーナが淡々と話し始める。

 ハインツはそれを聞きながら宮藤の後ろに立ちホルスターに手をかける。もし逃げようとした場合すぐに抜くためだ。

 ミーナはさらに続ける。

 

ミーナ「この部隊における司法執行官として質問します。

    あなたは軍法会議の開催を望みますか?」

 

ハインツ「宮藤、軍法会議は軍隊での裁判みたいなのだ。

     言っておくが望んだ場合これまでのすべての発言が法廷で証拠として扱われる、いいね?」

 

 ハインツは宮藤が軍法会議の知識に疎い宮藤に補足する。

 ハインツは一応佐官、それも正規の士官教育を受け、この部隊では参謀長的役割も担い、ドイツ軍時代には特設軍法会議に参加した経験もあるため軍法に関する知識もそれなりに持っていた。

 それを聞いても宮藤は小さく何かを言っただけで明確な返答を得なかった。

 

ミーナ「返答が無いので軍法会議の開催は望まないと判断しました」

 

 それを見てミーナは判断する。

 ハインツもこれを大事にしたくないため内部で処理するミーナの判断に納得していた。

 軍を含めて多くの組織はできる限り内部で処理しようとする閉鎖的なところがある。

 

ミーナ「今回の命令違反に対し、勤務、食事、衛生上やむを得ぬ場合を除き、十日間の自室禁固を命じます。

    異議は?」

 

宮藤「あの、私ネウロイと…」

 

ミーナ「改めて聞きます。異議は?」

 

宮藤「聞いてください!」

 

 宮藤はミーナの質問を無視して自分の主張をしようとする。

 それにミーナは持っていた資料をテーブルにたたきつけて大きな音を出す。それに宮藤が驚く。

 

ミーナ「異議は?」

 

宮藤「…ありません」

 

 ミーナの質問に宮藤は答える。処分が決まった。

 

---------

 

 

 処分が決まった後、宮藤はハインツに連れられて自分の部屋まで行くが、途中でハインツは宮藤を全く別のところへ連れていく。

 行先はハインツの部屋だった。

 

宮藤「ハインツさん?ここハインツさんの部屋ですよね?」

 

ハインツ「ああそうだよ。なに宮藤、お前の話をしっかり聞こうと思ってな。」

 

 ハインツは宮藤を部屋に入れるとテーブルの上に置かれた瓶を取り、コップを二つ出す。

 

ハインツ「宮藤、座れよ。酒飲むか?上物のバーボンだ」

 

宮藤「いりません。」

 

ハインツ「そ、こいつ高いんだぞ。はい、コーラだ」

 

 宮藤はハインツから酒を進められるが断る。

 それを聞いたハインツは別のところからコーラの瓶を取り出し栓抜きと一緒に宮藤に渡す。

 宮藤はそれを受け取り栓抜きでふたを開け一口飲む。

 

ハインツ「さて、宮藤。あの時何があった。君の感想を抜いて事実だけを語ってくれ。」

 

 ハインツの言葉に宮藤は坂本が来るまでに起きたすべてを語った。

 話し終わると宮藤はハインツに言った

 

宮藤「あの時、ネウロイと分かり合えて気がするんです。もしかしたら…」

 

ハインツ「宮藤、俺はそう考えるのを否定する気はない。

     信じるだけならタダだ。」

 

 宮藤の話にハインツは言う。そしてさらに続ける。

 

ハインツ「宮藤、いいか、理想と現実は違うんだ。

     俺だって理想は平和だ、」

 

宮藤「なら」

 

ハインツ「だが現実は残酷だ。

     宮藤、別に俺は考え直せとか言わない。ただ現実を直視し考えろ。

     生きたければ、勝ちたければそうしろ。これは戦争だ。

     それもただの戦争じゃない。

     片方がこの地上から一匹残らず消えるまで続く。

     やや過激な言葉を使うなら絶滅戦争だ。負けた方が絶滅するまでのな」

 

 その言葉には散々嫌な、地球上で最低最悪の現実を見、夢や理想を捨てた悲しみが詰まっていた。




人型の悪行の数々を考えると人型ってもしかしたら大攻勢のトリガーかもね。



やっとこさ終わりが見えてきた。
火薬庫の準備はできた、あとは火をつけるだけだな。

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